フィードバック外補償で負帰還アンプを安定させる

図1は,高速OPアンプ(ADA4817)を使った負帰還アンプで,outの負荷容量(CL=100pF)を駆動しています.負帰還回路に負荷容量が付くと負帰還が不安定になり,出力(out)は発振します.この対策として図1では,R4を調整して安定するように補償しています.
図1において,OPアンプ内部の出力抵抗が8Ωのとき,負帰還が安定動作するR4の抵抗値は(a)~(d)のどれでしょうか.ただし負荷容量が無いとき,負帰還アンプは発振せず安定しています.

負帰還を安定にするR4の抵抗値は(a)~(d)のどれ?
(a) 0.1Ω (b) 0.51Ω (c) 1Ω (d) 10Ω

outに負荷容量が付くと,OPアンプの出力抵抗と負荷容量により,負帰還のループ・ゲインに極(ゲインが低下し位相が遅れ始める)が生成され負帰還は不安定になります.対策として回路にR4を加え,R4の抵抗と負荷容量でゼロ(ゲインが増加し位相が進み始める)を作ります.この極とゼロの周波数を近くにすることにより,互いを相殺して補償しています.この補償方法はフィードバック・ループの外にあるR4で行うことから,フィードバック外補償と呼ばれます.
図1のOPアンプ内部の出力抵抗をROとします
- 負帰還のループ・ゲインは,出力抵抗のROと補償抵抗のR4と負荷容量のCLの関数になる
- この関数の極の周波数は「fP=1/(2πCL (RO+R4))」になる
- 同様にゼロの周波数は「fZ=1/(2πCLR4)」になる
- 「RO=8Ω」,「CL=100pF」,R4は(a)~(d)の抵抗値より,fPとfZの周波数は表1になる
- フィードバック外補償は,fPとfZの周波数を近くし,fPの位相遅れをfZの位相進みで相殺する
- 表1でfPとfZが最も近い周波数になるのは「R4=10Ω」である
これより,(d) 10Ωが正解になります.

●負荷容量により負帰還は不安定になる
図1は,ADA4817(1)のデータシートP14にあるアプリケーション回路で,ゲインが2倍の高速な負帰還アンプになります.抵抗は,R1,R2がゲインを決める抵抗,R3がV1の終端抵抗,R4がフィードバック外補償の抵抗,RLが負荷抵抗となります.コンデンサは,CLが負荷容量,C1がリンギングを抑制するコンデンサ,C2,C3,C4,C5,C6/が高速アンプの電源を安定にするコンデンサになります.
高速な負帰還アンプに限らず,他の負帰還アンプもそうですが,使われ方により出力(out)に負荷容量(CL)が付く場合があります.
このようなとき負帰還が不安定になり発振することがあります.原因は,負帰還のループ・ゲインに負荷容量で生成される極が加わり,位相遅れが発生するためです.生成される極は,OPアンプの出力抵抗も関係しています.この対策として図1のようにR4を加えて負帰還が安定になるように補償します.
本稿ではADA4817を用いますが,LTspiceのライブラリにありません.このためADA4817のモデルはWebページからダウンロードして使用します.使用方法は「ダウンロードについて」で解説します.
●補償前のループ・ゲインと位相
ここでは,図1のR4が無い補償前の状態で,負荷容量が無いときと100pFが付くときの位相余裕を調べます.この評価により負荷容量が無いときは安定ですが,100pFが付くと不安定になるのが分かります.
図2は,図1のR4が無い補償前のループ・ゲインと位相を評価する回路です.LTspiceのEducationalフォルダにある「LoogGain2.asc」を編集して使用しています.この評価回路はMiddle Brook法と呼ばれるもので,正確なループ・ゲインと位相の評価ができます.ループ・ゲインと位相は次の計算式をプロットします.
シミュレーションは「.ac」コマンドを用い,周波数が10kHzから1GHz間を周波数が2倍あたり30ポイントのスイープになります.負荷容量はCLの変数で与え,負荷容量が無いときを「CL=0pF」,100pFのときを「CL=100pF」として,「.step」コマンドで入れ替えてシミュレーションします.

outの負荷容量は,0pFと100pFの2種で位相余裕を調べる.
図3は,図2のシミュレーション結果になります.図3のループ・ゲインと位相のプロットから位相余裕を調べるときは,ループ・ゲインが0dBと交差するときの位相をカーソルで調べ,調べた値と-180°の差を計算すると求められます.
図3の補償抵抗が無いとき,「CL=0pF」の位相余裕は75°になります.一般に位相余裕は60°で安定と考えるので,負荷容量が無いときは安定になります.一方,負荷容量が「CL=100pF」のとき,200MHz付近でループ・ゲインの傾きが-20dB/decから-40dB/decに変わり,位相余裕は0°になります.このように補償抵抗が無いときは位相余裕が無く,不安定になるのが分かります.

