対数アンプの回路定数の調整
図1は,OPアンプを使った対数アンプで,入力のV1を1mVから10VへスイープしたときのOUTの変化をシミュレーションで調べています.対数アンプの入力電圧と出力電圧の関係は,図2のように片対数グラフで直線になります.ここで,R2を150kΩでV1をスイープした後に,R2を1.5MΩにしてもう一度V1をスイープしたとき,図2のプロットの変化として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.
R2を150kΩから1.5MΩにしたときのOUTの変化を調べる.
(a)1から2へ変化 (b)2から1へ変化 (c)3から4へ変化 (d)4から3へ変化
図1の対数アンプは,V1を1mVから10VへスイープしたときOUTの傾きが正,または,負のどちらかを検討すると2つに絞り込めます.そして,R2が変化したときOUTの電圧が高くなるか,または,低くなるかを検討すると答えが分かります.
まず,図1のV1がスイープ前のOUTの直流電圧を調べ,その状態からV1をスイープするとログ・アンプ出力の傾きはどうなるか,その後,R2を変えるとどのように変化するかを検討していきます.
OUTの直流電圧を調べるにあたり,V1のスイープの始まりの電圧の「V1=1mV」,R2は切り替える前の抵抗値「R2=150kΩ」にします.図1はU1とU2のOPアンプを使った負帰還アンプで回路を構成しているので,負帰還が成り立つときはU1とU2の反転端子はバーチャル・グラウンドになります.R1をみると右側がバーチャル・グラウンドですので,R1にはV1の電圧が掛かって電流が流れます.その電流はQ1のコレクタ電流になるので,式1の電流が流れてトランジスタはONしています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
同様に,R2をみると左側がバーチャル・グラウンドですので,R2にはV+の電圧がかかって電流が流れます.その電流はQ2のコレクタ電流になるので,式2の電流が流れてトランジスタがONしています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
このときQ1のベースは,GNDなので,Q1のベース・エミッタ電圧をVBE1,Q2のベース・エミッタ電圧をVBE2とすると,Q2のベース電圧(VB2)は式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
OUT側からQ2のベース電圧(VB2)を見ると,OUTの電圧をR4とR3で抵抗分圧した電圧がQ2のベース電圧なので,式4の関係があります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式3と式4より,OUTの直流電圧は,式5になります.式5より,ログ・アンプの出力は,VBE1とVBE2の差を「-(1+R4/R3)」のゲインで増幅した電圧になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
次にV1を1mVから10Vへスイープしたときを調べます.このときのR2は,150kΩのままです.V1をスイープすると,式1の関係でQ1のコレクタ電流が高くなり,VBE1も変わります.具体的には,Q1トランジスタのベース・エミッタ電圧とコレクタ電流の関係は式6ですので,V1をスイープしてコレクタ電流が高くなると,VBE1も高くなります.ここで式6のVTは熱電圧(常温で約25.8mV),IS1はQ1のベース・エミッタ間逆方向飽和電流です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
このときのR2は150kΩで固定されているので,式2のコレクタ電流は一定です.Q2トランジスタのベース・エミッタ電圧とコレクタ電流の関係は式7ですので,VBE2は一定になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
V1をスイープしたときのVBE1とVBE2の変化が分かったので,式5を使ってV1をスイープしたときのOUTの変化を検討します.V1をスイープしたとき,式5のVBE1が高くなり,R2が固定だとVBE2は,一定です.そして「-(1+R4/R3)」のゲインの符号はマイナスであることから,V1をスイープするとOUTは負の傾きになります.図2を見ると,負の傾きになるのは1と2になり,正の傾きの3と4は間違いなので(c)と(d)は消えます.
最後に,R2の抵抗値を150kΩから1.5MΩに変更したとき,OUTの電圧が高くなるか,また,低くなるかを検討します.式2より,V+が一定のときR2が150kΩから1.5MΩになるとQ2のコレクタ電流は低くなります.コレクタ電流が低くなると,式7のQ2のベース・エミッタ電圧は低くなります.式5より,VBE2が低くなるとOUTの電圧も低くなります.この検討より,R2が150kΩから1.5MΩになると,(a)の1から2へ変化するのが正解になります.
