OPアンプと乾電池2本で作るヘッドホン・アンプ




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■問題
【 基本増幅回路 オーディオ回路 AD8606 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,OPアンプ(AD8606)を非反転増幅回路として使用したヘッドホン・アンプの回路です.乾電池2本(V1,V2)を電源として,32Ωのヘッドホン(RL)が接続されています. 入力(IN端子)に50mVRMSで1kHzの正弦波を加えると,OUT端子にも正弦波が出力されました.このとき,RLで発生する電力は(a)~(d)のどれでしょうか.



図1 OPアンプと乾電池2本を電源としたヘッドホン・アンプ
入力(IN端子)に50mVRMSで1kHzの正弦波を加えたとき,RLで発生する電力は?

(a) 3.9mW (b) 7.8mW (c) 11.8mW (d) 15.6mW

■ヒント

 図1の回路は,OPアンプを非反転増幅回路として使用しています.非反転増幅回路のゲインから,OUT端子の信号の大きさを計算すれば,RLで発生する電力が分かります.

■解答


(b) 7.8mW

 図1は,非反転増幅回路となっているため,ゲイン(G)は次式で計算できます.
G=(R1+R2)/R2=(2k+18k)/2k=10
 そのため,OUT端子の出力電圧(VOUT)は次式になります.
VOUT=50mVRMS*10=500mVRMS
 このときRLで発生する電力(PL)は,次式で7.8mWとなります.
PL=(VOUT)2/RL=(500m)2/32=7.8m

■解説

●非反転増幅回路はOPアンプ応用回路の基本
 図2は,OPアンプ応用回路の中でもっともよく使われる,非反転増幅回路です.OPアンプは,非常にゲインが大きいため,通常は負帰還をかけて使用します.図2では,R1,R2により負帰還がかけられています.


図2 OPアンプ応用回路の中でもっともよく使われる非反転増幅回路
R1,R2により負帰還がかけられている.

 図2の回路の,IN端子からOUT端子までのゲイン(G)を求めてみます.まず,OPアンプは「+入力端子」と「-入力端子」の差電圧をA倍するものとします.そしてIN端子の電圧をVIN,OUT端子の電圧をVOUTとし,NF端子の電圧をVNFとします.VNFはVOUTをR1とR2で分圧したものなので,式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 VOUTは「+入力端子」と「-入力端子」の差電圧をA倍したものなので,式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2のVNFに式1を代入してVOUTについて解くと,式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 ここで,OPアンプのゲインが十分に大きく,無限大とみなすと,式3は式4のように近似できます.

・・・・・・・(4)

 式4から,IN端子からOUT端子までのゲイン(G)は式5となることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

●OPアンプは正負電源で使用するのが基本
 図2の回路では,OPアンプの電源端子が省略されています.この場合,OPアンプは,正負電源で駆動されており,OUT端子は正負の電圧を出力することができるものと考えます.OPアンプを単電源(正電源)だけで使用した場合は,負の電圧を出力することができません.
 正負電源を作る方法は,いろいろありますが,図3のように乾電池を直列に接続し,中間点をGNDとすることで,正負電源として使用することができます.

図3 乾電池を使用したヘッドホン・アンプ
乾電池を直列に接続し,中間点をGNDとすることで,正負電源として使用する.

 図3の回路では無信号時に,OUT端子の電圧はGNDと同じになるため,ヘッドホン(RL)は,OUT端子とGND間に直結することができます.
 C1は,入力に直流電圧が印加されるのを防ぐためのもので,R3と共に,ハイパス・フィルターを構成しています.そのカットオフ周波数(fC)は式6のように15Hzとなっています.

