ピーク検出回路で作るオーディオ用ピーク・レベル・メータ
図1は,OPアンプ(ADA4620)(1)やダイオード,コンデンサで構成したピーク検出回路を使用した,オーディオ用ピーク・レベル・メータの回路図です.この回路のIN端子に1kHz,1VRMSの正弦波を加えたとき,OUT端子の電圧は,(a)~(d)のどれになるでしょうか.

入力(IN端子)に1kHz,1VRMSの正弦波を加えたとき,OUT端子の電圧は?
(a) 0.4V (b) 0.71V (c) 1V (d) 1.41V

まず,図1のピーク検出回路のゲインがいくつになるかを考えます.あとは,正弦波の実効値とピーク値の関係を考えれば,答えは簡単に分かります.
図1のC2とR3は直流カット用のハイパス・フィルタです.C2とR3によるハイパス・フィルタのカットオフ周波数(fC)は次式のように8Hzと低く設定されています.
fC=1/(2π*20k*0.1u)=8Hz
そのため,1kHzの信号は減衰せずに通過し,A点の信号はIN端子と等しいとみなせます.
A点の電圧がOUT端子の電圧よりも大きい場合,2つのOPアンプは,ゲイン1のバッファ・アンプとして動作し,C1を充電します.そのため,OUT端子にはIN端子のピーク電圧が出力されます.1VRMSの正弦波のピーク値は√2V=1.41Vとなるため,OUT端子の電圧は1.41Vとなります.なお,A点の電圧が下がるとD2は逆バイアスとなるため,C1は電圧を保持し,OUT端子にも保持した電圧が出力されます.
●ピーク検出回路とは
ピーク検出回路(ピーク・ホールド回路)は,入力された信号の最大値(ピーク値)を検出し,その値を保持する回路です.応用例として,音声信号の最大レベルを保持し,オーディオ用ピーク・レベル・メータで表示したり,高周波回路で信号を復調(エンベロープ検波)するなどの用途で使用されます.
ピーク検出回路には,さまざまな回路形式があります.ここでは,ダイオードとコンデンサで構成した「正確なピーク電圧は検出できない基本的な回路」からOPアンプを1つ追加し「正確なピーク電圧を検出できるがOPアンプ内部の保護素子に注意が必要な回路」,OPアンプを2つ追加し「正確なピーク電圧を検出でき,OPアンプ内部の保護素子が誤動作しない回路」を紹介します.
●正確なピーク電圧は検出できない基本的な回路
図2は,ダイオードとコンデンサで構成した,最も基本的なピーク検出回路です.

OUT端子の電圧はIN端子のピーク電圧から,D1の順方向電圧を引いたもの.
IN端子に正の電圧が印加されると,ダイオード(D1)が導通し,コンデンサ(C1)を充電します.IN端子の電圧がOUT端子よりも小さくなると,D1は逆バイアスとなるため,C1に蓄えられた電荷がD1によって放電されることはありません.抵抗(R1)はホールド時間を設定するための放電抵抗で,図2の回路の定数は,時定数が1秒となるように設定しています.
この回路は,非常にシンプルに構成できますが,OUT端子の電圧はIN端子のピーク電圧から,D1の順方向電圧を引いたものになります.ダイオードの順方向電圧は温度による変化が比較的大きいため,この回路は,正確にピーク電圧を検出したい用途には向いていません.
図2の回路でIN端子に周波数1kHz,1VRMSの正弦波を入力したときのシミュレーションを行います.1VRMSの正弦波のピーク値は√2Vなので,信号源Vinのパラメータを「SINE(0 {sqrt(2)} 1k)」として,正弦波のピーク値を√2Vとしています.
図3は,図2のダイオードとコンデンサで構成したピーク検出回路のシミュレーション結果です.OUT端子の電圧はIN端子のピーク電圧よりも,0.4V程度小さくなっていることが分かります.

OUT端子の電圧はIN端子のピーク電圧よりも,0.4V程度小さい.
●正確なピーク電圧を検出できるがOPアンプ内部の保護素子に注意が必要な回路
図4は,図2の回路にOPアンプ(U1)を追加したピーク検出回路です.

