差動変換回路で作るオーディオ用バランス型ドライバ




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■問題
【 演算回路 オーディオ回路 ADA8512 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,2つのOPアンプ(ADA8512)(1)で構成した,差動変換回路を使用した,オーディオ用バランス型ドライバ回路です.
 IN端子に入力された単一信号(アンバランス信号)を,正相と逆相のバランス信号に変換して,XLRコネクタ(2)のHot端子とCold端子に出力します.
 この回路のIN端子にピーク電圧0.5V,1kHzの正弦波を入力したとき,Hot端子とCold端子の差電圧波形のピーク電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.


図1 差動変換回路を使用した,オーディオ用バランス型ドライバ回路
IN端子にピーク電圧0.5V,1kHzの正弦波を入力したとき,Hot端子とCold端子の差電圧は?

(a) 0.25V (b) 0.5V (c) 1V (d) 2V

■ヒント

 2つのOPアンプは,反転増幅回路と非反転増幅回路として動作します.OPアンプが正常に動作しているとき,非反転入力端子と反転入力端子の電圧が等しいことを考慮して,それぞれの増幅回路のゲインを計算すれば,出力電圧は簡単に計算できます.

■解答


(d) 2V

 OPアンプの非反転入力端子と反転入力端子の電圧は等しくなります.このことから,図1のA点の電圧はIN端子と同じです.同様にB点の電圧はGNDと同じ電圧になります.
 B点はGNDとみなせるため,OPアンプ(U2)は非反転増幅回路として動作し,そのゲインは「(R1+R2)/R2=2倍」となります.また,A点の電圧はIN端子と同じため,OPアンプ(U1)は反転増幅回路として動作し,そのゲインは「R3/R2=2倍」となります.
 入力のピーク電圧が0.5Vなので,Hot端子とCold端子のピーク電圧は,それぞれ,2倍の1Vになります.Hot端子とCold端子は互いに逆位相なので,その差電圧のピーク電圧は2Vとなります.

■解説

●単一信号を差動信号に変換する
 オーディオ信号をバランス伝送するためには,単一信号(アンバランス信号)を正相と逆相の差動信号(バランス信号)に変換する必要があります.
 単一信号を差動信号に変換する回路はいろいろな方式があります.ここでは,シンプルな非反転増幅回路と反転増幅回路を使用した2つの方式を紹介します.

●非反転増幅回路と反転増幅回路を使用した差動変換回路
 図2は,非反転増幅回路と反転増幅回路を使用した差動変換回路です.OPアンプ(U1)は,反転増幅回路として動作します.OPアンプ(U2)は,非反転増幅回路として動作します.


図2 非反転増幅回路と反転増幅回路を使用した差動変換回路
Hot端子とCold端子には互いに逆位相な信号が出力される.

 そのため,Hot端子とCold端子には互いに逆位相な信号が出力されます.IN端子からCold端子までのゲイン(GC)は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 IN端子からHot端子までのゲイン(GH)は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 図2の定数の場合は,GC,GHともに2倍になります.また,この回路の入力インピーダンスはR4と同じ値になります.

●入力インピーダンスの大きい差動変換回路
 図2の回路は,R4で入力インピーダンスが決まるため,入力インピーダンスをあまり大きくすることができません.図3は,入力インピーダンスが大きくなるように,図2の回路を改良したもので,図1の回路と同じものです.


図3 入力インピーダンスの大きい差動変換回路
OPアンプ(U2)は非反転増幅回路として動作し,OPアンプ(U1)は反転増幅回路として動作する.

 非反転増幅回路をバッファとして使用し,図2のR4を削除し,R2がR4の役割も兼ねた回路となっています.IN端子には,OPアンプ(U2)の非反転入力端子のみが接続されています.そのため,この回路の入力インピーダンスは,OPアンプの入力インピーダンスと同じで,非常に大きな値となります.
 図3は,OPアンプが正常に動作しているとき,非反転入力端子と反転入力端子の電圧は,ほぼ等しくなるという特性を利用しています.図3の回路において,A点の電圧は,IN端子の電圧と等しくなります.また,B点の電圧はGNDと等しいとみなすことができます.B点をGNDとみなすと,R2はU2の反転入力端子とGNDに接続されていることになります.そのため,OPアンプ(U2)は非反転増幅回路として動作し,IN端子からHot端子までのゲイン(GH)は,式3で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 また,A点の電圧がIN端子の電圧と等しいことから,OPアンプ(U1)は反転増幅回路として動作します.そして,IN端子からCold端子までのゲイン(GC)は式4で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

●差動変換回路の出力電圧を計算する
 ここでは,図3のIN端子にピーク電圧0.5V,1kHzの正弦波を入力したときの,Hot端子とCold端子の差電圧を計算してみます.IN端子の電圧をVINとすると,Hot端子の電圧VHは式3を使用して式5のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 Cold端子の電圧(VC)は式4を使用して式6のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 Hot端子とCold端子の差電圧(VHC)は,式5,式6を使用して式7のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・(7)

 式7に図3の定数とピーク電圧値を代入すると,式8のように,Hot端子とCold端子の差電圧(VHC)は2Vと計算できます.

・・・・・・・・・・・・・(8)

●2つのOPアンプで構成した差動変換回路を検証する
 図4は,図1の2つのOPアンプで構成した差動変換回路をシミュレーションするための回路です.IN端子に,ピーク電圧0.5V,1kHzの正弦波を入力し,Hot端子とCold端子の出力波形を調べます.


図4 2つのOPアンプで構成した差動変換回路をシミュレーションするための回路
IN端子に,ピーク電圧0.5V,1kHzの正弦波を入力し,Hot端子とCold端子の出力波形を調べる.

 図5は,図4のシミュレーション結果です.


図5 2つのOPアンプで構成した差動変換回路のシミュレーション結果
Hot端子とCold端子の差電圧の波形のピーク電圧は2Vとなっている.

 上段がHot端子とCold端子の出力波形です.ピーク電圧1Vで互いに逆位相になっていることがわかります.
 下段がHot端子とCold端子の差電圧の波形です.ピーク電圧は2Vとなっています.

 以上,オーディオ用バランス型ドライバとして使用できる,差動変換回路について解説しました.この差動変換回路をオーディオ用パワー・アンプに応用すると,低い電源電圧でも大きな出力が得られる,BTLパワーアンプ(3)が構成できます.

◆参考・引用*文献
(1) ADA8512データシート:アナログデバイセズ
(2) 差動増幅回路で作るオーディオ用バランス型レシーバ――LTspiceで学ぶカテゴリ/応用分野別OPアンプ回路46選:CQ出版社
(3) 大きな音が出るパワー・アンプ回路はどっち?――LTspice電子回路マラソン:CQ出版社


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_015.zip

●データ・ファイル内容
U2B_amp.asc:図3の回路
U2B_amp.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settingsファイル

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