OPアンプ積分回路で作る高精度A-Dコンバータ




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■問題
【 演算回路 計測回路 OP777 ADG1436 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,OPアンプ(OP777)(1)を使用した積分回路と,アナログ・スイッチIC(ADG1436)(2)およびマイコンで構成した,2重積分型A-Dコンバータです.OPアンプ(U1)は,抵抗(R1),コンデンサ(C1)と共に積分回路を構成し,OPアンプ(U2)はコンパレータとして動作します.


図1 OPアンプとアナログ・スイッチおよびマイコンで構成した2重積分型A-Dコンバータ

 このA-Dコンバータは,マイコンが次のように動作して,A-D変換を行います.

  1. 出力ポート(P1)をHighレベルにして,スイッチ(S1)をB1側に接続し,出力ポート(P2)をLowレベルにしてスイッチ(S2)をA2側に接続する.さらに,カウンタ変数を0とする
  2. P1をLowレベルにして,スイッチ(S1)をA1側に接続し,0.1msごとにカウンタ変数をカウント・アップする
  3. カウンタ変数が256となったら,0にリセットし,P2をHighレベルにしてスイッチ(S2)をB2側に接続する
  4. 0.1msごとにカウンタ変数をカウント・アップする.入力ポート(P3)がLowレベルとなったら,カウント・アップを停止し,カウンタ変数の値をA-Dコンバータの出力データとする

 ここで,Vrefの電圧が-5Vで,入力電圧が3Vだった場合のA点の電圧変化は図2の(a)~(d)のどれでしょうか.


図2 2重積分型A-DコンバータA点の電圧変化
A点の正しい電圧変化は?


(a)の電圧変化  (b)の電圧変化  (c)の電圧変化  (d)の電圧変化

■ヒント

 2重積分型A-Dコンバータは,比較的簡単に高精度なA-Dコンバータを構成することができるため,デジタル・マルチメータなどで広く使用されています.図1のOPアンプ(U1)が反転増幅回路として動作していることと,0.1msごとにカウント・アップして256カウントでモードが切り替わることを考えれば,答えは簡単に分かります.

■解答

(d)の電圧変化

 図1のOPアンプ(U1)は,反転増幅回路を使用した積分回路として動作します.そのため,入力電圧が正の電圧(3V)の場合は,U1の出力(A点)は時間とともに低下していきます.そして,0.1ms間隔で256カウント(25.6ms)後に,スイッチ(S2)がVref側に切り替わり,A点の電圧は上昇に転じます.このような変化となっているのは(d)なので,正解は(d)の電圧変化になります.

■解説

●OPアンプを使用した積分回路
 図3は,OPアンプを使用した積分回路です.OPアンプを反転増幅回路として使用し,出力端子と反転入力端子の間にコンデンサ(C1)が接続されています.


図3 OPアンプを使用した積分回路
Vinが直流の場合,OUT端子の電圧は時間とともに直線的に変化する.

 この回路の反転入力端子の電圧は,GNDと等しいとみなすことができます.そのため,抵抗(R1)を流れる電流は式1で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 電流(I1)は,全てC1に流れ,C1に電荷が蓄えられていきます.その電荷は,I1を時間積分したものです.そして,コンデンサの電圧は,電荷を容量値で割ったものなので,OUT端子の電圧は式2のように表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2から分かるように,OUT端子の電圧は,Vinを時間積分したものになります.ここで,Vinが直流の場合,式2は式3のように変形することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3から,OUT端子の電圧は時間(t)と共に直線的に変化することが分かります.

●積分型A-Dコンバータの原理
 図4は,OPアンプ積分回路とカウンタを使用した,積分型A-Dコンバータの原理図です.


図4 OPアンプ積分回路とカウンタを使用した,積分型A-Dコンバータの原理図
Tをカウンタで計測することで,アナログ電圧をデジタル化することができる.

 積分回路により,A点に時間と共に上昇する電圧を発生させ,コンパレータ(U2)で,A点の電圧と入力電圧を比較します.電圧が上昇を開始してからコンパレータが反転するまでの時間(T)は,入力電圧に比例します.そのため,Tをカウンタで計測することで,アナログ電圧をデジタル化することができます.ただし,A点の電圧の傾きはR1,C1の値によって変化するため,変換精度はR1,C1の精度に依存するという問題があります.そのため,一般的には次に説明する,この問題を改良した2重積分型A-Dコンバータが広く使用されています.

●2重積分型A-Dコンバータの原理
 図5は,積分型A-Dコンバータを改良した,2重積分型A-Dコンバータの原理図です.


図5 積分型A-Dコンバータを改良した,2重積分型A-Dコンバータの原理図
2重積分型A-Dコンバータの変換精度はR1,C1の精度に依存しない.

 スイッチ(S2)が追加され,積分回路の入力を「入力電圧」と「Vref」に切り替えます.また,Vrefは,入力電圧とは逆極性の,負の電圧とします.2重積分型A-Dコンバータの変換精度はR1,C1の精度に依存しないため,比較的簡単に高精度なA-Dコンバータを構成することができます.ただし,変換速度は遅いため,直流電圧を測定する,デジタル・マルチメータのような用途に向いたA-Dコンバータです.
 2重積分型A-Dコンバータは,次のような手順でデジタル変換を行います.

