精度の高いOPアンプを選択する方法




『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
使用するコマンド ― .OP/.STEP

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,OPアンプの直流ゲインが無限大のとき,OUTが直流3Vになるように設計した電圧レギュレータです.この回路は,直流ゲインが無限大から有限になると,OUTの電圧が3Vからわずかに低くなります.OUTの電圧の目標を2.9990V以上にしたとき,この目標を満足させるOPアンプの直流ゲインの最小値は(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 3Vを出力する電圧レギュレータ回路.
OPアンプの直流ゲインを変化したときのOUTの電圧を検討する.

(a)60dB (b)80dB (c)100dB (d)120dB


■ヒント

 図1は,OPアンプとR1,R2からなる非反転アンプでV1の直流電圧を増幅します.この非反転アンプのゲインをOPアンプの直流ゲインAとR1とR2の帰還率βで表わし,(a)~(d)の内,どのゲインで2.9990V以上になるかを検討すれば分かります.OPアンプの直流ゲインは,直流でのオープン・ループ・ゲインのことです.
 OPアンプの特性にはバラツキがあり,高精度な回路を設計する場合,条件を満たすOPアンプを選びます.そのような場合,今回のシミュレーションは選択の目安になります.

■解答


(b)80dB

 図1のV1からOUTまでの入出力特性を,OPアンプの直流ゲインAと帰還率βを用いて検討します.ここで,OPアンプの非反転端子の電圧をVIN+,反転端子の電圧をVIN-,OUTの電圧をVOUTとします. まず,OPアンプの反転端子の電圧VIN-は,OUTの電圧をR1とR2で抵抗分圧した電圧なので式1になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 OUTの電圧は,非反転端子と反転端子の電圧差をOPアンプの直流ゲインで増幅した電圧なので式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 帰還率βは,OUTからVIN-までの減衰率なので,R1とR2の分圧回路より式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式1を式2へ代入し,VOUTについて解くと式4になります.VIN+の電圧は,V1の電圧なので式4がV1からOUTまでの入出力特性になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 次に,式4の直流ゲインAに(a)~(d)のデシベルの直流ゲインを倍率にして代入し,VOUTの電圧を評価します.(a)の60dBは1000倍なので「R1=2kΩ,R2=3kΩ,VIN+=1.2V」より,式4は「VOUT=2.9925V」になります.同様に(b)の80dBは,10000倍なので「VOUT=2.9993V」,(c)の100dBは100000倍なので「VOUT=2.9999V」,(d)の120dBは1000000倍なので「VOUT=3V」になります.これより(a)~(d)のうち,目標のVOUT=2.9990V以上を満足するOPアンプの直流ゲインの最小値は,(b)の80dBになります.


■解説

●OPアンプの特性のバラツキに注意する
 OPアンプの電気的特性にはバラツキがあります.なので,データシートには最小値や最大値が記載されています.一方,OPアンプのマクロ・モデルには,おおよそデータシート中の標準値になるので,最小値や最大値になるときのシミュレーションは別途必要になります.
 ここでは,高精度な回路を作る場合に,目標とするOUTの電圧の最小値から,直流ゲインの最小値の目安を検討します.シミュレーションでは,OPアンプのマクロ・モデルのパラメータを変更するのは難しいので,ユニバーサルOPアンプを使って直流ゲインを変化させる方法を紹介します.

●必要な直流ゲインの詳細な机上計算
 問題では,4つの直流ゲインからOUTの電圧が2.9990V以上になるものを探しました.ここでは,より具体的にOUTの電圧が2.9990Vになる境の直流ゲインを机上計算します.この机上計算は後のシミュレーション結果と比較します.
 式4の(1+R2/R1)の項を式3のβで表すと「1+R2/R1=1/β」なので,書き直すと式5になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 式5より,OPアンプU1とR1,R2からなる非反転アンプのゲイン「G」を求めると式6になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 式6をAについて解きます.そしてOPアンプの直流ゲイン「A」,非反転アンプのゲイン「G」と帰還率「β」からなる関数の大小関係を表すと式7になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 図1の「VIN+=1.2V」で「VOUT=2.9990V」になる非反転アンプのゲインは「G=2.9990V/1.2V=2.49917」になります.帰還率βは式3へ「R1=2kΩ」と「R2=3kΩ」を入れて「β=0.4」になります.これを式7へ入れて机上計算すると,OUTの電圧が2.9990Vになる直流ゲインは「A=7528倍=77.5dB」となります.この計算からも,直流ゲインが77.5dB以上に近いのは,冒頭で検討した(b)80dBであることが分かります.

