サブウーハ用のサレンキー型ローパス・フィルタ
図1は,重低音を再生するサブウーハ用のローパス・フィルタの回路です.OPアンプ(U1:ADA4075-2)(1)は,Lch信号とRch信号を加算する加算回路を構成し,OPアンプ(U2)は,サレンキー型ローパス・フィルタを構成しています.
VR1とVR2という10kΩの2連ボリューム(可変抵抗器)で,ローパス・フィルタのカットオフ周波数を可変できるようになっています.このローパス・フィルタのカットオフ周波数の可変範囲は,(a)~(d)のどれでしょうか.

10kΩの2連ボリューム(可変抵抗器)で,ローパス・フィルタのカットオフ周波数を可変できる.
(a)24Hz~71Hz (b)47Hz~142Hz (c)68Hz~201Hz (d)75Hz~150Hz

サブウーハ(Subwoofer)は,重低音を再生するために,メインスピーカに追加して使用されるスピーカです.ホーム・シアターなどで重低音を再生したい場合に,通常の再生装置に追加して使用されます.
OPアンプ(U2)で構成したサレンキー型ローパス・フィルタのカットオフ周波数は,(VR1,VR2)の抵抗値が10kΩのときが1番低く,(VR1,VR2)の抵抗値が0Ωのときに1番高くなります.それぞれのカットオフ周波数を計算すれば,可変範囲が分かります.
図1の回路では,R4とR5の値が等しく,また2連ボリュームを使用しているため,VR1とVR2の値は同じように変化します.そのため「R5+VR1=R4+VR2=R」と表すことができます.そして,図1のサレンキー型ローパス・フィルタのカットオフ周波数(fc)は次式で表されます.
fc=1/2πR√(C1*C2)
VR1とVR2の抵抗値が10kΩのときのfcは次式のように68Hzとなります.
fc=1/2π(5.1k+10k)√(220n*110n)=68
VR1とVR2の抵抗値が0Ωのときのfcは次式のように201Hzです.
fc=1/2π(5.1k)√(220n*110n)=201
そのため,カットオフ周波数の可変範囲は(c) 68Hz~201Hzということになります.
●サレンキー型フィルタとは
サレンキー型フィルタは,1955年にHerbert SallenとDon Keyによって発表された正帰還型のアクティブ・フィルタです.少ない部品で40dB/decで減衰する,2次のフィルタを実現することができます.
サレンキー型フィルタには,高域をカットする,「ローパス・フィルタ」と低域をカットする「ハイパス・フィルタ」および特定の帯域のみを通過させる「バンドパス・フィルタ」の3種類があります(2).今回は,サレンキー型ローパス・フィルタについて解説します.
●サレンキー型ローパス・フィルタの特性
図2は,サレンキー型ローパス・フィルタの回路図です.OPアンプ(U1)は,ゲイン1のバッファ・アンプとして使用しています.C1により,出力から入力に正帰還を掛け,Q(Quality Factor)の値を変えることで,ローパス・フィルタのカットオフ周波数付近の肩特性を変化させることができます.
なお,OPアンプ(U1)を通常の非反転増幅回路として動作させ,ゲインを持ったローパス・フィルタとすることもできます.

C1により,出力から入力に正帰還が掛けられている.
図2の回路のカットオフ周波数は式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)また,フィルタの肩特性を表すQは式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)ここで「R1=R2=R」とすると,式1は式3のように変形できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)そして,式2は式4のように変形することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式4をC1について解くと,式5が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式5を式3に代入すると,式6になります.
・・・・・・・・・・・(6)フィルタ回路を設計する場合,カットオフ周波数及びQを決めてから,抵抗やコンデンサの値を求めることになります.そこで,式6をC2について解くと,式7が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)カットオフ周波数とQおよびRを決めれば,式7を使用してC2の値を計算することができます.
●サレンキー型ローパス・フィルタの周波数特性
図3は,サレンキー型ローパス・フィルタの周波数特性を検証するための回路です.カットオフ周波数100Hzのローパス・フィルタとなっています.Qの値は「.step」コマンドを使用して「0.5,0.707,1,1.5」の4段階に変化させます.また,C1とC2の値は変数とし,「.param」コマンドで式5,式7を使用して計算しています.

「.step」コマンドを使用して,Qの値を「0.5,0.707,1,1.5」の4段階に変化させる.
図4は,図3のシミュレーション結果です.Qの値によってフィルタの肩特性が変化していることが分かります.また,高域が減衰する傾きは,周波数が10倍になるごとに40dB減衰する,40dB/decとなっていることが分かります.

