差動増幅回路とひずみゲージで作るキッチン・スケール




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■問題
【 演算回路 計測回路 AD8538 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,2つのOPアンプ(AD8538)(1)を使用した差動増幅回路と,ひずみゲージ注1を使用したキッチン・スケール(はかり)用の重量検出回路です.OUT端子は,マイコンのA-Dコンバータに接続され,マイコンが表示器に重量を表示します.
 図2は,キッチン・スケールの模式図です.受け皿に置かれた物の重量に比例して弾性体がひずみ,そのひずみをひずみゲージで検出します.使用しているひずみゲージの抵抗値は350Ωで,その抵抗値は,重さ1gあたり+0.0008%変化するものとします.
 受け皿の重さが50gで,その受け皿に100gの重りを乗せた場合,OUT端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.
 ただし,受け皿が無いときのひずみゲージの抵抗値は350Ωになっているものとします.

注1:ひずみゲージは,物体のひずみを計測するためのもので,一般的には抵抗線の長さの変化による抵抗値の変化を利用しています(2)


図1 差動増幅回路と,ひずみゲージを使用したキッチン・スケール(はかり)用の重量検出回路
使用しているひずみゲージの抵抗値は350Ωで,抵抗値は,1gあたり+0.0008%変化する.



図2 キッチン・スケールの模式図(3)
重りの重量に比例して弾性体がひずみ,そのひずみをひずみゲージで検出する.

(a) 75mV (b) 100mV (c) 150mV (d) 200mV

■ヒント

 まず,受け皿と重りによる,ひずみゲージの抵抗値の変化量を計算します.次にO1端子とO2端子の差電圧がいくつなるかを求めます.求めた差電圧に差動増幅回路のゲインを掛ければ,OUT端子の電圧が計算できます.

■解答


(c) 150mV

 ひずみゲージの抵抗値は350Ωで,1gあたり+0.0008%変化することから,受け皿と重りによる,ひずみゲージの抵抗値の変化量ΔRは,次式で計算できます.

  ΔR=350*(50+100)*0.000008=0.42

 ΔRが0.42Ωのときの,O1端子とO2端子の差電圧(VO)は次のように1.5mVになります.

  VO=ΔR*5/(4*350)=0.42*5/(4*350)=1.5mV

 O1端子とO2端子の差電圧に対するゲイン(G)は次のように100倍になります.

  G=(1+R1/R2)=(1+99k/1k)=100倍

 OUT端子の電圧は,VOとGを掛けたものなので「1.5mV*100=150mV」となります.

■解説

●ひずみゲージとは
 物体に力が加わると,その力に比例して物体が伸びたり縮んだりして変形します.このような変形をひずみと呼びますが,そのひずみの量を電気的に検出するセンサが,ひずみゲージです.
 金属線に伸張方向の力が加わると,断面積が小さくなり,長さが長くなるため,抵抗値が大きくなります.逆に,金属線に伸縮方向の力が加わると,断面積が大きくなり,長さが短くなるため,抵抗値が小さくなります.
 一般的なひずみゲージは,この金属線の抵抗値の変化を利用しています.ひずみゲージを物体と密着させることで,物体の伸縮を検出することができます.

●ブリッジ回路によるひずみ測定
 ひずみゲージの抵抗値変化は非常に小さいため,ひずみゲージを使用したひずみ量測定には,図3のようなブリッジ回路が使用されます.


図3 ブリッジ回路を使用したひずみ量検出回路
ひずみが発生していないときの出力電圧が0Vとなる.

 O1端子とO2端子の差電圧を出力電圧として使用します.ブリッジ回路を使用することで,ひずみが発生していないときの出力電圧が0Vとなり,ひずみゲージの抵抗値の変化を精度よく検出することができます.
 図3の回路で,O1端子の電圧(VO1)は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 O2端子の電圧(VO2)は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 O1端子とO2端子の差電圧(VO)は式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 ここで,R1=R2=R3=R,RSGの初期値=Rとします.すると式4のようにVOは0Vになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 次に,RSGがΔRだけ変化したときの出力電圧を計算すると,式5のようになります.

・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 ここで,ひずみゲージの抵抗変化(ΔR)は非常に小さいため「R+ΔR/2≒R」と近似すると式6のようにシンプルな式とすることができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

●1つのOPアンプで構成した一般的な差動増幅回路
 差動増幅回路としては,抵抗と1つのOPアンプで構成した,図4の回路が広く使われています.


