実効値直流変換回路で作る真の実効値電圧計
図1は,OPアンプ(ADA4511)(1)とマッチング・トランジスタ(MAT14)(2)で構成した,実効値直流変換回路(RMS注1/DCコンバータ)を使用した,実効値電圧計の回路図です.IN端子に測定したい信号を入力し,OUT端子の電圧をADコンバータでデジタル化して表示します.
この回路のIN端子に,ピーク電圧1Vで1kHzの正弦波を加えたとき,OUT端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.

IN端子にピーク電圧1Vで1kHzの正弦波を加えたとき,OUT端子の電圧は?
(a) 0.637V (b) 0.707V (c) 1V (d) 1.414V

図1の回路は,OPアンプとトランジスタを使用して対数変換と逆対数変換を行い,入力信号を2乗平均し,平方根を取った電圧を出力します.ピーク電圧1Vの正弦波を2乗平均して平方根をとった場合,電圧がいくつになるか考えてください.
図1のOUT端子には,入力信号を2乗平均し,平方根を取った電圧が出力されます.ここで,ピーク電圧がVPの正弦波をVPsin(ωt)とします.VPsin(ωt)を2乗し,1周期の平均をとるとVP2/2となり,その平方根はVP/√2となります.ピーク電圧が1Vの場合「1/√2=0.707」となります.そのため,OUT端子の電圧は0.707Vとなります.
●実効値電圧計とは
実効値電圧計(RMS電圧計)は,交流電圧の大きさを,同じ電力を発生させる直流電圧に換算して測定する計測器です.実効値電圧計には,平均値検波した値を実効値に換算して表示する簡易方式(3)と,交流信号の波形によらず,正しい実効値が表示できる真の実効値方式があります.実効値(Vrms)は,交流信号(v(t))の瞬時値を2乗平均し,平方根を取ることで求められ,式1で表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1を用いて,ピーク電圧がVPの正弦波の実効値を求めると式2のようにVP/√2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ピーク電圧が1Vの場合は,1V/√2=0.707Vとなります.表1は,3種類の波形の交流信号について、ピーク値を1としたときの平均値と実効値の関係を表したものです.このように,波形によって平均値と実効値の比が異なるため,簡易方式の実効値電圧計では,正しい値が測定できません.
| 波形 | ピーク値 | 平均値 | 実効値 | 実効値/平均値 |
|---|---|---|---|---|
| 正弦波 | 1 | 0.637 | 0.707 | 1.110 |
| 三角波 | 1 | 0.5 | 0.577 | 1.154 |
| 矩形波 | 1 | 1 | 1 | 1 |
●対数増幅回路を用いた実効値直流変換回路
図2は,対数増幅回路を用いた実効値直流変換回路(4)です.入力信号を2乗平均し,平方根を取った実効値電圧を出力することができます.

入力信号を2乗平均し平方根を取った実効値電圧を出力することができる.
OPアンプ(U2)とトランジスタ(Q1,Q2)で構成された対数増幅回路で,入力信号の2乗と対数変換を行います.そして,OPアンプ(U2)は,抵抗(R5)とコンデンサ(C1)で平均値化を行い,さらに,OPアンプ(U3)とトランジスタ(Q3,Q4)と共に,逆対数変換と平方根化を行います.この回路の動作はかなり複雑なので,順を追い,数式を使用して解説します.
●実効値直流変換回路の動作
▼半波整流回路(U1)
図2のOPアンプ(U1)は,ダイオード(D1,D2)と共に半波整流回路を構成しています.そのため,A点には,半波整流波形が出力されます.
▼加算回路と対数増幅回路(U2)
OPアンプ(U2)は,加算回路と対数増幅回路として動作し,A点の半波整流波形と入力信号を加算します.そして,トランジスタ(Q1,Q2)には,入力信号を全波整流した電流(I1)が流れ,B点には対数変換された信号が出力されます.トランジスタ(Q1,Q2)を抵抗に置き換えると,一般的な全波整流回路になります.ここで「R3=R4/2」とすると,I1は式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
Q1のベース・エミッタ電圧をVbe1,Q2のベース・エミッタ電圧をVbe2とすると,B点の電圧(VB)は式4で表されます.
・・・・・・・(4)
式4の中で,ISは逆方向飽和電流と呼ばれるもので,トランジスタの大きさなどによって決まります.また,VTは熱電圧と呼ばれ,式5で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
なお,Q1~Q4のトランジスタの特性は,全て等しく,逆方向飽和電流(IS)の値も等しいものとします.
式4より,B点の電圧はI12の対数に比例した電圧になることが分かります.B点にはQ3のエミッタが接続されており,Q3のベースにはQ4のエミッタが接続されています.そして,Q4のベースが,GNDに接続されているため,式6が成立します.
・・・・・(6)式5と式6をまとめると,式7になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)式7から,式8が成立することが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)▼逆対数変換とローパス・フィルタ(U3)
OPアンプ(U3)は,逆対数変換とローパス・フィルタ機能を持った電流電圧変換回路として動作します.OUT端子の電圧(VOUT)は,式9のように,I2をR5で電圧に変換し,平均値化したものになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)▼対数アンプ(U4)
OPアンプ(U4)は,対数アンプとして動作し,対数化するトランジスタQ4に流れる電流(I3)は,R6に流れる電流と同じです.そして,R6に流れる電流はVOUTをR6で割ったものなので,式10で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)ここで「R5=R6」とすると,式10は式11のようにシンプルになり,I3はI2の平均値と等しいことが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)式11を式8に代入すると,式12が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)ここで,式12の両辺の平均値を取ると,式13になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)さらに,式3,式9を使用すると式13は式14のように変形できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)最後に「R4=R5」として式14からVOUTを求めると,式15のように,入力信号の2乗平均の平方根になり,VINの真の実効値となることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)
●対数増幅回路を用いた実効値直流変換回路を検証する
図3は,図2の回路を用いた実効値直流変換回路のシミュレーション回路で,図1と同じものです.OPアンプは,オフセット電圧の小さいADA4511を使用しています.そして,トランジスタは,特性のよくそろったトランジスタが1パッケージに4個搭載された,マッチング・トランジスタのMAT14です(モデルは同一シリーズのMAT02のものを使用).
OPアンプ(U2,U4)の,出力端子と反転入力端子に接続されているコンデンサ(C2,C3)は異常発振を防止する働きをします.IN端子に,ピーク電圧1Vで1kHzの正弦波を加えてトランジェント解析を行います.

