ウィーン・ブリッジ発振回路で作る正弦波発生器




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■問題
【 発振回路 信号発生回路 ADA4665 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,OPアンプ(U1:ADA4665)(1)と抵抗(R1~R5),コンデンサ(C1~C2),ボリューム(VR1~VR2)で構成された,ウィーン・ブリッジ発振回路(2)を使用した,正弦波信号発生器です.100kΩ(Aカーブ)の2連ボリューム(VR)を使用して,出力信号の周波数を可変することができます.この信号発生器が出力する,信号の周波数範囲として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.

図1 ウィーン・ブリッジ発振回路を使用した,正弦波信号発生器
この信号発生器が出力する,信号の周波数範囲は?

(a)10Hz~10kHz (b)20Hz~20kHz (c)50Hz~20kHz (d)100Hz~20kHz

■ヒント

 ウィーン・ブリッジ発振回路は,マックス・ヴィーン(Max Wien)氏がインピーダンス測定のために考案した「ウィーン・ブリッジ回路」注1と「増幅回路」注2を組み合わせた発振回路です.図1のOUT端子の信号は,「R1+VR1」とC1の直列回路および,「R2+VR2」とC2の並列回路で分圧され,非反転増幅回路に入力されます.その分圧回路は,バンドパス・フィルタとして動作します.そして,バンドパス・フィルタの中心周波数で発振します.

注1:ウィーン・ブリッジ回路は,抵抗(R1~R2)とコンデンサ(C1~C2),ボリューム(VR1~VR2)で構成.
注2:増幅回路は,OPアンプ(U1)と抵抗(R3~R5)で構成.

■解答


(d)100Hz~20kHz

「R1+VR1」とC1の直列回路および,「R2+VR2」とC2の並列回路で構成された分圧回路は,バンドパスフィルタとして動作します.そして「R1+VR1」=「R2+VR2」また,C1=C2となっている場合,その中心周波数(f)は次式となり,これが発振周波数になります.
  f=1/(2π(R1+VR1)C1)
 VRの摺動子が左端のときは「VR1=0Ω」となるため,発振周波数(f1)は,次式のように20.8kHzになります.
  f1=1/(2π・510・15n)=20.8k
 また,VRの摺動子が右端のときは「VR1=100kΩ」となるため,発振周波数(f2)は,次式のように105Hzになります.
  f2=1/(2π・(510+100k)・15n)=105
 そのため,正解は「(d)100Hz~20kHz」となります.

■解説

●ウィーン・ブリッジ発振回路とは
 ウィーン・ブリッジ発振回路は,Hewlett-Packard社を設立した,William R. Hewlett氏が実用化した発振回路です.その発振回路は,前述のドイツの物理学者マックス・ヴィーン氏 が,交流回路のインピーダンスを測定するために考案した,ウィーン・ブリッジ回路に,増幅回路と電球による自動利得制御機構を組み合わせたものでした.
 現在では電球ではなく,FETやダイオードを利得制御に使用することで,比較的少ない部品点数で,正弦波を出力できる発振回路として広く使用されています.

●ウィーン・ブリッジ発振回路のブロック図
 図2は,ウィーン・ブリッジ発振回路のブロック図です.ゲインがG倍の増幅回路の出力を,バンドパス・フィルタを介して,増幅回路の入力に帰還しています.


図2 ウィーン・ブリッジ発振回路のブロック図

 このバンドパス・フィルタの中心周波数でのゲインはβで,位相が0°になっているものとします.ここで,βとGを掛けたものが1以上になっていると,ノイズなどの発振のきっかけとなる信号が,ループを巡回するたびに大きくなり,発振状態となります.つまり,この回路の発振条件は,式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

●ウィーン・ブリッジ発振回路の発振条件
 図3は基本的なウィーン・ブリッジ発振回路です.この回路を使用して,ウィーン・ブリッジ発振回路が発振する条件を考えます.


