コンピュータ・システムの電流モニタ




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■問題
【 LT9890 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,Intel Psysアプリケーション向け電流モニタIC(LT9890)の使用例です.LT9880はIntel Psysの一部として働き,IM端子に流れる電流をモニタして,比例した電流をIOUT端子(ISYS)から出力し,コントローラに電流の計測値を伝えます.
 IC内部の抵抗(RS)が150μΩ,RGが3.99Ωで,IOUT端子に接続した抵抗(ROUT)の値が200Ωです.
 IM端子に流れる電流が100Aのとき,ROUTに発生する電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.



図1 Intel Psysアプリケーション向け電流モニタIC(LT9890)の使用例(1)
IM端子に流れる電流が100Aのとき,ROUTに発生する電圧は?

(a) 376mV (b) 752mV (c) 1.13V (d) 1.69V

■ヒント

 Intel Psys(Platform Power)は,インテルが策定した,コンピュータ・システム全体の電力消費を監視・制御するための技術です.LT9890は,システム全体の電流を検出するために使用されます.OPアンプは,反転入力端子と非反転入力端子の電圧が等しくなるように動作することを考えれば,簡単に計算できます.

■解答


(b) 752mV

 OPアンプは,抵抗RSとRGの電圧降下が等しくなるように,M1のゲート電圧を制御します.RSとRGの電圧降下が等しいので,M1の電流をIOUTとすると次式なります.

 ILoad*RS=IOUT*RG

 この式からIOUTを求め,さらにROUTの電圧(VROUT)を求めると次式のように752mVとなります.

 VROUT=IOUT*ROUT=ILoad*RS*ROUT/RG=100*150μ*200/3.99=0.752

■解説

●Intel Psysとは
 Psysは,「Platform Power」の略称です(2).CPU単体ではなく,コンピュータ・システム全体の電力消費を監視・制御するための技術です.
 「VR14」と呼ばれる,ボルテージ・レギュレータ・コントローラが,システムに供給される入力電圧(VSYS)と入力電流(ISYS)からシステムの電力を計算します.

●消費電流情報を電流で出力
 図2は,LT9890の電流モニタ回路の動作を解析するための回路図です.図1の回路図に電流の流れを追記したものです.LT9890は,コンピュータ・システム全体の消費電流情報を,電流出力としてIOUT端子から出力します.


図2 LT9890の電流モニタ回路の動作を解析するための回路
U1はA点の電圧とB点の電圧が等しくなるように,M1のゲート電圧をコントロールする.

 電圧出力ではなく,電流出力とすることで,電流情報を必要とするコントローラとの距離が離れていても,GND電位の違いやノイズの影響を受けにくくなります.
 IM端子にはシステム全体の電流(ILoad)が流れます.LT9890には最大150Aの電流を流すことができます.流れる電流が非常に大きいため,電流を検出するための抵抗(RS)の値は150μΩと極端に小さな値となっています.
 RSの値が小さいため,150Aの電流が流れても,発生する電圧降下は22.5mVと小さく,電圧ロスや,無駄な電力消費を小さくすることができます.
 OPアンプ(U1)は,A点の電圧とB点の電圧が等しくなるように,Pch MOSトランジスタ(M1)のゲート電圧をコントロールします.
 RSの電圧降下よりも,RGの電圧降下が小さい場合,B点の電圧がA点の電圧よりも大きくなります.すると,U1の出力電圧が下がり,M1のゲート電圧が下がることでM1の電流が増え,B点の電圧がA点と同じになるように制御されます.
 図2の回路は,RSの電圧降下と,RGの電圧降下が等しくなるように制御するため,式1が成立します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式をIOUTについて解くと,式2が得られます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 つまり,IOUTはILoadの1/26600になります.ILoadが100Aのとき,ROUTに発生する電圧は式3のように752mVとなります.

・・・・・・・・・・(3)

●動作原理を確認する
 図3は,LT9890の動作原理をシミュレーションで確認するための回路図です.LT9890には,銅配線を使用した検出抵抗(RS)の,理想抵抗とのずれを補正する回路等が内蔵されていますが,図3は原理検証のみを目的とした回路になっています.ILoadの値を0~150Aまで変化させ,ROUTの電圧降下をシミュレーションします.


図3 LT9890の動作原理をシミュレーションで確認するための回路
ILoadの値を0~150Aまで変化させ,ROUTの電圧降下をシミュレーションする.

 図4図3のシミュレーション結果です.ROUTの電圧降下(V(ISYS))は,ILoadの電流値に比例しており,ILoadが100Aのとき,752mVとなっています.


図4 LT9890動作原理検証回路のシミュレーション結果
ILoadの電流が100Aの特,ROUTの電圧降下(V(ISYS))は752mVとなっている.

●応答特性をシミュレーションする
 図5は,LTspiceに登録されているLT9890のモデルを使用した,応答特性をシミュレーションするための回路です.
 ILoadが50Aから100Aに急変したときに,ROUTに発生する電圧がどのように変化するのかをシミュレーションします.


図5 LT9890の応答特性をシミュレーションするための回路
ILoadを50Aから100Aに急変させ,ROUTに発生する電圧変化を調べる.

 図6は,図5のシミュレーション結果です.IOUT端子の電圧は,ILoadが変化してから,0.2μs以内で最終値となっています.


図6 LT9890の応答特性のシミュレーション結果
ISYS端子の電圧は,ILoadをが変化してから,0.2μs以内で最終値となっている.

 以上.電流モニタIC(LT9890)について解説しました. LT9890の具体的な使用方法に関しては,LT9890のデータシートを参照してください.

◆参考・引用*文献
(1)LT9890データシート:アナログデバイセズ
(2)Platform Power Control:インテル


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_045.zip

●データ・ファイル内容
LT9890_CM.asc:図3の回路
LT9890_CM.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT9890.asc:図3の回路
LT9890.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

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