電流入力対数増幅回路で作る光パワー・メータ
図1は,OPアンプ(MAX44248)(1)とマッチング・トランジスタ(MAT14)(2)で構成した対数増幅回路を使用した,光パワー・メータの回路図です.
フォト・ダイオード(PD)に測定したい光を照射し,発生した光電流(IPD)を対数電圧に変換してOUT端子に出力し,マイコンのA-Dコンバータで読み取ります.
この回路に光を照射し,IPDが10μAだった場合,OUT端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.ただし,マッチング・トランジスタ(Q1,Q2)の温度は27℃とします.

IPDが10μAだった場合,OUT端子の電圧はいくつ?
(a) 1V (b) 1.5V (c) 3.5V (d) 4V

マッチング・トランジスタは,特性のそろったトランジスタを,1パッケージに収めたものです.Q2に流れている電流が1μAであることを踏まえて,A点の電圧を求め,OPアンプ(U2)のゲイン倍すれば,簡単に計算できます.
Q1のベース・エミッタ間電圧と,Q2のベース・エミッタ間電圧からA点の電圧(VA)を計算すると,次式が得られます.
VA=2.5-VT*ln(Iin/I1)
ここで,VTは熱電圧と呼ばれ,27℃のとき26mVとなります.OPアンプ(U2)は,非反転増幅回路を構成しており,2.5Vを基準として,VAを増幅します.そのため,OUT端子の電圧(VOUT)は,次式で計算できます.
VOUT=2.5-VT*ln(Iin/I1)*(R1+R2)/R1
この式に図1の定数を代入すると次式のように1.5Vになります.
VOUT=2.5-26mV*ln(10μ/1μ)*(1k+15.8k)/1k≒1.5V
●対数増幅回路とは
対数増幅回路(ログ・アンプ)は,入力信号の振幅に対し,出力がその対数(log)に比例する回路です.広いダイナミック・レンジを持つ信号を,扱いやすい範囲に圧縮する目的で使用されます.
その応用事例として,光パワー・メータがあります.光パワー・メータで計測する光の強さの範囲は非常に広く,フォト・ダイオードから出力される光電流は,数nAから数mA程度まで,非常に広範囲に変化します.そのため,この電流変化は対数圧縮して測定する必要があります.
●基本的な電流入力対数増幅回路
図2は,OPアンプとトランジスタを使用した基本的な電流入力対数増幅回路です.トランジスタのコレクタ電流とベース・エミッタ間電圧が対数関係となっていることを利用しています.

トランジスタのコレクタ電流とベース・エミッタ間電圧が対数関係となっていることを利用している.
トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)は,コレクタ電流をICとすると,式1のように表され,コレクタ電流の自然対数に比例します.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式1の中でISは,逆方向飽和電流と呼ばれるものです.トランジスタの大きさなどによって決まり,大きな温度係数を持っています.しかし,データシートなどでは,値が公開されていないため,式1を使用して具体的な値を計算することはできません.また,VTは熱電圧と呼ばれ,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)図2のOPアンプ(U1)は,反転増幅回路を構成しており,入力電流IinはすべてQ1に流れます.そのため,Q1のコレクタ電流はIinと等しくなります.そして,Q1のベースがGNDに接続されていることから,OPアンプの出力電圧(VOUT)は,GND電位からQ1のベース・エミッタ電圧だけ下がった電圧となり,式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)式3を見ると分かるように,VOUTはIinの対数に比例した電圧になります.
●基本的な電流入力対数増幅回路の検証結果
図3は,図2のシミュレーション結果です.図2の回路で,Iinを10nAから1mAまで変化させ,さらに温度を-40℃,27℃,80℃と変化させるシミュレーション結果を表示しています.

OUT端子の電圧はIinの対数に比例した電圧になっている.
横軸がIinで,対数目盛となっており,縦軸はリニア目盛の電圧ですが,OUT端子の電圧のグラフは直線となっており,Iinの対数に比例した電圧になっていることが分かります.
ただし,温度によって電圧が大きく並行移動しています.これはOUT端子にトランジスタQ1の「ベース・エミッタ間電圧がそのまま出力されている」ためです.
ベース・エミッタ間電圧から入力電流の値を計算するためには,式1で解説した,公開されていないISの値が必要となります.そのため,図2のOUT端子の電圧から入力電流の値を求めることは非常に困難で,具体的な製品に使用するのは難しい回路です.
●改良型の電流入力対数増幅回路
図4は,図2の回路の「ベース・エミッタ間電圧がそのまま出力されている」という問題を対策し,製品に使用できるようにした,改良型の電流入力対数増幅回路です.図2の回路に,トランジスタ(Q2)と電流源(I1)を追加しています.

