信号の減衰およびレベル・シフトをするファンネル・アンプ

図1は,V1の信号をU1+U2により減衰,U1+U2+U3によりレベル・シフトを行い,outから振幅を小さくした信号を出力するファンネル・アンプ注1になります.図1において,V1を±10Vで周波数が1kHzの正弦波信号を入力した場合,outの波形は,図2の(a)~(d)のどの波形でしょうか.
ただし,U1(ADA4097-1)が入出力レール・ツー・レールのOPアンプ,U2(LT5400-7)が4個の抵抗(R1~R4)の整合が取れたクワッド抵抗ネットワーク,U3(LT6654-2.5)が出力電圧直流2.5Vの高精度リファレンスです.


(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形

OPアンプ(U1)と抵抗ネットワーク(U2)は信号が減衰する差動アンプです.差動アンプのバイアス電圧はU3から供給し,その電圧は直流2.5Vです.これをヒントに図1の具体的な回路定数を入れて検討すると分かります.
図1は差動アンプ(U1+U2)のゲインと,R4の左側にあるrefに加わるバイアス電圧を使うと次の動作になります.
- 差動アンプ(U1+U2)のゲインは「R1=R3=5kΩ,R2=R4=1.25kΩ」なので「G=R2/R1=0.25倍」になる
- V1が±10Vの振幅のとき差動アンプのゲインは「G=0.25倍」なので,outの交流分は「±2.5Vの振幅」になり減衰する
- 差動アンプのR4に加わる直流バイアス電圧は2.5Vなので,outはレベル・シフトされて,2.5Vを中心に±2.5Vの振幅になる
上記より,この波形は図2の(a)の波形になります.
●ファンネル・アンプの用途
図1の回路は,OPアンプ(ADA4097-1)(1)のデータシートのP25に紹介されている回路になります.減衰とレベル・シフトによる,振幅を小さくした信号を出力する回路をファンネル・アンプと呼んでいます.
ファンネル・アンプに整合が取れた抵抗ネットワーク(LT5400-7)(2)を使うと,差動アンプの抵抗ミスマッチによる同相信号除去比(CMRR)を高くできます.そして高精度リファレンス(LT6654-2.5)(3)を直流バイアス電圧に使うと,温度変化が低く高精度な2.5Vを使えるので,ファンネル・アンプの直流特性が向上します.
ファンネル・アンプは,産業用の高い電源で動く回路から,低い電源で動く信号処理回路へ信号を伝達できます.具体的には,図1のoutの後段は,5Vで動く信号処理回路と想定し,±10Vの信号を0Vから+5Vの範囲(2.5Vを中心に±2.5Vの信号と同意)へ減衰とレベル・シフトをしています.このような変換をすると,±10V範囲の信号を5Vの信号処理回路へ伝達することができます.
●ファンネル・アンプ入出力特性の机上計算
前述の「解答」では,正弦波を入力した差動アンプのゲインとバイアス電圧の関係を使ってoutの波形を求めました.ここでは,直流まで範囲を広げて,図1のV1に±10Vの直流電圧を印加したときのoutの電圧変化について机上計算で検討します.検討に使う回路は図3になります.
図3は,図1のファンネル・アンプを簡潔に書き直した回路で,図3のVinが図1のV1,図3のVrefが図1のU3の出力電圧2.5Vになります.図3のOPアンプの非反転端子の電圧をVin+とします.Vin+はR3とR4の両端にVinとVrefを印加したときの抵抗分圧なので,式1になります.

OPアンプとR1とR2は非反転アンプになります.非反転アンプの入力がVin+なので,VoutはR3とR4の抵抗値を使うと式2になります.

式2のVin+へ式1を入れ,R3とR4の抵抗値を使う式3になります.