D1をOPアンプのフィードバック内に入れることで,D1の順方向電圧の影響を無くしている.
ダイオード(D1)をOPアンプのフィードバック内に入れることで,D1の順方向電圧の影響を無くしています.
IN端子の電圧がOUT端子の電圧よりも大きいとき,OPアンプ(U1)はD1と共にゲイン1のバッファ・アンプとして動作し,C1を充電します.
IN端子の電圧がOUT端子の電圧よりも低くなると,U1の出力(O点)は負電源レベルに飽和します.このときD1は逆バイアスとなるため,D1によってC1の電荷が放電されることはありません.
ただし,使用するOPアンプの内部に,入力端子間保護素子(2)が存在する場合は,保護素子を経由してC1が放電してしまうことに注意が必要です.
図5は図4のシミュレーション結果です.

OUT端子の電圧は,IN端子に入力された信号のピーク値と同じ,1.41Vとなっている.
上段が,IN端子とOUT端子の波形です.OUT端子の電圧は,IN端子に入力された信号のピーク値と同じ,1.41Vとなって正確なピーク電圧を検出できています.
下段は,OPアンプ(U1)の入力端子間電圧[V(OUT,IN)]です.入力信号のピーク・ツー・ピーク電圧が印加されるため,OPアンプ内部に入力端子間保護素子が存在する場合は,誤動作する場合があります.
●正確なピーク電圧を検出できOPアンプ内部の保護素子が誤動作しない回路
図6は,図1と同じ回路で,図4のピーク検出回路にバッファ用のOPアンプを追加し,さらにOPアンプの飽和を防ぐための帰還回路を追加した,ピーク検出回路です.

ダイオード(D2)はU1の出力電圧を固定し,OPアンプが飽和動作となるのを防ぐ.
図6のC2とR3は,直流信号をカットするハイパス・フィルタです.そのカットオフ周波数(fC)は,式1のように8Hzとなっています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)OPアンプ(U2)は100%帰還をかけてゲイン1のバッファ・アンプとして使用しています.図4の回路では,C1の電圧を直接U1に帰還していましたが,図6の回路ではバッファ・アンプのU2を介して帰還をかけています.
U1の反転入力端子と出力端子間に接続されているダイオード(D2)は,U1の出力(O点)の電圧をクランプし,OPアンプが飽和動作となるのを防止します.
図6の回路で,IN端子の電圧がOUT端子(C1の電圧)よりも大きい場合,U1とU2はゲイン1のバッファ・アンプとして動作し,IN端子の電圧とOUT端子の電圧が等しくなるよう,C1を充電します.
IN端子の電圧が,OUT端子の電圧よりも低くなると,U1の出力は下がりますが,D2の働きで反転入力端子の電圧から,D2の順方向電圧だけ下がった電圧に固定されます.U1の非反転入力端子の電圧は,帰還ループの働きで,IN端子の電圧と等しくなります.このとき,D1は逆バイアスとなり,D1によってC1の電荷が放電されることはありません.ここで,抵抗(R2)に流れる電流(IR2)は式2で表され,この電流がD2にも流れることになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)図6の回路の場合は,図4とは異なり,OPアンプの非反転入力端子と反転入力端子間の電圧差が発生しないため,入力端子間保護素子を内蔵したOPアンプも使用することができます.
図7が図6のシミュレーション結果です.

OUT端子の電圧は,IN端子に入力された信号のピーク値と同じ,1.41Vとなっている.
上段が,IN端子とOUT端子の波形です.OUT端子の電圧は,図5と同様に,IN端子に入力された信号のピーク値と同じ,1.41Vとなって正確なピーク電圧を検出できています.
下段は,OPアンプ(U1)の入力端子間電圧[V(M,IN)]です.入力端子間電圧は,ほぼ0Vとなっており,OPアンプ内部に入力端子間保護素子が存在しても,誤動作することはありません.
以上,ピーク検出回路について解説しました.図6の回路は,OPアンプ(U1)に容量負荷が接続され,U2を介して負帰還がかかっているため,C1を充電するタイミングで発振することがあります. U1の出力端子を確認して発振していた場合は,R2と並列にコンデンサを接続する等の対策を検討してください.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4620データシート:アナログ・デバイセズ
(2) OPアンプとダイオードで作る電圧リミッタ回路の図5:CQ出版社
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_023.zip
●データ・ファイル内容
Diode_Peak_Det.asc:図2の回路
Diode_Peak_Det.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
OPamp_Peak_Det.asc:図4の回路
OPamp_Peak_Det.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
Peak_Det.asc:図6の回路
Peak_Det.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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