実効値(RMS)に比例した直流電圧を出力する回路
図1は,入力信号の実効値(Root Mean Square value:RMS value)に比例した直流電圧を出力する,RMS-DCコンバータ回路です.この回路で,実効値に比例した直流電圧が出力されるのは(a)~(d)のどれでしょうか.
実効値に比例した直流電圧が出力されるのは(a)~(d)のどれ?
(a)端子a (b)端子b (c)端子c (d)端子d
実効値は,入力信号の瞬時値を2乗し,平均した数値の平方根を取った値です.図1の各端子の出力信号がどのような波形となるかを考えれば,答えが分かります.
OPアンプ(U1)は,半波整流回路として動作するため,端子aには入力信号を半波整流した波形が出力されます.次に,OPアンプ(U2)は対数アンプとして動作し,端子bには入力信号を両波整流した波形を対数変換した電圧が出力されます.さらに,OPアンプ(U4)も対数アンプとして動作し,端子dには,端子cの信号を対数変換した信号が出力されます.このように,端子a,b,dは,実効値に比例した電圧ではありません.
OPアンプ(U3)は,ローパス・フィルタ機能を持った電流電圧変換回路として動作します.端子cには,入力信号の実効値に比例した電圧が出力されます.
●RMS-DCコンバータ回路が必要な理由
交流信号には,さまざまな波形の信号があります.実効値は,それらの信号の大きさを,同一の指標で比較するために定義されたものです.実効値は,抵抗に交流信号を加えたときに,抵抗で発生する平均電力と同じ値の電力を発生させる,直流電圧の値として定義されています.実効値(Vrms)は,交流信号[v(t)]の瞬時値を2乗平均し,平方根を取ることで求められ,式1で表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
交流信号の大きさを検出する場合,交流信号を全波整流し,RCフィルタで平均値化する回路がよく使われます.実効値が必要な場合は,係数を掛けて,平均値を実効値に変換することになります.ただし,表1のように,交流信号の波形によって,平均値と実効値の比が異なるため,正確な実効値の値は得られません.
ピーク電圧を1Vとした場合の平均値と実効値の値を示している.
●RMS-DCコンバータ回路の動作
図1の回路は,入力信号を2乗平均し,平方根を取った実効値電圧を出力することができます.この回路は,対数アンプと逆対数アンプを組み合わせて,実効値出力を得ています.その動作原理を,図2を使用して解析します.
OPアンプ(U1)は,ダイオード(D1)と(D2)で半波整流回路を構成しています.なので,a点には半波整流波形が出力されます.
OPアンプ(U2)は,加算回路および対数アンプとして動作し,a点の半波整流波形と入力信号を加算します.そして,トランジスタ(Q1)と(Q2)には,入力信号を全波整流した電流(I1)が流れ,b点には対数変換された信号が出力されます.Q1とQ2を抵抗に置き換えると,一般的な全波整流回路になります.ここで「R3=R4/2」とすると,I1は式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
Q1のベース・エミッタ電圧をVbe1,Q2のベース・エミッタ電圧をVbe2とすると,b点の電圧は式3で表されます.
・・・・・・・・・・・(3)
ここで,VT=k*T/q で,k:ボルツマン定数,T:絶対温度,g:電子電荷
なお,Q1~Q4のトランジスタの特性は,すべて等しく,逆方向飽和電流(IS)の値も等しいとします.式2より,b点の電圧は,I12の対数に比例した電圧になることが分かります.
b点には,Q3のエミッタが接続されており,Q3のベースにはQ4のエミッタが接続されています.そして,Q4のベースがGNDに接続されているため,式4が成立します.
・・・・・・・・・・(4)
式3と式4をまとめると,式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5から,式6が成立することが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
OPアンプ(U3)は,ローパス・フィルタ機能を持った電流電圧変換回路として動作します.OUT端子の電圧(VOUT)は,式7のように,I2をR5で電圧に変換し,平均値化したものになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
OPアンプ(U4)は,対数アンプとして動作し,トランジスタQ4に流れる電流(I3)は式8で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ここで「R5=R6」として,式8を式6に代入すると,式9になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式9の両辺の平均値を取ると,式10になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
さらに,式2,式7を使用すると式10は,式11のように変形できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
最後に「R4=R5」として式11からVOUTを求めると,式12のように,入力信号の2乗平均の平方根になり,VINの実効値となることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
●RMS-DCコンバータ回路の動作をシミュレーションする
図3は,図1のRMS-DCコンバータ回路の動作をシミュレーションするための回路図です.入力信号は,ピーク電圧1Vで1kHzの正弦波信号です.
入力信号は,ピーク電圧1Vで1kHzの正弦波信号.
図4は,図3に正弦波を入力したときの,RMS-DCコンバータ回路のシミュレーション結果です.上段が入力信号で,時間軸を拡大した画像を重ねています.OUT端子の電圧は0.709Vとなっており,表1の正弦波の実効値の値とほぼ一致しています.
OUT端子の電圧は0.709Vで,正弦波の実効値の値とほぼ一致.
図5は,時間軸を拡大して,各部の電圧と電流波形を表示したものです.a点は半波整流波形で,b点は対数圧縮された負電圧となっており,Q1には両波整流された電流が流れていること等が分かります.
回路動作を解析した結果と同じ波形となっていることが分かる.
図6は,図3の入力信号を,ピーク電圧1Vで周波数1kHzの三角波に変更したときのシミュレーション結果です.上段が入力で,時間軸を拡大した画像を重ねています.
OUT端子の電圧は0.583Vで,これも表1の三角波の実効値の値とほぼ一致しています.
OUT端子の電圧は0.583Vで,三角波の実効値の値とほぼ一致.
●IC化されたRMS-DCコンバータを使う
図1の回路を使用すると,入力信号の実効値に比例した直流電圧が得られますが,実際に個別部品を集めて製作するのはかなり面倒です.良く特性のそろったトランジスタを用意し,それぞれの動作温度が同じになるよう,気を付けて実装する必要があるためです.そのため,実効値に比例した直流電圧が必要な機器には,IC化されたRMS-DCコンバータを使用するのが得策です.
IC化されたRMS-DCコンバータとして,LTC1966があります.LTC1966は,図1の回路の原理とは異なる,デルタ・シグマ技術を利用したRMS-DCコンバータです.このLTC1966の動作を確認してみます.
図7がRMS-DCコンバータICのLTC1966をシミュレーションするための回路です.入力信号は,ピーク電圧1Vで1kHzの正弦波信号です.
図8は,図7のシミュレーション結果です.OUT端子の電圧は0.706Vとなっており,表1の正弦波の実効値の値とほぼ一致しています.
OUT端子の電圧は0.706Vで,正弦波の実効値の値とほぼ一致.
以上,RMS-DCコンバータについて解説しました.実効値についての詳しい解説は「交流信号による平均電力と実効値」を参照してください.また,対数アンプの動作に関しては「対数増幅回路の入出力特性」を参照してください.
◆参考文献
トランジスタ技術1987年12月号 「マルチメータとその周辺ツール」
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_043.zip
●データ・ファイル内容
RMS_DCC.asc:図3の回路
RMS_DCC_Tri.asc:図5をシミュレーションするための回路
LTC1966.asc:図6の回路
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