電圧リファレンスとOPアンプで作る高精度な電流源
図1は,2.5Vの電圧リファレンス(ADR225)とJFET入力OPアンプ(ADA4625)を使った高精度な電流源回路です.出力電流は,Aのノードから負荷抵抗に流れるIRLの電流になります.図1の回路定数のとき,IRLの電流は(a)~(d)のどれでしょうか.
電流源の出力電流はIRLになる.
(a) 25μA (b) 50μA (c) 75μA (d) 100μA
図1の接続のとき,ADR225で生成する2.5Vは,ADR225のOUT端子とGND端子間の電圧になります.ADA4625のOPアンプはユニティ・ゲイン・バッファです.この接続のとき,R1にかかる電圧を検討すると簡単に分かります.
図1の動作は以下のようになります.
- ADR225のOUT端子とGND端子間の電圧は2.5Vになる
- ADA4625のユニティ・ゲイン・バッファは,反転端子と非反転端子がバーチャル・ショートになる
- バーチャル・ショートなので,ADR225のOUT端子と,OPアンプの非反転端子のAのノード間が2.5Vになり,R1の両端にかかる
- R1の電流は「2.5V/100kΩ=25μA」になる
- JFET入力OPアンプの入力バイアス電流はゼロと見なせるので,25μAはIRLになる
以上の動作より,(a)の25μAが正解になります.
●電圧リファレンスの基本的な動作について
高精度な,電圧リファレンスADR225は,電源電圧が変動しても直流2.5Vの一定した電圧を出力する基準電圧ICになります.図1は,この一定した直流電圧を使って電流源を作る回路になります.ここでは先に2.5V電圧リファレンスの基本的な動作について解説します.
図2(a)は,ADR225の基本的な動作をtran解析でシミュレーションする回路になります.図2(a)は,LTspiceをインストールするとローカルPCにアプリケーション回路として保存されています.
この回路の呼び出しは,ツール・バーの「Componet」から部品の一覧を開き,図2(b)のように「Search」でADR225を検索します.検索後に 「Open Example Circuit」をクリックすることで現れます.
図3は,図2(a)のシミュレーション結果になります.このシミュレーションは,ADR225の入力電圧(VIN)が0秒のとき0V,1秒で5Vになるように推移したときのOUTの電圧を調べています.ADR225の入力電圧(VIN)は,自身の電源電圧も兼ねており,通常は他の回路と共通の電源電圧等に接続して使います.
入力電圧が3.5V以上になると,ADR225の出力電圧は2.5Vで一定になる.
図3より,0.7秒経過付近の入力電圧(VIN)が3.5VでADR225が動作を始め,その後5Vまで推移しても,OUTから一定の2.5Vを出力するのが分かります.このようにADR225は2.5Vのリファレンスとして機能します.
●ADR225のGND端子に外部から電圧を加えたときの動作
ADR225はOUT端子とGND端子間の電圧を2.5Vにします.この場合,GND端子に外部から電圧を加えてもOUT端子とGND端子間の電圧差は2.5Vになります.図1の電流源は,ADR225のOUT端子とGND端子間の電圧差は変わらないことを利用した回路になります.この動作を図4で確かめます.
図4は,図2(a)のGND端子にV2の直流電圧を加えた回路になります.図4では「.step」コマンドを使い,V2が0V,250mV,500mVのときのOUTの変化を調べます.tran解析の指定と入力電圧(VIN)の変化は,図2(a)と同じになります.
図5は,図4のシミュレーション結果になります.V2の電圧によりOUTの電圧はその分だけ高い電圧になりますが,OUTからV2の電圧を減算したOUT端子とGND端子間の電圧差は,どの場合も2.5Vで一定になります.
OUTの電圧はV2を加えた電圧になるが,OUT端子とGND端子間の電圧差は2.5Vで一定になる.
●電圧リファレンスとJFET入力OPアンプを使った電流源回路
図6は,図1をシミュレーションする回路になります.V+の正電源は電圧リファレンスとOPアンプの電源に使い,0msで0V,1ms後に5Vになります.V-の負電源はOPアンプに使い,0msで0V,1ms後に-5Vになります.ADA4625はJFE入力OPアンプで,OPアンプの入力バイアス電流はゼロと見なせます.
