DCサーボ回路で作る心拍計




LTspice メール・マガジン全アーカイブs

■問題
【 フィルタ回路 計測回路 AD8655 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,DCサーボ回路(1)付き電流電圧変換回路を使用した,心拍計(2)の回路図です.LEDの光を指に照射し,指から反射した光をフォトダイオード(PD)で受光します.
 心拍で変動するPDの出力電流(IIN)は,OPアンプU1(AD8655)(3)を使用した電流電圧変換回路で電圧に変換します.その出力信号を,OPアンプU3で構成した反転増幅回路で増幅して,OUT端子に出力します.そして,OUT端子の信号をカウントして,心拍数を測定します.
 OPアンプU2で構成したDCサーボ回路は,IINの直流電流を打ち消し,A点の電圧が2.5Vとなるように動作します.そのため,電流電圧変換回路は,ハイパス・フィルタとして動作します.このハイパス・フィルタのカットオフ周波数として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 DCサーボ回路を使用した心拍計用増幅回路
電流電圧変換回路のカットオフ周波数は?

(a) 0.05Hz  (b) 0.1Hz  (c) 0.2Hz  (d) 0.5Hz

■ヒント

 DCサーボ回路は,非反転増幅型の積分回路を使用しています.積分回路の時定数と,R4,R5の値から,カットオフ周波数が計算できます.

■解答


(d) 0.5Hz

 図1のDCサーボ回路は,OPアンプ(U2)と抵抗(R2,R3),コンデンサ(C1,C2)で積分回路を構成しています.「R2=R3,C1=C2」となっているため,この積分回路の時定数はC1R2となります.
 電流電圧変換回路の出力(A点)が,積分回路の入力となっており,積分回路の出力は,R4を介して電流電圧変換回路に帰還されています.これらの条件から,A点の伝達関数を計算し,カットオフ周波数(fC)を求めると,次式のように0.5Hzとなります.
  fC=R1/(2πC1R2R4)=200k/(2π*33μ*100k*20k)=0.5

■解説

●心拍計の動作原理
 心拍数は,心臓が1分間に拍動する回数です.心拍数を計測する方法には,圧力式や,電気式,光電式などがあります.ここではスマート・ウォッチ等で広く使われている光電式について解説します.
 光電式は,皮膚にLEDの光を照射し,反射光をセンサで検出して心拍を計測します.血液中のヘモグロビンには,光を吸収する性質があるため,血流量が増加すると反射光の強度が減少します.そのため,反射光の強度が,心拍に応じて微弱に変動することになります.この微弱な変動を増幅し,カウントすることで心拍数を計測することができます.
 心拍数は安静時と運動時で変化しますが,毎分40~180回の範囲にあります.これを周波数に換算すると,0.7Hz~3Hzとなるため,心拍計に使用する増幅回路は,この周波数範囲を増幅できるようにする必要があります.

●基本的な電流電圧変換回路
 図2は,フォトダイオード用の,最も基本的な電流電圧変換回路です.この回路はTIA(Transimpedance Amplifier)とも呼ばれます.


図2 フォトダイオード用のもっとも基本的な電流電圧変換回路
IINの直流電流が大きくなると,OUT端子の電圧が最大出力電圧で飽和してしまう.

 フォトダイオード(PD)の出力電流(IIN)は,すべてR1に流れます.そのため,OUT端子の電圧(VOUT)は式1で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式1から分かるように,OUT端子の電圧は,R1とIINに比例します.IINの微弱な電流変化を,大きな電圧変化に変換するためには,R1を大きくする必要があります.ところが,R1を大きくすると,IINの直流電流により,OUT端子の電圧が大きくなり,OPアンプの最大出力電圧で飽和してしまいます.そのため,この回路は,直流電流に微弱な信号が重畳された,心拍計測のような用途には向いていません.

●基本的な電流電圧変換回路を検証
 図3は,図2の基本的な電流電圧変換回路をシミュレーションする回路です.


