クラップ発振回路
図1は,JFET(ジャンクションFET)によるドレイン接地増幅回路を使用したクラップ発振回路です.この回路の発振周波数を表す式として適切なのは(a)~(d)のどの式でしょうか.
JFETはドレイン接地増幅回路として動作している.
(a) (b)
(c) (d)
(a)の式 (b)の式 (c)の式 (d)の式
クラップ発振回路は,コルピッツ発振回路を改良したもので,ジェームズ・クラップ氏(James Kilton Clapp)によって開発されたものです.ラジオや無線通信機などの局部発振回路に使用され,周波数を可変する回路では,コルピッツ発振回路よりもクラップ発振回路のほうがよく使用されています.
クラップ発振回路はLC回路の並列共振周波数で発振します.図1のLC回路の並列共振周波数がどのように決まるかを考えれば答えが分かります.
図1のLC回路の並列共振周波数は,L1のインダクタンスとC1,C2,C3のコンデンサを直列接続した合成容量で決まります.コンデンサを直列接続したときの合成容量値は,それぞれの容量値の逆数を加算した値の逆数を取ることで計算することができます.容量値が3つのコンデンサを直列接続した値になっているのは(d)なので,正解は(d)ということになります.
●クラップ発振回路とコルピッツ発振回路の違い
図2(a)がコルピッツ発振回路で,図2(b)がクラップ発振回路です.クラップ発振回路はコルピッツ発振回路にコンデンサ(C3)を追加したものです.C3の容量値をC1,C2の容量値よりも十分小さい値とすることにより,発振周波数を主にL1とC3で決まるようにすることができます.そして,L1とC3の位置を入れ替え,C3をバリキャップ等で可変とすることで,発振周波数を簡単に変化させることができます.そのため,ラジオ受信機等,周波数を可変する必要がある回路では,コルピッツ発振回路よりもクラップ発振回路のほうがよく使用されます.
●クラップ発振回路の発振条件と発振周波数
図1のクラップ発振回路は,JETによるドレイン接地増幅回路を使用しています.図3は図1の回路の帰還ループを切断したものです.ドレイン接地増幅回路のG端子からOut端子までのゲインは0dBよりも小さく,-0.6dB程度になります(LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路 013 コルピッツ発振回路 参照).そのため,この回路が発振するためにはS端子からG端子までのゲインが0.6dB以上となっている必要があります.
Out端子とS端子を接続すると発振回路となる.
図4は,図3のS端子からG端子までのゲインをシミュレーションするための回路です.R2はドレイン接地増幅回路の出力抵抗にあたるものです.LC回路の並列共振周波数がどのようにして決まるかを分かりやすくするため,回路の書き方を変えてあります.素子の接続は,図3と同じになっています.
C3の位置を変えてあるが接続は図3と同じ.
図4を見ると,直列接続されたコンデンサ(C3,C1,C2)が,コイル(L1)と並列に接続されていることが分かります.3つのコンデンサを直列接続したときの容量をCとすると,Cは式1で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
図4のようにC3の容量値をC1,C2よりも十分小さく設定すると,Cの値は主にC3で決定されます.「C1=C2=500pF」,「C3=50pF」のとき,Cの値は式2のように41.7pFになります.
・・・・・・・(2)
しかし,C1,C2を600pFにしても式3のように42.9pFになるだけです.
・・・・・・・(3)
一方,C3を60pFとすると,式4のようにCの値は48.4pFに変化します.
・・・・・・・(4)
また,LC回路の並列共振周波はコイルのインダクタンス(L1)と並列容量値(C)で決まり,式5のように表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5に図4の定数を代入すると,式6のように共振周波数は1MHzになります.
・・・・・・・・・・・・・(6)
図5は,図4のシミュレーション結果です.P端子までのゲインが一番大きく,そのゲインが最大になる周波数は約1MHzとなっており,式3の計算結果と一致しています.また,S端子からG端子までのゲインは約1MHzで6dBとなっており,発振条件を満足しています.
ゲインが最大になる周波数は約1MHzとなっている.
●クラップ発振回路の発振シミュレーション
図6は,クラップ発振回路の発振をシミュレーションするための回路で,500μsecのトランジェント解析を行います.
500μsecのトランジェント解析を行う.
図7は,図6のクラップ発振回路のシミュレーション結果です.右側は時間軸を拡大したもので,発振波形の1周期が1μsecとなっており,発振周波数は1MHzで式6の結果と一致していることが分かります.
発振波形の1周期が1μsecとなっており,発振周波数は1MHz.
図8は,エデュケーショナル・フォルダにあるクラップ発振回路(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\Clapp.asc)です.ダイオードのD2はコイルの振幅を制限するためのものです.また,ソース抵抗の替わりに1mHのコイルが使用されています.この回路にはJETのゲート電位を決めるためのバイアス抵抗がありませんが,D2のリーク電流がバイアス抵抗の替わりをしています.
D2はコイルの振幅を制限とバイアス抵抗の役目.
図9は図8のシミュレーション結果です.OUT端子の発振振幅が2.1V程度に抑えられていることが分かります.
ここでは,JETを使用したクラップ発振回路を紹介しましたが,バイポーラ・トランジスタを使用したクラップ発振回路も広く使われています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_015.zip
●データ・ファイル内容
clap_LCgain.asc:図4回路
Clapp_OSC.asc:図6の回路
Clapp.asc:図8回路
Clapp.plt:図9グラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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