疑似コイルで作るグラフィック・イコライザ
図1は,OPアンプ(LT6231)(1)を使用した疑似コイルで構成された,5バンド・グラフィック・イコライザです.Vol1~Vol5の5つのボリュームを用いて,5つの帯域の音量を独立してコントロールすることができます.破線で囲んだ,疑似コイルを使用した回路の等価回路として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.


図1の破線で囲んだ回路の正しい等価回路はどれ?
(a)の回路 (b)の回路 (c)の回路 (d)の回路

図1のグラフィック・イコライザは,ボリュームの摺動子に接続された,疑似コイルを使用した回路のインピーダンスが,特定の周波数で小さくなることを利用して,音量コントロールを行っています.図2の中で,特定の周波数のインピーダンスが小さくなるのはどれかを考えてください.
特定の周波数でインピーダンスが小さくなるのは,LC直列共振回路です.LC直列共振回路は,文字通り,コイル(L)とコンデンサ(C)が直列に接続された回路です.図2の回路の中で,コイルとコンデンサが直列に接続されているのは,(d)の回路だけなので,正解は「(d)の回路」となります.
●疑似コイルの特性
図3(a)は,OPアンプを使用した疑似コイル回路です.OPアンプは,ゲイン1のバッファとして動作します.図3(b)は,図3(a)の等価回路で,コイルが含まれています.

2つの回路の電流を計算して,両者の特性が等しいことを確認する.
この2つの回路に電圧を加えたときの電流を計算して,両者の特性が等しいことを確認します.まず,図3(a)のi1aと,図3(b)のi1bを計算します.どちらの回路もC1とR2が直列になっており,OPアンプの入力電流を無視すると,i1aとi1bは式1のように,等しくなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)次に,図3(a)のi2aを計算します.OPアンプ(U1)は,ゲイン1のバッファ・アンプとして動作しているため,A点とB点の電圧は等しくなります.そのため,i2aは式2で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)ここで,図3(a)のA点の電圧(VA)は,式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)式2に式3を代入し,整理すると,式4になります.
・・・・・・・・・・・・(4)また,図3(b)のi2bは式5で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式4と式5を比べると,式4の「C1・R1・R2」をL1と置き換えると,式4は式5と同じになることが分かります.したがって,i2aとi2bは等しいと見なすことができます.このように,図3(a)のi1aとi2aは,図3(b)のi1bとi2bと全く同じで,両者の特性は等しいことが分かります.そのため図3(a)は,インダクタンスが「C1・R1・R2」という値の,コイルを含んだ回路として使用することができます.
●疑似コイルの特性の検証
図4は,図3の疑似コイル回路と等価回路の特性を検証する回路です.疑似コイル回路と等価回路のインピーダンスを比較します.

2つの回路のインピーダンスを比較する.
L1のインダクタンス(L)の値は,式6の結果から,220mHとしています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)図5は,図4のシミュレーション結果です.入力端子電圧を,信号源に流れる電流で割って,疑似コイル回路と等価回路のインピーダンス(ZVin1,ZVin2)を表示しています.

疑似コイルと等価回路の,インピーダンス特性は等しい.
ZVin1とZVin2の表示は完全に重なっており,疑似コイル回路と等価回路のインピーダンス特性は,等しいことが分かります.
●疑似コイルの直列共振特性の検証
図1のグラフィック・イコライザ回路は,疑似コイルを直列共振回路として使用しています.そこで,疑似コイルを用いた直列共振回路のインピーダンス特性をシミュレーションで検証します.
図6は,疑似コイルを使用した直列共振回路のインピーダンス特性をシミュレーションする回路です.図4の回路に,C2を追加して,C2と疑似コイルによる直列共振回路を構成しています.

図4の回路にC2を追加して,C2と疑似コイルによる直列共振回路を構成している.
図6の「C1・R1・R2・C2」の値を,式7のように,共振周波数(f0)が1.07kHzになるように設定しています.
・・・・・(7)図7は,図6のシミュレーション結果で,「Simu_ind+C」端子のインピーダンス特性を表示しています.共振周波数で最もインピーダンスが小さくなる,直列共振特性となっています.また,共振周波数は,約1.07kHzとなっており,式7の計算結果と一致しています.また,共振周波数のときのインピーダンスは,R1の値とほぼ等しい,1.23kΩです.

