V/Fコンバータで作る積算電流計
図1は,電流電圧変換回路とV/Fコンバータ,カウンタで構成した積算電流計です.電流電圧変換回路は,電流源(IL)の電流を抵抗(RS)で電圧に変換し,OPアンプ(U3:ADA4528-1 )(1)による非反転増幅回路で増幅してVF点に出力します.
V/Fコンバータは,OPアンプ(U1,U2:AD8602)(2)とMOSFET(M1)を使用した発振回路です.VF点の電圧に比例した周波数の信号を,F点に出力します.そして,F点の信号をカウンタでカウントすることで,積算電流量に比例したカウント値が得られます.
この回路で,ILの電流を1Aの直流電流とした場合,カウンタのリセット後,1時間経過したときのカウント値は,いくつになるでしょう.(a)~(d)の中から,1番近いものを選択してください.

ILの電流を1Aの直流電流とした場合,カウンタのリセット後,1時間経過したカウント値は?
(a) 1万 (b) 5万 (c) 10万 (d) 50万

積算電流計は,流れた電流を時間で積算し,その総量を計測する測定器です.また,V/Fコンバータ(Voltage-to-Frequency Converter)は,入力電圧を,その電圧に比例した周波数のパルス信号に変換する回路です.
図1のV/FコンバータのVF端子の電圧(VF)と発振周波数(f)の関係は,式1で表せます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
電流電圧変換回路のゲインが分かれば,式1を使用して,カウント値は簡単に計算できます.
図1の電流電圧変換回路に使用している非反転増幅回路のゲインは,「(R9+R10)/R10=(99k+1k)/1k=100」となります.ILが1Aのとき,抵抗(RS)に発生する電圧は,「1A*10mΩ=10mV」です.そのため,ILが1AのときのVF端子の電圧は「10mV*100=1V」となります.
式1を使用して,ILが1Aのときの発振周波数を計算すると,式2のように,27.8Hzになります.
・・・・・・・・・・(2)
27.8Hzの信号を1時間(60*60=3,600秒)カウントすると,カウント数は,「27.8*3,600=100,080」となります.そのため,正解は「(c) 10万」になります.
●積算電流計とは
積算電流計は,流れた電流を時間で積算し,その総量を計測する測定器です.「電流×時間」を計測するもので,1Aの電流が1時間流れた場合は,積算電流量は「1Ah」になります.バッテリの能力を表す指標として,そのバッテリからどのくらいの電流を取り出すことができるかを測定する放電試験などに,使用されています.
●V/Fコンバータとは
V/Fコンバータは,入力電圧を,その電圧に比例した周波数のパルス信号に変換する回路です.次のような用途に使用することができます.
▼長距離信号伝送
アナログ信号を長距離伝送する場合,V/Fコンバータを使用して,アナログ電圧を周波数に変換して送ることで,ノイズの影響を受けにくくなります.
▼簡易AD変換
パルス数をマイコンなどで一定時間カウントすることで,アナログ電圧をデジタル値に変換する,A-Dコンバータとして使用できます.
▼センサ出力の積算
パルス数をカウンタでカウントすることで,電流や電力などの積算値を簡単に求めることができます.
●V/Fコンバータ回路
図2は,図1で使用しているV/Fコンバータ回路です.ヒステリシス・コンパレータとVF点の電圧を積分する,積分回路を組み合わせて,発振回路を構成しています.

ヒステリシス・コンパレータと積分回路を組み合わせて,発振回路を構成している.
この発振回路の,VF点の電圧と発振周波数の関係式を求めます.
●ヒステリシス・コンパレータのヒステリシス幅
まず,ヒステリシス・コンパレータのヒステリシス幅を計算します.図2のヒステリシス・コンパレータは,S点の電圧が,A点の電圧よりも大きいか,小さいかを判定します.そして,A点の電圧はF端子の電圧によって,2通りの値に変化しますが,その電圧変化量がヒステリシス幅になります.なお,ここで使用しているOPアンプは,出力がGNDからVCCまでフルスイングできる,レール・ツー・レール出力タイプとします.
F端子がGNDレベルとなっているときのA点の電圧(VA1)は式3のように1Vとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
また,F端子がVCCレベルとなっているときのA点の電圧(VA2)は式4のように4Vとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
ここで「R2=R3」とすると,ヒステリシス幅(VHW)は,式5を使用して3Vと計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
●F端子がハイ・レベルの時の積分回路の動作
図3は,図2の積分回路部分を取り出した回路です.図2のMOSFET(M1)はスイッチとして動作しており,F端子がハイ・レベルのときにONします.図3はM1がONした状態になっています.

C1に左向きの電流が流れ,S点の電圧は上昇していく.
図3において「R6=R5」とすると,B点の電圧(VB)はVF点の電圧(VF)の1/2になります.また,OPアンプが正常に動作している場合,プラス入力端子とマイナス入力端子の電圧は等しくなるため,C点の電圧(VC)は式6のようにB点の電圧と等しくなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)このとき,抵抗(R4)に流れる電流(IR4)は,式7で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)また,抵抗(R7)に流れる電流(IR7)は,式8で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)ここで「R7=R4/2」とすると,IR4よりもIR7のほうが大きくなります.そのため,C1の電流(IC1H)は左向きに流れ,その電流値は式9で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)その結果,S点の電圧は,VFに比例した傾きで上昇していくことになります.そして,S点の電圧が式4のVA2よりも大きくなると,ヒステリシス・コンパレータが反転し,F端子はロー・レベルとなります.
●F端子がロー・レベルの時の積分回路の動作
図4は,図3の逆で,F端子がロー・レベルとなり,M1がOFFした状態の積分回路です.

