精度の高いOPアンプを選択する方法
図1は,OPアンプの直流ゲインが無限大のとき,OUTが直流3Vになるように設計した電圧レギュレータです.この回路は,直流ゲインが無限大から有限になると,OUTの電圧が3Vからわずかに低くなります.OUTの電圧の目標を2.9990V以上にしたとき,この目標を満足させるOPアンプの直流ゲインの最小値は(a)~(d)のどれでしょうか.
OPアンプの直流ゲインを変化したときのOUTの電圧を検討する.
(a)60dB (b)80dB (c)100dB (d)120dB
図1は,OPアンプとR1,R2からなる非反転アンプでV1の直流電圧を増幅します.この非反転アンプのゲインをOPアンプの直流ゲインAとR1とR2の帰還率βで表わし,(a)~(d)の内,どのゲインで2.9990V以上になるかを検討すれば分かります.OPアンプの直流ゲインは,直流でのオープン・ループ・ゲインのことです.
OPアンプの特性にはバラツキがあり,高精度な回路を設計する場合,条件を満たすOPアンプを選びます.そのような場合,今回のシミュレーションは選択の目安になります.
図1のV1からOUTまでの入出力特性を,OPアンプの直流ゲインAと帰還率βを用いて検討します.ここで,OPアンプの非反転端子の電圧をVIN+,反転端子の電圧をVIN-,OUTの電圧をVOUTとします.
まず,OPアンプの反転端子の電圧VIN-は,OUTの電圧をR1とR2で抵抗分圧した電圧なので式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
OUTの電圧は,非反転端子と反転端子の電圧差をOPアンプの直流ゲインで増幅した電圧なので式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
帰還率βは,OUTからVIN-までの減衰率なので,R1とR2の分圧回路より式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式1を式2へ代入し,VOUTについて解くと式4になります.VIN+の電圧は,V1の電圧なので式4がV1からOUTまでの入出力特性になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
次に,式4の直流ゲインAに(a)~(d)のデシベルの直流ゲインを倍率にして代入し,VOUTの電圧を評価します.(a)の60dBは1000倍なので「R1=2kΩ,R2=3kΩ,VIN+=1.2V」より,式4は「VOUT=2.9925V」になります.同様に(b)の80dBは,10000倍なので「VOUT=2.9993V」,(c)の100dBは100000倍なので「VOUT=2.9999V」,(d)の120dBは1000000倍なので「VOUT=3V」になります.これより(a)~(d)のうち,目標のVOUT=2.9990V以上を満足するOPアンプの直流ゲインの最小値は,(b)の80dBになります.
●OPアンプの特性のバラツキに注意する
OPアンプの電気的特性にはバラツキがあります.なので,データシートには最小値や最大値が記載されています.一方,OPアンプのマクロ・モデルには,おおよそデータシート中の標準値になるので,最小値や最大値になるときのシミュレーションは別途必要になります.
ここでは,高精度な回路を作る場合に,目標とするOUTの電圧の最小値から,直流ゲインの最小値の目安を検討します.シミュレーションでは,OPアンプのマクロ・モデルのパラメータを変更するのは難しいので,ユニバーサルOPアンプを使って直流ゲインを変化させる方法を紹介します.
●必要な直流ゲインの詳細な机上計算
問題では,4つの直流ゲインからOUTの電圧が2.9990V以上になるものを探しました.ここでは,より具体的にOUTの電圧が2.9990Vになる境の直流ゲインを机上計算します.この机上計算は後のシミュレーション結果と比較します.
式4の(1+R2/R1)の項を式3のβで表すと「1+R2/R1=1/β」なので,書き直すと式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5より,OPアンプU1とR1,R2からなる非反転アンプのゲイン「G」を求めると式6になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6をAについて解きます.そしてOPアンプの直流ゲイン「A」,非反転アンプのゲイン「G」と帰還率「β」からなる関数の大小関係を表すと式7になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
図1の「VIN+=1.2V」で「VOUT=2.9990V」になる非反転アンプのゲインは「G=2.9990V/1.2V=2.49917」になります.帰還率βは式3へ「R1=2kΩ」と「R2=3kΩ」を入れて「β=0.4」になります.これを式7へ入れて机上計算すると,OUTの電圧が2.9990Vになる直流ゲインは「A=7528倍=77.5dB」となります.この計算からも,直流ゲインが77.5dB以上に近いのは,冒頭で検討した(b)80dBであることが分かります.
●ユニバーサルOPアンプで直流ゲインを変化させる
OPアンプのマクロ・モデルの中身を変更するのは難しいことから,ユニバーサルOPアンプを使って直流ゲインを変化させます.直流ゲインを変えるには,ユニバーサルOPアンプのパラメータを変更します.具体的には,回路へ配置した「Universal Opamp2」のシンボル上で右クリックすると図2の「Component Attribute Editor」が開きます.Valueの列にはOPアンプの特性を表すパラメータが入っており,「Avol」が倍率で表した直流ゲインになります.図2では直流ゲインを「Avol={10**(A/20)}」で与えています.この意味は,波括弧{}で囲ったところがユーザ定義の変数になり,数式中の「**」はべき乗なので「Avol=10(A/20)」になります.このようにしてデシベルで表したAの変数を倍率に変換し,Avolのパラメータにしています.変数Aは「.step」を用いてスイープします.ユニバーサルOPアンプの「SpiceModel」は4種類あり,図1では実際のOPアンプに近い「level.3b」を用いました.
ユニバーサルOPアンプの使い方については,過去のメルマガで「ユニバーサルOPアンプを使ったバッファ回路」がありますので,こちらを参考にしてください.
●直流ゲインによるOUTの電圧の変化
図3は,図1のOPアンプの直流ゲインを変化させたときのOUTの電圧の変化をプロットしました.使用したドット・コマンドは「.op」と「.step」です.「.op」は回路の直流動作点をシミュレーションします.「.step param A 60 120 1」は直流ゲインを表す変数Aを60dBから120dB間を1dBステップで変化させるという意味になります.
2.9990V以上にする直流ゲインは77.5dB以上になる.
●シミュレーションと計算を比較
図3のシミュレーション結果と机上計算を比較します.直流ゲインが60dBのときのOUTの電圧は2.9924V,80dBのときは2.9993V,100dBのときは2.9999V,120dBのときは3Vになります.この値は解答で求めた(a)~(d)の各々の直流ゲインの電圧と一致します.また,OUTの電圧が2.9990Vになる直流ゲインを調べると77.5dBであり,式7を使って求めた直流ゲインと一致します.OPアンプの直流ゲインにはバラツキがあるので,図1の回路例では「直流ゲインの最小値が77.5dB以上のOPアンプを選ぶ」という目安になります.
以上,解説したように,OPアンプの電気的特性にはバラツキがあるので,直流ゲインも個々のデバイスによって変わります.高精度な回路を設計するときは,OUTの電圧の目標値から必要な直流ゲインの最小値が分かるので,OPアンプを選ぶ目安になると思います.今回はOPアンプの直流ゲインでしたが,OPアンプのオープン・ループ・ゲインは周波数特性があり,周波数が高くなるとオープン・ループ・ゲインは低くなります.このときの非反転アンプのゲイン誤差については過去のメルマガ「負帰還回路で発生するゲインの誤差」がありますので,こちらも参考にしてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_020.zip
●データ・ファイル内容
linear regulator block diagram.asc:図1の回路
linear regulator block diagram.plt:図3のプロットを指定するファイル
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