昇圧も降圧もできるSEPICコンバータ

図1は,コイル(L1,L2),コンデンサ(C1,C2),ダイオード(D1),スイッチ(S1)から構成され,入力電圧よりも高い電圧や低い電圧を出力することのできる,SEPIC(セピック)注1コンバータと呼ばれる,スイッチング電源の原理図です.
S1は,1MHzのクロック信号によってON/OFFします.入力電圧(VIN)は12Vで,OUT端子には1Aの定電流負荷が接続されています.
この回路で,S1がONしているデューティ比が60%のとき,OUT端子の電圧は,(a)~(d)の何Vになるでしょうか.ただし,図1の回路は,L1,L2の電流が0Aになることのない,電流連続モードで動作しており,D1の順方向電圧は0.5Vとします.

S1がONしているデューティ比が60%のとき,OUT端子の電圧は何V?
(a) 4.3V (b) 6.8V (c) 13.9V (d) 17.5V

SEPICコンバータは,S1のオン・デューティ比を変えることで,出力電圧を入力電圧よりも低い電圧から高い電圧まで,連続的に変えることができます.そして,オン・デューティ比が50%のとき,出力電圧は入力電圧とほぼ同じになります.
入力電圧をVINとし,S1のオン・デューティ比を「d」,D1の順方向電圧を「VD」とすると,SEPICコンバータの出力電圧(VOUT)は「VOUT=VIN*d/(1-d)-VD」となります.図1の定数を代入すると「VOUT=12*0.6/(1-0.6)-0.5=17.5」となり,17.5Vになります.
●昇降圧スイッチング電源の必要性と実現方法
一般的に,入力電圧よりも,低い出力電圧が必要な場合,降圧スイッチング電源を使用します.そして,入力電圧よりも,高い出力電圧が必要な場合,昇圧スイッチング電源を使用します.ただし,入力電圧の変動が大きく,出力電圧よりも入力電圧が低くなるときや,高くなるときがある場合,昇圧と降圧が可能な,昇降圧スイッチング電源を使用する必要があります.
図2は,図1のSEPICとは異なる,昇降圧スイッチング電源の原理図です.SW1を常時ONとして,SW2をON/OFFさせると,昇圧スイッチング電源として動作します.また,SW2を常時OFFとして,SW1をON/OFFさせると,降圧スイッチング電源として動作します.
このように,図2の回路は昇圧モードと降圧モードを切り替えて使用することができます.この昇降圧スイッチング電源の動作に関しては,「LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブ:昇降圧スイッチング電源の基礎」を参照してください.
SW1とSW2を使い分けることで,昇圧モードと降圧モードを切り替える.
図2とは異なる昇降圧スイッチング電源の実現方法が,図1のSEPICコンバータです.図1は,図2の回路に比べ,コイルが1つ増えますが,スイッチは接地側に1つだけで構成できます.また,出力端子と入力電源の間にコンデンサが存在するため,出力短絡時に,直流電流が流れないというメリットがあります.
●SEPICコンバータの動作
ここでは,図1のSEPICコンバータがどのように動作するか図3と図4で考えてみます.
▼S1がONの場合
図3は,出力電圧が安定した定常状態で,S1がONのときの,SEPICコンバータ各部の電流を示したものです.S1がONすると,L1に電流が流れ,その大きさは時間とともに大きくなっていきます.同時に,C1を経由して,L2にも電流が流れますが,その電流変化はL1と同じになります.このとき,負荷電流(IL)は,C2が供給します.
▼S1がOFFの場合
図4は,出力電圧が安定した定常状態で,S1がOFFの場合,SEPICコンバータの電流の流れです.S1がONしたときにL1に蓄えられた電流は,C1およびD1を経由してC2を充電します.そして,L2に蓄えられた電流もD1を経由してC2を充電します.
このようにして,S1がONのときに放電したC2の電荷が補充され,さらにC2から負荷電流が供給されます.なお,L1とL2の電流変化はまったく同じになるため,それぞれ独立したコイルで構成するだけでなく,トランスのように1つのコアを共有したコイルで構成しても,同じ動作となります.そのため,コアを共有したコイルを使用して,実装スペースを節約することもできます.