図6のJFET入力のOPアンプは,ユニティ・ゲイン・バッファです.OPアンプの反転端子と非反転端子はバーチャル・ショートになります.バーチャル・ショートの効果により,電圧リファレンスのOUT端子とOPアンプの非反転端子のAのノード間が2.5Vになります.R1の両端にかかる電圧が2.5Vなので,R1の電流は式1の25μAになります.
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電圧リファレンス(ADR225)のGND端子から流れる電流は,ユイティ・ゲイン・バッファに流れるので,IRLに関係しません.そしてJFET入力OPアンプの入力バイアス電流はゼロとみなせるので,R1の電流25μAはIRLになります.このように図6の電流源の出力電流(IRL)は25μAになり,解答の(a)が正解になります.
●電圧リファレンスとJFET入力OPアンプを使った電流源の確認
図7は,図6のシミュレーション結果になります.上段は正負の電源の推移,中段はOUTとA間の電圧差,下段は電流源の出力電流のIRLをプロットしました.
上段はV+とV-の電圧をプロット.1ms後に±5Vになる.
中段はOUTとA間の電圧差をプロット.電圧差は2.5Vで一定になる.
下段は電流源の出力電流をプロット.出力電流は25μAで一定になる.
上段より正負の電源は1ms後に±5VになりADR225は動作を始めます.ADR225が動作をすると,中段のようにOUTとA間の電圧差は2.5Vになります.OUTとA間の電圧差はR1の両端にかかるので,下段の電流源の出力電流は式1のように25μAになるのが分かります.
●電流源回路の負荷抵抗が変動したときの動作を調べる
電流源は,負荷抵抗の電圧降下に関係なく一定の電流になるのが特徴です.この特徴を図8の回路で確認します.図8は負荷抵抗のRLを「.step」コマンドを使い,1Ω,10kΩ,20kΩに変化させたときの出力電流(IRL)を調べます.その他のシミュレーションの条件は図6と同じになります.
図9は,図8のシミュレーション結果になります.上段が負荷抵抗が変化したときのAの電圧変化,中段がOUTとA間の電圧差,下段が電流源の出力電流のIRLをプロットしました.
上段はAの電圧をプロット.負荷抵抗が変化するとAの電圧は変化する.
中段はOUTとA間の電圧差をプロット.電圧差は2.5Vで一定になる.
下段は電流源の出力電流をプロット.負荷抵抗が変化しても出力電流(IRL)は変わらない.
上段より負荷抵抗が変化すると,Aの電圧は負荷抵抗が1Ωのとき25μV,10kΩのとき250mV,20kΩのとき500mVに変化します.Aの電圧が変化しても中段のようにOUTとA間の電圧差は2.5Vになります.OUTとA間の電圧差に変化はないので,電流源の出力電流は図9下段のように25μAで一定になるのが分かります.
以上,電圧リファレンスとOPアンプを使って,高精度な電流源を作る解説を行いました.ADR225の電圧リファレンスは温度係数が40ppm/℃と低く,電源電流は50μA(最大)と低電源電流です.そしてADA4625は低入力バイアス電流(±15pA),低オフセット電圧(±80μV),低い電圧ノイズ(3.3nV/√Hz)の性能です.2つのICとも高精度なデバイスですので,図1の高精度な電流源を作ることができます.
◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:ADR225の製品の詳細ページ
(2)アナログデバイセズ:ADR225のデータシート
(3)アナログデバイセズ:ADA4625の製品の詳細ページ
(4)アナログデバイセズ:ADA4625のデータシート
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_006.zip
●データ・ファイル内容
ADR225 ex1.asc:図4の回路
ADR225 ex1.plt:図4のプロットを指定するファイル
Current Source tran1.asc:図6の回路
Current Source tran1.plt:図6のプロットを指定するファイル
Current Source tran2.asc:図8の回路
Current Source tran2.plt:図8のプロットを指定するファイル
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