高精度なローサイド電流検出回路
図1は,ローサイド(-48Vの負の電源側)に流れる電流(I1)をR4の電圧降下で検出して,outから電圧換算でモニタ出力する電流検出回路になります.このI1が100mAのとき,outのモニタ電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.
ただし,図1のD1が5.1Vのツェナー・ダイオード,M1がドレイン・ソース間の耐圧が60VのMOSFET,OPアンプがゼロドリフトOPアンプ(LTC2054)となります.
図1のローサイドの電流(I1)が100mAのとき,outの電圧は(a)~(d)のどれでしょうか?
(a) 5mV (b) 10mV (c) 50mV (d) 100mV
図1のOPアンプ(U1)と抵抗(R1,R2),MOSFET(M1)は,R4で検出したローサイドの電流に比例した電流をM1から出力します.その後,M1の出力電流をOPアンプ(U2)と抵抗(R3)で構成したトランス・インピーダンス・アンプで電圧に変換して,outから出力します.この動作をヒントに,図1の回路定数を使用して解析すると分かります.
図1の回路動作は次になります.
- ローサイドの電流(I1)はR4の抵抗で電圧降下を生じる.この電圧降下(VR4)は,「VR4=I1R4=1mV」になる
- R1の左側の電圧は,R2の左側の電圧よりVR4の電圧降下だけ低くなる.このときOPアンプの反転端子と非反転端子には電流は流れず,かつ非反転端子と反転端子はバーチャル・ショートになることから,R1の電流(IR1)は「IR1=VR4/R1=10μA」になる
- R1の電流はM1のMOSFETのドレイン電流(ID1)になり,「ID1=IR1=10μA」となる
- ID1の電流はR3の抵抗で電圧に変換されて,outから出力する.よって,「Vout=ID1R3=100mV」になる
この動作により,ローサイドの電流「I1=100mA」は,outから電圧換算で「Vout=100mV」としてモニタ出力しています.以上より,(d)が正解になります.
●抵抗値を低くして高精度なOPアンプを使う
電源電流の検出は,異常な電流から回路を保護するときに使用されます.電流の検出は,検出抵抗(図1のR4)で発生する電圧降下を使います.しかし,抵抗値の設定が難しい面もあります.
具体的には,高い抵抗だと電圧降下も高くなり,電源電圧の変動に繋がります.一方,低い抵抗だと電圧降下が低くなり,電源電圧の変動も低くなります.OPアンプのオフセット電圧(一般に数百μVから数mV)に近づくと,検出抵抗の電圧降下なのか,オフセット電圧なのか判断が難しくなります.
このようなとき,OPアンプのオフセット電圧が低いゼロドリフトOPアンプを使用します.ゼロドリフトOPアンプは,時間や温度の変化によるオフセット電圧のドリフトが,ほぼゼロになるOPアンプです.図1で使用したLTC2054は,入力オフセット電圧は最大で3.0μV,オフセット・ドリフトは最大で30nV/℃の特性なので,検出抵抗を低くした高精度の電流検出に適しています.
●直流動作点の検討
図2は,図1と同じ回路ですが,直流動作点の検討と,その後のoutの計算のため,テキストを追記した解説図です.はじめに,図2を使って-48Vの負電源のときに,回路がどのように動作するかを解説します.
図2にあるゼロドリフトOPアンプ(LTC2054)のV+とV-間の電源電圧範囲は,データシートより2.7V~6Vです.U1のゼロドリフトOPアンプは,ツェナ・ダイオード(D1)の5.1Vを使用し,V+とV-間をデータシートの電源電圧範囲内にしています.また,U2のゼロドリフトOPアンプは,V2の5V電源に接続し,同じくV+とV-間をデータシートの電源電圧範囲内にしています.MOSFET(M1)のドレインとソース間は最大で48Vになります.この電圧が印加されてもMOSFETがブレークダウンしないように,耐圧が60Vの2N7002を使用しています.このような構成にすることにより,-48Vの負電源でも回路が正常に動作します.C1,C2,C3は回路を安定にするコンデンサになります.
●outの電圧の机上計算
次に図2を使ってoutの電圧を机上計算し,答え合わせをします.図1と同様に,図2ではローサイドの電流をI1の電流源で表しています.ローサイドの電流(I1)はR4の抵抗で電圧降下を生じます.この電圧降下(VR4)は式1より,I1が100mAのとき1mVになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ゼロドリフトOPアンプ(LTC2054)の入力オフセット電圧は,最大で3.0μV,オフセット・ドリフトは最大で30nV/℃の特性なので,仮に回路の温度が85℃のとき,「3μV+30nV*(85-25)=4.8μV」と低いので,式1の1mVの変化を検出できることになります.
図2のR1の左側の電圧は,R2の左側の電圧より式1のVR4の電圧降下だけ低くなります.このときOPアンプの反転端子と非反転端子には電流は流れず,かつ非反転端子と反転端子はバーチャル・ショートになることから,R1の電流(IR1)は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2のR1の電流は,M1のMOSFETのドレイン電流(ID1)になり,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3のID1の電流は,トランス・インピーダンス・アンプのR3の抵抗で電圧に変換されて,outから出力され,式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
これより,ローサイドの電流「I1=100mA」は,outから電圧換算で「Vout=100mV」として出力されることになり,解答の(d)が正解になります.
●直流動作点とoutの電圧をシミュレーションで調べる
図3は「.op」解析を使用して,回路の直流動作点をシミュレーションする回路になります.「.op」解析前は波線で囲ったエリアの直流動作点は「???」の表示ですが,「.op」解析後は図3のように直流動作点が表示されるようになります.
「.op」解析で直流動作点をシミュレーションし,回路図に結果を表示している.
図3の直流動作点より次のことが分かります.
- OPアンプ U1のV+とV-間の電圧:V(v+)-V(v-)=5.07V,OPアンプデータシートの電源電圧範囲内
- MOSFET(M1)のドレインとソース間の電圧:V(d)-V(s)=48V,MOSFET耐圧 60V以内
- R4の電圧降下:V(sense+)-V(v-)=1mV,式1と同じ
- R1の電流:I(R1)=10μA,式2と同じ
- M1のドレイン電流:Id(M1)=10μA,式3と同じ
- outの電圧:V(out)=100mV,式4と同じ
直流動作点は,前述で検討したものと同じになり,ローサイドの電流(I1)が100mAのとき,outの電圧は100mVであることが分かります.
●outの電圧変化を調べる
図4は,ローサイドの電流(I1)が変化したときのoutの電圧変化を調べる回路になります.具体的にはDC解析を使用し,I1は0mA~100mA間を1mAのステップでスイープし,outの変化をプロットします.
I1は0mA~100mA間を1mAでスイープしている.
図5は,図4のシミュレーション結果になります.
ローサイドの電流が変化したときのoutの電圧をプロット.
図5より,ローサイドの電流(I1)が変化すると,それに比例してoutの電圧も変化するのが分かります.このようにローサイドの電流変化を検出する回路になるのが分かります.
◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:LTC2054のデータシート
図1は,データシート(1P)の標準的応用例.データシートで使用しているMOSFET「ZVN3320F」のモデルが無いので「2N7002」を代替しています.そして計算を簡単にするため,R4は0.003Ωから0.01Ωへ変更しています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_046.zip
●データ・ファイル内容
Lowside Current sense DC Operating Point.asc:図3の回路
Lowside Current sense.asc:図4の回路
Lowside Current sense.plt:図4のプロットを指定するファイル
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