コイルを使用しない降圧DC-DCコンバータ

図1は,コイルを使用しない,降圧DC-DCコンバータIC(LTC3250-1.5)を用いた電源回路です.VIN端子には,3.6Vのリチウムイオン・バッテリ(VLi)が接続され,VOUT端子から1.5Vの安定した電圧が出力されます.また,VOUT端子には,10Ωの負荷抵抗(RL)が接続されています.
この回路で,VLiから供給される電流(IVLi)の平均値は(a)~(d)のどれになるでしょうか.ただし,IC自体が消費する電流は無視できるものとします.

LTC3250-1.5の内部ブロック図は簡略化している.
(a) 62.5mA (b) 75mA (c) 150mA (d) 300mA

LTC3250-1.5は,コイルを使用せず,外付けされたコンデンサ(C1)をスイッチで高速に切り替えることで,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータを構成しています.まず,出力電圧と負荷抵抗の値から,出力電流を計算します.次に,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータの,出力電流と入力電流の関係がどのようになるかを考えます.
LTC3250-1.5は,チャージ・ポンプにより入力電圧を1/2に降圧し,RSの抵抗値を制御することで,出力電圧を1.5Vとします.チャージ・ポンプにより,入力電圧を1/2にした場合,入力電流は出力電流の1/2になります.
図1の回路で,VOUTが1.5VでRLが10Ωなので,出力電流は「1.5V/10Ω=150mA」になります.入力電流は,出力電流の1/2になるため「150mA/2=75mA」となります.
●コイルが使用できない場合の降圧方法
入力電圧を高効率に低い電圧に変換する回路としては,コイルを使用した降圧DC-DCコンバータが一般的です.プリント基板の実装スペースなどの制約で,コイルを使用できない場合は,シリーズ方式のLDO(Low Drop-Outレギュレータ)を使用することになりますが,効率が低いという問題があります.このような場合,チャージ・ポンプ方式の降圧DC-DCコンバータを使用すると,小さなコンデンサのみで,LDOよりも高効率な電源を構成することが可能です.
●チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータの動作原理
図2は,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータの動作原理を説明する回路図です.SW1とSW2は,図2(a)の充電モードと図2(b)の放電モードを交互かつ高速に切り換わります.
最初に図2(a)の充電モードになると,C1とC2が直列に接続され,VLiにより充電されます.C1よりもC2の容量のほうが大きく,負荷抵抗が接続されているため,最初はC1の電圧のほうがC2の電圧よりも大きくなります.
SW1とSW2は,(a)の充電モードと(b)の放電モードに,交互かつ高速に切り換わる.
次に図2(b)の放電モードになるとC1とC2が並列接続されるため,C1の電荷がC2に移動し,C1とC2の電圧は等しくなります.そして再び図2(a)の充電モードでC1とC2が充電され,図2(b)の放電モードで,C1の電荷がC2に移動する,という状態を繰り返します.C2の電圧が上昇していくと,図2(a)の充電モードでもC1とC2の電圧は等しくなります.その結果VOUTの電圧は,VLiの1/2の電圧になります.
ここで,SW1,SW2およびコンデンサの損失を無視すると,RLで発生する電力とVLiが供給する電力は等しくなります.VLiの平均電流をIVLiとし,RLの電流をIRLとすると,式1が成立します.

式1の両辺をVLiで割ると,式2のようになり,VLiの平均電流(IVLi)は,IRLの1/2になることが分かります.

●チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータの動作確認
図3は,図2のチャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータをシミュレーションする回路図です.3端子スイッチのSW1,SW2は,2端子スイッチのS1,S2,S3,S4で構成しており,V2およびV3から出力される,周波数1MHzのパルス波で,ON/OFFを制御しています.
3端子スイッチのSW1,SW2は,2端子スイッチのS1,S2,S3,S4で構成している.
図4は,図3のシミュレーション結果です.青線が出力(OUT端子)電圧で,赤線がC1の両端電圧です.0.5μsごとに,充電モード[図2(a)の状態]と,放電モード[図2(b)の状態]を繰り返しています.
最初の充電モードのとき,C1の両端電圧は,C2の電圧(出力電圧)よりも大きく,放電モードのときにC1とC2の電圧は等しくなっています.そして,出力電圧が上昇していくにつれ,充電モードのときも,C1の電圧がC2の電圧と近い値になっていくことが分かります.そして最終的に,出力電圧は,入力(IN端子)電圧の1/2の約1.8Vになっています.

最終的に,出力(OUT端子)電圧は,入力(IN端子)電圧の1/2の約1.8Vになっている.
●出力電圧を安定化させる制御
図4のシミュレーション結果からも分かるように,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータは,入力電圧の1/2の電圧を出力することができます.ただし,基本的なチャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータには,出力電圧を安定化する機能がないため,入力電圧が変動すると,出力電圧も変動してしまいます.
そこで,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータに,シリーズ・レギュレータの機能を追加したものが,LTC3250-1.5です.入力電圧を1/2にするとともに,出力電圧が1.5Vとなるよう,内部抵抗を制御するようなシステムとなっています.
図5は,出力電圧1.5Vのチャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータIC(LTC3250-1.5)の,入力電圧依存性をシミュレーションする回路図です.IN端子の電圧を3Vから6Vまで変化させ,OUT端子の電圧がどのように変化するかをシミュレーションします.
IN端子の電圧を3Vから6Vまで変化させる.
図6は,図5のシミュレーション結果です.V(in)が変化してもOUT端子の電圧は1.5Vで一定となっていることが分かります.

出力電圧は,入力電圧が変化しても1.5Vで一定となっている.
●電流と効率を確認する
図7は,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータIC(LTC3250-1.5)の,電流と効率をシミュレーションする回路です.VLiの電圧を3.6Vとし,「.meas」コマンドを使用して,VLiの電流(Iin)とRLの電流(Iout)の平均値および効率(EF)を計算しています.
「.meas」コマンドを使用して,VLiの電流とRLの電流の平均値および効率を計算している.
図8は,図7のシミュレーション結果です.シミュレーション終了後,「Ctrl+L」キーをおして「SPICE Output Log」を表示することで,確認できます.Ioutの平均値は144mAで,Iinの平均値がその約半分の75mAとなっています.また,効率(EF)は約82%となっています.

Ioutの平均値は144mA,Iinの平均値はその約半分の75mAで,効率は82%となっている.
シリーズ方式のレギュレータを使用した場合の効率(EFS)の最大値は,式3のように42%のため,2倍近く良い効率となっていることが分かります.

以上,チャージ・ポンプ降圧DC-DCコンバータIC(LTC3250-1.5)の解説を行いました. チャージ・ポンプ回路には,降圧以外にも昇圧や,電圧反転などもあります.詳細は「LTspice電源&アナログ回路入門:いろいろなチャージ・ポンプ電源」を参照してください.
◆参考・引用*文献
(1)LTC3250-1.5仕様書 P5ブロック図:アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_021.zip
●データ・ファイル内容
Step_down_CP.asc:図3の回路
Step_down_CP.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC3250-1.5_VCC.asc:図5の回路
LTC3250-1.5_VCC.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC3250-1.5_EF.asc:図7の回路
LTC3250-1.5_EF.plt:図7シミュレーション結果を描画するためのPlot settinngsファイル
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