バインター・ノッチ・フィルタで作るハム・ノイズ除去回路




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■問題
【 フィルタ回路 オーディオ回路 ADA4075-2 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,OPアンプ(ADA4075-2:U1~U3)(1)で構成したバインター・ノッチ・フィルタ(Bainter Notch Filter)(2)を使用した,ハム・ノイズ除去回路です.この回路で,R6の抵抗値を58kΩから6kΩに変更したときの,正しい特性変化は(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 バインター・ノッチ・フィルタを使用したハム・ノイズ除去回路
R6の抵抗値を58kΩから6kΩに変更したときの正しい特性変化は?


(a) ノッチ周波数が高くなる
(b) ノッチ周波数が低くなる
(c) Qが大きくなる
(d) Qが小さくなる

■ヒント

 図1のバインター・ノッチ・フィルタの伝達関数は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 また,ノッチ・フィルタの伝達関数の一般式は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式1と式2を比較して,R6の値を変化させたときに,どの特性がどのように変化するかを考えてください.

■解答

(d) Qが小さくなる

 式1の伝達関数でR6が存在するのは,分母の第2項です.式2の分母の第2項にはQが含まれているため,R6が影響するのはQの値であることが分かります.式1と式2からQを求めると,式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 ここで「ω0 R5C2=X」とすると式3は式4のように書き換えられます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 「R5=58k,R6=58k」のときは「Q=X*58k/(58k+58k)=0.5X」となります.R6を6kに変えると「Q=X*6k/(58k+6k)=0.094X」となり,Qの値が小さくなります.そのため,正解は「(d) Qが小さくなる」ということになります.

■解説

●バインター・ノッチ・フィルタとは
 図2がバインター・ノッチ・フィルタの回路図です.バインター・ノッチ・フィルタは,1975年に,アメリカの技術者のジェームズ・R・バインター(James R. Bainter)が発表した回路です.
 ノッチ周波数とQを独立して調整することが可能で,高域が減衰したローパス・ノッチや,低域が減衰したハイパス・ノッチといった特性とすることもできます.


図2 バインター・ノッチ・フィルタ
ノッチ周波数とQを独立して調整することが可能.

 図2の回路の伝達関数は式5で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 ここで,K1は,U1で構成した反転増幅回路のゲインで,式6で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

そして,K2はU2で構成した非反転増幅回路のゲインで,式7で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 また,式8がノッチ・フィルタの伝達関数の一般式です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 式5と式8を見比べることで,ω0やωZ,さらにQがどのような回路要素で決まるのかが分かります.式5及び式8より,ω0は式9で表されることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 同様に,ωZは式10で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

 さらに,Qは式11で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

●バインター・ノッチ・フィルタの周波数特性を検証する
 図3は,バインター・ノッチ・フィルタの周波数特性をシミュレーションする回路です.「K1=K2=1」となるように定数を設定しています.


図3 バインター・ノッチ・フィルタの周波数特性をシミュレーションする回路
R4の値を変数とし,「.step」コマンドで11k,33k,100kの3段階に変化させる.

 ノッチ周波数(fZ)は式10を使用して,式12のように1kHzと計算できます.

・・・・・・・・・(12)

 また,R4の値を変数とし,「.step」コマンドで11k,33k,100kの3段階に変化させ,どのような周波数特性となるか確認します.
 図4は,図3のシミュレーション結果です.ノッチ周波数は,1kHzとなっており,低域のゲインがR4の値によって変化していることが分かります.


図4 バインター・ノッチ・フィルタのシミュレーション結果
低域のゲインがR4の値によって変化している.

 「R4>R3」のときは,低域ゲインが高域ゲインよりも大きくなり,「R4=R3」のときに低域ゲインと高域ゲインが同じになります.そして「R4<R3」のときは,低域ゲインが高域ゲインよりも小さくなります.

●ハム・ノイズ除去回路を設計する
 ハム・ノイズは,オーディオ機器に混入する「ブーン」という低い周波数のノイズです.交流電源の周波数(東日本は50Hz,西日本は60Hz)のノイズが,音声信号に紛れ込むことで発生します.このノイズは,交流電源周波数と同じノッチ周波数の,ノッチ・フィルタを使用することで,軽減することができます.
 ここでは,ノッチ周波数が50HzでQが2のバインター・ノッチ・フィルタを設計していきます.図5が今回設計するハム・ノイズ除去回路で,図1と同じ回路です.


