スーパーキャパシタを使用したバックアップ・システム

図1は,スーパーキャパシタ(CSP)を使用し,スーパーキャパシタ・バックアップ・パワー・マネージャIC(LTC4041)で,入力電圧(VIN)が0Vになった後も,一定時間,OUT端子の電圧を3.3Vに維持する電源バックアップ・システムの回路図です.CSPは,LTC4041によって,2.4Vに充電され,OUT端子には33Ωの負荷抵抗が接続されています.
図1の回路で,バックアップ時間を10秒とする場合,CSPの容量値は(a)~(d)のどれでしょか.ただし,LTC4041の昇圧回路は,CSPの電圧が0.5Vになるまで,OU端子の電圧を3.3Vに維持することが可能で,効率は80%とします.

入力電圧(VIN)が0Vになった後も,一定時間,OUT端子の電圧を3.3Vに維持する
(a) 1.5F (b) 3F (c) 6F (d) 12F

まず,OUT端子の電圧と負荷抵抗(RL)の値から,負荷の消費電力量(消費電力と時間の積)を計算します.次に,スーパーキャパシタが2.4Vから0.5Vになるまでの間に放出できるエネルギから,必要なスーパーキャパシタの容量値を計算します.
OUT端子の電圧(VOUT)と負荷抵抗の値(RL),バックアップ時間(T)から,消費電力量(EL)を計算すると「EL=VOUT2*T/RL」となります.
次に,スーパーキャパシタが,充電電圧(VCHG)から放電終了電圧(VSTP)になるまでの間に放出できるエネルギ(E)は「E=C*(VCHG2-VSTP2)/2」となります.
ここで,効率を(η)とし「E(エネルギ)*η(効率)=EL(消費電力量)」として,Cを求めると「C=2*VOUT2*T/(η*RL*(VCHG2-VSTP2))=2*3.32*10/(0.8*33*(2.42-0.52))=1.5」となり,1.5Fにすれば良いことが分かります.
●スーパーキャパシタとは
スーパーキャパシタは,電気二重層コンデンサとも呼ばれ,同じ大きさの電解コンデンサに比べ,数万倍の容量値を持っています.ただし,耐圧は数ボルト程度とかなり小さく,過大な電圧を加えると,故障してしまう点に注意が必要です.
スーパーキャパシタは,非常に大容量なため,バッテリの代用として使用することができます.一般的なバッテリと比較すると,電流を取り出したときに電圧が直線的に低下してしまうという問題はありますが,バッテリよりも劣化が少なく,長寿命化ができます.スーパーキャパシタの構造などは,「LTspiceとデータシートで学ぶ実践アナログ回路入門:直列接続の電気二重層コンデンサをばらつきなく充電する」を参照してください.
●電源バックアップ・システム
コンピュータなど,一瞬でも電源が遮断されてはならない機器には,主電源が喪失した場合も,一定時間機器に電源を供給する,電源バックアップ・システムが使われることがあります.バックアップ時間が短くても良い場合は,バッテリよりもスパーキャパシタを使用したほうが,故障しにくく,信頼性の高い,電源バックアップ・システムが構築できます.
図2は,スーパーキャパシタで,負荷となる機器を駆動しているブロック図です.スパーキャパシタ(CSP)の電圧は,昇圧DC-DCコンバータで,負荷が必要とする電圧に昇圧され,VOUTに出力されます.CSPの電圧は,時間とともに低下していきますが,昇圧DC-DCコンバータによって,一定の出力電圧となります.
●バックアップ時間と容量値の関係
ここでは,スーパーキャパシタを使用した場合の,バックアップ時間と容量値の関係を考えてみます.まず,スーパーキャパシタの容量値をC,充電電圧をVCHGとし,放電終了電圧をVSTPとします.そして,負荷に加わる電圧をVOUTとし,負荷電流をILとします.
ここで,VCHGという電圧に充電された,スーパーキャパシタに貯蔵されたエネルギ(ECHG)は,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
そして,放電が進み,VSTPという電圧になったスーパーキャパシタのエネルギ(ESTP)は,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
スーパーキャパシタがVCHGから放電して,VSTPになるまでに放出するエネルギ(E)は,ECHGからESTPを引いたもので,式3で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
この放出エネルギに,昇圧DC-DCコンバータの効率(η)を掛けたものが,負荷の消費電力量[消費電力と時間(T)の積]と等しいことから,式4が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4を変形すると,バックアップ時間をTとするために必要な,スーパーキャパシタの容量値を求める式5が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
また,式4をTについて解くと,式6のように,容量値からバックアップ時間を求めることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
●スーパーキャパシタの容量値を計算する
式5を使用して,図1の回路で必要な,スーパーキャパシタの容量値を計算してみます.図1では,OUT端子の電圧が3.3Vで負荷抵抗の値が,33Ωのため,負荷電流(IL)は式7のように0.1Aとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式5に「VCHG=2.4V,VSTP=0.5V,η=0.8,T=10s」を代入すると,式8のようにCは1.5Fと求まります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
●バックアップ・システムを検証する
図3は,図1のスーパーキャパシタを使用したバックアップ・システムをシミュレーションするための回路図です.
3.3Vの入力電圧(VIN)を10ms後に0Vに落とし,バックアップ時間を検証する.
LTC4041は,外付け抵抗により,スーパーキャパシタの①充電電圧,②充電電流,③バックアップ時の出力電圧を設定することができます.ここでは,次のような定数に設定します.
- ①スーパーキャパシタの充電電圧の設定 スーパーキャパシタの充電電圧(VCHG)は,「CAPFB」端子で設定します.図3の回路では式9のように2.4Vに設定しています.
- ②スーパーキャパシタの充電電流の設定 スーパーキャパシタを充電するための,充電電流(ICHG)の設定は「PROG」端子で行います.図1では式10のように,2Aに設定しています.
- ③バックアップ時の出力電圧の設定 バックアップ時のOUT端子の電圧(VOUT)は「BSTFB」端子で設定します.図1では式11のように,3.3Vに設定しています.



●シミュレーション結果とバックアップ時間
図4が図3のシミュレーション結果です.スーパーキャパシタは,1.7msで2.4Vまで充電されています.そして,シミュレーション開始10ms後にVINの電圧が0Vに低下すると,バックアップ・モードとなりますが,OUT端子の電圧は3.3Vを維持しています.
VINの電圧低下後も,約9msの間,OUT端子の電圧は3.3Vを維持している.
バックアップ・モードでは,スーパーキャパシタの電圧は徐々に低下していきますが,約9msの間,OUT端子の電圧は3.3Vを保っています.スーパーキャパシタの容量値を1000倍すると,バックアップ時間は約9秒間となることが分かります.式9の計算式に代入した時間よりも,若干バックアップ時間が短くなっていますが,原因としては,スーパーキャパシタの電圧が低くなったときの効率が,想定よりも低いことなどが考えられます.
以上,LTC4041とスーパーキャパシタを使用した,バックアップ・システムについて解説しました.LTC4041の詳しい使い方に関しては,LTC4041の仕様書を参照してください.また,スーパーキャパシタの使用上の注意点に関しては,文献(2)が参考になります.
◆参考・引用*文献
(1)LTC4041仕様書(P1,標準的応用例):アナログ・デバイセズ
(2)スーパーキャパシタによるエネルギーの貯蔵,必要な容量値は何で決まるのか?:アナログ・デバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_023.zip
●データ・ファイル内容
LTC4041_3.3V.asc:図3の回路
LTC4041_3.3V.plt:図4グラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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