スイッチド・キャパシタを使用した電流検出回路
図1は,U1にスイッチド・キャパシタIC(LTC1043)を使用した電流検出回路です.負荷電流(IL)を,10mΩの抵抗(RS)で電圧に変換し,その電圧をU2で増幅してOUT端子に出力します.U1に内蔵されたSW1とSW2は,240Hzの信号により,周期的にスイッチの状態を切り替えます.この回路で,ILの値が2Aのとき,OUT端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.
負荷電流(IL)を抵抗(RS)で検出し,OUT端子にILの電流値に比例した電圧を発生させる.
(a) 0.5V (b) 1V (c) 1.5V (d) 2V
LTC1043は,スイッチド・キャパシタ回路を構成するために必要な,スイッチ回路と,クロック発生用の発振回路を内蔵しています.図1のスイッチド・キャパシタ回路は,入力電圧でC1を充電し,C2にその電圧を伝達します.RSで発生する電圧と,OPアンプのゲインを計算すれば,答えは簡単に分かります.
負荷電流(IL)により,RSに発生する電圧(VRS)は「VRS=RS*IL=10m*2=20m」となります.U1の働きにより,この電圧でC1を充電し,C2に伝達します.そのため,OPアンプ(U2)の入力電圧は20mVになります.OPアンプ(U2)は,非反転増幅回路を構成しており,そのゲイン(G)は「G=(R1+R2)/R2=(9.9k+100)/100=100」となります.そのため,OUT端子の電圧(VOUT)は「VOUT=VRS*G=20mV*100=2V」となります.
●スイッチド・キャパシタ差動シングル変換回路
図2は,図1の回路で使用している,スイッチド・キャパシタ差動シングル変換回路です.SW1とSW2は,クロック信号によって,図2(a)の状態(サンプリング・モード)と図2(b)の状態(ホールド・モード)を交互に繰り返します.
コンデンサのペア精度によらず,非常に高いCMRRが得られる.
SW1,SW2が図2(a)の状態のとき,差動信号(Vd)の電圧がC1に充電されます.このとき,同相信号(Vcm)の電圧は,C1の電圧には影響しません.次に,SW1,SW2が図2(b)の状態になると,C1の電圧でC2が充電されます.この電圧はVdと等しくなります.このようにして,S1A端子とS3A端子の差動電圧を,シングル電圧に変換して,S2A端子に出力することができます.
一般的なOPアンプを使用した差動シングル変換回路は,抵抗のペア精度が悪いと,同相除去比(CMRR)が悪化してしまいます.一方,図2の回路は,コンデンサのペア精度によらず,非常に高いCMRRを得ることができます.
●スイッチド・キャパシタを使用した電流検出回路を確認する
図3は,図1のスイッチド・キャパシタICを使用した電流検出回路をシミュレーションするための回路です.電圧制御スイッチを4個(S1~S4)使用して,図1のSW1とSW2の動作を行うようにしています.
電圧制御スイッチを4個(S1~S4)使用して,図1のSW1とSW2の動作を行う.
VaとVbは,逆位相の240Hzのパルス波で,S1とS2およびS3とS4がそれぞれ同時にONしないように,パルス波形を設定しています.OPアンプ(U2)は非反転アンプを構成しており,そのゲイン(G)は式1のように100倍(40dB)です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ILの電流によってRSに発生する電圧(VRS)は,式2のように20mVとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
VRSは,スイッチド・キャパシタ差動シングル変換回路によって,S2A端子に出力されます.R2A端子の電圧をOPアンプでG倍するため,OUT端子の電圧(VOUT)は式3のように,2Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
図4は,図3のシミュレーション結果です.図4の上段がS1A端子とS3A端子の差電圧および,S2A端子の電圧です.S1A端子とS3A端子の差電圧は,式2で計算したように20mVとなっており,S3A端子の電圧はその電圧と同じ値になっています.図4の下段がOUT端子の電圧で,式3で計算したように2Vとなっています.
OUT端子の電圧は,式3の計算結果と同じ2Vとなっている.
●スイッチド・キャパシタICを使用した差動シングル変換
図5は,スイッチド・キャパシタ(LTC1043)を使用した,差動シングル変換回路をシミュレーションするための回路です.図1の差動シングル変換部分を抜き出したもので,S1A端子とS3A端子の差電圧をOUT端子に出力します.
S1A端子とS3A端子の差電圧をOUT端子に出力する.
COSC端子に接続するコンデンサの容量値を変えることで,内部クロック周波数を変えることができます.クロック周波数(fCLK)は,式4で求めることができます(2).
・・・・・・・・・・・・・・・(4)
図6は,図5のシミュレーション結果です.OUT端子の電圧は,S1A端子とS3A端子の差電圧と同じ,1Vになっていることが分かります.
OUT端子の電圧は,S1A端子とS3A端子の差電圧と同じ,1Vになっている.
●スイッチド・キャパシタICを使用した,正確な分圧回路
図7は,スイッチド・キャパシタIC(LTC1043)を使用して,入力電圧を正確に1/2にするための回路です.抵抗を使用した分圧回路では,2本の抵抗のばらつきによって精度が決まるため,無調整で正確に電圧を1/2にすることはできません.スイッチド・キャパシタICを使用した分圧回路は,±1ppm(0.0001%)の精度で正確に1/2とすることができます(3).
±1ppm(0.0001%)の精度で正確に1/2とすることができる.
図7のようにS3A端子とS2A端子を接続した場合,サンプリング・モードのときの,入力電圧(Vin)とC1の両端電圧(VC1)は,式5のように表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ホールド・モードでは,C2の電圧とC1の電圧が等しくなるため「VOUT=VC1」となります.そのため,式5は式6のように変形することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6をVOUTについて解くと,式7のように,入力電圧を1/2にしたものになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
図8は,図7のシミュレーション結果です. OUT端子の電圧は,Vinの1/2の2Vとなっています.
OUT端子の電圧は,Vinの1/2の2Vとなっている.
●スイッチド・キャパシタを使用した,正確な2倍回路
スイッチド・キャパシタIC(LTC1043)を使用すると,入力電圧を正確に2倍にすることもできます.図9がスイッチド・キャパシタを使用して,入力電圧を正確に2倍にするための回路です(4).
±50ppm(0.005%)の精度で正確に1/2とすることができる.
図9のように,S1A端子とS4A端子を接続した場合,サンプリング・モードのときは,式8のようにC1の電圧(VC1)と入力電圧(Vin)が等しくなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ホールド・モードに切り替わったとき,OUT端子の電圧は,VinとVC1を足したものになります.VC1はVinと等しいため,式9のようにVOUTはVinの2倍になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
図10は,図9のシミュレーション結果です.OUT端子の電圧は,Vinの2倍の8Vとなっています.
OUT端子の電圧は,Vinの2倍の8Vとなっている.
以上,スイッチド・キャパシタについて解説しました.LTC1043のデータシートにはここで紹介したもの以外にも,さまざまな応用回路例が記載されていますので,参考にしてください.
◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:LTC1043製品の詳細
(2)アナログデバイセズ:LTC1043データシート P7 Figure 6. Internal Oscillator
(3)アナログデバイセズ:LTC1043データシート P8 Divide by 2
(4)アナログデバイセズ:LTC1043データシート P8 Multiply by 2
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice11_003.zip
●データ・ファイル内容
SWCP_IV.asc:図3の回路
SWCP_IV.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC1043_D2S.asc:図5の回路
LTC1043_D2S.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC1043_Div2.asc:図7の回路
LTC1043_Div2.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC1043_Multi2.asc:図9の回路
LTC1043_Multi2.plt:図10のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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