・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

●出力と音量
 スマホやポータブル・オーディオ・プレーヤーなどで使われるイヤホンやヘッドホンの多くは,公称インピーダンスが,16Ω~32Ωとなっています.そのヘッドホンに,ヘッドホン・アンプの出力電圧を加えることで,音が発生します.このとき,ヘッドホンが消費する電力が同じでも,発生する音の大きさは,製品によって大きく異なります.入力された電力に対し,どのくらいの大きさの音が発生するかを表す仕様が音圧感度です.
 一般的な製品の音圧感度は,95dBSPL/mW~115dBSPL/mWとなっています.なお,dBSPL(dB Sound Pressure Level)という単位は,人間が聞こえる最小の音圧を基準の0dBとして定義されたものです.

●RLの電力を計算する
 ここでは,問題文にある,図1のRLで発生する電力を計算してみます.図1の回路のゲインは,式5より,10倍となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 入力に50mVRMSの信号を加えたときの出力電圧(VOUT)は式8のよううに500mVRMSです.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 このときRLで発生する電力(PL)は,式9で計算することができ,7.8mWになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 7.8mWという電力でどのくらいの音量になるのかを確かめるため,音圧の一例を計算します.音圧感度が100dBSPL/mWのヘッドホンに,7.8mWの電力を入力した場合,音圧は次のように計算します.まず,式10のように,7.8mWと1mW電力の比をデシベル(ΔdB)に変換します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

 7.8mWのときの音圧は,1mWのときの音圧よりも8.9dB大きくなります.そのため,音圧感度の100dBSPLと8.9dBを足した108.9dBSPLが,7.8mWの電力を入力したときの音圧になります.近距離で鳴った自動車のクラクションの音圧が110BSPLといわれているため,108.9dBSPLは,かなり大きな音量と言えます.

●ヘッドホン・アンプを確認する
 図4は,OPアンプを非反転増幅回路として使用した,ヘッドホン・アンプをシミュレーションするための回路です.


図4 OPアンプを非反転増幅回路として使用したヘッドホン・アンプ
VINは1kHzの正弦波で,ピーク値は(50m*1.41)Vとして50mVRMSとしている.

 ここで使用しているOPアンプは,最低動作電圧が3V以下,出力がフル・スイングできるレール・ツー・レール出力で,出力電流が50mA以上,という条件にマッチしたAD8606です.VINは1kHzの正弦波で,ピーク値は(50m*1.41)Vとして50mVRMSとなるようにしています.この回路でAC解析とトランジェント解析を行います.
 図5は,図4のAC解析の結果です.ゲインは20dBで,式7で計算した10倍(20dB)と同じになっています.


図5 OPアンプを非反転増幅回路として使用した,ヘッドホン・アンプの周波数特性
ゲインは20dBで,式7で計算した10倍(20dB)と同じになっている.

 図6は,図4のトランジェント解析の結果です.


図6 ヘッドホン・アンプのトランジェント解析結果
RLで発生する電力の平均値は7.8mWとなっておりり,式9の計算結果と一致している.

 上段がOUT端子の波形で,下段がRLで発生する瞬時電力の波形です.LTspiceでは,素子上で[Alt]キーを押しながらマウスをクリックすると,その素子の電力波形を表示することができます.さらに,「V(out)*I(RL)」の上にマウス・カーソルを合わせ,「Ctrl]キーを押しながらマウスクリックすると,平均値を表示することができます.図6ではRLで発生する電力の平均値は7.8mWとなっており,式9の計算結果と一致しています.

 以上,OPアンプを非反転増幅回路として使用した,ヘッドホン・アンプについて解説しました.非反転増幅回路は入力インピーダンスが高く,使い勝手がよいため,OPアンプを使用した増幅回路としては最も多く使用されます.抵抗(R1,R2)を使用せず,出力と「-入力端子」を直結したものはゲイン1のバッファ回路として使用できます.

◆参考・引用*文献
(1)AD8606データシート:アナログデバイセズ


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice12_001.zip

●データ・ファイル内容
HP_AMP.asc:図4の回路
HP_AMP.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
HP_AMP._TRAN.asc:図6をシミュレーションするための回路
HP_AMP._TRAN.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

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