シンプルなシリーズ・レギュレータ
図1は,2つのトランジスタ(Q1,Q2),ツェナー・ダイオード(D1),抵抗(R1,R2,R3,R4)で構成したシンプルなシリーズ・レギュレータです.IN端子に入力電圧(V1)を印加し,OUT端子から一定の電圧(VOUT)を出力します.OUT端子には負荷抵抗(RL)を接続しています.
図1の回路定数を,入力電圧(V1)を14V,トランジスタ(Q1)のベース・エミッタ電圧(VBE1)を0.42V,電流増幅率(hFE)を65,トランジスタ(Q2)のベース・エミッタ電圧(VBE2)を0.62V,ツェナー・ダイオード(D1)の電圧(VZ)を6.33Vとした場合,抵抗(R2)に流れる電流(IR2)が5mAに近いR2の抵抗値は,(a)~(d)のどれでしょうか.なお,トランジスタ(Q2)の電流増幅率は大きいため無視します.
トランジスタ,ツェナー・ダイオード,抵抗で構成.出力(OUT)には,負荷抵抗(RL)100Ωを接続している.
今回は,2つのトラジスタを使ったシンプルなシリーズ・レギュレータについて解説します.図1の回路で,ツェナー・ダイオード(D1)に流れる電流は,抵抗(R2)とトランジスタ(Q2)から供給します.回路の計算は,OUT端子の出力電圧を求め,抵抗(R2)の両端の電圧と図1で5mA流れる電流により求まります.
シリーズ・レギュレータは,負荷に対し直列にトラジスタ(Q1)が入り,一定の出力をOUT端子から出力します.今回は「LTspice電源&アナログ回路入門 033 ―― シリーズ・レギュレータの基礎」の続編となります.図1はツェナー・ダイオードを使用していますが,シャント・レギュレータに置き換えて,高精度にすることができます.
図1の回路定数より,回路内の電圧と電流を計算します.ここで説明のため,Q2のベースにラベル「REF」を与え,その電圧をVREFとします.まず,OUT端子の出力電圧(VOUT)は,REFの電圧(VREF)と2つの抵抗(R3,R4)の比で設定します.VREFは,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)とトランジスタ(Q2)のベース・エミッタ電圧(VBE2)の和ですので,式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
よって,OUT端子の出力電圧(VOUT)は式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
抵抗(R2)の両端の電圧は,OUT端子の電圧(VOUT)とツェナー・ダイオードの電圧(VZ)の差です.なので,5mAを流す抵抗(R2)は,式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
以上より,式3の抵抗値に近いのは,(a)の1.2kΩとなります.(a)の1.2kΩにしたとき,抵抗(R2)に流れる電流は,式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
●シリーズ・レギュレータの出力電圧調整は抵抗比
図1は,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)とトランジスタ(Q2)のベース・エミッタ電圧(VBE2)の和を基準に,R3とR4の抵抗比でOUT端子の出力電圧を調整できるシンプルなシリーズ・レギュレータです.
図1の回路動作について解説すると,OUT端子の出力電圧(VOUT)をR3とR4の抵抗で分圧した電圧をトランジスタ(Q2)のベースでサンプリングしています.出力電圧(VOUT)が低下すると,Q2のエミッタは,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)で一定ですので,トランジスタ(Q2)のベース・エミッタ電圧(VBE2)も低下します.よって,トランジスタ(Q1)のベース電流が増えて導通が増し,出力電圧(VOUT)を増加させます.
出力電圧(VOUT)が増加したときは,その逆の動作となり,一定の出力電圧となります.このような回路の動作により,出力電圧(VOUT)は式2となります.
ツェナー・ダイオードに流れる電流(ID1)は,抵抗(R2)とトランジスタ(Q2)から供給します.ツェナー電圧(VZ)は,流れる電流(ID1)に関係しますので,ここではその電流について詳しく計算します.まず,Q2側から流れる電流を計算するために,トランジスタ(Q1)のベース電圧(VB1)を求めると,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
抵抗(R1)に流れる電流(IR1)は,その両端の電圧と抵抗値より式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
トランジスタ(Q1)のベース電流(IB1)を求めるため,そのエミッタから流れ出す電流(IE1)を求めると,式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
よって,ベース電流(IB1)はおおよそ式8となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
トランジスタ(Q2)のコレクタ電流(IC2)は,キルヒホッフの電流則より,式9となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
よって,ツェナー・ダイオードに流れる電流(ID1)は式10となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
●シリーズ・レギュレータの電圧と電流をLTspiceで確認する
図2は,図1をシミュレーションする回路です.DC解析でV1を0V~20V間でスイープします.
図3は,図2のシミュレーション結果で,回路内の電圧と電流を上段と下段に分けてプロットしました.なお,ツェナー・ダイオードの電流は,電流の向きをカソードからアノードとするため,「-1」を乗じています.
電圧のプロットを見ると,REFの電圧(VREF)は,式1で計算した6.95Vです.また,OUT端子の電圧は,式2の12Vとなります.ツェナー・ダイオード(D1)の電流(ID1)は,式10で計算した5mAであることが確認できます.
図2のOUT端子の出力電圧温度特性を調べるため,解析を「.dc TEMP -25 125 1」へ変更し,温度を-25℃~125℃にスイープさせた結果が図4です.REFの電圧(VREF)の温度特性は,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)の温度特性とトランジスタ(Q2)のベース・エミッタ電圧(VBE2)の温度特性に関係し,負の温度係数であることが分かります.
温度を-25℃~125℃にスイープさせた.
●シャント・レギュレータを使って改善する
図1のツェナー・ダイオード(D1)とトランジスタ(Q2)は,図5に示すように,シャント・レギュレータで代替できます.
シャント・レギュレータのREFの電圧(VREF)は,入力電圧(V1)の変動に対し,図1より優れています.よって,シリーズ・レギュレータのライン・レギュレーションが改善できます.また,シャント・レギュレータは,温度補償しており,シリーズ・レギュレータの出力電圧(VOUT)も温度補償できます.
図5のシャント・レギュレータは,過去のメルマガ「LTspice電源&アナログ回路入門 031 ―― シャント・レギュレータの基準電圧」の回路を用いました.この回路は図6であり,「Toragi431」の名前でサブ・サーキットとし,図5のシャント・レギュレータのシンボルに対応しています.
図5のToragi431のREFの電圧(VREF)は,「VREF=2.323V」であり,OUT端子の出力電圧(VOUT)を12Vとするため,抵抗(R4)を1kΩとすれば,抵抗(R3)は式11となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
●シャント・レギュレータを使った回路をシミュレーションする
図7は,図5のV1を0V~20V間でスイープした結果です.式11で計算した抵抗(R3)の抵抗値で,OUT端子の電圧(VOUT)は12Vとなります.V1が14V~20V間の出力電圧の変動(ラインレギュレーション)は,図7の方が優れます.
回路内の電圧と電流をプロット.
図8は「.dc TEMP -25 125 1」へ変更し,OUT端子の出力電圧(VOUT)の温度特性です.シャント・レギュレータのREF端子は温度補償しており,出力電圧(VOUT)も同様に温度に対する出力電圧の変化は小さくなります.
出力電圧の温度変化は図4に比べ小さい.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_035.zip
●データ・ファイル内容
Simple_series regulator_1.asc:図2の回路
simple_series regulator_2.asc:図5の回路
Toragi431.asc:図6のサブ・サーキット
Toragi431.asy:図6のシンボル
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