交流信号による平均電力と実効値




『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,抵抗値が10Ωのヒータ(RH)に直流電圧10Vを加えている回路です.ヒータには1Aの電流が流れ,ヒータで発生する電力は10Wになります.このヒータに直流電圧の代わりに,図2(A)~(D)のような波形の交流電圧を加えました.(A)~(D)でヒータの発生する電力の平均値(実効値)が直流電圧と同じ10Wになるものはどれでしょうか.


図1 10Ωのヒータに10Vの直流電圧を加える回路
ヒータに流れる電流は1Aで,発生する電力は10W.


図2 図1に加えた様々な波形の交流電圧
(A):ピーク電圧が20Vでデューティ比50%のパルス波
(B):振幅が√2*10Vの正弦波
(C):振幅がπ*5Vの正弦波
(D):振幅が15Vの三角波

■ヒント

 今回は,直流電源を使用している回路を交流電源に変更した場合,負荷抵抗で発生する電力を同じにする方法を解説します.ヒータで発生する電力の瞬時値は,加えた電圧の瞬時値の二乗を抵抗値で割ったものです.この電力の瞬時値の,1周期の平均を計算すれば電力の平均値となります.これを図1の電力と比較すれば,答えが分かります.

 実効値とは,交流信号の電圧の表し方の1つです.交流信号の電圧には,様々な波形があり,どのような波形でも同一の指標で大きさが比較できるよう,抵抗に発生する電力を元にして定義したものが実効値です.抵抗に,ある値の実効値の交流信号を加えたとき,抵抗で発生する一周期の平均電力と,同じ値の直流電圧を加えたときの電力は等しくなります.実効値電圧の単位としてはVRMS(root mean square)が使われます.


■解答


(B)

 正弦波の実効値は,ピーク値の1/√2なので,(B)の実効値は10Vとなり,抵抗で発生する平均電力は10Wになります.(A),(C)で発生する電力は10Wよりも大きく,(D)で発生する電力は10Wよりも小さくなります.

■解説

●パルス波による平均電力と実効値
 まず,数式を使ってパルス波,正弦波,三角波それぞれのピーク電圧と平均電力の関係を計算してみます.図2(A)において,ピーク電圧をVPとし,周期をTとします.デューティ比50%のパルス波なので,電圧がVPとなっているT/2の期間の電力を計算し,Tの期間の電力の平均値を計算すればよいことになります.T/2の期間の電力は,VP2/RHなので,Tの期間の平均電力(PPuls)は,VP2/RHを2で割り,(1)式で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 図2(A)の波形の平均電圧は,10Vなので一見,平均電力も直流10Vと同じ10Wになると思います.しかし,平均電力は,直流10Vの2倍の20Wになります.一方,実効値は,式1と同じ電力相当の直流電圧のことなので,これをVPulsRMSと置くと,式2となり,この式から式3のようにVPulsRMSを求めることができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

●正弦波による平均電力と実効値
 図2(B)(C)の波形を,ピーク電圧をVPの正弦波(VPsin(ωt))とすると,瞬時電力は(VPsin(ωt))2/RHとなります.平均電力(Psin)は,瞬時電力を1周期分で積分し,1周期の時間で割れば求められ式4になります.

・・・・・・(4)

 式4に図2(B)(C)の値を代入すると,式5のように図2(B)が直流電圧10Vのときと同じ10Wとなり,式6のように図2(C)が10Wよりも大きい12.33Wとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
 また,実効値はパルス波形のときと同様に,式4と同じ電力相当の直流電圧のことなので,これをVsinRMSと置くと式7となり,式7から式8のようにVsinRMSを求めることができます.そして,図2(B)の値を代入すると,10Vになることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

●三角波による平均電力と実効値
 図2(D)の三角波の波形を見ると,1周期を4分割したそれぞれの期間の電力は同じになります.なので,平均電力は1周期の1/4の電力を積分し,1/4周期の時間で割ればよいことが分かります.最初の1/4周期の電圧は,ピーク電圧をVPとすると,4*VP*t/Tという式で表されます.そして,平均電力(Ptri)は式9で計算することができます.

・・・・・(9)

 実効値(VtriRMS)は,これまでと同様,式10,11で求められ,図2(D)の値を代入すると,8.66Vになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

●パルス波による平均電力をLTspiceで確認する
 図3は,パルス波による平均電力をシミュレーションするための回路です.ピーク電圧が20Vでデューティ比50%のパルス波となります.


図3 パルス波による平均電力をシミュレーションするための回路
ピーク電圧20Vでデューティ比50%のパルス波.

