差動アンプICのゲイン調整

図1は,集積化した差動アンプIC(SSM2141)のゲインを,OPアンプ(ADA4622-1)と抵抗(R3,R4)で構成した反転アンプのR3とR4で調整する回路です.図1の回路定数の場合,outの振幅は(a)~(d)のどれでしょうか.

outの振幅は(a)~(d)のどれでしょうか.
(a) 0.5V,(b) 1V,(c) 2V,(d) 4V

図1は,outの信号を差動アンプICへ反転アンプを介して負帰還したアンプです.反転アンプは,OPアンプU2(ADA4622-1)とR3とR4からなります.差動アンプIC内のR1とR2は同じ「R1=R2=25kΩ」,そして反転アンプは「R3=1kΩ,R4=2kΩ」の抵抗値です.この条件でoutの振幅を検討します.
図1の回路動作は以下になります.
- 差動アンプICは「Vin+-Vin-」の差動入力信号を増幅してoutから出力する
- 差動アンプICのin+の電圧をVin+,in-の電圧をVin-とすると,差動入力信号の振幅は「Vin+-Vin-=2V」になる
- outの信号は差動アンプICへ反転アンプを介して負帰還しており,「R1=25kΩ,R2=25kΩ」の条件で差動アンプIC内部OPアンプの非反転端子と反転端子はバーチャル・ショートになるように動く
- 反転アンプのoutからB点までのゲインは,「R3=1kΩ,R4=2kΩ」より,「R3/R4=1/2倍」になり,位相は反転する
- 反転アンプのゲインは1/2倍なので,差動アンプIC内部OPアンプがバーチャル・ショートになるには,outの振幅は反転アンプのゲインの逆数の2倍になる
これより「R3=1kΩ,R4=2kΩ」のとき,outの振幅は「2×(Vin+-Vin-)=4V」になり,(d)が正解になります.
●差動アンプICの使い方
差動アンプICは,1つのOPアンプと4つの抵抗を集積化したアンプになります.図2は,SSM2141(1)データシートのP6に記載されている高精度差動アンプの回路です.
入力信号は図1と同じ.
SSM2141内部の4つの抵抗は,全て25kΩなので,図2の差動アンプのゲインは「R2/R1=1倍」になります.具体的には,in+とin-の2つの入力端子の電圧をVin+,Vin-とすると,差動アンプの入出力特性は式1になり,差動入力信号「Vin+-Vin-」を1倍の固定ゲインでoutから出力します.

図3は,図2のシミュレーション結果です.図3の上段は差動入力信号「Vin+-Vin-」のプロットになります.Vin+とVin-の振幅は1V,位相はVin+を正相とするとVin-は逆相なので,減算すると振幅が2Vになるのが分かります.図3の下段は,outのプロットになります.outは式1の関係の通り,「Vin+-Vin-」の信号が出力されます.

上段は,in+とin-間の差動入力電圧をプロット.下段は,outのプロット.
上段の振幅と下段の振幅は同じ2Vなのでゲインは1倍になる.
●ゲイン調整の机上計算
図2の差動アンプは,固定ゲインなのでゲイン調整ができません.ゲイン調整するには差動アンプICに反転アンプを加えます.図4は差動アンプICにゲイン調整用の反転アンプを加えた回路で,図1と同じ回路です.反転アンプ出力のVBの位相は,Voutから反転するので,差動アンプICの非反転端子側へ負帰還しています.ここでは,図4を用いてゲイン調整の机上計算をします.
R3とR4の比でゲイン調整ができる.
差動アンプIC内部のOPアンプのバーチャル・ショートの電圧をVA,反転アンプの出力電圧をVBとします.ここで,差動アンプIC内部のOPアンプと反転アンプのOPアンプのオフセット電圧と入力バイアス電流は無視します.差動アンプIC内のVin+側のR1とR2の電流は等しいので,式2になります.

差動アンプIC内のVin-側から見たバーチャル・ショートの電圧VAは,式3になります.

反転アンプの入出力特性は,式4になります.ここでマイナス(-)の記号は,位相が反転することを意味します.

次に式2を変形すると式5になります.

式5のVAに式3を入れると式6になります.

式6のVBに式4のVBを入れ,Voutで整理すると式7になります.

R1とR2は等しい抵抗とすると,式7は式8になります.このように反転アンプのR3とR4の抵抗比でゲイン調整ができることが分かります.

式8を使って問題の解答を確認します.図1は「R3=1kΩ,R4=2kΩ」,「Vin+-Vin-=2V」なので,outの振幅は4Vになり,(d)が正解になるのが分かります.
●抵抗によるゲイン調整
図5は,図1をシミュレーションする回路になります.図1は「R3=1kΩ,R4=2kΩ」で固定でしたが,ここでは,R3は固定で,R4を変化させてゲインが変わるのを確かめます.
R4を1kΩ,2kΩ,3kΩと変えてoutの振幅を調べる.
具体的にはR4を「.step」コマンドで1kΩ,2kΩ,3kΩと変化させます.シミュレーションは「.tran」解析を用い,0ms~40msの過渡解析を使います.反転アンプを構成するOPアンプのオフセット電圧と入力バイアス電流は,outの直流電圧誤差になります.ここでは低オフセット電圧と低入力バイアス電流のJFET入力OPアンプ(ADA4622-1)(2)を使いました.
シミュレーション前に,式8を使って3種類の抵抗のoutの振幅を計算すると次のようになります.ここで差動入力信号の振幅は「Vin+-Vin-=2V」,「R3=1kΩ」です.
- 「R4=1kΩ」のときはゲインが「R4/R3=1倍」なのでoutの振幅は2V
- 「R4=2kΩ」のときはゲインが「R4/R3=2倍」なのでoutの振幅は4V
- 「R4=3kΩ」のときはゲインが「R4/R3=3倍」なのでoutの振幅は6V
図6は,図5のシミュレーション結果になります.図6の上段は,差動入力信号「Vin+-Vin-」のプロットで振幅は2Vになります.図6の下段は,outのプロットになります.

上段はin+とin-間の差動入力電圧をプロット.下段はoutのプロット.
R4=1kΩのとき振幅は2V,R4=2kΩのとき振幅は4V,R4=3kΩのとき振幅は6Vになる.
図6の下段より,「R4=1kΩ」のときoutの振幅が「2V」,「R4=2kΩ」のときoutの振幅が解答の(d)と同じ「4V」,「R4=3kΩ」のときoutの振幅が「6V」となり,式8を使った3種類の抵抗のoutの振幅計算と一致します.このようにR4でゲインが調整できるのが分かります.
以上,差動アンプICのゲイン調整について解説しました.図1の利点は差動アンプICの固定ゲインを反転アンプのR3とR4の比で線形にゲイン調整ができることです.反転アンプを構成するOPアンプはADA4622-1以外のOPアンプでも可能です.この場合,低オフセット電圧,低入力バイアス電流のOPアンプを選ぶとoutの直流誤差が低くなり,回路全体の性能が向上します.
◆参考・引用*文献
(1) SSM2141のデータシート:アナログデバイセズ
(2) ADA4622-1のデータシート:アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_020.zip
●データ・ファイル内容
SSM2141 Difference amplifier.asc:図2の回路
SSM2141 Difference amplifier.plt:図2のプロットを指定するファイル
Differential amplifier gain adjustment.asc:図5の回路
Differential amplifier gain adjustment.plt:図5のプロットを指定するファイル
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