C1に右向きの電流が流れ,S点の電圧は下降していく.
M1がOFFしているため,R7には電流が流れません.そのため,C1に流れる電流(IC1L)は右向きとなり,その大きさは式10のようにIR4と等しくなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)その結果,図3とは逆に,S端子の電圧は下降していきます.そして,S点の電圧が式3のVA1よりも小さくなると,ヒステリシス・コンパレータが反転し,F端子はハイ・レベルとなります.
●V/Fコンバータ回路の発振周波数の計算と検証
図5は,図2のV/Fコンバータをシミュレーションする回路です.VF端子の電圧は1Vとなっています.この回路のシミュレーション結果を使用して,発振周波数の計算を行います.

この回路のシミュレーション結果を使用して発振周波数の計算を行う.
図6は,図5のシミュレーション結果です.F端子とS端子の電圧を表示しています.VA1の値は1Vで,VA2の値は4Vとなっており,式3と式4の計算結果と一致しています.

VA1の値は1Vで,VA2の値は4Vとなっており,式3と式4の計算結果と一致している.
F端子の電圧が5Vのときは,S端子の電圧が上昇していきます.そして,ヒステリシス・コンパレータのスレッショルド電圧のVA2に達するとF端子がGNDレベルになります.すると,S端子の電圧は下降していき,もうひとつのスレッショルド電圧のVA1に達すると,F端子の電圧は再び5Vになります.この動作を繰り返すことで,発振が継続します.F端子が5Vとなっている時間をT1,また,GNDとなっている時間をT2とすると,発振周波数(f)は式11で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)T1は,S端子がVA1~VA2まで変化する時間で,ヒステリシス幅のVHWと式9を使用して,式12のように表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)同様に,T2はS端子がVA2~VA1まで変化する時間で,VHWと式10を使用して計算すると,式13のように式12と同じ式になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)式11に式12,式13を代入すると,式14が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)さらに,式14に式5を代入すると,式15が得られます.これが,図2の回路の発振周波数を表す式になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)VFを1Vとし,図2の定数を代入すると,発振周波数は式16のように,27.8Hzとなります.
・・・・・・・・・(16)図6のシミュレーション結果の発振周期「T1+T2=35.9ms」から周波数を計算すると,27.8Hzとなり,式16の計算結果と一致しています.
●電流電圧変換回路とV/Fコンバータの検証
図7は,図1の電流電圧変換回路とV/Fコンバータをシミュレーションする回路です.図5の回路に,電流電圧変換回路が追加されています.

「.step」コマンドで,ILの値を0A~5Aまで0.5Aステップで変化させる.
U3は,非反転増幅回路を構成しており,RSに発生する電圧を増幅して,VF端子に出力します.VF端子の電圧(VF) と入力電流(IL)の関係 は式17で表せます.
・・・・・・・・・・・・・・・(17)式17より,ILが1Aのとき,VFは,1Vとなることが分かります.式15に式17を代入すると,式18のように,ILと発振周波数を表す式が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・(18)図7の回路では,ILと発振周波数の関係を確認するため「.step」コマンドで,ILの値を0A~5Aまで0.5Aステップで変化させたトランジェント解析を行い,「.meas」 コマンドで発振周波数を計算します.
図8は,図7のシミュレーション結果です.ILの値を変えた11回分のシミュレーション結果が重ね描きされています.

ILの値を変えた11回分のシミュレーション結果が重ね描きされてる.
次に,入力電流(IL)と発振周波数の関係をグラフにします.「.meas」の計算結果は[Output Log]に記録されています.「Ctrl+L」キーを押して[Output Log]を表示し,その[Output Log]の中で右クリックして,[Plot .step'ed .meas data]を選択します.
そして表示されたウインドウで右クリックして,[Add Trace]コマンドを選択し,表示された画面で[f]を選択して,OKボタンを押します.すると,図9のように,横軸が入力電流(IL)で縦軸が発振周波数(f)のグラフが表示されます.

ILが0A~5Aまで変化すると,発振周波数は0Hz~138Hzまで変化している.
ILが0A~5Aまで変化すると,発振周波数は0Hz~138Hzまで変化していることが分かります.このように,F端子には,ILに比例した周波数の信号が出力されます.そのため,F端子の信号をカウントすることで,電流量が計測できます.
図9のグラフより,ILが1Aのときの発振周波数は27.8Hzになることが分かります.この信号を1時間(60*60=3,600秒)カウントすると,カウント数は「27.8*3,600=100,080」となります.つまり,図7の回路を使用した積算電流計は,100,080カウントが,1Ahに相当することになります.
以上,V/Fコンバータを使用した積算電流計について解説しました.図1で使用しているV/Fコンバータは,発振周波数を高く設定すると,コンパレータの応答時間が誤差となり,発振周波数が計算式よりも低くなることに注意が必要です.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4528-1 データシート:アナログ・デバイセズ
(2) AD8602 データシート:アナログ・デバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_044.zip
●データ・ファイル内容
VFC_1V.asc:図5の回路
VFC_1V.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
IV_VFC.asc:図7の回路
IV_VFC.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
■LTspice関連リンク先
● LTspice ダウンロード先
● LTspice Users Club
● LTspice メール・マガジン全アーカイブs
◆ Season01 LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
◆ Season02 LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
◆ Season03 LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
◆ Season04 IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
◆ Season05 オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
◆ Season06 LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs
◆ Season07 LTspiceドット・コマンドから学ぶアナログ回路アーカイブs
◆ Season08 LTspiceで始める実用電子回路入門アーカイブs
◆ Season09 LTspiceで学ぶオーディオ回路入門アーカイブs
◆ Season10 LTspiceとデータシートで学ぶ実践アナログ回路入門アーカイブs
◆ Season11 LTspiceとデータシートで学ぶ実践アナログ回路アーカイブs