図4 抵抗と1つのOPアンプで構成した差動増幅回路
IN1端子の入力インピーダンスは(R3+R4)となり,IN2端子の入力インピーダンスはR1となる.

 この回路のIN1端子の入力インピーダンスは(R3+R4)となり,IN2端子の入力インピーダンスはR1となります.そのため,この回路は入力インピーダンスをあまり大きくすることができません.

●2つのOPアンプで構成した入力インピーダンスの大きな差動増幅回路
 図5は,2つのOPアンプと抵抗を使用した,入力インピーダンスの大きな差動増幅回路です.


図5 2つのOPアンプと抵抗を使用した,入力インピーダンスの大きな差動増幅回路
IN1端子およびIN2端子はOPアンプの非反転入力端子に接続されている.

 図5は,IN1端子およびIN2端子はOPアンプの非反転入力端子に接続されています.そのため,入力インピーダンスはOPアンプの入力インピーダンスと同じになり,非常に大きくなります.
 V1,V2が入力されたときの,図5の回路の出力電圧を求めてみます.まず,V2を0Vとし,V1のみ入力されたときの出力電圧(VOUT1)を求めます.V2が0Vのため,OPアンプU1の出力も0Vとなり,A点はGNDとみなすことができます.そのため,OPアンプU2は非反転増幅回路として動作し,その出力電圧は式7のようになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 次に,V1を0VとしV2のみ入力されたときの出力電圧(VOUT2)を求めます.このとき,OPアンプU1は非反転増幅回路として動作します.そして,V1が0Vのため,OPアンプU2は反転増幅回路として動作します.そのため,その出力電圧は式8のようになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 V1とV2が両方とも入力された場合の出力電圧(VOUT)は,式7と式8を足したもので,式9のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 ここで,式10が成立するように抵抗値を選択します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

 そうすると式9は式11のように簡略化できます.

・・・・(11)

 つまり,V1とV2の差電圧に対するゲイン(G)は,式12のように表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)

●100gの重りを乗せたときのOUT端子の電圧を計算する
 ここでは,図1の回路で,100gの重りを乗せた場合の出力電圧を計算してみます.
 まず,50gの受け皿と100gの重りによる,ひずみゲージの抵抗値の変化量(ΔR)を求めます.
 問題文から,このひずみゲージは1gあたり+0.0008%抵抗値が変化するため,ΔRは式13のように,0.42Ωと計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)

 このとき,O1端子とO2端子の差電圧(VO)は式6を使用して,式14のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)

 次に,VOを増幅する差動増幅回路のゲインは,式12を使用して式15のように100倍になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(15)

 出力電圧(VOUT)は,式14,式15より「1.5mV*100=150mV」となります.

●ひずみゲージを使用した重量検出回路を検証する
 図6は,ひずみゲージを使用した重量検出回路を検証するための回路です.


図6 ひずみゲージを使用した重量検出回路をシミュレーションする回路
重りの重さを0gから500gまで10gステップで変化させるシミュレーションを行う.

 RSGがひずみゲージに相当する抵抗で,その抵抗値はRGという変数になっています.RGの値は「350*(1+8u*(W+50))」という数式とし,重りの重さを表すWという変数を使用して,1gあたり0.0008%抵抗値が変化するようになっています.そして,「.step」コマンドを使用して,重りの重さを0gから500gまで10gステップで変化させるシミュレーションを行います.
 図7図6のシミュレーション結果です.横軸が重りの重さに相当する変数のWで,縦軸がOUT端子の電圧です.重りの重さが100gのとき,OUT端子の電圧は150mVとなっていることが分かります.


図7 ひずみゲージを使用した重量検出回路のシミュレーション結果
重りの重さが100gのとき,OUT端子の電圧は150mVとなっている.

 以上,ひずみゲージを使用した重量検出回路について解説しました.今回紹介した回路は,ひずみゲージを1つだけ使用したものですが,互いに逆方向にひずみが発生する位置に取り付けた2つのひずみゲージを使用したものや,4つのひずみゲージを使用した回路も多く使われています.

◆参考・引用*文献
(1) AD8538データシート:アナログデバイセズ
(2) ひずみゲージとは:ミネベアミツミ
(3) はかりの基礎知識:はかり商店


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_016.zip

●データ・ファイル内容
kcn_scale.asc:図6の回路
kcn_scale.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
res_diag.asy:斜め配置抵抗のシンボル・ファイル

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