単一電源の全波整流回路で作る平均値交流電圧計
図1は,5V単一電源で動作する,レール・ツー・レール入出力のOPアンプ(LTC1047)(1)とダイオードで構成した全波整流回路を使用した,平均値交流電圧計の回路図です.
IN端子に測定したい交流信号を入力し,OUT端子の電圧をA-Dコンバータでデジタル化して表示します.
この回路のIN端子に,周波数が1kHzで実効値が1Vrmsの正弦波を加えたとき,OUT端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.

IN端子に,周波数が1kHzで実効値が1Vrmsの正弦波を加えたとき,OUT端子の電圧は?
(a) 0.637V (b) 0.9V (c) 1V (d) 1.41V

レール・ツー・レール(Rail-to-Rail)入出力のOPアンプは,負電源から正電源の範囲の電圧が入力可能で,出力電圧も負電源から正電源までフルスイングできるOPアンプです.全波整流回路のゲインと,正弦波の実効値と平均値の関係から,答えは簡単に求められます.
図1の回路はレール・ツー・レール入出力OPアンプを使用しているため,OPアンプ(U1)は,入力端子がGND電位でも動作します.A点の電圧が負のとき,U1は反転増幅回路として動作し,そのゲインは次式のように1となります.
R2/R1=100k/100k=1
そのため,B点には,A点の電圧を反転した正の電圧が出力されます.A点の電圧が正のときは,A点の電圧がそのままB点に出力されます.その結果,B点にはA点の信号を全波整流したものが出力され,そのゲインも1となります.同じ信号がC点に出力され,R3,C1で平滑された平均値がOUT端子に出力されます.
この回路に1kHzで,1Vrmsの正弦波をIN端子に入力した場合,A点も1Vrmsとなります.1Vrmsの正弦波のピーク値は√2Vなので,C点にはピーク電圧√2Vの全波整流波が出力されます.正弦波の半波の平均値はピーク値に2/πを乗じたものなのでOUT端子に出力される平均値(Vavg)は次式のように0.9Vとなります.
Vavg=√2×2/π=0.9
●レール・ツー・レールOPアンプの種類
データシートにレール・ツー・レールと記載しているOPアンプ製品には,入力のみ対応の「レール・ツー・レール入力」と,出力のみ対応の「レール・ツー・レール出力」,さらに入力/出力ともに対応している「レール・ツー・レール入出力」の3種類があります.
ここでは「レール・ツー・レールではないOPアンプ」と「レール・ツー・レールOPアンプ」の回路の違いについて解説します.
●レール・ツー・レール入力
負電源と同じ電圧から正電源と同じ電圧までの電圧が入力可能なOPアンプが,レール・ツー・レール入力OPアンプです.
▼レール・ツー・レール入力ではないOPアンプの入力回路
図2は,レール・ツー・レール入力ではないOPアンプ内部の簡略化した入力回路の一例です.図2の入力回路が動作するためには,NPNトランジスタのベース・エミッタ間電圧が0.7V,定電流源に0.3V程度の電圧が必要になります.そのため,入力電圧は,負電源よりも1V以上高い電圧にする必要があり,負電源と同じ電圧を入力することはできません.

IN+とIN-の電圧は負電源よりも1V以上高くする必要がある.
図2の入力回路のOPアンプを,負電源端子をGNDに接続した単一電源で使用すると,GND基準の信号の増幅ができません.GND基準の信号を増幅する用途に使用するため,入力電圧範囲を負電源と同じ電圧から正電源と同じ電圧まで広げたレール・ツー・レール入力OPアンプが開発されています.
▼レール・ツー・レール入力OPアンプの入力回路
図3は,レール・ツー・レールOPアンプ内部の簡略化した入力回路の一例です.NPNトランジスタとPNPトランジスタを組み合わせたもので,入力電圧が負電源に近いときはPNPトランジスタ・ペアが動作し,正電源に近いときはNPNトランジスタ・ペアが動作することで,レール・ツー・レール入力を実現することができます.
図3は,バイポーラ・トランジスタで構成していますが,MOSトランジスタを使用したOPアンプでも,PchMOSトランジスタとNchMOSトランジスタを組み合わせて,同様な回路が構成できます.

NPNトランジスタとPNPトランジスタを組み合わせている.
●レール・ツー・レール出力
負電源と同じ電圧から正電源と同じ電圧までの電圧が出力可能なOPアンプが,レール・ツー・レール出力OPアンプです.
▼レール・ツー・レール出力ではないOPアンプの出力回路
図4は,レール・ツー・レール出力ではないOPアンプ内部の簡略化した出力回路の一例です.この回路はエミッタ・フォロア出力となっており,出力トランジスタが動作するために,1.2V~1.4V程度の電圧が必要です.そのため,出力電圧は負電源から正電源までフルスイングすることはできず,出力電圧の最大値は正電源端子の電圧よりも1.2V~1.4V程度低くなり,出力電圧の最小値は負電源端子の電圧よりも,1.2V~1.4V程度高くなります.

