非反転増幅回路で作るトーン・コントロール回路
図1は,OPアンプ(ADA4075-2)(1)を非反転増幅回路として使用した,トーン・コントロール回路です.VR1とVR2の2つの可変抵抗器で,周波数特性をコントロールすることができます.VR1とVR2は,50kΩでA15カーブ(2)の可変抵抗器です.VR1とVR2の摺動子の位置を,上端としたときの周波数特性は,図2の(a)~(d)のどれになるでしょうか.

摺動子の位置を上端としたときの周波数特性は?

(a)の特性 (b)の特性 (c)の特性 (d)の特性

図1のOPアンプ(U1)は,非反転増幅回路として動作し,その出力(OUT)と反転入力端子(NF)の間に「CR型トーン・コントロール回路」(3)が接続された構成となっています.CR型トーン・コントロール回路の入力は,OUT端子で,NF端子が出力です.
図1のCR型トーン・コントロール回路は,VR1とVR2の摺動子が中央のときに,NF端子の周波数特性がフラットとなるように定数が設定されています.VR1とVR2の摺動子の位置を上端としたときに,CR型トーン・コントロール回路の周波数特性がどのように変化し,その結果,OUT端子の周波数特性がどのようになるかを考えてください.
図1のCR型トーン・コントロール回路のNF端子の周波数特性は,VR1の摺動子の位置を上端とすると,低域の減衰量が減り,中域に対して見かけ上,低域がブースト(増強)された特性になります.VR2の摺動子の位置を上端とすると,高域の減衰量が減り,中域に対して見かけ上,高域がブーストされた特性になります.そのため,NF端子の周波数特性は,中域に対して高域,低域共にブーストされた特性になります.
CR型トーン・コントロール回路は,非反転増幅回路の負帰還ループ内にあります.そのため,NF端子の周波数特性が,中域に対して高域,低域共にブーストされた特性になると,高域と低域の帰還量が増加し,非反転増幅回路の高域と低域のゲインは,中域のゲインよりも低下します.
したがって,正解は,中域に対して高域と低域のゲインが低下した周波数特性のグラフとなっている「(a)の特性」ということになります.
●トーン・コントロール回路とは
オーディオ・アンプのトーン・コントロール回路は,低域や高域を増強したり,減衰させたりして,好みの音質に調整するためのものです.トーン・コントロール回路には,OPアンプを使用しない「CR型トーン・コントロール回路」と,OPアンプの負帰還ループの周波数特性を変化させる「NF型トーン・コントロール回路」があります.NF型で有名なものは,OPアンプを反転増幅回路として使用した「BAXANDALL型トーン・コントロール回路」(4)です.
NF型トーン・コントロール回路には,OPアンプを非反転増幅回路として使用し,CR型トーン・コントロール回路を負帰還ループに入れたものもあります.ここでは,このタイプを「非反転増幅型トーン・コントロール回路」と呼びます.
非反転増幅型トーン・コントロール回路を使用するメリットは,CR型トーン・コントロール回路と比べると,摺動子が中央のときに,信号を減衰させることなく出力できる点です.以下,この回路について解説します.
●非反転増幅型トーン・コントロール回路
図3は,非反転増幅型トーン・コントロール回路の原理図です.OPアンプのOUT端子と反転入力端子に接続された,帰還回路の周波数特性をコントロールすることで,OUT端子の周波数特性を変化させます.

帰還回路の周波数特性をコントロールすることで,OUT端子の周波数特性を変化させる.
帰還回路の伝達関数をf(s)とすると,IN端子からOUT端子までの伝達関数は,f(s)の逆数となり,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)図4は,帰還回路にCR型トーン・コントロール回路を使用したもので,図1と同じ回路です.OPアンプ(U1)は非反転増幅回路として動作し,その出力と反転入力端子の間に,CR型トーン・コントロール回路が接続されています.

