スイッチング電源とLDOを組み合わせた電源回路の効率改善

図1は,スイッチング電源とLDO(Low Drop-Outレギュレータ)を組み合わせた電源回路です.スイッチング電源の出力(SW_OUT)の電圧は,6Vとなっています.また,LDOは,SW1によって出力(LDO_OUT)の電圧を3Vと5Vに切り換えることができます.そして,LDOの出力には0.5Aの負荷が接続されています.
図1の電源回路で,LDOの出力電圧が5Vのとき効率は77%でした.LDOの出力電圧を3Vにした場合,効率は何%になるでしょうか.

LDOの出力電圧が3Vの場合,電源回路の効率は?
(a) 46% (b) 57% (c) 68% (d) 85%

スイッチング電源は,非常に高効率ですが,出力に混入するスイッチング・ノイズが問題となることがあります.そのような場合,スイッチング電源とLDOを組み合わせることで,スイッチング・ノイズを低減することができます.
図1の電源回路の効率は,ILで発生する電力を,Vccが供給する電力で割ったものです.ILで発生する電力と,Vccが供給する電力がどのように変化するかを考えれば,答えは簡単に分かります.
図1の電源回路で,LDOの出力電圧が5Vのとき,ILに発生する電力は「5*0.5=2.5W」です.効率が77%の場合,VINが供給する電力は「2.5W/0.77=3.25W」になります.
LDOの出力電圧が3Vになると,ILに発生する電力は「3*0.5=1.5W」になります.一方,LDOに流れる電流は,LDOの出力電圧が3Vになっても変化しません.そのため,スイッチング電源の出力電流も変化しません.その結果,VCCが供給する電力は,LDOの出力電圧が変わっても3.25Wで変化しないことになります.
これらの条件から,LDOの出力電圧が3Vのときの,図1の電源回路の効率を計算すると「1.5W/3.25W=0.46」となり,46%になります.
●スイッチング・ノイズを低減する方法
スイッチング電源は,半導体スイッチを高速でON/OFFさせ,出力電圧を制御するもので,非常に効率が良いという特徴があります.一方,その出力には,半導体スイッチのON/OFFに伴う,スイッチング・ノイズがわずかに重畳されます.通常の用途では問題になりませんが,電源ノイズに敏感な回路の場合は,このスイッチング・ノイズが問題となることがあります.
このような場合,図2のように,スイッチング電源の出力の後に,LDOを追加することで,スイッチング・ノイズを大幅に低減することができます.ただし,LDOのようなリニア制御方式の電源は,入出力の電圧差が大きいときの効率が良くありません.そのため,スイッチング電源とLDOを組み合わせた電源回路では効率に注意が必要です.
スイッチング電源の後に,LDOを追加することで,スイッチング・ノイズを大幅に低減できる
●電源回路の効率
まず,図2のブロック図を使用して,効率について計算して考えてみます.電源の効率は,電源の出力電力(負荷で発生する電力)を,入力電力(入力電圧源が供給する電力)で割ったものです.一般的に,これを100倍して%表示とします.図2において,負荷のILに発生する電力(PL)は式1のように計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
VCCが供給する電力(PVCC)は式2のようになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
スイッチング電源とLDOを組み合わせた電源回路の効率(η)は式3で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
▼LDOの出力電圧が5Vのときの効率
図1の電源回路では,VSW_OUT=6V,VLDO_OUT=5V,IL=0.5Aのときの電源回路の効率は77%でした.式1から負荷のILに発生する電力(PL)を求めると,式4のように,2.5Wとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
VCCが供給する電力(PVCC)は,式3を変形し式5のように,3.25Wと求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
LDOの出力電圧が5VのときのLDO単独の効率(ηL)とスイッチング電源単独の効率(ηS)を求めてみます.
ηLは,LDOの消費電流を無視すると,LDOの損失電力(PLDO)と,負荷で発生する電力(PL)から計算することができます.PLDOはLDOに流れる電流とLDOの入出力電圧差を掛けたものになります.また,LDOの入力電力(PLDOIN)はPLとPLDOを加算したものなので,LDO単独の効率(ηL)は式6のように,83%と計算できます.
・・・・・(6)
スイッチング電源単独の効率(ηS)はPVCCとPLDOINを使用して式7のように92%と計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
▼LDOの出力電圧が3Vのときの効率
次にLDOの出力電圧が3Vになったときの効率を求めてみます.出力電圧が3VになってもILは変わらないため,スイッチング電源の動作条件は変わらず,IVCCも変わらないため,PVCCは変化しません.
負荷のILに発生する電力(PL)は式8のように1.5Wになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
電源回路全体の効率(η)は式9のように,46%に低下します.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
LDOの出力電圧が3Vのとき,スイッチング電源単独の効率は変わりませんが,LDO単独の効率は,式10のように50%に低下します.
・・・・・(10)
このように,LDOは入出力電圧差が大きくなると,効率が大幅に低下します.
●電源回路の効率を確認する
図3は,図1の効率をシミュレーションするための回路です.スイッチング電源用ICはLT8608(1)を使用し,LDOはLT3041(2)を使用しています.SW_OUT端子の電圧が6Vになるよう,R1とR2の値を設定しています.そして,スイッチS1を制御して,シミュレーション開始3ms後にLDO_OUT端子の電圧を3Vから5Vに切り替えます.
「.mers」コマンドを使用して,効率を計算し,EF_3VとEF_5Vという変数に代入する.
また,「.mers」コマンドを使用して,電源回路の効率を計算し,EF_3VとEF_5Vという変数に代入するようになっています.なお,VCCの電流は,スイッチングにより断続した波形となるため,「.mers」コマンドで平均値を求めてから,VCCの供給電力を計算しています.
図4が図3のシミュレーション結果です.図4の上段がスイッチング電源の出力電圧とLDOの出力電圧です.そして,図4の下段がLDOの効率です.ILで発生する電力をLDOの入力電力で割って効率を計算しています.LDOの出力電圧が3Vのときの効率は48%で,式10の結果に近い値となっています.