図3 図2の基本的な電流電圧変換回路をシミュレーションする回路
電流源(IIN)の値を0~50μAまで変化させ,OUT端子の電圧を調べる.

 R1を200kΩとし,「.DC」コマンドで,電流源(IIN)の値を0~50μAまで変化させて,OUT端子の電圧変化を調べます.
 図4は,図3のシミュレーション結果です.IINが12.5μA以上になると,OUT端子の電圧は電源電圧とほぼ同じ電圧で飽和しています.


図4 図3のシミュレーション結果
IINが12.5μA以上になると,OUT端子の電圧は飽和している.

●DCサーボ回路付き電流電圧変換回路
 図5は,DCサーボ回路を追加した電流電圧変換回路のブロック図です.DCサーボ回路は,OUT端子の電圧を,積分回路を介して電流電圧変換回路に帰還します.


図5 DCサーボ回路を追加した電流電圧変換回路のブロック図
IINの直流電流が変化しても,OUT端子の直流電圧は変化しない.

 その結果,IINの直流電流が変化しても,OUT端子の直流電圧は変化しなくなります.一般的な積分回路は,反転増幅回路を使用しているため位相が反転します.一方,図5の回路では,位相が反転しない積分回路を使用します.

●位相が反転しない積分回路
 図6は,位相が反転しない,非反転積分回路です.入力信号(Vin)はR2,C1によるローパス・フィルタを経由して,C2を帰還素子とする非反転増幅回路に入力されます.


図6 位相が反転しない非反転積分回路
入力信号は,ローパス・フィルタを経由して,C2を帰還素子とする非反転増幅回路に入力される.

 この回路のOUT端子の電圧(VOUT)は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 ここで「R2=R3,C1=C2」とすると,式2は式3のように変形できます.

・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3から分かるようにVOUTは入力信号(Vin)を積分した値になり,その時定数はC1R2となります.

●非反転積分回路を追加した電流電圧変換回路
 図7は,図5の積分回路部分を,図6の位相が反転しない非反転積分回路に置き換えた回路です.この電流電圧変換回路は,ハイパス・フィルタとして動作します.そこで,そのカットオフ周波数がいくつになるか求めてみます.


図7 非反転積分回路を追加した電流電圧変換回路

 「C1=C2,R2=R3」とすると,図7のA点の電圧(VA)は式3を使用して,式4で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 また,OUT端子の電圧は,式4を使用して,式5のように表すことができます.

・・・・・・・・・・・(5)

 式5をVOUTについて解いて整理すると,式6が得られます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 式6はハイパスフィルタの伝達関数となっており,カットオフ周波数(fC)は式7で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

●DCサーボ回路付き電流電圧変換回路の検証
 図8は,非反転積分回路で構成した,DCサーボ回路付き電流電圧変換回路をシミュレーションする回路です.最初に,電流源(IIN)の値を0~100μAまで変化させて,OUT端子の電圧変化を調べます.


図8 DCサーボ回路付き電流電圧変換回路をシミュレーションする回路
電流源(IIN)の値を0~100μAまで変化させて,OUT端子の電圧変化を調べる.


▼直流特性の検証
 図9は,図8のDCサーボ回路付き電流電圧変換回路の,直流特性のシミュレーション結果です.


図9 図8の直流特性のシミュレーション結果
IINが変化しても,OUT端子の電圧は変化していない.

 IINが変化しても,OUT端子の電圧は変化していません.一方,非反転積分回路の出力に相当する,DCS端子の電圧は,IINに比例して大きくなっています.IINの直流電流は,R4を経由してDCS端子から供給されていることになります.

▼周波数特性の検証
 図8の電流電圧変換回路のカットオフ周波数は,式8のように約0.5Hzに設定されています.そこで,図8の回路でAC解析を行い,周波数特性を確認します.

