反転増幅回路とフォト・ダイオードで作る照度計
図1は,OPアンプ(ADA4522)(1)を使用した反転増幅回路とフォト・ダイオード(S16839-01MS)で構成した照度計です.OPアンプの出力(OUT)は,マイコンのA-Dコンバータに接続されています.S16839-01MSに,100lx(ルクス)の光を照射したときの短絡電流は,0.43μA(2)です.このフォト・ダイオードに,1000lxの光を照射した場合,OUT端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.

フォト・ダイオードに,1000lxの光を照射したとき,OUT端子の電圧は?
(a) -4.3V (b) -3.6V (c) 3.6V (d) 4.3V

まず,フォト・ダイオードに光を照射したときに,電流がどのような向きに流れるかを考えます.また,フォト・ダイオードは,光の強度に対する短絡電流注1の直線性が非常に優れているため,100lx注2のときの短絡電流が分かれば,1000lxのときの短絡電流は簡単に計算できます.その短絡電流からOUT端子の電圧が計算できます.
注2:ルクス(lux:lx)とは,明るさを表す指標で,数値が大きいほど明るくなります
フォト・ダイオードに光が当たると,カソードに電流が流れ込む方向に電流が流れます.その電流は,OUT端子からフォト・ダイオードに向かって,(R1)に流れます.そのためOUT端子には正の電圧が発生します.
問題文のフォト・ダイオードは,100lxのときの短絡電流が0.43μAなので,1000lxでは10倍の4.3μAになります.その電流を使用して,OUT端子の電圧は「4.3μA*1000kΩ=4.3V」と計算できます.
●フォト・ダイオードの等価回路と特性
図2は,最もシンプルなフォト・ダイオードの等価回路です.ダイオードと並列に定電流源(IL)が接続されており,定電流源の電流値(IL)は,照射される光の強さに比例します.

定電流源の電流値は,照射される光の強さに比例する.
●フォト・ダイオードの順方向電圧特性を検証
図3は,図2の等価回路をシミュレーションする回路です.フォト・ダイオードに,順方向電圧を印加したときの特性をシミュレーションします.照射光の強さに比例する定電流源の電流(IL)をパラメータとして1μAステップで変化させ,VBを0mV~520mV(0V~0.52V)まで,10mVステップで変化させます.

定電流源の電流(IL)をパラメータとして,VBを0Vから0.52Vまで10mVステップで変化させる.
図4は,図3のシミュレーション結果です.縦軸がVBに流れる電流で,横軸がVBの電圧です.VBの+端子から流れ出す電流をプロットしています.

光が照射されると,電圧電流の特性のカーブは下方向に平行移動する.
0μAの青い線は,光が照射されていないときの特性です.光が照射されていない場合,通常のダイオードの電圧電流の特性と同じです.
光が照射されると電圧電流の特性のカーブは,光の強さに比例し,下方向に平行移動します.
VBが0Vのときは,光の照射量に比例した電流が,VBに流れ込んでいます.VBが0Vの時の電流をフォト・ダイオードの短絡電流と呼びます.
フォト・ダイオードの短絡電流は,照射された光の強さに比例し,直線性(リニアリティ)が非常に優れています.
●フォト・ダイオードの開放電圧特性を検証
図5は,フォト・ダイオードの開放電圧をシミュレーションする回路です.フォト・ダイオードの開放電圧とは,フォト・ダイオードに光を照射したときに,電流を流さずに(開放状態で)発生する電圧です.定電流源の電流値(IL)は,照度に相当するLXという変数に係数を掛けたものとし,LXを0から1000まで変化させたときの開放電圧をシミュレーションします.

定電流源(IL)の値は,照度に相当するLXという変数に係数を掛けたものとしている.
図6は,図5のシミュレーション結果で,アノード(A点)の開放電圧をプロットしています.図6の横軸は,照度に相当する変数のLXで,縦軸が電圧です.

フォト・ダイオードの開放電圧は,照度に対して対数的な変化となっている.
図6のグラフがフォト・ダイオードの開放電圧ですが,照度に対して直線的ではなく,対数的な変化となっています.また,温度係数がかなり大きいため,照度計などに利用することは適切ではありません.
●反転増幅回路で直線性のある電流をそのまま電圧に変換
図6で解説したように,フォト・ダイオードの開放電圧は,対数的な変化なので照度計には利用できません.そこで,光量に対する直線性が非常に優れている,フォト・ダイオードの短絡電流を電圧に変換する回路を解説します.
図7は,フォト・ダイオードの短絡電流の直線性を維持したまま,電圧に変換するOPアンプを使用した反転増幅回路です.

フォト・ダイオードのアノードとカソード間の電圧は0Vになる.
図7のフォト・ダイオードのアノードは,OPアンプ(U1)の反転入力端子(A点)に接続されています.A点の電圧はGND電圧と同じため,フォト・ダイオードのアノードとカソード間の電圧は0Vになります.そして,フォト・ダイオードの短絡電流(IL)は,そのまま(R1)に流れます.そのため,OPアンプの出力(OUT)の電圧は,式1で表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)OUT端子の電圧は,光の強さに正確に比例するため,この電圧を使用して高精度な照度計を構成することができます.問題文のフォト・ダイオードは,100lxのときの短絡電流(IL)が0.43μAなので,1000lxでは10倍の4.3μAになります.そして(R1)が1000kΩなので,1000lxのときのOUT端子の電圧は式2のように,4.3Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
●フォト・ダイオードと反転増幅回路で構成した照度計の検証
図8は,図1のフォト・ダイオードと反転増幅回路で構成した照度計をシミュレーションする回路です.フォト・ダイオードは,図5と同じ等価回路としています.使用しているOPアンプは,入力バイアス電流が小さく,オフセット電圧が非常に小さい「ADA4522」です.

OPアンプは,入力バイアス電流が小さく,オフセット電圧が非常に小さい「ADA4522」
図9は,図8のシミュレーション結果です.横軸は照度に相当する変数のLXで,OUT端子の電圧をプロットしています.OUT端子の電圧は照度に比例して直線的に変化しており,1000lxのときの電圧は式2と同じ4.3Vとなっています.

OUT端子の電圧は照度に比例して直線的に変化している.
以上,フォト・ダイオードと反転増幅回路で構成した照度計について解説しました.今回紹介したOPアンプ回路は,トランス・インピーダンス・アンプ(Transimpedance Amplifier :TIA)とも呼ばれ,電流信号を電圧信号に変換する用途で,広く使われています.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4522データシート:アナログデバイセズ
(2) S16839-01MSデータシート(P1 電気的および光学的特性):浜松ホトニクス
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_007.zip
●データ・ファイル内容
PD_VI.asc:図3の回路
PD_VI.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
PD_Open.asc:図5の回路
PD_Open.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
illuminance_m.asc:図8の回路
illuminance_m.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settingsファイル
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