高精度アンプの直流電圧と振幅を求める




LTspice メール・マガジン全アーカイブs

■問題
【 LTC2054 】

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,ゼロドリフトOPアンプ(LTC2054)の特性を確認するための高精度アンプです.抵抗分圧によりOPアンプの電源電圧(V+=2.5V,V-=-2.5V)より高い同相入力電圧でも動作します.
 図1において,差動入力信号(V1)が「振幅が1Vの正弦波」,同相入力電圧(V2)が「直流100V」のとき,outの信号の直流電圧と振幅は,(a)~(d)のどれでしょうか.
 ただし,ゼロドリフトOPアンプの入力電圧の最大定格は「V++0.3V~V--0.3V」です.



図1 ゼロドリフトOPアンプを使った高精度アンプ
データシート(P12)に記載されている回路はLTC2054HVを使用しています.しかし,LTC2054HVのモデルがないので,ここではLTC2054使用します.

(a) 直流電圧0Vで振幅が0.5V
(b) 直流電圧0Vで振幅が1V
(c) 直流電圧100mVで振幅が0.5V
(d) 直流電圧100m Vで振幅が1V

■ヒント

 ゼロドリフトOPアンプは,時間や温度の変化によるオフセット電圧のドリフトが,ほぼゼロになるOPアンプになります.U1のゼロドリフトOPアンプとR1,R2,R3,R4は差動アンプです.U2のゼロドリフトOPアンプとR5,R6は反転アンプです.同相入力電圧(V2)の100Vが,差動アンプにかかるとき,C点の直流電圧が分かるとoutの直流電圧が計算できます.そして差動入力信号(V1)が加わるとき,回路全体のゲインよりoutの振幅が分かります.

■解答


(b) 直流電圧0Vで振幅が1V

 図1の回路動作は次になります.

まずoutの直流電圧

  • 同相入力電圧(V2)の100Vが回路に加わると,R2とR4の抵抗分圧によりB点は99.9mVになる.このとき,A点はバーチャル・ショートによりB点と同じ99.9mVになる.A点とB点の入力電圧は,ゼロドリフトOPアンプの入力電圧の最大定格内になる
  • A点とB点が同じ電圧,かつ「R1=R2,R3=R4」の条件より,C点の直流電圧は,R4の右側のGNDと同じになり0Vになる.C点の直流電圧が0Vのとき,outの直流電圧も0Vになる

次にoutの振幅

  • U1のゼロドリフトOPアンプと「R1=R2,R3=R4」で構成した差動アンプのゲイン(G1)は「G1=-1」になる.そしてU2のゼロドリフトOPアンプとR5,R6で構成した反転アンプのゲイン(G2)は「G2=-1」になる
  • 全体のゲイン(G)は,前述のG1とG2の積なので「G=1」になり,V1が1Vの振幅のとき,outの信号は1Vの振幅になる


これより,(b)が正解になります.

■解説

●ゼロドリフトOPアンプについて
 ゼロドリフトOPアンプは,時間や温度の変化によるオフセット電圧のドリフトが,ほぼゼロになるOPアンプになります.これはOPアンプの回路内で自動補正するため,入力の誤差(オフセット電圧やドリフト)が極めて低くなります.
 しかし,これは実装上の特性であり,シミュレーション上では,他のOPアンプと比較した場合,他のOPアンプも理想に近い値になるため明確な数値の差はでません.
 具体的には,LTC2054のデータシートより,入力オフセット電圧が最大で±3.0μV,オフセット・ドリフトが±50nV/°Cの性能です.このように入力オフセット電圧がマイクロ・ボルトの単位で非常に低いこと,またオフセット・ドリフトも低いことから,高いゲインや高精度の回路に適したOPアンプになります.図1の回路ではU1とU2のゼロドリフトOPアンプを使うことにより,outの出力オフセット電圧が極めて低く,長期間使用しても「直流電圧0Vで振幅が1V」という特性になります.

●outの波形の机上計算
 図1を用いて解答の答え合わせを机上計算でおこないます.まず先に,C点の直流電圧を求めます.U1のゼロドリフトOPアンプとR1,R2,R3,R4は差動アンプです.差動アンプに同相入力電圧(V2)の100Vが加わったとき,B点の電圧は「R2=1MΩ」と「R4=1kΩ」の抵抗分圧より式1の「VB=99.9mV」になります.そして差動アンプのバーチャル・ショートより,A点の電圧も同じ「VA=99.9mV」になります.ここでOPアンプの反転端子(A点)と非反転端子(B点)に加えられる電圧をデータシートで調べると,LTC2054の入力電圧の最大定格は「V++0.3V~V--0.3V」です.図1ではOPアンプの正の電源は「V+=2.5V」,負の電源は「V-=-2.5V」なので,式1の電圧は最大定格内になり,同相入力電圧(V2)の100Vが加わっても差動アンプは動作することになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 次にC点の直流電圧を検討します.差動アンプの抵抗は「R1=R2,R3=R4」の関係です.A点とB点がバーチャル・ショートにより同じ電圧,かつ「R1=R2,R3=R4」の条件よりC点の電圧は,R4の右側のGNDと同じになり,式2になります.C点の直流電圧は,0Vなので,U2のゼロドリフトOPアンプとR5,R6で構成した反転アンプの出力であるoutの直流電圧も0Vになり,outは0Vを中心に波形が現れます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 最後に図1のゲインを検討します.差動アンプのゲインをG1とすると「G1=-R3/R1」,反転アンプのゲインをG2とすると「G2=-R6/R5」です.図1のゲインはG1とG2の積になり,回路の抵抗値「R1=1MΩ」,「R3=1kΩ,R5=1kΩ,R6=1MΩ」より,ゲインは式3の1倍になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

  以上より,図1のoutは,「直流電圧が0Vで1Vの振幅」になります.

●outの信号を確かめる
 図2は,図1をシミュレーションする回路になります.図2ではV1の振幅が1V,周波数が10Hzの正弦波,V2は直流100Vを回路に加えています.シミュレーションは0s~1s間をTran解析します.


図2 図1をシミュレーションする回路
V1は振幅が1V,周波数が10Hzの正弦波.
V2は直流電圧100V.
0sから1sまでの過渡解析でA,B,C,outの波形をプロットする.

 図3は,図2のシミュレーション結果になります.図3の上段は,A点とB点の電圧で,式1で検討したように99.9mVになっています.図3の中段は,C点の波形で差動アンプの出力波形になります.差動アンプのゲインは「G1=-R3/R1=-0.001倍」なので,C点の波形は直流0Vで,V1から位相が反転した振幅が1mVになります.図3の下段はoutの波形になります.C点の波形を反転アンプのゲイン「G2=-R6/R5=-1000倍」で増幅するので,outは0Vを中心に,振幅は1Vで位相はV1と同じになるのが確認できます.


図3 図2のシミュレーション結果
A,Bの直流電圧は99.9mVで机上計算と同じ.
Cの波形は0Vを中心に振幅が1mVで,入力信号V1から位相が反転する.
outの波形は0Vを中心に振幅が1Vになる.

●抵抗の精度によって直流電圧が変化する
 図1の回路の注意点は,ゼロドリフトOPアンプによりオフセット電圧の誤差は低くなりますが,図1中の差動アンプを構成するR1,R2,R3,R4の抵抗の誤差により直流電圧の変化が発生することです.  図4は,図1の抵抗R1,R2,R3,R4の精度が0.1%の抵抗を使った例になります.差動アンプを構成する抵抗の最大の誤差として,R1とR4は+0.1%,R2とR3が-0.1%になるように抵抗値を変えています.ここでは図4をシミュレーションしてoutの直流電圧の変化を調べます.


図4 図1のアンプに0.1%精度の抵抗を使ったときの誤差を調べる回路

 図5は,図4のシミュレーション結果になります.図5の上段は,C点のプロット,図5の下段は,outのプロットです.先ほどの図3の抵抗の精度が理想に近い状態のプロットと比べると,C点の直流電圧が0.4mVになり,その電圧を反転アンプで増幅するので,outの直流電圧は-400mVずれることになります.このように抵抗の精度にも注意が必要です.


図5 図4のシミュレーション結果
抵抗の誤差により,Cの直流電圧は0.4mV,outの直流電圧は400mVになる.

◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:LTC2054のデータシート


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_044.zip

●データ・ファイル内容
Highvoltage amp.asc:図2の回路
Highvoltage amp.plt:図2のプロットを指定するファイル
Highvoltage amp mismatch.asc:図4の回路
Highvoltage amp mismatch.plt:図4のプロットを指定するファイル

■LTspice関連リンク先


(01) LTspice ダウンロード先
(02) LTspice Users Club
(03) LTspice メール・マガジン全アーカイブs
(04) ◆LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(05) ◆LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
(06) ◆LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
(07) ◆IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(08) ◆オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(09) ◆LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs
(10) ◆LTspiceドット・コマンドから学ぶアナログ回路アーカイブs
(11) ◆LTspiceで始める実用電子回路入門アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報


近日発売

Interface 2025年 4月号

Pythonで学ぶ制御

別冊CQ ham radio QEX Japan No.54

巻頭企画 "FreeDV"最新ガイド

CQ ham radio 2025年 3月号

アンテナチューナー活用ガイド2025

Interface 2025年 3月号

仕事のための生成AI

CQ ham radio 2025年 2月号

アマチュア無線 オペレーションガイド2025

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