状態変数フィルタで作るスピーカ・ネットワーク




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■問題
【 フィルタ回路 オーディオ回路 ADA4075-2 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,状態変数フィルタを使用した,2ウェイ・スピーカ・ネットワーク・システムです.状態変数フィルタは,OPアンプ(ADA4075-2)(1)と抵抗とコンデンサで構成されています.状態変数フィルタのハイパス・フィルタ出力信号(HP)とローパス・フィルタ出力信号(LP)は,それぞれパワー・アンプを介して,ツイータ(Tweeter:TW)とウーファ(Woofer:WF)に加えられます.
 このスピーカ・ネットワーク回路で,TWとWFに加わる電圧を加算した周波数特性(合成特性)が,フラットになる抵抗(R6)の値は(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,2つのパワー・アンプのゲインは同じで,TWとWFは図1のような極性で接続されているものとします.


図1 状態変数フィルタを使用した2ウェイ・スピーカ・ネットワーク・システム
TWとWFそれぞれに,専用のパワー・アンプを使用し,パワー・アンプの前にスピーカ・ネットワークが接続している.TWとWFに加わる電圧を加算した周波数特性が,フラットな特性となる抵抗(R6)の値は?


(a) 20kΩ  (b) 50kΩ  (c) 89kΩ  (d) 200kΩ

■ヒント

 状態変数フィルタ(State Variable Filter)は、「ローパス」,「ハイパス」,「バンドパス」の3つの出力を同時に取り出すことができます.ただし,図1では2ウェイ・スピーカ・ネットワーク・システムのため「ローパス」と「ハイパス」を使用します.
 そして,カットオフ周波数とフィルタの肩特性を表すQ(Quality Factor)を独立して設定できるという特長があります.図1の回路のQは「Q=(R6+R7)/(3*R6)」で計算できます.TWとWFに加わる電圧を加算した信号の周波数特性が,フラットな特性となるQの値がいくつになるかを考えれば,R6の値は計算できます.

■解答

(d) 200kΩ

 TWとWFに加わる電圧を加算した信号の周波数特性が,フラットな特性となるためには,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのカットオフ周波数のときのゲインを0.5(-6dB)とする必要があります. カットオフ周波数のときのゲインは,Qと同じ値となるため,Qを0.5とすればよいことになります.Qの計算式「Q=(R6+R7)/(3*R6)」からR6を求めると「R6=R7/(3Q-1)=100k/(3*0.5-1)=200kΩ」となり,R6は,200kΩになります.

■解説

●状態変数フィルタとは
 状態変数フィルタは,State Variable Filterとも呼ばれ,2つの積分器と1つの加算器,合計3個のOPアンプで構成されています.そして,1つの回路から「ローパス」,「ハイパス」,「バンドパス」の3つの出力を同時に取り出すことができます.さらに,カットオフ周波数とフィルタの肩特性を表すQ(Quality Factor)を独立して設定できるという特長があります.
 OPアンプを3個使用するため,部品点数が多いという弱点がありますが,オーディオ機器などに広く使用されています.

●状態変数フィルタのカットオフ周波数とQ
 図2は,OPアンプを使用した状態変数フィルタの回路図です.OPアンプ(U2)とR4,C1で積分回路を構成しています.同様に,OPアンプ(U3)とR5,C2でも積分回路を構成しています.


図2 OPアンプを使用した状態変数フィルタ
OPアンプ(U2)とOPアンプ(U3)は,それぞれ積分回路を構成している.

 HP端子がハイパス・フィルタの出力で,LP端子がローパス・フィルタの出力です.そして,BP端子がバンドパス・フィルタの出力になります.ここで,2つの積分回路の,積分時定数が等しくなるように「R4=R5=R」とし「C1=C2=C」とします.また「R1=R2=R3」とすると,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのカットオフ周波数(fC)は式1で表されます.バンドパス・フィルタでは,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのカットオフ周波数(fC)が通過帯域の中心周波数となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 また,Qは式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 ハイパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GH)は式3のように1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 そして,ローパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GL)も式4のように1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 また,カットオフ周波数のときのゲインは,「ローパス」,「ハイパス」,「バンドパス」の出力共に,Qの値と同じになります.そのため,バンドパス・フィルタの通過帯域の最大ゲインもQの値と同じになります.

●状態変数フィルタの周波数特性を検証する
 図3は,状態変数フィルタの周波数特性をシミュレーションする回路です.


図3 状態変数フィルタの周波数特性をシミュレーションする回路
「.step」コマンドでQの値を「0.5,0.707,1,1.5」と4段階に変化させる.