Qの値によってフィルタの肩特性が変化している.
●サブウーハ用ローパス・フィルタの設計
図5は,サブウーハ用ローパス・フィルタの回路図で,図1と同じものです.サブウーハは,100Hz以下のような超低音域だけを再生するスピーカです.人間は100Hz以下の重低音の方向感を感じにくいため,一般的には,LchとRchの信号を加算したモノラル構成とします.

10kΩの2連ボリューム(可変抵抗器)で,ローパス・フィルタのカットオフ周波数を可変できる.
図5のOPアンプ(U1)は,Lch信号とRch信号を加算する加算回路(3)を構成しています.それぞれの信号をVL,VRとすると,U1の出力(S点)の信号(VS)は式8で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)図5では「R1=R2=36kΩ,R3=18kΩ」としているため,加算係数は式9のようになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)C3とC4は,直流カット用のコンデンサです.R6とR7は入力端をGND電位とするための抵抗です.C3とR1でハイパス・フィルタを構成しますが,そのカットオフ周波数(fC1)は式10のように0.94Hzと充分低い値に設定しています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)OPアンプ(U2)は,サレンキー型ローパス・フィルタを構成しています.式7を使用して定数を決めていきますが,Rの値は10kΩとし,そのときのカットオフ周波数(fc)は100Hzとします.また,Qの値は自然な肩特性となる0.707とします.これらの値を式7に代入すると,C2は式11のように112.6nFとなります.
・・・・・・・・・・・・・・(11)また,C1は式5を使用して,式12のように225.1nFと求まります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)図5では,C1とC2の容量は,入手可能な容量値で近い値の「C1=220nF,C2=110nF」としています.「R=10kΩ」として計算しましたが,今回は2連ボリュームを使用してカットオフ周波数を可変できるようにします.R4,R5はカットオフ周波数の上限を設定するための抵抗です.ボリュームの抵抗値が0Ωとなる,カットオフ周波数の上限は,式3を使用して,式13のように,201Hzとなります.
・・・・・・・・・・・・・・(13)ボリュームの抵抗値が10kΩとなる,カットオフ周波数の下限は式14のように68Hzとなります.
・・・・・・・・・・(14)
●サブウーハ用ローパス・フィルタを検証
図6は,図5をシミュレーションする回路です.LchとRchに同じ信号を入力し,OUT端子までの周波数特性をシミュレーションします.また,ボリュームの抵抗値はVRという変数にし,「.step」コマンドで,「1m 2k 4k 6k 8k 10k」の6段階に変化させます.最小値を1mとしているのは,LTspiceでは抵抗値を0Ωとしたシミュレーションができないためです.
また,「.meas」コマンドを使用してそれぞれの抵抗値のときのカットオフ周波数を取得します.「.meas AC fc when mag(V(OUT))=1/sqrt(2) FALL=1」というコマンドは,「AC解析結果のOUT端子の電圧が1/√2(-3dB)となる周波数を,fcという変数に代入する」という意味になります.

ボリュームの抵抗値は「.step」コマンドで,「1m 2k 4k 6k 8k 10k」の6段階に変化させる.
図7は,図6のシミュレーション結果です.ローパス・フィルタの肩特性は,Qの値を0.707としたことにより,自然な肩特性となっています.

カットオフ周波数は68Hz~201Hzまで変化している.
「.meas」コマンドの結果は,「Ctrl+L」キーを押して表示される「Output Log」に,図8のように表示されます.

抵抗値が1mΩのときのカットオフ周波数は201Hzで,抵抗値10kΩのときのカットオフ周波数は68Hzとなっており,式13,式14の計算結果と一致しています.
以上,サレンキー型ローパス・フィルタについて解説しました.サレンキー型フィルタは,部品点数が少ないという利点を生かし,高次のフィルタを構成するときの,要素回路として広く使われています.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4075-2データシート:アナログ・デバイセズ
(2) サレンキー・フィルタ:アナログ・デバイセズ
(3) 反転増幅回路で作るオーディオ・ミキサー回路:CQ出版社
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_031.zip
●データ・ファイル内容
Sallen-Key_LPF.asc:図3の回路
Sallen-Key_LPF.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
LPF_for_SW.asc:図6の回路
LPF_for_SW.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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