図3 基本的なウィーン・ブリッジ発振回路

 図3の回路において,OPアンプ(U1)は,A点の電圧を増幅する,非反転増幅回路として動作します.その非反転増幅回路のゲイン(G)は,式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 そして,A点の電圧は,OUT端子の電圧(VOUT)を,R1とC1の直列回路および,R2とC2の並列回路で分圧したものです.その分圧比をβ(s)とすると,A点の電圧(VA)は,式3で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 図3の回路において「R1=R2=R,C1=C2=C」とすると,β(s)は式4のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 ここで「s=jω」とし,さらに「ω=1/CR」とすると,式4は式5のように変形できます.

・・・・・・・・(5)

 式5より,図3の分圧回路は,「ω=1/CR」のときに,ゲインが1/3となり,位相も0°となることが分かります.また,「ω>1/CR」や「ω<1/CR」の場合は,β(jω)の絶対値が1/3よりも小さくなるため,「ω=1/CR」を中心とするバンドパス特性となります.ここで,「ω=2πf」であることから,中心周波数(f)は,式6で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 図3の回路の発振条件は,「G・β(s)>1」です.式5より,「f=1/(2πCR)」のときのβ(s)は1/3となります.このとき,Gが3以上であれば,中心周波数(f)で発振することになります.そのため,式7が成立するように定数設定をすることになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

●分圧回路の周波数特性を検証する
 図4は,図3の分圧回路の周波数特性をシミュレーションする回路です.


図4 分圧回路の周波数特性をシミュレーションする回路
中心周波数は式8の1.06kHzに設定している.

 中心周波数(f)は,式8のように1.06kHzに設定しています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 図5は,図4のシミュレーション結果で,A点のゲインを表示しています.ゲインは1.06kHzで最大となっており,式8の結果と一致しています.また,そのときのゲインは,-9.56dB(0.333倍)で,位相は0°となっており,式5の結果と同じになっています.


図5 分圧回路の周波数特性のシミュレーション結果
中心周波数は1.06kHzで,そのときのゲインは-9.56dB(0.333倍)となっている.


●ウィーン・ブリッジ発振回路の発振条件を検証する
 図6は,ウィーン・ブリッジ発振回路をシミュレーションする回路です.


図6 ウィーン・ブリッジ発振回路をシミュレーションする回路
抵抗(R4)の値を変えてゲインを変化させ,発振するかどうかを確認する.

 「.step」コマンドで,抵抗(R4)の値を19.9kΩ,20.1kΩ,20.6kΩに変化させ,非反転増幅回路のゲインを変えて,発振するかどうかを確認します.R4の値が19.9kΩのときのゲイン(G1)は式9のように2.99となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 R4の値を20.1kΩとしたときのゲイン(G2)は式10のように3.01となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

 R4の値を20.6kΩとしたときのゲイン(G3)は,式11のように3.06となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

 図7は,図6のシミュレーション結果です.「G=2.99」のときは発振せず,「G=3.01」では発振していることが分かります.また,「G=3.06」とすると,発振振幅が増大する時間が短くなっています.


図7 図6のシミュレーション結果
G=2.99のときは発振せず,G=3.01では発振している

 図8は,図7の時間軸を拡大した「G=3.06」のときの出力波形です.


図8 図7の時間軸を拡大した,ウィーン・ブリッジ発振回路のシミュレーション結果
出力は±5Vでクリップしており,ひずんだ波形となっている.

 出力信号は,OPアンプの電源電圧である±5Vでクリップしており,ひずんだ波形となっています.ウィーン・ブリッジ発振回路を確実に発振させるためには,増幅回路のゲインを3以上とする必要があります.ただし,ゲインが大きすぎると,発振波形がひずみます.そのため,ウィーン・ブリッジ発振回路で正弦波を出力するためには,増幅回路の利得を制御する機構が必要になります.

●ダイオードによる利得制御機構を追加
 図9は,ダイオード(D1,D2)による利得制御機構を追加した,ウィーン・ブリッジ発振回路です.

図9 ダイオードによる利得制御機構を追加した,ウィーン・ブリッジ発振回路

 D1は,出力電圧が正のときに動作し,D2は出力電圧が負のときに動作します.出力振幅が小さいとき,D1,D2は動作しません.そのため,非反転増幅回路のゲインは,式12のように3.06となり,発振がスタートします.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)

 出力振幅が大きくなっていき,R5の両端電圧がダイオードの順方向電圧を越えると,D1,D2が導通します.すると,非反転増幅回路のゲインが小さくなり,ゲインが3となるような振幅で一定となります.一定となる発振出力ピーク電圧(VP)は,ダイオードの電流(iD)を10μAとし,そのときの順方向電圧(VF)を0.4Vとすると,式13のように約2.4Vとなります.