図5 バインター・ノッチ・フィルタを使用したハム・ノイズ除去回路
バインター・ノッチ・フィルタのノッチ周波数を50Hzに設定する.

 図5の回路は,図2の回路をベースとしていますが,「K1=K2=1」とするため,U1で構成した反転増幅回路のゲインと,U3で構成した非反転増幅回路のゲインが共に1となるように変更します.そのため,「R1=R2=20k」として,U3は100%帰還のバッファ・アンプ構成とします.
 そして,式9のω0と式10のωZを等しくするため「R3=R4」とします.さらに「C1=C2=C」とすると,式11は式13のように変形できます.

・・・・・・・・・・・・(13)

 ここで,計算を簡単にするため「R5=R6」とします.すると,式13は式14のように簡略化できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)

 式14をR5について解くと,式15になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)

 式10に式15を代入して変形すると,ノッチ周波数(fZ)は式16のように求められます.

・・・・・・・・・(16)

 式16を変形してR3を求めると,式17が得られます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(17)

 式17が,バインター・ノッチ・フィルタの抵抗値を求めるための計算式です.ここで「C=0.22μF,Q=2」とすると,R3は式18のように,3.6kΩと計算できます.さらに「R3=R4」としたため,R4も3.6kΩとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(18)

 R5は,式15を使用して,式19のように58kΩと求まります.また「R5=R6」とするため,R6も58kΩとします.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(19)

 これで全ての定数が求まりました.

●ハム・ノイズ除去回路の周波数特性を検証する
 図6は,バインター・ノッチ・フィルタを使用したハム・ノイズ除去回路をシミュレーションする回路です.「.step」コマンドを使用して,R6の値を58kΩと6kΩに変化させます.


図6 バインター・ノッチ・フィルタを使用した,ハム・ノイズ除去回路をシミュレーションする回路
「.step」コマンドを使用して,R6の値を58kΩと6kΩに変化させる.

 図7は,図6のシミュレーション結果です.ノッチ周波数は50Hzとなっています.また,R6の値が小さくなると,除去される周波数帯域が広がり,Qが小さくなっていることが分かります.


図7 バインター・ノッチ・フィルタを使用した,ハム・ノイズ除去回路のシミュレーション結果
ノッチ周波数は50Hzとなっており,R6を小さくするとQが小さくなる.

●ハム・ノイズ除去回路のノイズ除去機能を検証する
 図8は,バインター・ノッチ・フィルタを使用した,ハム・ノイズ除去回路のノイズ除去機能をシミュレーションする回路です.入力に,100Hzで1VPPの希望信号と,50Hzで1VPPのハム・ノイズを加算した信号を加え,ハム・ノイズが除去できるかを検証します.


図8 ハム・ノイズ除去回路のノイズ除去機能をシミュレーションする回路
入力に,100Hzで1VPPの希望信号と,50Hzで1VPPのハム・ノイズを加算した信号を加える.

 図9は,図8のシミュレーション結果です.上段が入力信号で,100Hzで1VPPの希望信号と,50Hzで1VPPのハム・ノイズを加算した信号となっています.下段がOUT端子の信号です.50Hzのハム・ノイズは除去されていますが,100Hzの希望信号はほとんど減衰していないことが分かります.


図9 ハム・ノイズ除去回路のノイズ除去機能のシミュレーション結果
100Hzの希望信号はほとんど減衰せず,50Hzのハム・ノイズのみ除去されている.

 以上,バインター・ノッチ・フィルタを使用した,ハム・ノイズ除去回路について解説しました.ノッチ・フィルタのQを大きくすると,目的とする信号への影響を小さくすることができますが,ノッチ周波数がわずかでもずれると,除去したいノイズを減衰させることができません.使用する部品の精度や温度特性に十分注意する必要があります.

◆参考・引用*文献
(1) ADA4075-2データシート:アナログ・デバイセズ
(2) バインター・ノッチ・フィルタ:アナログ・デバイセズ


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_033.zip

●データ・ファイル内容
Bainter_Notch.asc:図3の回路
Bainter_Notch.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Bainter_Notch_HNF.asc:図6の回路
Bainter_Notch_HNF.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Bainter_Notch_HNF_trn.asc:図8の回路
Bainter_Notch_HNF_trn.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settingsファイル

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