出力トランジスタが動作するために,1.2V~1.4V程度の電圧が必要.
電源電圧が低くても,大きな振幅の信号を出力できるように開発されたのが,負電源から正電源まで出力可能な「レール・ツー・レール出力OPアンプ」です.
▼レール・ツー・レール出力OPアンプの出力回路
図5は,レール・ツー・レール出力OPアンプ内部の簡略化した出力回路の一例です.出力トランジスタをコレクタ出力とすることで,トランジスタのベース・エミッタ電圧の影響を受けず,残り電圧を0.1V以下まで小さくすることができます.

コレクタ出力とすることで残り電圧を0.1V以下程度まで小さくできる.
MOSトランジスタで構成したOPアンプの場合は,出力トランジスタをドレイン出力とすることで,同様な効果が得られます.
●単一電源で動作する全波整流回路の動作
図6は,正負電源ではなく,単一電源で動作する全波整流回路です.この回路で使用するOPアンプは,「レール・ツー・レール入出力OPアンプ」を選ぶ必要があります.負電源端子がGNDとなっており,入力電圧がGNDと同じでも動作し,出力電圧をGNDレベルまでフルスイングする必要があるためです.

使用するOPアンプはレール・ツー・レール入出力OPアンプを選ぶ必要がある.
図6の回路は,IN端子の入力信号が正の電圧のときと,負の電圧のときで動作が変わります.入力信号が負の電圧のときは,OPアンプ(U1)は反転アンプとして動作します.このときダイオード(D1)は,順方向となり,OPアンプの出力はD1を介してOUT端子に出力されます.
反転アンプのゲインは,R2/R1となりますが,R1,R2共に100kΩのため,この回路のゲインは1となります.ゲイン1の反転アンプなので,OUT端子には入力信号の極性を反転した正の信号が出力されます.
一方,入力信号が正の電圧の場合は,U1は負の電圧を出力することができないため,反転アンプとしては動作せず,OPアンプの出力(A点)はGNDレベルとなります.その結果,ダイオード(D1)は逆バイアスとなり,動作に影響しなくなります.このとき,OUT端子の電圧はIN端子の電圧と等しい正の電圧となります.このように,入力信号が正でも負でも,OUT端子には正の電圧が出力され,全波整流回路として動作します.
図7は,図6の回路のシミュレーション結果です.入力信号が正のとき,A点の電圧はGNDと同じ電圧となり,OUT端子には入力信号と同じ正の電圧が出力されています.入力信号が負のとき,B点の電圧がGNDと同じ電圧となり,OUT端子には入力信号を反転した,正の電圧が出力されています.その結果,OUT端子に全波整流波形が出力されています.

OUT端子に全波整流波形が出力されている.
●単一電源で動作する平均値出力回路を検証する
図8は,図1と同じ,単一電源で動作する全波整流回路を使用した平均値出力回路をシミュレーションするための回路です.OPアンプはレール・ツー・レール入出力のLTC1047を使用しています.

使用しているOPアンプはレール・ツー・レール入出力のLTC1047.
図6の全波整流回路の後に,ゲイン1のバッファアンプとして動作するOPアンプ(U2)を接続し,U2の出力の全波整流波をR3,C1で構成したローパス・フィルタで平滑して,OUT端子に平均値を出力します.ローパス・フィルタのカットオフ周波数(fCL)は式1のように1.7Hzに設定しています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)Cinは入力の直流カット用コンデンサで,R4はIN端子をGND電位とするためのバイアス抵抗です.CinとR4でハイパス・フィルタを構成しており,カットオフ周波数(fCH)は式2のように,16Hzとなっています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)正弦波のピーク電圧(Vp)と実効値(Vrms)の関係は式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)電圧源(Vin)の出力が1Vrmsとなるよう,Vinのピーク電圧は√2Vとしています.また,正弦波のピーク電圧(Vp)と平均値(Vavg)の関係は式4で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)そのため,IN端子に1Vrmsの正弦波を入力したとき,OUT端子に出力される平均値は式5のように0.9Vと計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)図9は,図8のシミュレーション結果です.上段が0~500msのシミュレーション全体の結果で,下段が最後の5msの部分を表示しています.赤線がOUT端子の電圧で,青線がバッファ・アンプ(U2)の出力であるB点の波形です.
時間軸を拡大した下段を見ると,B点の波形はピーク電圧1.4Vの全波整流波となっていることが分かります.また,上段のOUT端子の波形は時間とともに大きくなり,最終的に892mVになっています.これは,式5で計算した,理論値の0.9Vに近い値となっています.

OUT端子の電圧は理論値の0.9Vに近い892mVとなっている.
以上,単一電源で動作する平均値出力回路について解説しました.図6の全波整流回路は非常にシンプルですが,入力信号の周波数が高くなると,うまく動作しません.入力信号が正の電圧のときに,OPアンプが飽和状態になってしまうためです.このような弱点があることを理解したうえで,使用する必要があります.
◆参考・引用*文献
(1) LTC1047データシート:アナログ・デバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_025.zip
●データ・ファイル内容
SS_full_wave.asc:図6の回路
SS_full_wave.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
SS_full_wave_ACDC.asc:図8の回路
SS_full_wave_ACDC.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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