プログラマブル2端子電流源の使い方

図1は,外付抵抗で電流値のプログラムができる2端子電流源IC(LT3092)を使用したLED駆動回路です.この回路で,VCCの電圧が30Vのとき,LEDに流れる電流は(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,LEDの順方向電圧は3Vとします.

VCCの電圧が30Vのとき,LEDに流れる電流はいくつ?
(a) 19mA (b) 81mA (c) 100mA (d) 181mA

LT3092は,IN,SET,OUTの3ピンのICで,2端子(VCC,LED)フローティング電流源として動作します.SET端子に接続された外付け抵抗(R1)と,OUT端子に接続された外付け抵抗(R2)で電流値の設定(プログラム)ができます.
SET端子に接続された電流源(I1)の電流値が10μAであることを踏まえて,電流を計算してくいださい.なお,R3はLT3092の消費電力が大きくなり過ぎないようにする抵抗です.
図1の回路では,オペアンプ(U1)の働きにより,R1の電圧降下と,R2の電圧降下が等しくなります.I1の電流は10μAと小さいため,LEDに流れる電流は,R2に流れる電流とほぼ同じです.これらの関係からLEDに流れる電流(ILED)は次式となり,解答の100mAになります.
ILED=I1*R1/R2=10μA*20kΩ/2=100mA
●プログラマブル電流源の基本的な動作
図2は,LT3092の基本的な動作を解析するための回路図です.LT3092は,温度依存性のない高精度基準電流源(I1)を内蔵しており,その電流値は10μAとなっています.SET端子から出力される基準電流と,外付けの抵抗(R1)で基準電圧を発生させます.
LT3092は温度依存性のない,高精度基準電流源(I1)を内蔵している.
SET端子は,オペアンプ(U1)の非反転入力端子に接続され,OUT端子は,U1の反転入力端子に接続されています.そのため,U1は,OUT端子の電圧がSET端子の電圧と等しくなるように,Q2のコレクタ電流を可変します. SET端子の電圧とOUT端子の電圧が等しいことから,式1が成立します.

図2のIOUTは,I1とI2を足したものです.I1がI2よりも十分小さいとすると,式2のように,IOUTはI2と等しくなります.

式1からI2を求め,式2に代入すると,式3が得られます.

このように,LT3092の出力電流は,R1とR2の比により設定することができます.R1の値は,比較的自由に設定できます.ただし,電流精度と電圧ロスのバランスから,R1に発生する電圧(VR1)を200mV程度とすることが推奨されています.
I1が10μAなので,VR1を200mVにするためには,R1を20kΩに設定すればよいことになります.RS1を20kΩとし,R2を2Ωとすると,IOUTは式4のように100mAになります.

●プログラマブル電流源の動作確認
図3は,図2のプログラマブル電流源の動作をシミュレーションするための回路です.抵抗値は,式4と同じ値に設定しています.VCCの値を5Vから30Vまで変化させ,Rloadの電流がどのように変化するかを確認します.
VCCの値を5Vから40Vまで変化させ,Rloadの電流がどのように変化するか確認する.
図4は,図3のシミュレーション結果です.電流値は式4の結果と同じ,100mAとなっており,5Vから40Vまでほとんど変化していません.

電流値は100mAとなっており,5Vから40Vまでほとんど変化していない.
●プログラマブル電流源の消費電力
電流源ICを大電流で使用する場合,ICの消費電力が大きすぎると,ICが発熱しダメージを受ける可能性があります.そこで,プログラマブル電流源の消費電力を計算してみます.図2のプログラマブル電流源で発生する電力のほとんどは,トランジスタ(Q2)で発生します.トランジスタの消費電力は,コレクタ・エミッタ間電圧(VCE)とコレクタ電流(IC)の積になります.図2の回路でQ2の消費電力(P)は,式5で表され,VCCが30Vのときに2.97Wになります.
・・・・・(5)
図5は,トランジスタ(Q2)の消費電力をプロットしたものです.Q2の消費電力はVCCに比例して大きくなり,30Vで,約3Wとなっています.
VCCに比例して大きくなり,30Vでは約3Wとなっている.
●消費電力と半導体チップの温度
半導体チップの温度(TJ)は,パッケージの熱抵抗(Θ)と消費電力(P),周囲温度(TA)で決まり,式6で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
半導体チップにダメージを与えないように,TJは125℃以下で使用する必要があります.そのため,半導体チップが消費することのできる電力の上限(PMAX)は,式7のように求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
Θは,パッケージの種類とプリント基板への実装方法によって変わります.LT3092のDFNパッケージを,上面銅面積100mm2のボードに実装したときのΘは,32℃/Wとなっています.周囲温度の最大値を50℃とすると,式8のようにLT3092のPMAXは2.3Wとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式5の消費電力(P)の計算結果は2.97Wとなっており,式8を満たしていないことになります.
●消費電力を小さくする
プログラマブル電流源の消費電力を小さくするためには,電源電圧を低くするか,電流を小さくする必要があります.どちらも変更できない場合は,抵抗を並列接続する方法があります.図6がプログラマブル電流源に抵抗(R3)を並列接続したもので,図1と同じものです.R2に流れる電流I2は,IQ2とI3を足したもので,式9で表わされます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
I3の値は,VCCの値に比例し,VCCが大きくなるとI3が大きくなり,代わりにIQ2が小さくなります.IQ2が小さくなることによって,プログラマブル電流源の消費電力を小さくすることができます.I3の値が式10の条件を満たしている場合,図5の回路は定電流源として動作し,VCCが変動しても,IOUTの値は一定になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
問題文の条件で,各部の電流を計算してみます.LEDの順方向電圧は3Vなので,A点の電圧は3Vになります.図6の回路が定電流動作をしている場合,B点の電圧は「3+0.2=3.2V」になります.
プログラマブル電流源に抵抗(R3)を並列接続する.
そのため,I3は式11のように,81mAになります.

そしてIOUTは,式4より100mAとなり,IQ2は100mAから81mAを引いた,19mAになります.さらにQ2の消費電力(P)は,式12ように0.51Wとなり,式5の値よりもかなり小さくなります.

●LT3092の動作を確認する
図7は,抵抗を並列接続したLT3092の動作を確認するための回路で,図1の回路と同じ定数になっています.VCCの値を5Vから40Vまで0.1Vステップで変化させたときの動作をシミュレーションします.
VCCの値を5Vから40Vまで0.1Vステップで変化させたときの動作をシミュレーションする.
図8は,図7のシミュレーション結果です.

LED電流は36V程度まで100mAで一定となっている.
図8の上段が,各部の電流でLED電流,R3の電流,ICの出力電流を表示しています.LED電流は36V程度まで100mAで一定となっています.
R3の電流はVCCに比例して増加し,代わりにICの出力電流が減少していることが分かります.
図8の下段がR3とICの消費電力です.R3の消費電力は,VCCの増加に伴って大きくなっていますが,ICの消費電力はVCCが20V程度のときに最大となり,その後は減少しています.
このように,LT3092に抵抗を並列接続することで,定電流源としての動作を維持したまま,ICの消費電力を減らすことができます.
以上,プログラマブル2端子電流源の使い方について解説しました.LT3092のデータシートには,さまざまな応用回路が掲載されていますので,参照してください.
◆参考・引用*文献
LT3092データシート:アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_035.zip
●データ・ファイル内容
Current_Source.asc:図3の回路
LT3092.asc:図7の回路
LT3092.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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