●対数アンプの使われ方
抵抗比でゲインが決まる反転アンプや非反転アンプは,使いやすい回路ですが,低い入力電圧で高い出力電圧が得られるようにゲインを高く設定すると,高い入力電圧のときに出力電圧が飽和してしまいます.これは,出力電圧がOPアンプの正負の電源電圧以上にならないためです.このようにゲインが固定のアンプは入力のダイナミックレンジ(入力電圧の範囲)が狭くなります.一方,対数アンプは,ゲインが固定ではありませんが,入力電圧を対数の関数で圧縮した出力電圧になるので飽和しにくく,入力のダイナミックレンジを広くできます.このように信号のダイナミックレンジが広いとき,出力電圧を飽和させないアンプとして使われます.
●対数アンプの調整
対数アンプは,トランジスタのベース・エミッタ間の特性が出力に現れるアンプなので,トランジスタ特性の変化が出力に現れます.そこで,対数アンプを安定に使うため,次の影響を調整する必要があります.
・トランジスタのバラツキによるOUTの影響を抑える
・温度変化によるOUTの影響を抑える
また,対数アンプを使う場合,机上計算や入出力特性を考慮し,次の回路定数の調整をする必要があります.
・ベース・エミッタ間電圧の自然対数(ln)の変化から常用対数(log)の変化にする
・入出力特性(プロット)を縦軸方向に平行移動する
ここでは,対数アンプの回路定数を調整するため,図1のログ・アンプのV1からVOUTまでの入出力特性について机上計算し,入出力特性と回路定数の関係を調べます.図1のVOUTは式5でしたので,式5を式1,式2,式6,式7を使って整理すると式8の入出力特性になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式8のIS1とIS2はQ1とQ2のベース・エミッタ間逆方向飽和電流です.トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)のバラツキはISのバラツキとして表されます.この項はトランジスタが同じなら同じ値になりキャンセルされるので,トランジスタのバラツキによるOUTの影響を抑えることができます.そして式8の自然対数のlnを常用対数のlogに変換するときは2.3倍にすれば良いので,式8を式9に書き換えて常用対数の式にできます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
ここで式9のlogに掛かる比例定数を式10のように1倍にすると「VOUT=-log10(値)」となって扱いやすくなります.具体的に,VTは常温で約25.8mVなので,式10の等式の関係にするには,ゲインを「1+R4/R3=16.9倍」にします.この抵抗値が図1の「R3=1kΩ」,「R4=15.9kΩ」になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
温度補償についても式10から対策方法がわかります.式10中のVTは+3300ppm/℃の温度特性を持つので,「1+R4/R3」のゲインの温度変化を逆に設定して打ち消します.具体的にはR3を+3300ppm/℃の温度係数を持つ抵抗を選ぶことで実現します.
式10が成り立つ回路定数に設定すると,式9は式11になります.式11より,V1からVOUTまでの入出力特性は常用対数の関係になります.そしてV+は正の電源電圧で固定なので,R1とR2の抵抗比を変えるとプロットは縦軸方向に平行移動できます.図1ではR1を固定にしてR2の値を変えています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
図1の回路定数を使って式11を具体的な数値で検討します.「R1=10kΩ」,「R2=150kΩ」,「V+=15V」の状態のときは式12の入出力特性になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
V1のスイープの始まりである1mVを式12へ入れると 「VOUT=-log10(0.001)=3V」になり,3Vから始まる負の傾きを持ったプロットになります.これが図2の1のプロット(青色)になります.
その後,「R2=1.5MΩ」へ変更すると式13になります.同じようにV1のスイープの始まりである1mVを式13へ入れると,「VOUT=-log10(0.01)=2V」になり,2Vから始まる負の傾きを持ったプロットになります.これが図2の2のプロット(赤色)になり,青色のプロットから下方向に平行移動します.
