低雑音OPアンプを使った負帰還アンプの抵抗値の設定




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■問題
【 ADA4895 】

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,低雑音OPアンプ(ADA4895)を使った,負帰還アンプです.低雑音OPアンプの性能は,入力換算雑音電圧が1nV/√Hzで,入力換算雑音電流が1.5pA/√Hzです.この回路では,低雑音OPアンプの特性を生かすため,抵抗(R1=30.9Ω,R2=249Ω,R3=49.9Ω)は通常より低い抵抗値を使っています.
 この回路の場合,負帰還アンプのIN端子の入力雑音電圧は,(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,温度は27℃とし,1/f雑音等の低周波雑音は除きます.



図1 低雑音OPアンプを使った負帰還アンプ
IN端子の入力雑音電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.

(a) 1.5nV/√Hz (b) 1.8nV/√Hz (c) 2.1nV/√Hz (d) 2.4nV/√Hz

■ヒント

 図1のIN端子の入力雑音電圧は次を加えたものになります.

・入力換算雑音電圧(OPアンプ)
・熱雑音電圧(R1,R2,R3の抵抗から発生)
・雑音電圧[入力換算雑音電流(OPアンプ)と等価抵抗(R1,R2,R3が関係)との積で発生]

 図1のR1,R2,R3の抵抗値は,データシート(1)の19ページ,表11に載っている部品値になります.

■解答


(a) 1.5nV/√Hz

 負帰還アンプの入力雑音電圧の内訳は,次の3つで表すことができます.

・OPアンプの入力換算雑音電圧の「en=1nV/√Hz」
・R1,R2,R3の等価抵抗(Req)の熱雑音電圧「(4kTReq)1/2=1.13nV/√Hz」(ここで「Req=R3+(R1||R2)=77Ω」,k=ボルツマン定数,T=絶対温度)
・OPアンプの入力換算雑音電流と等価抵抗(Req)で発生する雑音電圧「inReq=0.12nV/√Hz」

 3つの雑音は,振幅と位相が不規則に分布するので,各々独立した雑音とみなせます.この場合の雑音の合計は,雑音電圧を2乗して和をとり,その結果を平方根すると求められます.この計算より1.5nV/√Hzになり,(a)が正解になります.
 図1の負帰還アンプの入力雑音電圧は,OPアンプの入力換算雑音電圧より僅かに高い程度になり,低雑音OPアンプの特性をいかした低雑音アンプであるのが分かります.

■解説

●負帰還アンプの雑音について
 負帰還アンプの雑音を検討するときは,図2の回路を使います.図2にはOPアンプの入力換算雑音電圧(en)と入力換算雑音電流(in+,in-),そして各抵抗の熱雑音電圧を加えています.ここでは図2を使って負帰還アンプの雑音について検討します.


図2 負帰還アンプの雑音を調べる回路
OPアンプの入力換算雑音電圧と入力換算雑音電流,各抵抗の熱雑音電圧を回路に加えている.

 図2の各雑音が出力に現れた合計を重ね合わせの理を使って求め,負帰還アンプのノイズゲイン「1+R2/R1」で除算すると,式1の入力雑音電圧(vinoise)になります.

・・・・・(1)

 式1をOPアンプの入力換算雑音電圧(en)と入力換算雑音電流に関係する雑音電圧(inReq),そしてR1,R2,R3による等価抵抗(Req)に関係する雑音電圧(enReq)で整理すると,式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 ここで等価抵抗(Req)は式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 ここまでの説明で,負帰還アンプの入力雑音電圧は,式2右辺の3つの雑音より求めることができます.

●入力雑音を机上計算する
 式2右辺の3つの項について検討します.OPアンプの入力換算雑音電圧(en)は,データシートに記載されています.この値を使うと式4の雑音電圧になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 等価抵抗(Req)に関係する雑音電圧(enReq)は抵抗の熱雑音電圧なので式5になります.ここで等価抵抗は式3の77Ω,kはボルツマン定数(1.38×10-23 J/K),Tは絶対温度(27℃で300K)です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 入力換算雑音電流に関係する雑音電圧(inReq)は,データシートに記載されている入力換算雑音電流と等価抵抗(Req)より式6になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 負帰還アンプの入力雑音電圧(vinoise)は,式2へ式4と式5と式6の各値を入れて求めます.具体的には式7の計算になります.式7より解答の(a)が正解になるのが分かります.

・・・・・・・(7)

●負帰還アンプの入力雑音電圧を確かめる
 図3は,図1をシミュレーションする回路になります.雑音のシミュレーションは,ドット・コマンドの「.noise」を使い,1Hzから1MHz間を周波数が2倍あたり30ポイントのスイープで周波数特性を調べます.またドット・コマンドの「.meas」を使って,100kHzでの入力雑音電圧を調べます.


図3 図1の負帰還アンプの入力雑音をシミュレーションする回路

 図4は,図3のシミュレーション結果で,負帰還アンプの入力雑音電圧(vinoise)の周波数特性になります.シミュレーション終了後に「Ctrl+L」キーを押すことにより,ログ・ファイルが開きます.ここに100kHzの入力雑音電圧を測定した値があり1.5nV/√Hzであることが分かります.シミュレーション結果より,机上計算とシミュレーションは一致することが分かります.


図4 図3のシミュレーション結果
100kHzでの負帰還アンプの入力雑音電圧は1.5nV/√Hz.

●負帰還回路に使う抵抗値の目安を調べる
 図5は,等価抵抗(R1,R2,R3)を変化させたときの負帰還アンプの雑音を調べる回路です.式2の負帰還アンプの雑音について,シミュレーションの結果を,X軸を等価抵抗(Req)にして,Y軸に,負帰還アンプの入力雑音電圧(vinoise),等価抵抗に関係する雑音電圧(enReq),入力換算雑音電流に関係する雑音電圧(inReq)をプロットすると,等価抵抗(Req)の変化によるvinoiseの変化が視覚的に分かります.


図5 R1,R2,R3からなる等価抵抗を変化させたときの負帰還アンプの雑音を調べる回路

 また,図5の雑音のシミュレーションで使う「.noise」のコマンドは,図3と同じです.そして,式3の等価抵抗を変化させるため,R1とR2を変化させています.具体的にはR1の抵抗値をRaの変数にして「.step」コマンドで20Ω~20kΩ間を抵抗が10倍あたり10ポイントでスイープします.同じようにR2の抵抗値をRbの変数にして,100Ω~100kΩ間を抵抗が10倍あたり10ポイントでスイープします.R3は20Ωで固定しています.OPアンプの等価入力雑音電流はinの変数に入れています.これらの条件を元に「.meas」コマンドで次の計算とシミュレーション結果をプロットします.

・等価抵抗(Req)を計算
・等価抵抗に関係する雑音電圧(enReq)を計算してプロット
・入力換算雑音電流に関係する雑音電圧(inReq)を計算してプロット
・負帰還アンプの入力雑音電圧(vinoise)を100kHzの周波数で調べてプロット

 抵抗をスイープしているので,シミュレーションを961回実行します.シミュレーションが終了するまで少し時間がかかります.シミュレーション終了後は,次の手順でプロットしてください.

(1) 図5(Negative feeback Amplifer RTI ADA4895.asc)を実行(Run)した後,回路図上で「Ctrl+L」を押してログ・ファイルを表示する

(2) ログ・ファイル上で右クリックし[Plot.step’ed .meas data]をクリックすると図6が表示される

 プロットを定義するファイル(.step’ed log file data)を添付していますので,この操作でX軸は等価抵抗(Req),Y軸は雑音電圧となるプロットをLTspice24(バージョン24.0.12)で作成できます.

●等価抵抗の上限について
 図6は,図5のシミュレーション結果になります.図6のプロットはX軸を等価抵抗(Req)として,Y軸に負帰還アンプの100kHzでの入力雑音電圧(vinoise)や,等価抵抗に関係する雑音電圧(enReq),入力換算雑音電流に関係する雑音電圧(inReq)をプロットしています.雑音電圧は3倍高い方が支配的になる関係を使うと等価抵抗の上限の目安が分かります.


図6 図5のシミュレーション結果
等価抵抗は700Ω以下にすると低雑音の負帰還アンプになる.

 図6より,enReqより1/3になるinReqを探すと,等価抵抗(Req)はおおよそ700Ωです.700Ω以下ではinReqの変化はvinoiseに現れずenReqが関係するのが分かります.逆に700Ω以上になるとinReqの変化がvinoiseに現れ始め,更に等価抵抗が高くなるとinReqが支配的になりvinoiseが高くなります.この検討より,低雑音にするための等価抵抗(Req)の上限は700Ωであるのが分かります.

●抵抗値の設定
 等価抵抗の上限が分かったので,上限を守りながらR1,R2,R3を決めていきます.具体的にはR1とR2の比はゲインに関係し,R3は信号源抵抗などから決まります.これらの他の要求を満たしながら等価抵抗が700Ω以下で,要求される入力雑音電圧になるようにします.
 図1の等価抵抗は式3より77Ωです.この位置を図6に示しました.このように図1の抵抗値は低雑音になる等価抵抗になっているのが分かります.更に等価抵抗を低くしていくと,vinoiseはOPアンプの入力換算雑音電圧の1nV/√Hzに漸近するので,等価抵抗の調整で入力雑音電圧を低くする効果がなくなっていきます.このような関係になることがデータシート18ページに記載されています.

 以上,低雑音OPアンプを使った負帰還アンプの雑音について解説しました.R1とR2はアンプのゲインにも関係します.これらを総合的に検討しながら,低雑音OPアンプの性能を生かすため,負帰還アンプに使う抵抗値は慎重に選ぶことになります.

◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:ADA4895のデータシート


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_040.zip

●データ・ファイル内容
Negative feeback Amplifer INOISE ADA4895.asc:図3の回路
Negative feeback Amplifer INOISE ADA4895.plt:図3のプロットを指定するファイル
Negative feeback Amplifer RTI ADA4895.asc:図5の回路
.step’ed log file data:図6のプロットを指定するファイル

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