SEPICコンバータが,電流連続モードで動作しているとき,出力電圧(VOUT)は式1で表されます.

ここで,S1がONしているデューティ比を「d」,入力電圧を「VIN」,D1の順方向電圧を「VD」とします.
式1に図1の定数を代入すると,式2のように,VOUTは17.5Vになります.

●SEPICコンバータの動作を確認する
図5は,図1のSEPICコンバータをシミュレーションするための回路です.V1は,オン・デューティ比60%で1MHzのパルス波です.このパルス波でS1をON/OFFさせます.なお,トランスの結合係数(K1)の記述「K1 L1 L2 1」は青字にしてコメント化(無効化)し,L1とL2は,独立したコイルとしてシミュレーションします.また,出力電圧が安定した,シミュレーション最後の1周期分だけ表示するようになっています.
スイッチ(S1)はON・デューティ比60%,1MHzのパルス波でON/OFFする.
図6は,図5のシミュレーション結果です.図6の上段が,OUT端子の電圧と,V1の電圧です.出力電圧は17.3Vとなっており,式2の結果とほぼ一致しています.また,図6の下段が,各素子の電流です.S1がONしている状態では,L1とL2の電流が時間とともに増加しています.そして,S1がOFFしているときは,D1に,L1の電流とL2の電流を足した電流が流れています.これは,図3と図4の電流の流れ方と一致しています.

出力電圧は17.3Vとなっており,式2の結果とほぼ一致している.
●デューティ比と出力電圧の関係をシミュレーションする
図7は,図5の回路で,デューティ比を変化させたときの出力電圧をシミュレーションするための回路です.「.step」コマンドで,デューティ比を表す「d」という変数を0.2から0.7まで変化させます.そして,「.meas」コマンドを使用して,デューティ比ごとの4ms時点の出力電圧をVOUTという変数に代入します.
「.meas」コマンドを使用して,デューティ比ごとの出力電圧をVOUTという変数に代入する.
図8は,図7のシミュレーション結果です.デューティ比を変えることで,出力電圧が変化していることが分かります.

デューティ比を変えることで,出力電圧が変化している.
図9は,図8のシミュレーション結果の4ms時点の出力電圧を,デューティ比を横軸にして表示したグラフです.シミュレーション終了後,(Ctrl+L)キーを押して出力ログを表示し,右クリックして[Plot .step'ed .meas data]を選択することで,このグラフを表示できます.デューティ比を20%から70%まで変化させることで,出力電圧は2.4Vから27Vまで変化しています.

デューティ比を20%から70%まで変化させると,出力電圧は2.4Vから27Vまで変化.
●ICを使用して出力電圧を安定化したSEPICコンバータ
図10は「LT8364」というスイッチング電源用ICを使用したSEPICコンバータです.LT8364は,外付け部品を変更することで,昇圧スイッチング電源や反転スイッチング電源,SEPIC型昇降圧スイッチング電源を構築することができます.
入力電圧(VIN)を3Vから28Vまで変化させ,OUT端子の電圧を観察
図10の回路のOUT端子の電圧(VOUT)は,式3のように5Vに設定しています.

そして,入力電圧(VIN)を3Vから28Vまで変化させ,OUT端子の電圧を観察します.
図11は,図9のシミュレーション結果です.入力電圧を3Vから28Vまで変化させても,出力電圧は5Vで一定となっています.

入力電圧を3Vから28Vまで変化させても,出力電圧は5Vで一定となっている.
以上,SEPICコンバータについて解説しました.LT8364を使用したSEPIC型昇降圧スイッチング電源の詳細な設計方法は,LT8364の仕様書を参照してください.
◆参考・引用*文献
(1)SEPIC Equations and Component Ratings:アナログデバイセズ
(2)LT8364 仕様書 P23 「2MHz,2.8V~28V入力,5V出力のSEPICコンバータ 」:アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_025.zip
●データ・ファイル内容
SEPIC_Converter.asc:図5の回路
SEPIC_Converter.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
SEPIC_Converter_D.asc:図7の回路
SEPIC_Converter_D.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT8364_SEPIC.asc:図10の回路
LT8364_SEPIC.plt:図11のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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