IN端子に,ピーク電圧1Vで1kHzの正弦波を加えてトランジェント解析を行う.
図4は,図3のシミュレーション結果です.

OUT端子の電圧は0.706Vで,表1のピーク電圧1Vの正弦波の実効値の値とほぼ一致している.
上段は,IN端子の電圧でピーク電圧1Vの正弦波ですが,波形の間隔が狭いため,青く塗りつぶされています.
下段は,OUT端子の電圧で,300ms時点のOUT端子の電圧が0.706Vとなっており,表1のピーク電圧1Vの正弦波の実効値の0.707Vと同じになっています.
図5は,時間軸を拡大した図3のシミュレーション結果です.上段が,入力信号,A点,B点の電圧で,下段がトランジスタ(Q1,Q2,Q3)の電流をプロットしたものです.

上段のA点の波形は入力信号を半波整流したものになっており,B点の波形は,入力信号の全波整流波形を対数圧縮したものになっています.
下段の各トランジスタ(Q1,Q2,Q3,Q4)の電流は,図2と図3のI1,I2,I3に相当するもので,ICQ1=I1,ICQ3=I2,ICQ4=I3という関係になっています.ICQ1(I1)は,入力信号を全波整流した波形となっています.また,ICQ4(I3)は平均値化された波形となっていますが,その大きさはICQ3(I2)の平均値と等しくなっています.
●三角波を入力した実効値直流変換回路
図6は,図3の入力信号をピーク電圧1Vで周波数1kHzの三角波に変更したときのシミュレーション結果です.
図4と同様に,上段がIN端子の電圧で,下段がOUT端子の電圧です.下段の300ms時点のOUT端子の電圧は0.584Vとなっており,表1のピーク電圧1Vの三角波の実効値の値の0.577Vとほぼ一致しています.

OUT端子の電圧は0.584Vで,表1の三角波の実効値の値とほぼ一致.
図7は,図3の入力信号をピーク電圧1Vで周波数1kHzの三角波に変更し,図5と同様に,時間軸を拡大したシミュレーション結果です.

上段が,入力信号,A点,B点の電圧で,下段がトランジスタ(Q1,Q2,Q3)の電流をプロットしたものです.三角波を入力した場合も,正弦波を入力した場合と同様に想定動作どおりの波形となっています.
以上,対数増幅回路を用いた,実効値直流変換回路について解説しました.今回はOPアンプとマッチング・トランジスタを使用する方法を紹介しましたが,LTC1966(5)のような専用ICを使用すると,簡単に高精度な実効値直流変換が可能です.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4511データシート:アナログ・デバイセズ
(2) MAT14データシート:アナログ・デバイセズ
(3) 全波整流回路で作る平均値交流電圧計:CQ出版社
(4) トランジスタ技術1987年12月号P388「マルチメータとその周辺ツール」:CQ出版社
(5) LTC1966データシート:アナログ・デバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_028.zip
●データ・ファイル内容
RMS_DCC.asc:図3の回路
RMS_DCC.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
RMS_DCC_tri.asc:図6をシミュレーションするための回路
RMS_DCC_tri.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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