いろいろなチャージ・ポンプ電源
図1の中のどれかは,単一の3V電源から±3Vの正負電源を作るための回路です.正負それぞれの電源には1kΩの負荷抵抗(RL1,RL2)が接続されています.そして,それぞれの回路で負電源を作り出すのは,スイッチ(SW1~SW4)とコンデンサ(C1,C2)で構成されたチャージ・ポンプ電源回路です.チャージ・ポンプ回路は,電圧が3Vの電池(V1)が接続されています.スイッチ(SW1~SW4)のオン抵抗は0.1Ωで,加えられたクロック信号がハイレベルのときにオンするように構成されています.また,加えるクロック信号は,図1下段のように,同時にハイレベルになることのない100kHzの2種類のパルス信号CK1とCK2です.図1の回路の中で,実際に正負電源となっているのは(A)~(D)のどれでしょうか.
実際に正負電源となっているのは回路1~回路4のどれ?
チャージ・ポンプ電源には,降圧電源,昇圧電源,反転電源の三種類があります.三種類の中で,負電源を作ることができるのは反転電源です.クロックがCK1のときとCK2のとき,スイッチがどのようにオンするかを踏まえて2つの等価回路を考え,そのとき,各コンデンサがどのように充電されるかを考えれば答えが分かります.
図1の回路の中で,反転チャージ・ポンプ電源となっているのは(C)の回路3です.CK1がハイレベルになるタイミングで,C1がV1と同じ電圧に充電され,CK2がハイレベルになるタイミングで,C1が逆極性となってC2を充電します.そのため,Veeが負電圧となり,Vccと合わせて正負電源となります.
●昇圧チャージ・ポンプ電源の動作
回路1は,昇圧チャージ・ポンプ電源となっています.したがって,Vee端子の電圧はV1の2倍の6Vになります.昇圧チャージ・ポンプ電源の動作の詳細は(LTspice電源&アナログ回路入門 024 ―― チャージ・ポンプ電源の入力電流)を参照してください.
●降圧チャージ・ポンプ電源の動作
図2は,降圧チャージ・ポンプ電源となっています.Vee端子の電圧はV1の半分の1.5Vになります.図2左は,クロック信号CK1がハイレベルのときの等価回路です.図2右は,CK2がハイレベルになったときの等価回路です.
左図のときC1とC2が直列接続となり右図のとき並列接続となる.
CK1がハイレベルのとき,C1とC2が直列接続となるため,C1とC2はそれぞれV1の半分の電圧に充電されます.クロックの周期をTとし,負荷抵抗(RL2)に流れる電流をIoutとすると,CK1がハイレベルの期間(T/2)にV1から供給される電荷(Q0)は式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
次にCK2がハイレベルになると,C1とC2は並列に接続され,C1とC2に蓄えられた電荷を使ってRL2に電流が供給されます.そのため,Vee端子の電圧はV1の半分になり,クロック1周期の間のV1の電流(Iin)は式2のようにIoutの半分になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
●反転チャージ・ポンプ電源の動作
図3は,反転チャージ・ポンプ電源です.Vee端子の電圧はV1と同じ電圧で極性の反転したものになります.図3左はクロック信号CK1がハイレベルのときの等価回路です.図3右は,CK2がハイレベルになったときの等価回路です.
左図でC1はV1と並列に接続され,右図でC1は逆さまにC2に接続される.
CK1がハイレベルのときC1はV1と同じ電圧に充電されます.このとき,C2がRL2に電流を供給しますが,CK1がハイレベルの期間(T/2)に放電する電荷(Q0)は式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
次にCK2がハイレベルになると,C1の上側がGNDに接続され,先ほどとは逆さまになった状態で,C2を充電します.そのため,Vee端子の電圧はV1と同じ電圧で極性の反転したものになります.CK2がハイレベルの期間にC1は, C2が放電した電荷(Q0)を補充し,さらにRL2に流れる電流のための電荷を供給します.このときC1が放電する電荷量は2Q0になります.そのため,クロック1周期の間のV1の電流(Iin)は式4のようにIoutと同じになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
●スイッチト・キャパシタ分圧回路の動作
図4は,スイッチト・キャパシタ分圧回路となっています.CK1がハイレベルのとき,C1はV1と並列接続され,CK2がハイレベルのときにC2と並列接続されます.