LDOの出力電圧が3Vのときの効率は48%で,式10の結果に近い値となっている.
図5は「.mers」コマンドで計算した,図3の電源回路の効率です.LDOの出力電圧が3Vのときの効率は46.6%となっており,式9で計算した値とほぼ同じとなっています.

●効率を改善する方法
スイッチング電源とLDOを組み合わせた電源回路では,LDOの出力電圧を下げたときの効率がかなり悪化します.LDOは入出力電圧差が大きいときの効率が低い,という性質があるためです.この問題を解決するには,LDOの出力電圧を下げたときは,連動してスイッチング電源の出力電圧も下げる必要があります.
図6は,LDOの出力電圧に合わせて,自動的にスイッチング電源の出力電圧を制御し,LDOの入出力電圧差を一定に制御する回路のブロック図です.
LDOの入出力電圧差 がVrefと等しくなるよう,スイッチング電源の出力電圧を制御する.
スイッチング電源はFB端子に入力された電圧が,基準電圧(Vref)と等しくなるようにPWM信号を制御します.そこで,LDOの入力電圧と出力電圧をゲイン1の差動増幅回路に入力し,その出力をスイッチング電源のFB端子に入力します.
すると,差動増幅回路の出力電圧は,LDOの入出力電圧差(VIN-OUT)と等しくなり,この電圧がVrefと等しくなるよう,スイッチング電源の出力電圧が制御されます.
その結果,LDOの出力電圧を変えても,スイッチング電源の出力電圧は,LDOの入出力電圧差 がVrefと等しくなるよう,制御されることになります.
●スイッチング電源の出力電圧を自動制御する
図7は,図6の原理を使用して,スイッチング電源の出力電圧を自動制御する回路です.LDOのLT3041には,スイッチング電源の出力電圧を自動制御するための,ゲイン1の差動増幅回路が内蔵されています.差動増幅回路の出力はVIOC(VOLTAGE INPUT-TO-OUTPUT CONTROL)(4)端子に出力されます.
LT3041に内蔵されている差動増幅回路を使用してLT8608の出力電圧を制御する.
図7の回路では,VIOC端子の出力電圧を,抵抗(R1,R2)で分圧し,LT8608のFB端子に入力しています.LT8608の基準電圧の値は,0.778Vとなっていますが,抵抗(R1,R2)により差動増幅回路の出力を分圧することで,LDOの入出力電圧差が1Vとなるように設定しています.また,抵抗(R3)は,スイッチング電源の出力の最大電圧を設定しています.
図8は,図7のシミュレーション結果です.図8の上段がスイッチング電源の出力電圧とLDOの出力電圧です.スイッチング電源の出力電圧がLDOの出力電圧に対応して変化し,LDOの入出力電圧差が1Vで一定になっています.
図8の下段は,LDOの効率です.LDOの出力電圧が3Vのときの効率は72%となっており,図3の回路の結果よりもかなり改善されています.

スイッチング電源の出力電圧がLDOの出力電圧に対応して変化している.
図9は「.mers」コマンドで計算した,図7の電源回路の効率です.LDOの出力電圧が3Vのときの効率は69%となっており,こちらも図3の回路の結果よりもかなり改善されています.

以上,スイッチング電源とLDOを組み合わせた電源回路の効率について解説しました.LT3041のVIOC端子の使用方法に関しては,LT3041のデータシートを参照してください.
◆参考・引用*文献
(2)LT3041データシート:アナログデバイセズ
(3)VIOC機能を備えるLDOレギュレータ,入出力電圧を制御して効率を自動的に改善(図6):アナログデバイセズ
(4)LT3041データシート(P26,VIOC):アナログデバイセズ
(5)LT3041データシート(P28 Figure 81):アナログデバイセズ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_019.zip
●データ・ファイル内容
LT3041_LT8608.asc:図3の回路
LT3041_LT8608.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT3041_VIOC_LT8608.asc:図7の回路
LT3041_VIOC_LT8608.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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