非反転増幅回路の負帰還ループにCR型トーン・コントロール回路が接続されている.
CRINがCR型トーン・コントロール回路の入力で,CROUTが出力です.CROUTの周波数特性は,VR1とVR2でコントロールすることができます.CR型トーン・コントロール回路が負帰還内にあるため,OUT端子の周波数特性は,CROUTの周波数特性とは逆の変化をします.
VR2を操作してCROUTの周波数特性を,中域に対して高域が増強されるように調整すると,OUT端子の周波数特性は,中域に対して,高域が減衰する方向に変化します.CROUTの高域成分が大きくなると,高域で負帰還量が増加し,非反転増幅回路の高域のゲインが減少するためです.
●CR型トーン・コントロール回路
図4の赤線で囲んだ部分が,CR型トーン・コントロール回路です.CR型トーン・コントロール回路は,全帯域を減衰させた後,高域や低域の減衰量を減らすことで,見かけ上の増強効果を得ています.
可変抵抗器の摺動子をセンター位置にしたときの周波数特性が,フラットとなるように定数設定します.このときの減衰量が,最大ブースト量になります.
可変抵抗器にBカーブ(リニア特性)のものを使用すると,摺動子をセンター位置にしたときの抵抗比は50%となるため,減衰量は6dBです.可変抵抗器にA15カーブ(2)のものを使用した場合,摺動子をセンター位置にしたときの抵抗比が15%となるため,減衰量は16.5dBとなります.
Aカーブの可変抵抗器を使用すると,最大ブースト量を大きくできるため,CR型トーン・コントロール回路ではAカーブの可変抵抗器が使用されます.
VR1が低域調整用の可変抵抗器で,VR1の摺動子の位置で,低域の減衰量が変化します.摺動子の位置を上端にしたときに,最も低域の減衰量が小さくなり,中域に対して低域が増強された特性となります.また,VR2が高域調整用の可変抵抗器で,VR2の摺動子の位置で,高域の減衰量が変化します.
摺動子の位置を上端にしたときに,最も高域の減衰量が小さくなり,中域に対して高域が増強された特性となります.CR型トーン・コントロール回路の詳しい動作や設計方法に関しては,「CR型トーン・コントロール回路の周波数特性」を参照してください.
●非反転増幅型とCR型の違いを検証する
図5は,非反転増幅型トーン・コントロール回路と,CR型トーン・コントロール回路を同時にシミュレーションする回路です.

VR1,VR2共に,摺動子が上端にある状態のシミュレーションを行う.
どちらの回路も,可変抵抗器は2本の抵抗に置き換え,それぞれの抵抗値は,k1,k2という変数を使用して,「.param」コマンドで計算しています.k1がVR1の摺動子の位置を表し,k2がVR2の摺動子の位置を表します.k1,k2が1のときは,摺動子が上端にある状態で,k1,k2が0のときは摺動子が下端にある状態を表します.図5では「k1=k2=1」とし,VR1,VR2共に,摺動子が上端にある状態のシミュレーションを行います.
図6は,図5のシミュレーション結果です.青線がCR型トーン・コントロール回路の周波数特性です.VR1,VR2の摺動子を共に上端にすることで,中域に対して,高域と低域が増強された特性となっています.
赤線が非反転増幅型トーン・コントロール回路の周波数特性です.こちらは中域に対して,高域と低域が減衰した特性となっています.非反転増幅型とCR型は,0dBを中心にミラー反転した特性となっていることが分かります.

非反転増幅型とCR型は,0dBを中心にミラー反転した特性となっている.
●非反転増幅型トーン・コントロール回路のコントロール特性を検証する
図7は,非反転増幅型トーン・コントロール回路のコントロール特性をシミュレーションする回路です.VR1,VR2の摺動子の位置を変化させたときの,周波数特性の変化をシミュレーションします.そのため,「.step」コマンドを使用して,k1,k2を0から1まで,0.1ステップで変化させます.

「.step」コマンドを使用して,k1,k2を0から1まで,0.1ステップで変化させる.
図8は,図7のシミュレーション結果です.

k1,k2が0のときに,高域,低域共にブーストされた特性となっている.
k1,k2が0.5のときに,フラットな周波数特性となっており,ゲインは約16.5dBです.また,k1,k2が0のときに,高域,低域共にブーストされた特性となっています.さらにk1,k2が1になると,高域,低域共に減衰した特性となっています.
以上,非反転増幅型トーン・コントロール回路について解説しました.図8から分かるように,非反転増幅型トーン・コントロール回路では,可変抵抗器の摺動子の位置が下端(k1,k2が0)のときに最大ブーストになります.可変抵抗器を右に回しきったときに最大ブーストとなるようにするためには,可変抵抗器の配線を通常とは逆にする必要があります.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4075-2データシート:アナログ・デバイセズ
(2) ボリューム・コントロールに使用される可変抵抗器の特性:CQ出版社
(3) CR型トーン・コントロール回路の周波数特性:CQ出版社
(4) 低音が増強されるトーン・コントロール回路はどっち?:CQ出版社
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_034.zip
●データ・ファイル内容
NIA_CR_tonectrl.asc:図5の回路
NIA_CR_tonectrl.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
NIA_tonectrl_step.asc:図7の回路
NIA_tonectrl_step.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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