 「.step」コマンドでQの値を「0.5,0.707,1,2」と4段階に変化させます.抵抗(R6)の値は変数とし,式2を変形した式5を使用して「.param」コマンドで計算しています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 カットオフ周波数は,式6のように1kHzとなっています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 図4は,図3のシミュレーション結果です.上段がハイパス・フィルタ出力で,中段がローパス・フィルタ出力,下段がバンドパス・フィルタ出力となっています.


図4 状態変数フィルタの周波数特性のシミュレーション結果
ハイパス・フィルタ,ローパス・フィルタ,バンドパス・フィルタの3つの特性が得られている

 ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのカットオフ周波数は1kHzで,バンドパス・フィルタの中心周波数も1kHzとなっています.また,Qの値によって,フィルタのカットオフ付近の肩特性が変化していることが分かります.

●2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路を設計する
 一般的に,人間に聞こえる音の周波数範囲は20Hz~20kHzと言われています.この周波数範囲の音を,1つのスピーカで正確に出力するのは簡単ではありません.そこで,周波数範囲を分割し,複数のスピーカで出力するようにしたものが,2ウェイ・スピーカや3ウェイ・スピーカです.2ウェイ・スピーカ(高音・低音)で高音を担当するスピーカはツイータ(Tweeter)と呼び,低音を担当するスピーカを,ウーファ(Woofer)と呼びます注1

注1:3ウェイ・スピーカ(高音・中音・低音)の中音を担当するスピーカはスコーカ(squawker)と呼ばれています.

 このように,それぞれのスピーカに,担当する周波数の音だけを加えるようにする回路を,スピーカ・ネットワークと呼びます.一般的には,スピーカ・ボックス内で,スピーカの直前にコイルとコンデンサで構成したスピーカ・ネットワークを接続します(2)
 ただし,一部のオーディオ・システムでは,ウーファとツイータそれぞれに,専用のパワー・アンプを使用し,パワー・アンプの前にスピーカ・ネットワークを接続することがあります.これが,図1のシステムです.
 ここでは,パワー・アンプの前に接続する,2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路を設計します.図5が状態変数フィルタを使用した2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路で,図1の状態変数フィルタ部分を取り出したものです.


図5 状態変数フィルタを使用した2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路
クロスオーバ周波数は3kHzに設定する.

 まず,ツイータとウーファの担当周波数の境界(クロスオーバ周波数)を決めます.ここでは,クロスオーバ周波数を3kHzとするため,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのカットオフ周波数(fC)を3kHzとします.図5のC1とC2の容量値を4700pFとすると,R4とR5は式1を変形した式7で計算することができます.式7の結果から,R4とR5は11kΩとします.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 次にQの値を決めます.スピーカ・システムとしての周波数特性をフラットにするためには,ツイータとウーファに加わる電圧を加算した信号の周波数特性が,フラットとなる必要があります.そのためには,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのカットオフ周波数でのゲインを0.5(-6dB)として,加算結果のゲインが1となるようにします.
 図5の回路の,カットオフ周波数のときのゲインはQと同じ値になります.そのため,Qの値を0.5とすることで,カットオフ周波数のときのゲインを0.5(-6dB)とすることができます.Qが0.5となるR6の値は式5を使用して計算すると,式8のように200kΩとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

●2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路の検証結果
 図6は,図5のシミュレーション結果です.

図6 状態変数フィルタを使用した2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路のシミュレーション結果
ローパス・フィルタとハイパス・フィルタの合成特性は,フラットな周波数特性となっている.

 青線がローパス・フィルタの周波数特性で,赤線がハイパス・フィルタの周波数特性です.それぞれのカットオフ周波数でのゲインは-6dB(0.5)となっています.そして,ローパス・フィルタ出力と,ハイパス・フィルタ出力の位相差は常に180°となっていることが分かります.そのため,ウーファとツイータを接続する場合は,図1のように逆極性となるように接続する必要があります.
 緑線は「V(lp)-V(hp)」として,ローパス・フィルタとハイパス・フィルタの出力を逆極性で加算したものです.ハイパス・フィルタとローパス・フィルタを逆極性で加算した周波数特性(合成特性)が,フラットになっていることが分かります.

 以上,状態変数フィルタを使用した2ウェイ・スピーカ・ネットワーク回路について解説しました.今回は2次特性のフィルタとしましたが,積分回路を追加することで,3次特性や4次特性とすることもできます.

◆参考・引用*文献
(1) ADA4075-2データシート:アナログ・デバイセズ
(2) オーディオ用2ウェイ・スピーカの構成方法:CQ出版


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_032.zip

●データ・ファイル内容
SVF.asc:図3の回路
SVF.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
SVF_SPN.asc:図5の回路
SVF_SPN.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settingsファイル

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