・・・・・・・・・・・・・・・(13)
このように対数アンプの回路定数を調整して,目標にする入出力特性にして使います.
●対数アンプのシミュレーション
図3は,対数アンプをシミュレーションする回路です.図1との違いは「.stepコマンド」でR2の値を変えています.具体的には「.STEP param Rref LIST 150k 1.5Meg 15Meg」を用いて,変数Rrefの値をLISTで指定した抵抗値に順次入れ替えます.そしてR2を入れ替えるたびに「.DC dec V1 1m 10 100」のドット・コマンドでV1の電圧を1mVから10Vまでを10倍あたり100ポイントでスイープしてOUTの電圧をプロットします.
.STEPコマンドでR2の値を150kΩ,1.5MΩ,15MΩの3種に変えている.
図4は,図3の入出力特性のプロットです.R2が150kΩのときは式12の入出力特性,1.5MΩのときは式13の入出力特性になります.15MΩは式11へ入れると「VOUT=-log10100V1」の入出力特性になります.
V1の常用対数をとった値がOUTの電圧となる.
R2が10倍高くなるとOUTは1V平行移動する.
3つのプロットともV1が1mVから10mVの10倍変わるとOUTの電圧は-1V変化し,その傾きが10Vまで続く常用対数のプロットです.そしてR2が10倍高くなるとOUTは1V下側に平行移動します.図2と比べると,図4のR2が150kΩのプロットは図2の1のプロット(青色)と同じになり,1.5MΩのプロットは図2の2のプロット(赤色)と同じですので,解答は(a)であることが分かります.
ここでは示しませんでしたが,対数アンプの温度補償については過去のメルマガ「対数増幅回路の入出力特性」で詳しく解説していますので,そちらを参照ください.
●アナログ計算機や電圧計に利用できる対数アンプ
図5は,図1の対数アンプの応用として,-1倍の反転アンプ(U3,R6,R7)を加えた回路例です.V1は0.1mVから10Vまでを10倍あたり100ポイントでスイープして,OUTまでの入出力特性をシミュレーションで調べます.
反転アンプはU3,R6,R7で構成.
図6が図5の対数アンプのプロットになります.-1倍の反転アンプを加えたので,プロットの傾きが正になります.
-1倍の反転アンプで対数アンプの傾きが反転する.
V1の常用対数がOUTの電圧になる.
ここで,R2が150kΩのプロットをみると,V1の電圧の常用対数がOUTに現れます.これは,数式の変数を回路定数や印加電圧で代替して解を得るアナログ計算機に利用できます.関数電卓と比べると,アナログ計算機の計算精度は劣りますが,V1を変えているときもリアルタイムで計算結果が現れます.
次の例は,測定範囲のレンジ切り替えです.具体的にはOUTの電圧が0Vから1Vをフルスケールで表示する電圧計があるとします.このときのV1の電圧範囲は,15MΩのとき10mV~100mV,1.5MΩのとき100mV~1V,150kΩのとき1V~10Vとなるので,R2をスイッチで切り替えて,測定するV1の電圧範囲を10倍のステップでレンジ切り替えする使い方などです.
以上,解説したように,対数アンプ入は,出力特性を調整することができます.対数アンプで注意することは2つのトランジスタが同じ特性になることです.対数アンプの精度が必要なときは,マッチング・トランジスタを使います.マッチング・トランジスタをLTspiceで使うやり方は過去のメルマガ「マッチング・トランジスタで作るアンプ」を参考にしてください.もう1つの注意点として,対数アンプは負帰還にトランジスタが入るので,信号電圧に応じて帰還率が変わります.このため出力が発振することがありますので,C1とC2で調整をしてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_038.zip
●データ・ファイル内容
logamp.asc:図3の回路
logamp.plt:図3のプロットを指定するファイル
logamp 2.asc:図5の回路
logamp 2.plt:図5のプロットを指定するファイル
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