●ユニバーサルOPアンプで直流ゲインを変化させる
 OPアンプのマクロ・モデルの中身を変更するのは難しいことから,ユニバーサルOPアンプを使って直流ゲインを変化させます.直流ゲインを変えるには,ユニバーサルOPアンプのパラメータを変更します.具体的には,回路へ配置した「Universal Opamp2」のシンボル上で右クリックすると図2の「Component Attribute Editor」が開きます.Valueの列にはOPアンプの特性を表すパラメータが入っており,「Avol」が倍率で表した直流ゲインになります.図2では直流ゲインを「Avol={10**(A/20)}」で与えています.この意味は,波括弧{}で囲ったところがユーザ定義の変数になり,数式中の「**」はべき乗なので「Avol=10(A/20)」になります.このようにしてデシベルで表したAの変数を倍率に変換し,Avolのパラメータにしています.変数Aは「.step」を用いてスイープします.ユニバーサルOPアンプの「SpiceModel」は4種類あり,図1では実際のOPアンプに近い「level.3b」を用いました.
 ユニバーサルOPアンプの使い方については,過去のメルマガで「ユニバーサルOPアンプを使ったバッファ回路」がありますので,こちらを参考にしてください.


図2 Component Attribute Editor ユニバーサルOPアンプの直流ゲインを変数で与えている.

●直流ゲインによるOUTの電圧の変化
 図3は,図1のOPアンプの直流ゲインを変化させたときのOUTの電圧の変化をプロットしました.使用したドット・コマンドは「.op」と「.step」です.「.op」は回路の直流動作点をシミュレーションします.「.step param A 60 120 1」は直流ゲインを表す変数Aを60dBから120dB間を1dBステップで変化させるという意味になります.


図3 直流ゲインによるOUTの電圧の変化
2.9990V以上にする直流ゲインは77.5dB以上になる.

●シミュレーションと計算を比較
 図3のシミュレーション結果と机上計算を比較します.直流ゲインが60dBのときのOUTの電圧は2.9924V,80dBのときは2.9993V,100dBのときは2.9999V,120dBのときは3Vになります.この値は解答で求めた(a)~(d)の各々の直流ゲインの電圧と一致します.また,OUTの電圧が2.9990Vになる直流ゲインを調べると77.5dBであり,式7を使って求めた直流ゲインと一致します.OPアンプの直流ゲインにはバラツキがあるので,図1の回路例では「直流ゲインの最小値が77.5dB以上のOPアンプを選ぶ」という目安になります.
 以上,解説したように,OPアンプの電気的特性にはバラツキがあるので,直流ゲインも個々のデバイスによって変わります.高精度な回路を設計するときは,OUTの電圧の目標値から必要な直流ゲインの最小値が分かるので,OPアンプを選ぶ目安になると思います.今回はOPアンプの直流ゲインでしたが,OPアンプのオープン・ループ・ゲインは周波数特性があり,周波数が高くなるとオープン・ループ・ゲインは低くなります.このときの非反転アンプのゲイン誤差については過去のメルマガ「負帰還回路で発生するゲインの誤差」がありますので,こちらも参考にしてください.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_020.zip

●データ・ファイル内容
linear regulator block diagram.asc:図1の回路
linear regulator block diagram.plt:図3のプロットを指定するファイル

■LTspice関連リンク先


(01) LTspice ダウンロード先
(02) LTspice Users Club
(03) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(04) LTspice メール・マガジン全アーカイブs
(05) ◆LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(06) ◆LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
(07) ◆LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
(08) ◆IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(09) ◆オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(10) ◆LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



別冊CQ ham radio QEX Japan No.53

巻頭企画 ハムのArduino活用の勧め

CQ ham radio 2024年12月号

アマチュア無線(再)開局お役立ち情報

CQゼミシリーズ

藤原進之介監修 テスト形式で総まとめ 情報Ⅰ標準問題集

トランジスタ技術 2024年12月号

世界AI ChatGPT電子回路

Design Wave Advance シリーズ

Arm Cortex-M23/M33プロセッサ・システム開発ガイド

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