共振周波数は,約1.07kHzとなっており,式7の計算結果と一致している.
●グラフィック・イコライザの動作
図8は,グラフィック・イコライザの1バンドのみを取り出した等価回路です.ZはLC直列共振回路のインピーダンスです.ボリューム(Vol)の摺動子の位置を変えることで,共振周波数のゲインを増幅させたり減衰させたりすることができます.この等価回路を使用して,ボリュームの摺動子が「センター,上端,下端」のときのゲインを計算します.

ZはLC直列共振回路のインピーダンス.
▼摺動子がセンターのゲイン
最初に,ボリュームの摺動子がセンターにあるときのゲインを求めます.図8の回路において,OPアンプ(U1)が正常に動作している場合,A点とB点の電圧は等しくなります.そして,ボリュームの抵抗値をRVOLとすると,A点の電圧(VA)は式8で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)抵抗(R2)に流れる電流(IR2)は式9で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)また,OUT端子の電圧(VOUT)は,式10で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)式8~式9を使用してIN端子からOUT端子までのゲイン(GCNT)を求めると,式11が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)ここで「R1=R2」とすると分母と分子が等しくなり,ゲインは1になります.
▼摺動子が上端のゲイン
次に,ボリュームの摺動子を上端にしたときのゲインを計算します.図9がボリュームの摺動子を上端にしたときの等価回路です.

ボリュームの摺動子を上端にした場合,図9の回路は非反転増幅回路として動作します.A点とB点の電圧が等しいため,ボリュームの抵抗には電流が流れず,ゲインに影響しません.ボリュームの摺動子が上端のときのゲイン(GTOP)は式12で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)R2が6.8kΩで,Zを1.2kΩとすると,ゲインは約6.7倍(16.5dB)になります.
▼摺動子が下端のゲイン
最後に,ボリュームの摺動子を下端にしたときのゲインを計算します.図10がボリュームの摺動子を下端にしたときの等価回路です.

ボリュームの摺動子を下端にしたとき,OPアンプはゲイン1のバッファとして動作します.そして,A点の電圧は,入力電圧をR1とZで分圧したものになります.そのため,IN端子からOUT端子までのゲイン(GBTM)は,式13で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)R2が6.8kΩで,Zを1.2kΩとすると,ゲインは0.15倍(-16.5dB)になります.
●1バンド・グラフィック・イコライザの検証
図11は,1バンドだけ取り出した,グラフィック・イコライザをシミュレーションする回路です.ボリュームは,RVOL1AとRVOL1Bという2本の抵抗に分割し,抵抗値は,摺動子の位置に相当するVol1という変数を使って計算しています.

摺動子を下端とセンターおよび上端にしたときの特性をシミュレーションする.
Vol1は「.step」コマンドで「0,0.5,1」と変化させ,摺動子を「下端,センター,上端」にしたときの特性をシミュレーションします.
図12は,図11のシミュレーション結果です.摺動子の位置によって「減衰,フラット,増幅」と特性が変化していることが分かります.また,最大増幅量は16.2dBで,式12の結果とほぼ一致しています.さらに,最大減衰量も-16.2dBとなっており,式13の結果とほぼ一致しています.

摺動子の位置によって「減衰,フラット,増幅」と特性が変化している.
●5バンド・グラフィック・イコライザの検証
図13は,5バンド・グラフィック・イコライザをシミュレーションする回路で,図1と同じ回路です.図11と同様,摺動子を「下端,センター,上端」にしたときの特性をシミュレーションします.なお,図13の回路では,5つのバンドのボリューム摺動子の位置は,全て同じ方向に変化させています.

摺動子を「下端,センター,上端」にしたときの特性をシミュレーションする.
図14は,図13のシミュレーション結果です.5バンド全てのボリュームの摺動子を,同じ方向に変化させているため,5つの帯域のゲインが,同じ変化をしています.

摺動子の位置によって,「減衰,フラット,増幅」と特性が変化している.
以上,疑似コイルを使用したグラフィック・イコライザについて解説しました.ここではOPアンプ1つの疑似コイルを紹介しましたが,OPアンプを2つ使用したGIC(General Impedance Converter:一般化インピーダンス変換器)(2)を用いると,より精度の高いコイルを構成することができます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_038.zip
●データ・ファイル内容
Simulated_Inductor.asc:図4の回路
Simulated_Inductor.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Simulated_Inductor+C.asc:図6の回路
Simulated_Inductor+C.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
graphic_equalizer.asc:図11の回路
graphic_equalizer.plt:図12のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
5channel_graphic_equalizer.asc:図13の回路
5channel_graphic_equalizer.plt:図14のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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