抵抗変化型湿度センサの使い方
図1は,抵抗変化型湿度センサを使用した,湿度に対応した電圧を出力する回路です.V1は,ピーク電圧1Vで周波数1kHzの正弦波です.使用している湿度センサの抵抗値は,湿度によって変化します.湿度20%で1MΩ,湿度40%で100kΩ,湿度70%で10kΩとなります.図1の回路で,湿度20%の場合,Out端子の電圧は476mVでした.湿度が40%の場合,Out端子の電圧は(a)~(d) のどれになるでしょうか.
湿度20%のときの出力電圧が476mVだとすると,湿度40%のときの出力電圧は?
(a)416mV (b)536mV (c)954mV (d)4.76V
図1の回路は,2つの機能が一体となったものです.まず,その2つの機能がどんなものかを考えます.そして,湿度センサの抵抗値が,湿度20%と湿度40%でどのように変化したかを考えれば,答えが分かります.
図1の回路は,反転アンプ型の「対数アンプ」と「ピーク検波回路」の2つの機能が一体となっています.V1の信号電圧は,湿度センサの抵抗によって電流に変換されます.その電流がダイオード(D1)に流れ,電圧に変換されます.Out端子の電圧は,D1の電圧をピーク検波したものになります.
湿度20%と40%では湿度センサの抵抗値が10倍変化しています.そのため,D1に流れる電流も10倍変化します.電流値が10倍変化したときのダイオードの電圧変化量は「VT*ln(10)=60mV」となります.湿度20%のときのOut端子の電圧が476mVなので,湿度40%のときの電圧は「476mV+60mV=536mV」となります.
●抵抗変化型湿度センサの特性
抵抗変化型湿度センサは,高分子膜の抵抗値が湿度によって変化することを利用したものです.その抵抗値は,図2のように湿度に対し,指数関数的に変化し,その抵抗値の変化幅は数kΩから数MΩまでと非常に大きくなっています.また,高分子膜を使用した抵抗変化型湿度センサは,直流を印可すると素子が劣化してしまうため,交流信号を印可して使用する必要があります.
抵抗値は湿度に対し指数関数的に変化する.
●対数アンプの特性
抵抗変化型湿度センサのように抵抗の変化幅が大きい場合,対数アンプを使用すると出力電圧変化を圧縮することができます.図3はOPアンプとダイオードを使用した,基本的な対数アンプです.反転アンプ構成となっており,R1に流れる電流と同じ電流がD1にも流れます.R1の電流(IR1)は式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
そして,Out端子の電圧はD1の電圧と等しくなり,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2から分かるように,出力電圧はV1およびR1の値に対して対数的に変化します.ただし,この回路が正常に動作するのはV1が負の値のときだけです.図3ではV1の値を-1Vとし,R1の値を「.STEPコマンド」を使用して,2kΩから2MΩまで変化させ,動作点解析(.OP)を行います.
「.STEPコマンド」を使用して,R1の値を2kΩから2MΩまで変化させ,動作点解析を行う.
図4は,抵抗を変化させたときの対数アンプのシミュレーション結果です.横軸がR1の値で対数目盛りになっています.縦軸がOut端子の電圧です.R1の2kΩから2MΩという変化に対して,Out端子の電圧は637mVから458mVまで直線的に変化していることが分かります.
R1の2kΩから2MΩという変化に対してOut端子の電圧は直線的に変化している.
●半波整流回路とピーク検波回路
図5は半波整流回路とピーク検波回路をシミュレーションするための回路です.上側が,半波整流回路で,その半波整流回路にコンデンサC2を追加したものが,ピーク検波回路になります.
上側が,半波整流回路で,そこにC2を追加したものが,ピーク検波回路.
図6は,半波整流回路とピーク検波回路のシミュレーヨン結果です.上段が入力信号で,半波整流出力(Out2)は,入力信号の下側の半サイクルを反転したものになります.そして,その波形のピークレベルをとらえたものが,ピーク検波出力(Out1)になります.
半波整流出力(Out2)のピークレベルをとらえたものが,ピーク検波出力(Out1).
●センサをシミュレーション
図7は,図1の,抵抗変化型湿度センサ応用回路をシミュレーションするための回路です.回路的には,図5のピーク検波回路のR2を,ダイオードに置き換えたものです.R1が抵抗変化型湿度センサですが,その抵抗値を「.stepコマンド」で100kΩ(湿度40%)と1000kΩ(湿度20%)に変化させてトランジェント解析を行います.
湿度センサの抵抗値を100kΩ(湿度40%)と1000kΩ(湿度20%)に変化させる.
図8が抵抗変化型湿度センサ応用回路のシミュレーション結果です.湿度センサの抵抗値が1000kΩ(湿度20%)のときの出力電圧は476mVで,100kΩ(湿度40%)のときは536mVに変化していることが分かります.
図7の回路では,D1がピーク検波回路の放電ルートになります.出力電圧が高いときはD1のインピーダンスが低くなるため,放電時定数が短くなり,リップルが目立つようになります.この現象を避けるためには,対数アンプとピーク検波回路を分離独立させる必要があります.
湿度20%のときの出力電圧は476mVで,湿度40%のときは536mVとなっている.
以上,抵抗変化型湿度センサの使用方法について解説しました.抵抗変化型湿度センサの抵抗値にはかなり大きな負の温度係数があります.対数アンプのダイオードの温度係数は,湿度センサの温度係数を打ち消す方向に働きますが,正確な湿度を測定するためには温度補正が必要になります.
なお,対数アンプの詳しい動作に関しては,「IoT時代のLTspiceアナログ回路入門:対数増幅回路の入出力特性」を参照してください.
TDK:湿度センサ CHSシリーズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_035.zip
●データ・ファイル内容
log_amp.asc:図3の回路
log_amp.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
HR_PD.asc:図5の回路
HR_PD.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
humidity_sensor.asc:図7の回路
humidity_sensor.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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