ベース接地増幅回路の出力波形はどれ?
図1は基本的なベース接地増幅回路です.トランジスタのコレクタ電流は260μAとなっています.この回路に入力信号として1kHzで10mVPPの正弦波信号を加え,入力波形と出力波形をプロットしました.図1の回路の入力波形と出力波形として正しいものは,図2の(A)~(D)のうちどれでしょうか.なお,図2の(A)~(D)は,それぞれ下段が入力波形,上段が出力波形となっています.
入力信号として1kHzで10mVPPの正弦波信号を加えている.
それぞれ,下段が入力信号で上段が出力信号の波形.
図2の波形の違いは,入力信号と出力信号が同位相か逆位相かという点と,出力振幅レベルです.出力振幅は,増幅回路のゲインによって変わります.ベース接地増幅回路のゲインは,コレクタ電流値と負荷抵抗値がわかれば計算することができます.
ベース接地増幅回路の出力は,入力信号と同位相になります.図2の(C)と(D)は,入力信号と出力信号が逆位相なので正解ではありません.なので,正解は(A)か(B)ということになります.次に図1のトランジスタのコレクタ電流は260μAとなっているので,ゲイン(G)は「G=1k*260u/26m=10」と計算することができます.ゲインが10倍なので,出力振幅は入力信号10mVPPの10倍の100mVPPとなります.出力振幅が100mVPPとなっているのは(B)ですので,正解は(B)ということになります.
●ベース接地増幅回路は入力抵抗が低い
ベース接地増幅回路は,エミッタ接地増幅回路と全く同じゲインが得られます.しかし,ベース接地増幅回路は,オーディオ・アンプなどの用途ではあまり使用されず,主に使われるのはエミッタ接地増幅回路となります.この理由として,ベース接地増幅回路は,エミッタ接地増幅回路に比べると入力抵抗が低いためです.入力抵抗が低い増幅回路は,信号源の出力抵抗が大きい場合に,入力部分で信号が減衰してしまい,希望するゲインが得られないため,オーディオ・アンプなどの用途には使いにくい面があります.
ベース接地増幅回路は,高い周波数を増幅する場合,エミッタ接地増幅回路よりも優れています.そのため,ベース接地増幅回路は主に高周波増幅回路に使用されます.高周波増幅回路では,一般的に信号源の出力抵抗が小さいため,入力抵抗の小さなベース接地増幅回路でも,使用することができます.
●ベース接地増幅回路のゲインを計算する
ベース接地増幅回路のゲイン(G)は,エミッタ接地増幅回路と同様に,トランジスタのgmと負荷抵抗RLから式1で計算することができます.エミッタ接地増幅回路については,「LTspiceアナログ電子回路入門 007 ―― 電流帰還型バイアス回路でゲインを100倍にする抵抗値は何Ω?」を参照してください.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
また,トランジスタのgmもエミッタ接地増幅回路と全く同じ式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1と式2をまとめるとゲイン(G)は式3になり,図1の定数を代入すると10倍になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
このようにベース接地増幅回路のゲインはエミッタ接地増幅回路と全く同じ式で計算できます.ただし,入力信号と出力信号の位相は異なります.
エミッタ接地増幅回路では,ベースに信号が入力されているため,ベース電圧が高くなればコレクタ電流が増え,コレクタ電圧が下がります.つまり,信号が正方向に増加したときは出力信号は負方向に増加するため,出力信号は入力信号と逆位相になります.
一方,ベース接地増幅回路は,ベース電圧が一定で,エミッタに信号が入力されています.エミッタ電圧が高くなるとコレクタ電流が減少し,コレクタ電圧は上がります.つまり,信号が正方向に増加したときは出力信号も正方向に増加することになり,出力信号は入力信号と同位相になります.
●ベース接地増幅回路とエミッタ接地増幅回路の出力波形を確認する
図3(左)が図1のベース接地増幅回路の出力波形をシミュレーションするための回路です.比較のため図3(右)に,同じ定数のエミッタ接地増幅回路も用意しました.
図3(右) エミッタ接地増幅回路の出力波形シミュレーション用回路
図4が図3のシミュレーション結果です.ベース接地増幅回路の出力波形は,入力信号と同じ位相になっています.また,出力振幅は,入力信号の10倍の100mVPPとなっており,ゲインも式3で計算した結果と一致していることが分かります.なお,比較用に同時にシミュレーションしたエミッタ接地増幅回路の出力波形は,入力信号とは逆位相となっていることが分かります.エミッタ増幅回路のゲインも10倍となっています.
ベース接地増幅回路の出力波形は入力信号と同じ位相になっている.
●ベース接地増幅回路とエミッタ接地増幅回路の入力抵抗を算出する
図1のベース接地増幅回路の入力抵抗(ZCB)は,コンデンサC1のインピーダンスが十分低く無視できるものとすると,エミッタから見たトランジスタの内部入力抵抗(re)とR3の並列接続抵抗となり,式4で表されます.
・・・・・・・・・・・・・(4)
式4から,図1の入力抵抗は94Ωとかなり低い値になることが分かります.参考までに,図3(右)に比較用に示したエミッタ接地増幅回路の入力抵抗(ZCE)も計算してみます.図3(右)のエミッタ接地増幅回路の入力抵抗はR1_CEとR2_CEとベースから見たトランジスタの内部入力抵抗の三つの並列接続抵抗で,式5で表されます.
・・・・(5)
hfeを200として計算すると入力抵抗は5.7kΩとなり,ベース接地増幅回路に比べかなり大きいことが分かります.
●ベース接地増幅回路とエミッタ接地増幅回路の入力インピーダンスを確認する
図5(左)はベース接地増幅回路,図5(右)はエミッタ接地増幅回路の入力インピーダンスをシミュレーションするための回路です.コンデンサなどを含む回路は,周波数によって特性が異なるため,一般的には入力抵抗ではなく,入力インピーダンスという言い方をします.図5ではゲインをシミュレーションするときと同様にAC解析を行います.
ゲインをシミュレーションする時と同様にAC解析を行う.
図6が図5のシミュレーション結果です.入力インピーダンスは,信号源の電圧を,信号源から流れ出す電流で割ることで求めることができます.「V(in)/I(Vin)」でベース接地増幅回路の入力インピーダンスを表示しています.同様に,「V(in_ce)/I(Vin_CE)」でエミッタ接地増幅回路の入力インピーダンスを表示しています.
ベース接地増幅回路の1kHzでの入力インピーダンスは式4で計算した値と同じ94Ωとなっています.また,エミッタ接地増幅回路の入力インピーダンスは5.75kΩとなっており,式5の計算結果と一致しています.
ベース接地増幅回路の入力インピーダンスは94Ωとなっている.
このように,計算式やシミュレーションから,ベース接地増幅回路の入力抵抗(インピーダンス)は,エミッタ接地増幅回路に比べるとかなり小さいことが分かりました.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_013.zip
●データ・ファイル内容
CB_and_CE_amp:図3の回路
CB_and_CE_amp_Z.asc:図5の回路
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