スマート・ホーム向け共通通信規格「Matter」の概要


写真1 Wi-Fi6/Bluetooth/IEEE 802.15.4による通信をサポートする開発ボードFRDM-RW612


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井田 健太 Kenta Ida

 Matter はConnectivity Standards Alliance (CSA) が策定・管理している,スマート・ホーム向けの共通通信規格です.
 スマート・ホーム向けのデバイスは,ユーザの操作を受け付けてデバイスを操作する機能や,1つ以上のデバイスの機能を組み合わせて自動的にデバイスを制御する機能が必要となります.
 こういった制御機能は,デバイス本体に実装される場合や,インターネット経由で接続したサーバに実装される場合など様々な構成が考えられます.
 執筆時点でスマート・ホームの制御機能を実装しているものとして最も普及しているものとしては,Amazon, Google, Appleなどの各社が販売しているスマート・スピーカがあります.
 これらのスマート・スピーカを含む,スマート・ホーム向けデバイスの制御の中心となるコントローラ・デバイスと各種スマート・ホームに必要な機能を提供するデバイスの間の通信方法は,主にコントローラ・デバイスの販売者が定義している各種Web API経由での通信が必要な物がほとんどです[図1(a)].
 またAPIの仕様は各社が独自で決めたものであり,スマート・ホーム・デバイスをこれらのコントローラ・デバイスで制御するためには,それぞれのAPI仕様に基づいた通信処理の実装が必要です.
 こういった状況を解決するために,共通の通信規格としてMatterが策定されました[図1(b)].



(a)従来…各社が独自で決めたAPIで通信



(b)Matterなら互換性を気にせず通信できる

図1 Matterはスマート・ホームにおける共通の通信規格として策定された

■Matterの特徴

 Matterの最も重要な特徴は,インターネット接続を経由しない,ローカル・ネットワーク内でのスマート・ホーム・デバイス間の通信規格であるという点です.
 従来はスマート・ホーム・デバイスとコントローラの間はインターネットを経由したAPIによる接続がほとんどでしたが,Matterではローカル・ネットワーク上のデバイス間で直接IPv6での通信を行います.
 Matterデバイス間の物理的な通信手段としては,Wi-Fi,イーサネット,Thread,Bluetooth 5 の4つの通信規格を用います.
 前述のとおりMatterではIPv6による通信を用いて通信を行うため,IPv6の通信を行える通信規格としてWi-Fi, イーサネットに加えて,バッテリー駆動の低消費電力デバイス向けにThreadを選択できます.
 ThreadはIEEE 802.15.4で規定される物理層・MAC層を用いる無線通信規格です.上位の通信層として6LoWPANと呼ばれるIPv6を低消費電力無線向けに最適化したプロトコルを用います.このためWi-Fiやイーサネット上のIPv6ネットワークとの相互接続が容易です(図2).



図2 Matterのアプリケーション&ネットワーク・レイヤのスタック構造(通常の動作モード時)

 Bluetooth 5は動作中の主要な通信方法としては使用しませんが,コントローラとデバイス間を接続する処理に用います.このため,Matterによるスマート・ホーム向けデバイスの開発を行う際はIPv6の通信に加えてBluetoothによる通信に対応するデバイスを用いる必要があります(写真1).

■Matterの仕様概要

 Matterの仕様はCSAのサイトから誰でもダウンロードして読むことができます.2025年08月17日時点の最新版は Matter 1.4.2 です.
 CSAのダウンロード・ページでダウンロードしたい仕様書を選択し,名前,会社名,メールアドレス,プライバシーポリシーへの同意を入力すると,指定したメールアドレス宛に仕様書のダウンロード元リンクが送られてきます.

 代表的なデバイスの種別 (Device Type) を表1に示します.

表1 Matterが対象としている代表的なデバイス種別


 Matter 1.3,Matter 1.4では EVSE (Electric Vehicle Supply Equipment) すなわち,電気自動車の充電器や電力計のデバイス種別といった,エネルギー・マネジメント関連のクラスターやデバイス種別が多く追加されています.

■Matter 1.4.2での新機能

 Matter 1.4までは約半年ごとに仕様が更新されてきましたが,1.4以降は1.4.2まで小規模な変更が加えられたリリースのみとなっています.
 Matter 1.4.2では新しくWi-FiのPublic Action Frameを用いたWi-Fi通信のみでのコミッショニング機能が追加されました.
 これにより,従来はコミッショニングのためだけにBluetoothによる通信を搭載していたWi-Fi Matterデバイスで,Bluetoothを使わずにMatterの実装を行えるようになりました.

◆参考文献◆

(1) Matter Core Specification 1.4.2, Connectivity Standards Alliance
https://csa-iot.org/developer-resource/specifications-download-request/
(2) Matter Device Library Specification 1.4.2, Connectivity Standards Alliance
https://csa-iot.org/developer-resource/specifications-download-request/

本記事に記載されている社名,および製品名は,一般に開発メーカの登録商標,または商標です.


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