・・・・・・・・・・・・・(8)

 図10は,図8のDCサーボ回路付き電流電圧変換回路の周波数特性のシミュレーション結果です.ハイパス・フィルタ特性となっており,カットオフ周波数は,約0.5Hzで式8の計算結果と一致しています.


図10 図8の周波数特性のシミュレーション結果
カットオフ周波数は,約0.5Hzで式8の計算結果と一致している.

●DCサーボ回路を使用した心拍計回路を検証
 図11は,DCサーボ回路を使用した心拍計回路をシミュレーションする回路で,図1と同じ回路です.


図11 DCサーボ回路を使用した心拍計回路をシミュレーションする回路
C3,C4は高域ゲインを減少させ,ノイズを減衰させるためのコンデンサ.

 R1に並列接続されているコンデンサ(C3)は,電流電圧変換回路の高域ゲインを減少させ,ノイズを減衰させます.R1とC3でローパス・フィルタを構成していますが,そのカットオフ周波数は,式9のように,約30Hzとなっています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 また,反転増幅回路の帰還抵抗(R6)に並列接続されているコンデンサ(C4)も,同じ働きをします.フォトダイオードの出力電流に相当する電流源(IIN)は,直流電流を50μAとし,ピーク電流50nAで1Hzの正弦波を重畳しています.
 図12は,図11のシミュレーション結果です.
 上段が入力電流です.50μAの直流電流に,ピーク電流50nAの正弦波を重畳していますが,微弱なため,波形は確認できません.
 下段がOUT端子の電圧です.直流電圧は2.5Vとなっており,1.8VPPの正弦波が出力されています.このように,直流電流に埋もれた,微弱な心拍信号を増幅することができています.


図12 DCサーボ回路を使用した心拍計回路のシミュレーション結果
直流電流に埋もれた,微弱な心拍信号を増幅することができている.

 以上,DCサーボ回路付き電流電圧変換回路について解説しました.DCサーボ回路は,他にも,オーディオ用パワーアンプの,出力オフセット電圧を低減する目的で使用されます(4)

◆参考・引用*文献
(1) ブロック線図で考えるOP アンプDC サーボ回路の低域カットオフ周波数:アナログ・デバイセズ
(2) ADALM2000による実習:心拍数の測定回路:アナログ・デバイセズ
(3) AD8655データシート:アナログ・デバイセズ
(4) パワー・アンプの直流電圧からスピーカを守る回路:CQ出版社


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_039.zip

●データ・ファイル内容
Basic_TIA.asc:図3の回路
TIA_DCS_DC.asc:図8の回路
TIA_DCS_DC.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
TIA_DCS_AC.asc:図10をシミュレーションするための回路
HRM_DCS_tran..asc:図11の回路
HRM_DCS_tran.plt:図12のグラフを描画するためのPlot settingsファイル

■LTspice関連リンク先


LTspice ダウンロード先
LTspice Users Club
LTspice メール・マガジン全アーカイブs
 ◆ Season01 LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
 ◆ Season02 LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
 ◆ Season03 LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
 ◆ Season04 IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
 ◆ Season05 オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
 ◆ Season06 LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs
 ◆ Season07 LTspiceドット・コマンドから学ぶアナログ回路アーカイブs
 ◆ Season08 LTspiceで始める実用電子回路入門アーカイブs
 ◆ Season09 LTspiceで学ぶオーディオ回路入門アーカイブs
 ◆ Season10 LTspiceとデータシートで学ぶ実践アナログ回路入門アーカイブs
 ◆ Season11 LTspiceとデータシートで学ぶ実践アナログ回路アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



トランジスタ技術 2026年 9月号

作り学ぶ 生体計測回路

Interface 2026年 9月号

AI時代の開発ツール300+

CQ ham radio 2026年 8月号

私のお気に入りトランシーバー

トランジスタ技術 2026年 8月号

マジで使える!新型続々!ポケット測定器 大図鑑

トランジスタ技術SPECIAL

TRSP No.175 3大測定器マスタ! テスタ&オシロ&電源

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