・・・・(13)

 図10は,図9のシミュレーション結果です.発振出力のピーク電圧は2.47Vとなっており,式13の結果とほぼ一致しています.


図10 ダイオードを追加した,ウィーン・ブリッジ発振回路のシミュレーション結果
発振出力のピーク電圧は2.47Vとなっており,式13の結果とほぼ一致.

 図11は,図10の時間軸を拡大したものです.出力波形はクリップしておらず,きれいな正弦波となっています.


図11 図10の時間軸を拡大したシミュレーション結果
出力波形はクリップしておらず,きれいな正弦波となっている.

●正弦波信号発生器の発振周波数可変幅を検証
 図12は,正弦波信号発生器の発振周波数可変幅をシミュレーションする回路で,図1と同じ回路です.

図12 正弦波信号発生器の発振周波数可変幅をシミュレーションする回路

 2連ボリューム(VR)は「VR1a,VR1b」と「VR2a,VR2b」という4本の抵抗に置き換えています.そして,VRの抵抗値を変数とし,摺動子の位置を表す変数「k」を使ってAカーブ特性の抵抗値を計算し,その値を代入します.
 図1のVRの摺動子が左端のときが「k=0」となり,そのときの発振周波数(f1)は式14のように,20.8kHzとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)

 VRの摺動子が右端のときは「k=1」となり,そのときの発振周波数(f2)は式15のように,105Hzとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)

 「.step」コマンドでkの値を0から1まで0.2ステップで変化させ,この正弦波信号発生器の出力周波数範囲を調べます.また,「.MEAS」コマンドを使用して発振波形の周期を測定し,発振周波数を計算して,fという変数に格納します.
 図13は,図12のシミュレーション結果です.kの値を変えた,6回のシミュレーション結果が重ね描きされています.


図13 正弦波信号発生器のシミュレーション結果

 次に,「.MEAS」コマンドで計算した発振周波数を確認するため「Ctrl+L」キーを押して[SPICE Output LOG]を開きます.発振周波数(f)は[SPICE Output LOG]の末尾に,図14のように書かれています.


図14 [SPICE Output LOG]に書かれた発振周波数(f)

 この結果から,発振周波数は19318Hzから105Hzまで変化していることが分かります.これは,式14,式15の計算結果に近い値となっています.
 次に,この計算結果をグラフとして表示します.まず,「SPICE Output LOG」の画面で右クリックし,表示されたメニューから[Plot .step'ed .meas data.]を選択します.
 次に表示されたグラフ・ウインドウで,右クリックし,表示されたメニューから[Add Traces]を選択します.そして表示候補の中から[f]を選択します.図15がこのようにして表示した発振周波数のグラフです.


図15 摺動子の位置と発振周波数のグラフ
発振周波数は,摺動子の位置に対してほぼ直線的に変化していることが分かる.

 横軸が摺動子の位置に相当するkの値で,縦軸が対数目盛とした発振周波数です.発振周波数は,摺動子の位置に対してほぼ直線的に変化していることが分かります.

 以上,ウィーン・ブリッジ発振回路を使用した正弦波信号発生器について解説しました.発振振幅を安定化する方法として,今回は,ダイオードによる利得制御を紹介しましたが,「FETを使用した自動利得制御回路」を使用する方法もあります(3).

◆参考・引用*文献
(1) ADA4665データシート:アナログ・デバイセズ
(2) ウィーン・ブリッジ発振器の解析と構築【Part 1】背景と理論:アナログ・デバイセズ
(3) ひずみが少ない正弦波発振回路:CQ出版社


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_042.zip

●データ・ファイル内容
Wien_CR.asc:図4の回路
Wien_CR.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Wien_OSC_B.asc:図6の回路
Wien_OSC_B.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Wien_OSC.asc:図10の回路
Wien_OSC.plt:図11のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Wien_OSC_step.asc:図12の回路
Wien_OSC_step.plt:図13のグラフを描画するためのPlot settingsファイル

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