式3でVinが直流の10V,0V,-10Vの3種,Vrefが2.5Vとすると,Voutの電圧は以下になります.
- Vinが10Vのとき「Vout=5V」
- Vinが0Vのとき「Vout=2.5V」
- Vinが-10Vのとき「Vout=0V」
このように,図1のファンネル・アンプは「±10Vを,0Vから+5Vに変換する」ということになり,V1が正弦波のときは,図2の(a)の波形になります.
●ファンネル・アンプの直流伝達特性
図4は,ファンネル・アンプの直流伝達特性をシミュレーションする回路になります.図4では,図1のU3の出力電圧2.5Vを電圧源V3に置き換えています.
OPアンプの電源(V2)は5Vと10Vの2種でシミュレーション.
入力のV1は「.dc」コマンドで-10Vから10V間を10mVステップでスイープしています.OPアンプ(U1)は,入出力レール・ツー・レールOPアンプです.しかし,出力電圧は完全に電源の範囲まで応答しません.この特性を調べるためV2のOPアンプの電源は「.step」コマンドを用い,5Vと10Vの2種でシミュレーションします.
図5は,図4のシミュレーション結果で,X軸が入力電圧,Y軸が出力電圧です.電源が+10Vのとき,入力電圧±10Vに対してoutの出力電圧は0Vから5Vになり,前述の式3を使った検討結果と同じになります.

入力が±10Vの直流電圧を,出力で0V~5Vの電圧に減衰およびレベル・シフトしている.
電源が+5Vのときoutの出力電圧を詳しくみると,入力電圧が+10Vに近づくと出力電圧は4.91Vで5Vにならず,完全なレール・ツー・レール出力ではありません.ADA4097-1のデータシートP25に紹介されている回路は,電源が+5Vですが,本稿では図1のファンネル・アンプの電源は,±10Vを,0Vから+5Vに変換することを確かめるため,図1のファンネル・アンプの電源は+10Vとし,outの電圧が5Vまでスイングする条件にしています.
●ファンネル・アンプの周波数特性
図6は,図1のファンネル・アンプのV1からoutまでの周波数特性をシミュレーションする回路になります.シミュレーションは「.ac」コマンドを用い,100Hzから1MHz間を周波数が2倍あたり30ポイントでスイープしています.
差動アンプのゲインは式4になり,「R1=R3=5kΩ,R2=R4=1.25kΩ」より,ゲインは0.25倍になります.

図7は,図6のシミュレーション結果になります.式4のゲインをデシベルにすると「-12dB」なので,図7の1kHzの周波数で一致するのが分かります.

1kHzでのゲインは-12dBの減衰.
●ファンネル・アンプの時間応答
図8は,図1の時間応答をシミュレーションする回路で,入力のV1は振幅が±10Vの正弦波です.シミュレーションは「.tran」コマンドを用い,回路が安定する5msから7msの2ms間についての時間応答になります.
V1の入力信号は振幅が±10V,周波数1kHzの正弦波信号.
図9は,図8のシミュレーション結果になります.図9には,入力電圧V(in),出力電圧V(out),LT6654-2.5の出力電圧としてV(ref)をプロットしました.図9より,「±10Vの信号を0Vから+5V」へ変換しているのが分かり,解答の図2の(a)の波形と同じになるのが分かります.

±10Vの正弦波を0Vから5Vの正弦波へ減衰およびレベル・シフトしている.
以上,信号の減衰およびレベル・シフトをするファンネル・アンプについて解説しました.入出力レール・ツー・レールOPアンプの出力電圧は,完全にレール・ツー・レールにならず,電源電圧と出力電圧が等しい動作条件のときはoutのプロットがひずむことがあります.この特性は図8のV2を5Vにすることで,シミュレーションでの時間応答を確認できます.シミュレーションと実機で差があることもありますので,実機での確認が必要になります.
◆参考・引用*文献
(1) ADA4097-1のデータシート:アナログデバイセズ
(2) LT5400-7のデータシート:アナログデバイセズ
(3) LT6654-2.5のデータシート:アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_030.zip
●データ・ファイル内容
ADA4097 Funnel Amplifeir DC.asc:図4の回路
ADA4097 Funnel Amplifeir DC.plt:図4のプロットを指定するファイル
ADA4097 Funnel Amplifeir ac.asc:図6の回路
ADA4097 Funnel Amplifeir ac.plt:図6のプロットを指定するファイル
ADA4097 Funnel Amplifeir.asc:図8の回路
ADA4097 Funnel Amplifeir.plt:図8のプロットを指定するファイル
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