無安定マルチバイブレータ



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■問題
発振回路 ― 初級

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,無安定マルチバイブレータと呼ばれる発振回路です.この回路が発振動作をしているとき,X点の波形として正しいのは図2の(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 無安定マルチバイブレータ この回路は発振回路として動作する.


図2 無安定バイブレータが発振しているときの波形 X点の波形として正しいのは?

(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形


■ヒント

 無安定バイブレータが発振しているとき,OUT1とOUT2の波形は振幅5Vの矩形波になります.X点にはOUT2の出力がC2を介して加わります.さらに,X点にはトランジスタQ1のベースが接続されていることを考えると,答えがわかります.

■解答


(a)の波形

 X点には直接トランジスタQ1のベースが接続されているため,X点の電圧はトランジスタのベース・エミッタ間電圧である0.7Vよりも大きくなることはありません.そのため,(b)と(c)は間違いです.また,OUT2端子の矩形波の立下りで,X点の電圧は+0.7Vから5Vだけ下がり,その後,R4によって充電され,電圧が上昇していきます.そのような波形となっているのは(a)なので,正解は(a)の波形ということになります.

■解説

●無安定マルチバイブレータの動作
 無安定マルチバイブレータの動作を考えるとき,もっとも理解しにくいのが,図1のX点の波形かもしれません.そこで,図1の回路を変形した図3の回路を使用して,動作を解析してみます.
 図3の回路は,OUT2にパルス電源を接続したもので,Q1が存在するときと無いときで,Z点とX点の波形がどのように異なるかをシミュレーションします.V2は周期1.6msecで振幅5Vの矩形波を発生するよう設定してあります.


図3 トランジスタの有無による波形の違いを確認する回路
V2は周期1.6msecで振幅5Vの矩形波を出力する.

 図4は,図3のシミュレーション結果です.Z端子の電圧波形は,R4ZにコンデンサC2Zを介して信号を加えているため,電源電圧の5Vを中心に上下しています.


図4 図3のシミュレーション結果
X点の電圧はOUT2の電圧が5Vのとき,0.7Vで固定されている.

 一方,X点の電圧は,OUT2の電圧が5Vのとき,0.7Vで固定されています.これは,X点にトランジスタQ1のベースが直接接続されているため,ベース・エミッタ間のダイオード特性によって固定されるためです.このときQ1がONしており,図にはありませんが,OUT1端子の電圧は0Vになっています.OUT2端子の電圧が5Vから0Vに5V変化すると,X点も同じ5Vだけ電圧が下がります.これは,OUT2端子とX端子がコンデンサで接続されているためです.もとのX点の電圧は0.7Vだったため,5V下がって-4.3Vになります.その後X端子の電圧は上昇を始めますが,これはX端子と電源の間に接続された抵抗R4でC2が充電されるためです.そして,X端子の電圧が0.7Vに達すると,再びQ1のベース・エミッタ間のダイオード特性で固定され,同時にQ1がONします.
 図5は,図1の無安定マルチバイブレータのシミュレーション波形です.


図5 無安定マルチバイブレータのシミュレーション波形
OUT1とOUT2およびX点とY点は位相がずれた同じ波形.

 OUT1とOUT2,X点とY点は,それぞれ位相がずれていますが,同じ波形となっています.徐々に上昇してきたY点の電圧が0.7Vになると,Q2がONし,OUT2が急激に0Vになります.すると,X点の電圧が4.3Vまで下がり,次にX点の電圧は徐々上昇していきます.そしてX点の電圧が0.7Vになると,Q1がONし,OUT1端子が急激に0Vになります.すると,Y点の電圧が-4.3Vに下がり,次にY点の電圧が徐々に上昇していく,とうことを繰り返すことで,発振が継続することになります.

●無安定マルチバイブレータ回路の変形
 図6は,LTspiceのサンプル・ファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\astable.asc)の無安定マルチバイブレータです.図1との違いは,R3とR4の接続先が,電源端子から,トランジスタQ2,Q1のコレクタになっていることです.このように接続すると,それぞれのトランジスタのコレクタからベースに帰還がかかります.帰還をかけることで,Q1,Q2がONしたときに,それぞれトランジスタのコレクタ電圧は0Vにならないため,トランジスタは飽和モードに入りません.一般的にトランジスタを飽和モードで使用すると動作が遅くななりますので,図5の回路は,図1の回路よりも高い周波数で動作させることができる可能性があります.
 なお,R3の抵抗値が101kΩとなっており,R4とは微妙に異なっています.これは,回路シミュレータでは定数が同じ場合,X点とY点の電圧が全く同じ状態でバランスがとれてしまい,発振しないことがあるためです.Q1,Q2がアンプとして動作している領域では,図1よりも図5のほうが帰還がかかっている分だけゲインが小さくなっており,発振しにくくなっています.


図6 無安定マルチバイブレータの別の回路
R3とR4の接続先がトランジスタQ2,Q1のコレクタになっている.

 図7は,図6の回路のシミュレーション結果です.OUT2端子は一瞬0Vになりますが,その後は0Vよりも高い電圧になっています.


図7 図6の無安定マルチバイブレータのシミュレーション結果
OUT2端子の電圧は一瞬0Vになるが,その後は0Vよりも高い電圧となっている.

 図8は,R3を100kΩに変更してシミュレーションした結果ですが,発振開始までの時間が図7よりも長くかかっていることがわかります.


図8 R3をR4と同じ100kΩにしたときのシミュレーション結果
発振開始までの時間が図7よりも長い.

 以上,無安定マルチバイブレータに関して解説しました.無安定マルチバイブレータの発振周波数の計算の方法等は,「LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs:無安定マルチバイブレータの発振周波数はいくつ?」を参照してください.


■データ・ファイル


 解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_011.zip

●データ・ファイル内容
ASMB.asc:図1の回路
ASMB_1tr.asc:図3の回路
astable.asc:図6の回路
astable_100k.asc:図8をシミュレーションするための回路

■LTspice関連リンク先


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