負荷容量0pFのとき位相余裕は75°で安定動作する.
負荷容量100pFのとき位相余裕は0°で不安定になる.
●OPアンプ内部の出力抵抗
図4は,図1の出力インピーダンスを調べる回路です.ここでは,OPアンプ内部の出力抵抗を求めます.具体的には,補償抵抗(R4)が無いときの出力インピーダンスをシミュレーションで調べます.先程の図3のループ・ゲインの2つの値から計算で求めます.
調べた出力インピーダンスとループ・ゲインより,OPアンプ内部の出力抵抗を計算する.
図5は,図4のシミュレーション結果になります.図5のY軸は,I1の交流電流変化に対するoutの交流電圧変化の周波数特性です.これより,Y軸は出力インピーダンスを表しています.図5より,10kHzでの出力インピーダンスは10mΩになるのが分かります.

10kHzでの出力インピーダンスは10mΩ.
OPアンプ内部の出力抵抗は,図4の出力インピーダンスにループ・ゲインを掛けた値になります.図3と図5で調べた10kHzの2つの値を用いると,ADA4817の内部の出力抵抗(RO)は,おおよそ式1の8Ωであるのが分かります.図1にはOPアンプ内部の出力抵抗として,式1の値を記載しています.

●フィードバック外補償の効果
次にフィードバック外補償の有無で,ループ・ゲインがどのように変化するかを机上計算で検討します.
図6(a)は,フィードバック外補償が無いときのループ・ゲインを検討する回路です.図6(b)は,フィードバック外補償が有るときのループ・ゲインを検討する回路です.図6(a)と図6(b)は,OPアンプの出力抵抗をOPアンプ・シンボルの外に出しました.
ループ・ゲインを検討するときは,フィードバック・ループの一端を切断し,そのループを一巡する伝達関数を用います.ここで図6(a)と図6(b)のOPアンプと帰還回路は同じです.このことから,図6(a)と図6(b)のループ・ゲインの違いを調べるときは,OPアンプ内部の電圧源v1(s)からv2(s)までの伝達関数を計算し,両者を比較するとその効果が分かります.
(a)R4による補償が無い回路.
(b)R4による補償が有る回路.
先に図6(a)の補償無しから検討します.図6(a)のv1(s)からv2(s)までの伝達関数は式2になります.

式2より,図6(a)の極の周波数は,式3になり,OPアンプの出力抵抗(RO)と負荷容量(CL)で決まります.

具体的には「CL=100pF」,「RO=8Ω」より,式3の極の周波数は199MHzになります.式3を使った極の周波数は先程の図3のプロットでも確認できます.具体的には図3の「CL=100pF」プロットにおいて,ループ・ゲインの傾きが変化する200MHzが式3の極の周波数になり,ほぼ一致するのが分かります.
次に,図6(b)の補償有りを検討します.図6(b)のv1(s)からv2(s)までの伝達関数は式4になります.

補償無しの式2の伝達関数と比べると,式4の分子にCLとR4の項があります.伝達関数の分子項はゼロを生成するので,これが補償無しと補償有りの差になります.
式4より,図6(b)の極の周波数は式5になり,出力抵抗(RO)と補償抵抗(R4)と負荷容量(CL)で決まります.

そして,図6(b)のゼロの周波数は式6になり,補償抵抗(R4)と負荷容量(CL)で決まります.

フィードバック外補償は,式5の極の周波数と式6のゼロの周波数を近づけることにより,極とゼロで相殺させます.これらの周波数は先程の表1となります.解答の答え合わせをすると,表1でfPとfZが最も近い周波数になるのは「R4=10Ω」になり,解答の(d)になります.
●フィードバック外補償を行ったときの位相余裕
図7は,フィードバック外補償を行ったときの位相余裕をシミュレーションする回路です.負荷容量は100pFになります.図1の補償抵抗(R4)は,図7ではR7とR8になります.R7とR8の抵抗値はRSNUBの変数で与え,プロットが見やすいように,RSNUBは冒頭の4択の抵抗値が低い(a) 0.1Ωと,抵抗値が高い(d) 10Ωの2種とします.この2種の抵抗値は「.step」コマンドで入れ替えてシミュレーションします.
補償抵抗は,0.1Ωと10Ωの2種で比較する.
図8は図7のシミュレーション結果になります.補償抵抗が0.1Ωのとき,位相余裕は0°で不安定になります.一方,補償抵抗が10Ωのとき位相余裕は50°になり,安定の判断となる60°に近い値になるので補償の効果が分かります.

