無安定マルチバイブレータの発振周波数はいくつ?




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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,無安定マルチバイブレータを使用した発振回路です.抵抗R1とR4が10kΩ,抵抗R2とR3が360kΩで,コンデンサC1とC2が1μFです.出力は,Out端子から取り出しています.この無安定マルチバイブレータの発振周波数(f)として,もっとも適切なのは(A)~(D)のどれでしょうか.


図1 無安定マルチバイブレータを使用した発振回路
この回路の発振周波数は?

(A) f=1/(0.726*360k*1μ)=3.8Hz
(B) f=1/(2*0.726 *360k*1μ)=1.9Hz
(C) f=1/(0.726 *10k*1μ)=138Hz
(D) f=1/(2*0.726 *10k*1μ)=69Hz


■ヒント

 図1において,トランジスタのコレクタの発振波形は,ほぼ矩形波となっています.一方,ベースの波形は半波おきの鋸歯状波です.この鋸歯状波の周期を決めている部品が何かを考えれば,答えがわかります.

 マルチバイブレータとは,発振回路だけでなく,フリップフロップやタイマなど,色々な場面で使われる回路です.二つのトランジスタが,直接あるいはコンデンサを介して,たすき掛けに接続されています.発振回路によりLEDを点滅させることなどに利用される「無安定マルチバイブレータ」,タイマ回路などに利用される「単安定マルチバイブレータ」,フリップフロップなどに利用される「双安定マルチバイブレータ」の3種類があります.

■解答


(B)

 図1の回路のQ1,Q2は,交互にオン・オフを繰り返します.Q1がオフしている時間の長さは,抵抗R3とC2で決まり,その時間(T1)は「T1≒0.726*360k*1μ」となります.また,Q2がオフしている時間の長さは抵抗R2とC1で決まり,その時間(T2)は「T2≒0.726*360k*1μ」となります.発振の周期(T)は,T1とT2を足したものです.発振周波数(f)は,Tの逆数なので,「f=1/(2*0.726*360k*1μ)=1.9Hz」となります.つまり正解は,(B)ということになります.

■解説

●抵抗とコンデンサの過渡応答
 図1の回路の発振周波数を計算するために,まず,図2のような抵抗とコンデンサで構成された回路で,電圧をステップ状にEという電圧に変化させたときの応答を考えてみます.図2ではEは1Vとしています.


図2 抵抗とコンデンサで構成された回路
VINの初期値は0Vで1μsec後に1Vになる

 図2の回路のシミュレーション結果が図3です.入力電圧V(in)は0Vから1Vにステップ状に変化していますが,出力電圧V(out)はゆっくりと変化し,やがてV(in)と同じ電圧になります.この回路の出力電圧の時間変化の様子は式1で表すことができます.


図3 図2の回路のシミュレーション結果
出力が63.2%の電圧になる時間が時定数C*R

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式1でコンデンサと抵抗の値を掛け合わせたC*Rを時定数(τ)と呼びます.時間tがC*Rと等しいとき,出力電圧は「V(out)=E(1-exp(-1))=0.632*E」となり,最終電圧の63.2%の電圧になります.
 図2の定数では「τ=1μ*360k=0.36秒」です.ただし,図1の発振周期はτと違った値になります.図1の発振周期を計算するためには,最終電圧の50%程度の電圧になるまでの時間が重要になります.その時間を計算するため,まず,出力電圧が最終電圧の何割にあたるかという比率をkと置きます.kは式2で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2を変形すると,式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3の両辺の逆数を取り,さらに両辺の自然対数をとると式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4をtについて解くと式5が得られます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 式5に「K=0.5」を代入すると「t=ln(2)C*R=0.69C*R」となり,最終電圧の50%の電圧になるまでの時間は0.69C*Rで計算できることがわかります.

●無安定マルチバイブレータの発振メカニズム
 図4は,無安定マルチバイブレータのシミュレーション用の回路図です.


図4 無安定マルチバイブレータのシミュレーション用の回路図
シミュレーション結果から,回路動作を考える

 図5は,図4の回路のシミュレーション結果です.図5のシミュレーション結果を見ながら,動作のしくみと発振周波数を考えていきます.


図5 図4のシミュレーション結果
発振周波数は約1.9Hzになっている

 V(out)とV(o2)は0Vから5Vまで変化する矩形波で,互いに逆位相となっています.まず,Q1がオフしていてQ2がオンしている状態から考えます.その状態でQ1がオンすると,コンデンサC1を介してQ2のベース電圧(V(b2))を引き下げるため,Q2がオフします.引き下げられたV(b2)は,R2によってC1が充電されるため,徐々に上昇していきます.V(b2)が0.5V程度になるとQ2がオンします.Q2がオンすると,コンデンサC2を介してQ1のベース電圧(V(b1))を引き下げるため,今度はQ1がオフします.引き下げられたV(b1)は,R1によってC2が充電され,0.5V程度になるとQ1がオンします.これを繰り返すことで発振状態を継続します.

●無安定マルチバイブレータの発振周波数
 次に無安定マルチバイブレータの発振周波数がどのように決まるかを考えてみます.Q1がオンしている0.25sec~0.5secまでの期間は,V(b1)の電圧が0.7Vになっています.V(b2)が0.5Vになったとき,Q2がオンします.するとV(out)は,5Vから0Vまで一気に下がり,それに連動してV(b1)も0.7Vから-4.3Vまで一気に下がります.このときの電圧を式で表すと「V(b1)=0.7-VCC」となります.その後C2は,R3によって充電されるため-4.3Vから5Vに向かって徐々に上昇していきます.このときのV(b1)の時間的変化は,式1に従います.
 V(b1)の電圧が上昇し,0.5V程度になるとQ1がオンし,Q2がオフします.Q2がオフしてV(out)が上昇するとそれに連動してV(b1)の電圧も上昇しますが,トランジスタのベースに直結されているため,V(b1)の電圧は,0.7Vでクランプされることになります.
 ここで,Q1がオンするまでの時間(T1)は,C2が-4.3Vから0.5Vになるまでの時間です.式1のEに相当する電圧は,電源電圧をVCCとすると式6で計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 初期電圧は0.7-VCCです.これが,0.5Vになるまでの電圧の増加量ΔVは,式7になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 ΔVの最終電圧に対する比率(k)は,式8で計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 つまり,ΔVは最終電圧の51.6%に相当し,この電圧になるまでの時間がT1になります.そこで,式8を式5に代入し,式9が得られます.

・・・・・(9)

 同様にQ2がオンするまでの時間(T2)は,式10になります.

・・・・・(10)

 発振周期は,T1とT2を足したものなので「R3=R2=RB」,「C1=C2=C」とすると,発振周波数(f)は最終的に式11となります.

・・・・・(11)

 式11から図4および図1の回路の発振周波数は,1.9Hzとなることがわかります.図5のシミュレーション結果も発振周波数は,約1.9Hzとなっています.
 なお,式8で「k=0.516」と計算していますが,これを0.5と近似すると式11は,式12になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)

 無安定バイブレータの発振周波数の計算式としては,式12も広く使われています.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_025.zip

●データ・ファイル内容
RC.asc:図3の回路
ASMB.asc:図4の回路

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