電流源(I1)とトランジスタ(Q2)が追加されている.
図4のA点の電圧は,図2のOUT端子と同じ電圧で,式4で表せます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)OUT端子の電圧は,A点の電圧にQ2のベース・エミッタ間電圧(VBEQ2)を加算したものです.ベース電流を無視すると,Q2のコレクタ電流は電流源(I1)と等しくなります.VBEQ2は式5で表されます.Q1,Q2の特性が完全に等しい場合,2つのトランジスタのISは同じ値になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式4および式5からOUT端子の電圧を計算すると,式6のように最終的にISが消去されたシンプルな式が得られます.
・・・・・・・・(6)式6より,VOUTはIinの対数とVTに比例することが分かります.ここでIinが1μAのときのOUT端子の電圧を求めると,式7のように0Vとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)また,式6を変形してIinを求めると,式8になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)VTは,式2のように既知の物理定数で構成されているため,IinからVOUTを求めたり,逆にVOUTからIinを求めることができます.
●改良型の電流入力対数増幅回路の検証結果
図5は,図4のシミュレーション結果です.図3と同様に,横軸がIinで対数目盛,縦軸はリニア目盛の電圧です.

OUT端子の電圧はIinの対数に比例した電圧になっている.
OUT端子の電圧のグラフが直線となっていることから,OUT端子の電圧はIinの対数に比例した電圧になっていることが分かります.また,Iinが1μAのとき,OUT端子の電圧は0Vとなっています.
温度によって,直線の傾きが変わっていますが,これはOUT端子の電圧がVTに比例しているためです.VTは絶対温度に比例するため,直線の傾きは簡単に補正できます.図4の回路は,OUT端子の電圧から,入力電流の値を求めることができます.そのため,この回路を応用して製品に使用できる回路が構成できます.
●実用的な電流入力対数増幅回路
図6は,図4の回路をベースに,OPアンプ(U2)によるバッファ・アンプを追加し,より具体的に製品に使用できるようにした電流入力対数増幅回路です.出力が2.5Vを基準として動作するように変更してバッファ・アンプを追加し,5V入力のA-Dコンバータと接続しやすくした電流入力対数増幅回路です.図1と同じ回路です.

OUT端子の出力が,2.5Vを基準として出力されるよう,電圧源(VB)でバイアスをかけている.
使用しているOPアンプはオフセット電圧とバイアス電流の小さい,MAX44248です.そして,使用しているトランジスタは,特性のそろったトランジスタが1パッケージに4個搭載された,マッチング・トランジスタのMAT14です(モデルは同一シリーズのMAT02のものを使用).電源電圧は5Vとし,OUT端子の出力が,2.5Vを基準として出力されるよう,電圧源(VB)でバイアスをかけています.
OPアンプ(U2)は,非反転増幅回路を構成しています.そのゲインをGとすると,VOUTは式9で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)ここでは,ゲイン(G)を,入力電流が1桁変化したときに,OUT端子の電圧が1V変化するように設定します.まず,式9の対数の底を10に変換すると,式10になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)ここで「G*VTln(10)=1」となるようにGの値を設定すると,式11になり,IinがI1の10倍になるごとに,VOUTが1V変化するように設定できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)そのときのGの値は,トランジスタの温度(T)を27℃(300K)とすると,式12で計算することができます.
・・・・・・・・・(12)また,Gは式13で表され,図6の定数を代入すると16.8になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)つまり,図6の回路のVOUTは,式11が成立するように設定されていることになります.そのため,Iinが10μAのときのVOUTは式14のように,1.5Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)
●実用的な電流入力対数増幅回路の検証結果
図7は,図6のシミュレーション結果です.出力電圧は0V~5Vの範囲にあり,5V入力のA-Dコンバータに適した出力電圧となっています.

Iinが10μAで27℃のとき,出力電圧は1.5Vとなっている.
Iinが1μAのときのOUT端子の電圧は,基準電圧の2.5Vとなっています.そして,Iinが10μAで27℃のときは,1.5Vとなっており,式14の計算結果と一致しています.
図6の回路の出力電圧は,図7のように温度によって変化します.この温度による電圧変化は,温度情報を元にマイコンで補正できますが,回路的に補正する方法もあります.
●電流入力対数増幅回路の温度特性を補正
図8は,電流入力対数増幅回路の温度特性を,回路的に補正した回路です.

ゲインを設定する抵抗(R3)に,温度係数が+3500ppmの抵抗を使用している.
OPアンプ(U2)のゲインを設定する抵抗(R3)に,温度が高くなると抵抗値が大きくなる,温度係数が+3500ppmの1kΩの抵抗を使用しています.R3に正の温度係数を持つ抵抗を使用することで,式13の分母が高温で大きくなり,ゲイン(G)が高温で小さくなります.そして,対数増幅回路の出力電圧の傾きが高温で大きくなることを打ち消すことができます.
図9は図8のシミュレーション結果です.-40℃~80℃まで温度が変化しても,出力電圧の傾きはほとんど変化していません.

-40℃~80℃まで温度が変化しても,出力電圧の傾きはほとんど変化していない.
以上,電流入力対数増幅回路について解説しました.ここではOPアンプとトランジスタを組み合わせた回路を紹介しました.ADL5304(3)のような専用ICを使用すると,より簡単に高精度な特性を得ることができます.
◆参考・引用*文献
(1) MAX44248データシート:アナログ・デバイセズ
(2) MAT14データシート:アナログ・デバイセズ
(3) ADL5304データシート:アナログ・デバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_026.zip
●データ・ファイル内容
Basic_logAmp.asc:図2の回路
Basic_logAmp.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
logAmp_m.asc:図4の回路
logAmp_m.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
logAmp.asc:図6の回路
logAmp.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
logAmp_CR.asc:図8の回路
logAmp_CR.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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