補償抵抗が0.1Ωのとき,位相余裕は0°.
補償抵抗が10Ωのとき,位相余裕は50°.
●フィードバック外補償行ったときの発振を確認
最後に,図1の高速な負帰還アンプの時間応答で,outの発振有無をシミュレーションします.図9は,図1の時間応答をシミュレーションする回路になります.入力(V1)は,矩形波で振幅が±0.5V,ON時間は199ns,立ち上がりと立ち下がり時間は1ns,繰り返しが400nsの高速な信号になります.R4の補償抵抗値は,RSNUBの変数で与え,4択(a)~(d)の0.1Ω,0.5Ω,1Ω,10Ωの4種とします.この4種の抵抗値は「.step」コマンドで入れ替えてシミュレーションします.
補償抵抗を0.1Ω,0.51Ω,1Ω,10Ωの4種においてoutの発振有無を確認する.
図10は,図9のシミュレーション結果になります.プロットは4段になり,上からR4の抵抗値が0.1Ω,0.51Ω,1Ω,10Ωのoutの波形になります.
図10より,R4が0.1Ωのとき,outは継続して発振しているのが分かります.R4の抵抗値が0.51Ωのときは,時間の経過と共に僅かに発振の振幅が低くなり,収束し出しているのが分かります.R4の抵抗値が1Ωのときは,矩形波のONの時間内で発振は収束方向です.R4の抵抗値が10Ωのときは発振が停止し,高速な矩形波応答をしているのが分かります.このようにフィードバック外補償のR4が10Ωのとき,負帰還が安定になり,outは発振しないことが分かります.

補償抵抗が10Ωでoutの発振は無い.
以上,高速アンプに負荷容量が付いたとき,フィードバック外補償の抵抗で安定動作させることについて解説しました.フィードバック外補償の注意点として,補償抵抗(図1のR4)は,outから高い電流が流れると電圧降下を発生し,outの振幅がゲインから求まる理論値より低くなります.このためフィードバック外補償の抵抗値は,低い抵抗値を選びます.高速な負帰還アンプは,基盤のレイアウトにも影響を受けますので,実機での評価も忘れずに行ってください.
●ダウンロードについて
ADA4817のモデルは,LTspiceの部品ライブラリにありません.そこで,使用する場合,Webページからダウンロード必要になります.図11がADA4817の製品の詳細Webページになります.
モデルをダウンロードし,フォルダ「LTspice11_034」にコピーする.
画面をスクロールすると[ツールおよびシミュレーション]に[ADA4817 SPICE Macro Model]と記載されたリンクがあります.ここからPCヘダウンロードします.ダウンロードしたファイル名は「ada4817.cir」になります.このファイルを本稿のデータ・ファイル「LTspice11_034」のフォルダへコピーします.「ada4817.cir」に対応したシンボルファイル「ada4817.asy」は「LTspice11_034」に同梱していますので,この作業だけでシミュレーションできます.
ADA4817は,帰還端子(FB)と出力端子(out)があり,両端子は内部で繋がっています.帰還端子(FB)は反転端子の近くになり,ボード上でのレイアウトを簡素化する目的です.帰還端子(FB)があるので,ADA4817のシンボルは図12になります.

◆参考・引用*文献
(1) ADA4817のデータシート:アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_034.zip
●データ・ファイル内容
LoopGain.asc:図2の回路
LoopGain.plt:図2のプロットを指定するファイル
ADA4817 Output Resistance.asc:図4の回路
ADA4817 Output Resistance.plt:図4のプロットを指定するファイル
LoopGain Compensation.asc:図7の回路
LoopGain Compensation.plt:図7のプロットを指定するファイル
ADA4817 G2 Tran Compensation.asc:図9の回路
ADA4817 G2 Tran Compensation.plt:図9のプロットを指定するファイル
ada4817.asy:ADA4817のシンボル
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