チャージ・ポンプ電源の入力電流




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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,スイッチ(SW1~SW4)とコンデンサ(C1,C2)で構成されたチャージ・ポンプ電源回路です.このチャージ・ポンプ回路には,電圧が3Vで内部抵抗1Ωの電池(V1)と,バイパス・コンデンサ(C3)が接続されています.また,チャージ・ポンプ回路の出力(Out)には1kΩの負荷抵抗(RL)が接続されています.スイッチ(SW1~SW4)のオン抵抗は0.1Ωで,加えられたクロック信号がハイレベルのときにONするように構成されています.また,加えるクロック信号は,図1下段のように,同時にハイレベルになることの無い,100kHzの2種類のパルス信号CK1とCK2です.このチャージ・ポンプ電源回路が定常状態にあるとき,電池(V1)が流す電流(I)の平均値は次の(A)~(D)のどれでしょう?


図1 スイッチとコンデンサで構成されたチャージ・ポンプ電源回路
電池(V1)が流す電流の平均値はいくつ?

(A)0.75mA (B)3mA (C)6mA (D)12mA

■ヒント

 まず,図1のチャージ・ポンプの回路構成が,降圧回路,昇圧回路,反転回路のどれであるかを考えます.次に,出力電圧が何ボルトになるかを考えます.出力電圧がわかれば,負荷抵抗(RL)に流れる電流が計算できます.RLに流れる電流がわかれば,電池(V1)が流す電流を計算することができます.

 チャージ・ポンプ電源とは,スイッチとコンデンサで構成された電源で,一般的なスイッチング電源と異なり,コイルを使用しないため,実装面積を小さくできるという特徴があります.回路構成の違いにより,降圧回路,昇圧回路,反転回路の三種類があり,比較的出力電流の小さな用途に使用されます.

■解答


(D)12mA

 図1のチャージ・ポンプ回路は,2倍の昇圧回路です.したがって,出力電圧は6Vとなり,負荷抵抗(RL)に流れる電流は6mAになります.2倍昇圧回路なので,電池(V1)が流す電流は,RLに流れる電流の2倍の12mAになります.したがって,正解は(D)の12mAということになります.

■解説

●昇圧チャージ・ポンプ電源の動作
 図1のチャージ・ポンプ電源は,SW1とSW4が同じタイミングでONし,SW2とSW3が同じタイミングでONします.図2が,SW1とSW4がONしたときの等価回路です.C1には,図で示した赤線のように電流が流れます.また,C1にはV1と同じ電圧が充電されます.負荷抵抗(RL)には,C2に充電された電圧が加わっており,RLに流れる電流はC2が供給します.


図2 SW1とSW2がONしているときの等価回路 C1はV1と同じ電圧に充電される.

 図3は,SW2とSW3がONしたときの等価回路です.V1とC1が直列に接続されることになります.C1はV1と同じ電圧が充電されています.なので,C2には,V1の2倍の電圧まで充電されることになります.つまり,Out端子の電圧は入力電圧(V1)の2倍に昇圧されることになります.


図3 SW2とSW3がONしているときの等価回路
V1とC1が直列に接続され,Out端子の電圧はV1の2倍に昇圧される.

●昇圧チャージ・ポンプ電源の出力電流と入力電流
 昇圧チャージ・ポンプ電源の負荷抵抗に流れる出力電流と電池から供給される入力電流の関係を,シミュレーション結果をもとに解説します.図4図1の回路をシミュレーションする回路です.SW1~SW4は,電圧制御スイッチで,オン抵抗が0.1Ωでスレッショルド電圧が1.5Vというモデル(MySW)を定義して使用しています.V2とV3はクロック信号用の100kHzで3Vのパルス電源です.


図4 昇圧チャージ・ポンプ電源のシミュレーション用の回路
SW1~SW4はオン抵抗が0.1Ωの電圧制御スイッチ.

 図5図6図4のシミュレーション結果です.シミュレーションの最後の20μsecだけを表示しています.図5の上段にチャージ・ポンプ電源の入力電圧V(In)と出力電圧V(Out)を表示しています.下段には出力電流I(RL)と,入力電流I(V1)を表示しています.電流の極性を合わせるため,入力電流は-I(V1)として極性を反転しています.図5において,出力電圧は入力電圧の2倍の6Vになっています.また,入力電流は出力電流(負荷抵抗に流れる電流)の2倍の12mAとなっていることが分かります.


図5 図4の出力電圧と入力電流のシミュレーション結果
出力電圧は入力電圧の2倍で,入力電流は出力電流の2倍になっている.

 図6は,V1とC3に流れる電流を加算したものと,C1の電流をプロットしたものです.V1とC3の電流を加算したものがチャージ・ポンプ電源の入力電流で,主に直流電流をV1が供給し,交流成分をC3が供給します.スイッチが切り替わった瞬間に,大きな電流が流れていることが分かります.
 図4の回路で定常状態で,C2はV1の2倍の電圧に充電されています.まず,T0の期間はSW1とSW4がONし,SW2とSW3はOFFしています.SW2がOFFしているため,負荷抵抗(RL)に流れる電流はC2が供給することになります.同時にC1が充電されています.負荷抵抗(RL)の電流をILとし,クロック信号の周期をTとするとすると,T0の期間にC2が放電する電荷量(Q0)は式1になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 T1の期間は,SW2とSW3がONするため,C1がV1と直列に接続されることになります.T0の期間に放電した電荷(Q0)を補うようにC2を充電します.また,T1の期間もRLには電流が流れており,この電流に必要な電荷もV1とC3およびC1が供給します.したがって,T1の期間にV1とC3が供給する電荷量およびC1の放電電荷量は2Q0となります.
 次にT2の期間は,SW1とSW4がONし,C1を充電します.このとき,充電される電荷量はT1の期間にC1が放電した電荷量2Q0と等しくなります.そのため,T2の期間にV1とC3が供給する電荷量も2Q0になります.つまり,クロック信号1周期(T1+T2)の間にV1とC3が供給する電荷量は「2Q0+2Q0=4Q0」となります.したがって,クロック信号1周期の間にV1とC3が供給する電流の平均値(Iin)は式2となり,ILの2倍になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2のように,2倍昇圧チャージ・ポンプ電源の入力電流は出力電流の2倍になります.


図6  図4の入力電流波形とC1の電流波形のシミュレーション結果
スイッチが切り替わった瞬間に,大きな電流が流れている.

 チャージ・ポンプ電源は,コイルを使用しないため,プリント基板の実装面積を小さくできるというメリットがあります.しかし,昇圧および降圧出力電圧は自由に設定できる訳ではなく,入力電圧の整数倍となってしまいます.そのため,一定の出力電圧が必要な場合は,シリーズレギュレータと組み合わせるなどの工夫が必要になります.市販されているチャージ・ポンプ電源ICの多くは,このような機能が含まれています.また,チャージ・ポンプ電源は,スイッチが切り替わったときに,非常に大きな電流が流れます.その電流が他の回路に影響を与えないよう,元となる電源のバイパス・コンデンサの配置等にも十分注意が必要です.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_024.zip

●データ・ファイル内容
C_P.asc:図4の回路

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