  1. スイッチ(S1)をONさせてコンデンサ(C1)を放電する
  2. スイッチ(S2)をVin側に接続し,スイッチ(S1)をOFFすると同時に,一定時間間隔で,カウンタをカウント・アップする
  3. カウンタがフル・カウントとなったら,カウンタをリセットし,スイッチ(S2)をVref側に接続する
  4. 再び一定時間間隔でカウンタをカウント・アップする.コンパレータ(U2)の出力が反転したら,カウント・アップを停止し,カウント値をA-Dコンバータの出力データとする

 図6は,図5の2重積分型A-DコンバータのA点の電圧変化を表したものです.


図6 2重積分型A-DコンバータのA点の電圧変化を表したもの

 A-D変換を開始すると,まず入力電圧を積分回路で積分します.入力電圧が正の電圧の場合,OPアンプの出力端子(A点)の電圧は徐々に下がっていきます.ここで,カウンタがフル・カウントとなった時間を(T1)とします.T1秒後のA点の電圧(VAT1)は式3を使用して,式4のように表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 次にスイッチ(S2)をVref側に切り替え,Vrefを積分回路で積分します.この時,Vrefは負の電圧となっているため,A点の電圧は徐々に上昇していきます.このとき,A点の電圧は,式5で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 A点の電圧が上昇していき,0Vになるまでの時間をT2とすると,式5は式6のように変形することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 式6からVinを求めると,式7になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 式7から分かるように,入力電圧はT2とT1の比にVrefの絶対値を掛けたものになります.つまり,2重積分型A-Dコンバータは,T1とT2を測定することで,入力電圧を計算することができます.また,式7にはR1,C1の項が無いため,抵抗やコンデンサの精度は測定精度に影響しません.
 T1,T2は一定時間間隔でカウントするカウンタで測定することができます.T1のカウント値をN1,T2のカウント値をN2とすると,式7は式8のように変形できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 このように,入力電圧はカウント数の比で表されます.精度はカウンタの分解能で決まるため,カウンタのビット数を増やすことで,比較的簡単に高精度なA-Dコンバータとすることができます.

●2重積分型A-Dコンバータの動作を検証する
 図7は,2重積分型A-Dコンバータをシミュレーションする回路です.図1と同じものですが,マイコン部分は9ビットのカウンタ回路に置き換えています.


図7 2重積分型A-Dコンバータをシミュレーションする回路
9ビット・カウンタの最上位ビットはスイッチ(S2)の切り替え信号として使用している.

 このカウンタの最上位ビットはスイッチ(S2)の切り替え信号として使用しています.アナログ・スイッチICのADG1436のLTspiceモデルは,スイッチが1つだけのモデルとなっているため,新たに2個入りのシンボルとサブサーキットを作っています.
 OPアンプ(U2)は,コンパレータとして使用しており,出力に接続されているR3とD1は,G点の負電圧出力を制限するためのリミッタ回路です.また,電圧源(VCLK)でカウンタ用の10kHzのクロック信号を発生させています.
 図8は,図7のシミュレーション結果です.上段が9bit_Counterのカウント値の出力波形で,下段が積分回路出力(A点)の電圧変化です.


図8 図7のシミュレーション結果
A-D変換後のカウンタ出力は「10011011」となっている.

 上段のQ0~Q8の出力は,重ね書きすると見にくいため,それぞれの出力電圧に,n*6Vの電圧を加算して表示しています.A-D変換が開始されると,A点の電圧は,9bit_Counterが256カウントするまで下降していきます.Q8出力がHighレベルになると,S2がVref側に切り替わり,A点の電圧は上昇に転じます.A端子の電圧が上昇していき,0Vを越えると,U2の出力がLowレベルとなり,9bit_Counterのカウントがストップします.
 図8より,カウントがストップしたときの9bit_Counterの出力は「10011011」となっていることがわかります.10011011は,10進数に変換すると,155になります.式8に今回のシミュレーション結果を代入すると,式9のように実際に入力した電圧の3Vに近い値となることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 以上,2重積分型A-Dコンバータについて解説しました.2重積分型A-Dコンバータは変換速度が遅いという欠点がありますが,入力信号を積分するため,ノイズの影響を受けにくいという特長があります.積分時間を,商用交流周波数の周期の整数倍とすれば,ハム・ノイズの影響を受けにくくなります.


◆参考・引用*文献
(1) OP777データシート:アナログ・デバイセズ
(2) ADG1436(Rev.B):アナログ・デバイセズ


■データ・ファイル

【注意!】現在,ADG1436のモデルが正常に動作しないため,データ・ファイルのダウンロードを中止しています.ADG1436のモデルの動作確認が出来次第,ダウンロードを再開いたします.

●データ・ファイル内容
Dual_Slope_AD.asc:図7の回路
Dual_Slope_AD.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
ADG1436_2.asy:ADG1436の2個入りシンボル
ADG1436_2.asc:ADG1436の2個入りサブ・サーキット
9bit_Counter.asy:9ビット・カウンタのシンボル
9bit_Counter.asc:9ビット・カウンタのサブ・サーキット

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