 図3でシミュレーションを実行し,Altキーを押しながら抵抗(RH)の上にカーソルを置くと,カーソルが温度計のマークに変わります.この状態で左クリックすると,図4左のようなシミュレーション結果(RHの電力波形)を表示することができます.
 図4左から,ピーク電圧20Vのとき電力が40Wで,0Vのとき電力が0Wなので,平均電力が20Wになることは暗算できます.しかし,LTspiceで計算させて確認することもできます.グラフ上部のV(heater)*I(RH)をCtrlキーを押しながら左クリックすると,図4右のようなウィンドウが現れ,表示されている波形の平均値を確認することができます.


図4 図3のシミュレーション結果
パルス電圧が20Vのときの電力は40Wで平均電力は20W.

 図5左は,図3の抵抗に加わる電圧を表示したものです.ここで,V(heater)をCtrlキーを押しながら左クリックすると図5右のウィンドウで実効値が14.14Vと確認することができます.


図5 抵抗に加わる電圧を表示
V(heater)をCtrlキーを押しながらクリックすると実効値を確認できる.

●正弦波による平均電力をLTspiceで確認する
 図6は,正弦波による平均電力をシミュレーションするための回路です.正弦波の振幅は図2(B)の値(√2*10)になっています.


図6 正弦波による平均電力をシミュレーションするための回路
振幅は図2(B)の値の√2*10Vとなっている.

 図7左は,図6のシミュレーション結果です.図6でAltキーを押しながら抵抗(RH)の上で左クリックし,抵抗の電力を表示しています.電力の最大値は20Wで,電力の波形は入力電圧の2倍の周波数の正弦波となっています.そして,平均電力は式5で計算したように10W(図7右)となっています.


図7 図6のシミュレーション結果
電力の最大値が20Wで平均電力は10W.

 図8左は,抵抗に加わる電圧で,V(heater)をCtrlキーを押しながら左クリックして表示されたウィンドウ(図8右)から,実効値が10VRMSであることが確認できます.


図8 図6で抵抗に加わる電圧を表示
実効値は10Vとなっていることを確認できる.

 図9左は,入力正弦波の振幅を図2(C)のπ*5Vにしたときのシミュレーション結果です.電力の最大値は,約25Wで平均電力は式6で計算したように12.3W(図9右)になっています.


図9 入力電圧をπ*5Vにした時のシミュレーション結果
平均電力は,12.3Wになっている.

●三角波による平均電力をLTspiceで確認する
 図10は,三角波による平均電力をシミュレーションするための回路です.PWL信号を使用し,各時間の電圧を指定することで三角波を生成しています.


図10 三角波による平均電力をシミュレーションするための回路
PWL信号を使用して三角波を生成している.

 図11左は,図10のシミュレーション結果です.図10でAltキーを押しながら抵抗(RH)の上で左クリックすると,抵抗の電力が表示されます.図11左の電力の波形は,下側が丸まった三角波となっており,直観的に平均値がいくつかを把握することは難しいです.しかし,V(heater)*I(RH)をCtrlキーを押しながら左クリックすることで,図11右のように7.5Wとなっていることが確認できます.これは式9で計算した値と同じです.


図11 図10のシミュレーション結果
V(heater)*I(RH)をCtrlキーを押しながら左クリックし,平均電力7.5Wと確認できる.

 図12左は,図10で抵抗に加わる電圧を表示したものです.また,V(heater)をCtrlキーを押しながら左クリックして表示されたウィンドウ(図12右)から,実効値が8.66VRMSであることが確認できます.これは式11で計算した値と同じです.


図12 図10で抵抗に加わる電圧を表示
V(heater)をCtrlキーを押しながら左クリックし,実効値が8.66VRMSであることが確認できる.

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_007.zip

●データ・ファイル内容
RMS_Q_A.asc:図3の回路
RMS_Q_B.asc:図6の回路
RMS_Q_C.asc:図9をシミュレーションする回路
RMS_Q_D.asc:図10の回路

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報


近日発売

ボード・コンピュータ・シリーズ

MicroPythonプログラミング・ガイドブック

近日発売

データサイエンス・シリーズ

Pythonが動くGoogle ColabでAI自習ドリル

近日発売

CQゼミ

長谷川先生の日本一わかりやすい「情報Ⅰ」ワークブック

ハードウェア・セレクション・シリーズ

できる無線回路の製作全集

トランジスタ技術 2024年 5月号

新型シミュレータ!はじめての電子回路

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