多重帰還形バンドパス・フィルタで作る超音波距離計




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■問題
【 フィルタ回路 測定回路 AD8691 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,2つの多重帰還形(Multiple Feedback:MFB)バンドパス・フィルタで構成した,超音波距離計(1)の簡易回路図です.各フィルタ(BPF1,BPF2)は,OPアンプ(AD8691)(2)を使用しています.
 BPF1とBPF2の特性の違いに関する説明として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 多重帰還形バンドパス・フィルタを使用した超音波距離計の簡易回路図
BPF1とBPF2の特性の違いに関する説明として正しいのは?


(a) BPF1の中心周波数は,BPF2の中心周波数の1.5倍となっている
(b) BPF2の中心周波数は,BPF1の中心周波数の1.5倍となっている
(c) BPF1のQは,BPF2のQの1.5倍となっている
(d) BPF2のQは,BPF1のQの1.5倍となっている

■ヒント

 図1の多重帰還形バンドパス・フィルタ(BPF1)の伝達関数は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 また,一般的なバンドパス・フィルタの伝達関数は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式1と式2を見比べ,BPF1とBPF2の中心周波数とQがいくつになるかを計算してください.

■解答


(d) BPF2のQは,BPF1のQの1.5倍となっている

 まず「C1=C2=C」として,式1と式2からωoを求め,BPF1の中心周波数(f01)を表す式に変形します.その式に,定数を代入すると,式3のように40.6kHzとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 同様に「C3=C4=C」としてBPF2の中心周波数(f02)を求めると,式4のように39.4kHzとなり,f01とf02がほぼ同じになっていることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 また,式1と式2からBPF1のQ(Q1)を求め,定数を代入すると,式5のように1.98となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 同様に,BPF2のQ(Q2)を求めると,式6のように3.06となり,Q1の約1.5倍になっています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 このように,BPF1の中心周波数とBPF2の中心周波数はほぼ同じで,BPF2のQとBPF1のQが1.5倍になっています.したがって,正解は「(d) BPF2のQは,BPF1のQの1.5倍となっている」になります.

■解説

●超音波距離計の仕組み
 図2は,超音波距離計のブロック図です.マイコンから40kHzの信号を出力し,ドライバ経由で駆動した超音波トランスミッタから,周波数40kHzの超音波を出力します.


図2 超音波距離計のブロック図
超音波トランスミッタ出力信号と,超音波レシーバ受信信号の時間差から距離を計測する.

 そして,被測定物体から反射してきた超音波を,超音波レシーバで受信し,40kHzのバンドパス・フィルタ兼増幅回路で増幅します.増幅した信号はコンパレータを経由して,マイコンに入力されます.
 図3は,超音波トランスミッタに入力される信号と,超音波レシーバで受信した信号の模式図です.マイコンは,出力した信号と受信した信号の時間差(T)を使用して,被測定物体までの距離を計算します.


図3 超音波トランスミッタに入力される信号と,超音波レシーバで受信した信号の模式図

 超音波トランスミッタと超音波レシーバが近接している場合,被測定物体までの距離(d)は式7で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 ここでCAIRは音速で,25℃の時に346.1m/sとなります.

●多重帰還形フィルタとは
 多重帰還形(Multiple Feedback:MFB)フィルタは,OPアンプを使用したアクティブ・フィルタ回路の代表的な構成の1つです.OPアンプの反転入力端子に対し,出力から複数の経路で信号を帰還することから,多重帰還形と呼ばれています.
 ローパス,ハイパス,バンドパスなどのフィルタを構成することが可能で,比較的少ない部品点数で,Qの大きなフィルタが実現できます.

●多重帰還形バンドパス・フィルタの特性
 図4は,多重帰還形バンドパス・フィルタの回路図です.