左図でC1はV1と並列に接続され,右図でC2と並列に接続される.
C1とSW1~SW4は等価的な抵抗として働きます.C1の容量値をCとし,クロック信号の周波数をfとすると,その抵抗値は式5で表され,図1の定数を代入すると10Ωになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
V1がRSCPとRL2で分圧されるため,出力電圧は式6で計算されますが,RSCPが小さいため,出力電圧(Vee)はほぼV1と同じ電圧になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
C1を1μFから0.01μFに変更するとRSCPは1kΩになり,出力電圧はV1の半分の電圧になります.
●降圧チャージ・ポンプ電源のシミュレーション
図5は,降圧チャージ・ポンプ電源のシミュレーション用の回路です.SW1~SW4はオン抵抗が0.1Ωの電圧制御スイッチです.
SW1~SW4はオン抵抗が0.1Ωの電圧制御スイッチ.
図6は,図5のシミュレーション結果です.出力電圧は入力電圧の半分の1.5Vとなっています.また,1kΩの負荷抵抗(RL2)に流れる出力電流は1.5mAで,V1に流れる平均電流は0.83mAと出力電流の約半分の値になっています.
出力電圧は入力電圧の半分の1.5VでV1の平均電流は0.83mAとなっている.
●反転チャージ・ポンプ電源のシミュレーション
図7は,反転チャージ・ポンプ電源のシミュレーション用の回路です.SW1~SW4は,オン抵抗が0.1Ωの電圧制御スイッチです.
図8は,図7のシミュレーション結果です.出力電圧は入力電圧と同じ電圧で逆極性の-3Vとなっています.この反転チャージ・ポンプ電源を使うことで,正負電源を構成することができることが分かります.また,1kΩの負荷抵抗(RL2)に流れる出力電流は3mAで,V1に流れる平均電流は3.68mAとなっています.
出力電圧は入力電圧と同じ電圧で逆極性の-3Vとなっている.
●スイッチト・キャパシタ分圧回路のシミュレーション
図9は,スイッチト・キャパシタ分圧回路のシミュレーション用の回路です.C1の容量値を「.stepコマンド」で0.01μFと1μFに変化させいます.
図10は,図9のシミュレーション結果です.出力電圧はC1が1μFのときは3Vとなっており,出力電圧はC1が1μFのとき3VでC1=0.01μFのときは1.5Vとなっています.
図11は,図9のC1を0.01μFとしたときの出力電流とV1の平均電流です.出力電圧が1.5Vとなっているため,RLに流れる電流は1.5mAで,V1の平均電流は1.56mAとなっています.図5の回路では出力電圧が同じ1.5Vのとき,V1に流れる平均電流は0.83mAと出力電流の約半分の値になっていましたが,図9の回路では出力電流とほぼ同じ値になります.
出力電流は1.5mAで,V1の平均電流は1.56mAとなっている.
最後に,回路1~回路4の特徴を表1に示します.回路4は電源としてはあまり使用されませんが,スイッチとコンデンサで抵抗と等価な働きをさせるという考え方は,スイッチト・キャパシタ・フィルタとして広く使用されています.
回路4の式でCはC1の容量値で,fはクロック信号の周波数.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_026.zip
●データ・ファイル内容
Step_down_CP.asc:図5の回路
Inverting_CP.asc:図7の回路
SW_Cap.asc:図9の回路
SW_Cap_0.01u.asc:図9のC1を0.01μFに変更した回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs