アンプのゲインを変化させ出力を一定にするAGC回路




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■問題
【 AD8336/LTC1966 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,可変ゲイン・アンプ(VGA)を使用した,自動ゲイン調整(AGC)回路です.AGC回路は,入力レベルが変化しても,出力レベルが一定になるように動作します.図1のVGAは,gain端子の電圧により,図2のようにゲインが変化します.また,RMS-DCコンバータは,入力された信号の,実効値の直流電圧を出力します.この回路で,IN端子に周波数1kHzで,振幅10mVPPの正弦波を加えたとき,OUT端子の信号の大きさは,(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 VGA(Variable Gain Amplifier)を使用したAGC(Automatic Gain Control)回路(1)
IN端子に1kHz,10mVPPの正弦波を加えたとき,OUT端子の信号の大きさは?


図2 VGAのコントロール電圧対ゲイン特性(2)

(a) 200mVPP (b) 283mVPP (c) 400mVPP (d) 566mVPP

■ヒント

 正弦波の実効値は,ピーク電圧の1/√2になります.そして,図1のOUT端子の振幅は,OPアンプの非反転入力端子に接続されたVrefの電圧で決まります.

■解答


(d) 566mVPP

 図1の回路は,Out端子の出力レベルの実効値が,Vrefの電圧の0.2Vで一定になります.そのため,OUT端子の出力レベルのピーク・ツー・ピーク電圧(VOUTPP)は「VOUTPP=0.2*√2*2=566mVPP」となります.そのため正解は(d)です.なお,このとき,VGAのゲインは「0.2/(10m/(√2*2))=57=35dB」に自動調整されています.

■解説

●無線機器で多く使われるAGC回路
 AGC(Automatic Gain Control)回路は,入力信号が変化しても,出力が一定の大きさになるように,アンプのゲインを変化させる回路です.無線機器で多く使われますが,オーディオ信号のレベルを一定にする用途にも使用できます.
 図1の回路では,VGAのゲインを制御して,OUT端子の出力が一定になるように動作します.図1の回路でOPアンプ(U1)は,抵抗(R3)とコンデンサ(C3)とともに,反転積分回路を構成しています.OPアンプの非反転入力端子には,基準電圧(Vref)が接続されており,Vrefの電圧により,出力レベルを設定することができます.
 VGAの出力は,RMS-DCコンバータに加えられ,その出力(RMS端子)が反転積分回路に入力されています.そして,反転積分回路の出力がVGAの制御端子(gain)に接続されています.この回路で,出力レベルがどのようにして一定になるのか,順番に考えてみます.

●AGC回路の動作
 まず,入力信号が0Vのとき,RMS端子は0Vになります.RMS端子の電圧がVrefよりも小さいため,反転積分回路の出力は+電源に振り切れます.そのときのVGAのゲインは,図2のグラフより,44dB(158.5倍)になっています.この状態で,10mVPPの正弦波(3.5mVRMS)の信号を加えると,VGAの出力は3.5mを158.5倍した554mVRMSになります.すると,RMS端子は554mVになります.
 RMS端子の電圧がVrefよりも大きいと,+電源に振り切れていた反転積分回路出力(gain端子)の電圧は小さくなっていきます.gain端子の電圧が0.6Vよりも小さくなると,VGAのゲインが減少してOUT端子の出力は減少し,RMS端子の電圧も小さくなります.
 そして,VGAのゲインは,RMS端子の電圧がVrefと等しくなった状態で安定します.VGAのゲインが安定したときの,OUT端子の出力レベルの実効値は,Vrefと等しくなります.図1でVrefは,0.2Vとなっているため,図1のOUT端子の出力は0.2VRMSで一定となります.0.2VRMSの正弦波信号のピーク・ツー・ピーク電圧(VOUTPP)は,式1のように,566mVPPになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 なお,このときVGAのゲイン(GVGA)は,式2のように,35dBとなっていることになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
 この後,図1の回路を具体的なICを使用した回路で再構成し,動作を確認します.

●VGAはゲイン可変アンプ
 VGA(Variable Gain Amplifier)は,電子的にゲインを変えることのできるアンプです.主に高周波回路のゲインを制御する目的で使用されています.ゲイン・コントロール信号としては,アナログ信号を使用するものと,デジタル信号を使用するものがあります.また,ゲイン・コントロール回路は,信号をひずませることなく,広い範囲でゲインを可変するために,さまざまな回路方式が考案されています.
 今回は,広帯域(80MHz)で,アナログ信号による60dBのゲイン可変範囲を持ったVGAのAD8336を使用してAGC回路を構成します.

●ゲイン・コントロール特性を確認する
 図3は,AD8336のゲイン・コントロール特性をシミュレーションする回路です.AD8336には外付け抵抗で,自由にゲイン設定できるプリアンプが内蔵されています.図3の回路ではR2とR3により,4倍のゲインに設定しています.また,可変ゲイン・アンプは,GNEG端子とGPOS端子の差電圧によってゲインをコントロールします.図3の回路では,GNEG端子はGNDに接続し,GPOS端子に接続された,電圧源Vgの電圧でゲインをコントロールします.「.stepコマンド」で,Vgの電圧を-0.7Vから0.7Vまで10mVステップで変化させ,AC解析により,1kHzのゲインを求めます.


図3 AD8336のゲイン・コントロール特性をシミュレーションする回路
「.stepコマンド」で,Vgの電圧を変化させ,AC解析でゲインを求める.

 図4は,図3のシミュレーション結果です.ゲイン・コントロール信号を-0.7V~0.7Vまで変化させると,ゲインは-15dBから+45dBまで,60dB変化することが分かります.図4のシミュレーション結果では,コントロール電圧とゲインのカーブが若干曲がっていますが,データシート(2)によると,実際の製品のカーブは図2のような直線になっています.


図4 AD8336のゲイン・コントロール特性のシミュレーション結果
コントロール信号を-0.7Vから0.7Vまで変化させると,ゲインは-15dBから+45dBまで変化する.

●RMS-DCコンバータの特性をシミュレーションする
 RMS-DCコンバータ(LTC1966)(3)は,入力信号の実効値に対応した直流電圧を出力する回路です.いろいろな方式のICがありますが,今回はデルタシグマ回路を使用したRMS-DCコンバータのLTC1966を使用します.図5はLTC1966の変換特性をシミュレーションする回路です.Vinが信号源で,ピーク電圧が「RMS*√2」で1kHzの正弦波を出力します.そして,「.stepコマンド」によりRMSという変数の値を50m,500m,1と変化させてトランジェント解析を行います.


図5 RMS-DCコンバータのLTC1966の変換特性をシミュレーションする回路
「.stepコマンド」で入力振幅を変えてトランジェント解析を行う.

 図6は,図5のシミュレーション結果です.ピーク電圧が「RMS*√2」の正弦波を入力すると,RMS値と等しい直流電圧が出力されることが分かります.


図6 RMS-DCコンバータのLTC1966の変換特性のシミュレーション結果
「RMS*√2」の正弦波を入力すると,RMS値と等しい直流電圧が出力される.

●VGAを使用したAGC回路を確認する
 図7は,VGA(AD8336)を使用したAGC回路をシミュレーションする回路です.図1のAGC回路の構成ブロックを,具体的なICに置き換えたものです.反転型積分回路には,ダイオードによる電圧リミッタを追加して,出力電圧範囲を制限し,OUT端子の出力が安定するまでの時間を短縮しています.
 入力信号は,B電源を使用して正弦波を発生させ,その振幅は電圧源(Vamp)で設定できるようにしています.これは,時間とともに振幅の変化する正弦波を作るためです.図7では正弦波の振幅は10mVPPで一定としています.このときのOUT端子の出力はいくつになるか,シミュレーションします.

図7 AD8336を使用したAGC回路をシミュレーションする回路
図1のAGC回路の構成ブロックを,具体的なICに置き換えた回路.

▼AGC回路のシミュレーション結果
 図8は,図7のシミュレーション結果です.OUT端子とgain端子の電圧をプロットしています.OUT端子の振幅は,シミュレーション直後は大きくなっていますが,その後一定値に収束しています.


図8 図7のシミュレーション結果
10mVPPの正弦波を入力したときのAGC回路のシミュレーション結果.
OUT端子の振幅は,シミュレーション直後は大きく,その後一定値に収束している.

▼AGC回路の時間軸を拡大したシミュレーション結果
 図9は,図8の時間軸を拡大したものです.OUT端子の出力波形は,きれいな正弦波となっており,その振幅は566mVPPで,実効値は200mVとなっています.


図9 時間軸を拡大したAGC回路のシミュレーション結果
OUT端子の振幅は566mVPPで,実効値は200mVとなっている.

▼AGC回路の入力信号電圧を時間とともに変化させたときのシミュレーション結果
 図10は,図7の振幅設定用電圧源(Vamp)の電圧を時間とともに変化させ,振幅の変化する正弦波を入力したときのシミュレーション結果です.Vampの電圧は,PWL(0 0.1m 0.1 0.1m 5 100m)と指定し,1msまでは0.1mVで,3s後に100mVとなるようにしています.そのため,入力信号の振幅はは0.2mVPPから200mVPPまで変化することになります.


図10 時間とともに振幅が大きくなる信号を入力したときの,AGC回路のシミュレーション結果
入力信号の振幅が変化しても,OUT端子の信号振幅は一定になっている.

 上段が入力信号で,時間とともに振幅が大きくなっています.下段がOUT端子とgain端子の電圧です.入力信号の振幅が大きくなるにしたがって,gain端子の電圧は小さくなっています.そして,OUT端子の信号振幅は一定になっています.

 以上,VGAと「RMS-DCコンバータ」を使用したAGC回路について解説しました.AGC回路の構成としては,信号レベル検出にピーク検波回路を使用したものや,コントロール信号の充放電時定数に差をつけたものなど,色々な種類があります.

◆参考・引用*文献◆
(1)アナログデバイセズ:AN-934-VGAを1個使用した60dBの広いダイナミック・レンジを持つ低周波AGC回路
(2)アナログデバイセズ:AD8336データシート P8
(3)アナログデバイセズ:LTC1966データシート


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_043.zip

●データ・ファイル内容
AD8336_G_V.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC1966.asc:図5の回路
LTC1966.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
AD8336_AGC_10m.asc:図7の回路
AD8336_AGC_10m.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
AD8336_AGC.asc:図10をシミュレーションするための回路
AD8336_AGC.plt:図10のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

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