図4 多重帰還形バンドパス・フィルタの回路図

 この回路の伝達関数は式8で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 一般的なバンドパス・フィルタの伝達関数は式9で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 式8と式9を比較し,ω0を計算すると式10になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

 同様にQを計算すると式11になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

 さらに,中心周波数でのゲインに相当するHは,式12のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)

 ここで「C1=C2=C」とすると,式11は式13のように簡略化できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)

 また,式12は式14のように簡略化できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)

 ここで,Rを式15のように定義します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)

 すると,式10は式16のように簡略化することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(16)

 式16を使用して式13を変形すると,R1は式17のように求まります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(17)

 さらに,R2は式18のように求まります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)

 式17,式18を式14に代入するとHは式19のように変形できます.式19から,中心周波数のゲインを表すHは,Q2に比例することが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(19)

●多重帰還形バンドパス・フィルタの設計
 図5は,図1で使用している多重帰還形バンドパス・フィルタです.IN端子からOUT端子までのゲインを大きくし,バンドパス・フィルタの裾部分の減衰特性を-40dB/decとするため,BPF1とBPF2を縦続接続しています.


図5 中心周波数40kHzの多重帰還形バンドパス・フィルタ

 ここからは実際に,中心周波数が40kHzのバンドパス・フィルタ(BPF1,BPF2)を設計していきます.今回は,超音波レシーバ(IN端子)からコンパレータ(OUT端子)までのゲインが,40dB以上となるように定数を設定します.そのため,BPF1とBPF2のトータル・ゲイン(G)が,40dB以上となるように,Q1,Q2を設定します.ここでは「Q1=2,Q2=3」とします.式19を使用して,ゲイン(G)を計算すると,式20のように43dBとなり,40dB以上という条件を満たしていることが分かります.

・・・・・・・・(20)

 次にBPF1の定数を設定していきます.まず,E12シリーズのコンデンサの中から「C1=C2=C=33pF」と決めます.抵抗よりも先にコンデンサの値を決めるのは,コンデンサの方が抵抗に比べて値の選択肢が少ないためです.そして,式15から式16を使用してRを求めると,式21のように120.6kΩとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(21)

 次に,式17を使用してR1を求めると,式22のように30kΩとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(22)

 また,式18を使用してR2を求めると,式23のように482.4kΩとなりますが,E12シリーズの抵抗の中から470kΩを選択します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(23)

 同様に,BPF2の定数を設定していきます.「C3=C4=C=33pF」とすると,Rの値は式21と同じになります.

 そのため,R3は式24のように,20kΩと計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(24)

 また,R4は,式25のように723.6kΩとなりますが,E24シリーズの抵抗の中から750kΩを選択します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(25)

●多重帰還形バンドパス・フィルタの検証
 図6は,中心周波数40kHzの多重帰還形バンドパス・フィルタをシミュレーションする回路です.5V単一電源で動作するようにするため,OPアンプの非反転入力端子は,2.5Vの基準電源に接続しています.


図6 中心周波数40kHzの多重帰還形バンドパス・フィルタをシミュレーションする回路
5V単一電源で動作させるために,2.5Vの基準電源を使用.

 図7は,図6のシミュレーション結果です.


図7 中心周波数40kHzの多重帰還形バンドパス・フィルタのシミュレーション結果
OUT端子は中心周波数40kHzでゲイン43dBのバンドパス・フィルタとなっている.

 青線は,BPF1の周波数特性です.中心周波数は40kHzで,中心周波数のゲインは18dBとなっています.
 赤線は,BPF2の周波数特性です.OUT端子の電圧をBPF1端子の電圧で割ったものを表示しています.こちらも中心周波数がほぼ40kHzとなっており,中心周波数のゲインは25dBとなっています.
 緑線は,OUT端子の周波数特性です.BPF1とBPF2を縦続接続した特性です.中心周波数が40kHzで,中心周波数のゲインが43dBとなっており,式20の計算結果と一致しています.また,バンドパス・フィルタの裾部分の減衰特性は,-40dB/decとなっています.

 以上,多重帰還形バンドパス・フィルタについて解説しました.図4の多重帰還形バンドパス・フィルタはQを大きくすると,同時に中心周波数のゲインも大きくなります.もし,中心周波数のゲインを下げたい場合は,「R1とC1,C2の接続点」とGND間に適切な値の抵抗を接続してください.

◆参考・引用*文献
(1) 超音波距離測定回路:アナログ・デバイセズ
(2) AD8691データシート:アナログ・デバイセズ


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_035.zip

●データ・ファイル内容
MFB_BPF1_2.asc:図6の回路
MFB_BPF1_2.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル

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