過電圧から電子機器を守るサージ保護回路
図1は,過電圧から電子機器を守る,LT4356(サージ・ストッパ)を使用したサージ保護回路です.LT4356の内部ブロックは,サージ保護機能部分のみを抜き出したものになっています.この回路のVIN端子に,図2のようなピーク電圧80Vのサージ電圧を印加したところ,OUT端子の電圧は,一定の電圧に制限されました.その制限電圧の値にもっとも近いのは,(a)~(d)のどれでしょうか.
ピーク電圧80Vのサージ電圧を印加したときのOUT端子の電圧は?
(a) 14V (b) 20V (c) 26V (d) 32V
図1の回路では,LT4356に内蔵されたチャージ・ポンプ回路の働きで,M1のゲート・ソース間に14Vの電圧が印加されています.その結果M1がONし,OUT端子の電圧はVIN端子とほぼ同じ電圧となります.
この回路に過電圧が入力されると,トランジスタ(Q1)がONし,M1のゲート電圧を下げることで,OUT端子の電圧を一定の電圧に制限します.OUT端子の電圧がいくつになったらQ1がONするのかを考えれば,答えは分かります.
OUT端子の電圧は,抵抗R1とR2で分圧され,FB端子に入力されています.一方,OPアンプ(U1)の反転入力端子には,基準電圧の1.25Vが入力されています.そのため,FB端子の電圧が1.25V以上でQ1がONし,OUT端子の電圧を制限します.FB端子の電圧が1.25VになるOUT端子の電圧は「1.25*(R1+R2)/R2」で計算できます.図1の定数で計算すると「1.25*(100k+5.1k)/5.1k=25.8」となるため,正解は(c)の26Vです.
●車載電子機器に印加されるサージ電圧
車載電子機器の電源としては,一般的に鉛蓄電池が使用されています.そして,鉛蓄電池は,走行中にエンジンの回転を利用して,オルタネータ(発電機)により,充電されます.通常,車載電子機器に印加される電圧は,鉛蓄電池によって安定化されるため,充電中も極端に高い電圧になることはありません.
ところが,充電中に鉛蓄電池の端子が接触不良を起こして切り離されると,オルタネータの電圧が直接車載電子機器に印加されることになります.このようなとき,車載電子機器には,図2のようなピーク電圧100Vに近いサージ電圧が印加されることがあります.このようなサージ電圧から電子機器を保護するのが,サージ保護回路です.
●サージ保護回路の動作
図3は,図1のサージ保護回路の動作を,シミュレーションで確認する回路です.LT4356のデータシートに記載されいているブロック図(1)から,サージ保護機能の部分を取り出し,シミュレーションできるようにしたものです.
V2でピーク電圧80Vのサージ電圧を発生させ,OUT端子の電圧を確認する.
GATE端子と,OUT端子間のツェナーダイオード(Z1)は,外付けNch MOSFE(M1)のゲート・ソース間電圧を14Vに制限するものです.チャージ・ポンプ回路は,単純な定電流源に置き換えています.この電流により,M1のゲート・ソース間には14Vの電圧が発生し,M1がONします.その結果,過電圧が印加されていないときのOUT端子には,IN端子とほぼ同じ電圧が出力されます.
一方,OUT端子の電圧は,抵抗R1とR2で分圧され,FB端子に入力されます.そして,OPアンプ(U1)の反転入力端子には1.25Vの基準電圧源(V1)が接続されています.そのため,過電圧印加により,OUT端子の電圧が上昇して,FB端子の電圧が1.25Vを越えると,OPアンプ出力がハイレベルとなりQ1がONします.そうすると,M1のゲート・ソース間電圧が小さくなり,M1のオン抵抗が増加して,OUT端子の電圧がそれ以上,上昇しなくなります.
このように,過電圧が印加されても,OUT端子の電圧は一定の電圧に制限されます.制限電圧(Vlim)は,式1で計算することができ,図2の定数を代入すると約26Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
V2が図2のサージ電圧を発生させる電圧源です.0Vの状態から1ms後に12Vに立ち上がり,さらに90ms後から電圧が急上昇し,100msで80Vになります.その後,300msで再び12Vになるようにしています.図3の回路でトランジェント解析を行い,サージ電圧が印加されたときのOUT端子の電圧を観察します.
●サージ保護回路のシミュレーション結果
図4は,図3のシミュレーション結果です.VIN端子にはピーク電圧80Vのサージ電圧が印加されています.一方,OUT端子の電圧は,約26Vで制限されていることが分かります.電圧が制限されているときのOUT端子の波形には,若干発振波形が重畳しています.これは図3の回路が簡略化したもので,実際のICの内部回路とは異なっているためです.
OUT端子の電圧は,約26Vに制限されている.
●LT4356の応用回路をシミュレーションする
LT4356には,サージ保護機能だけでなく,過電流保護など,いくつかの機能があります.図5は,LT4356のLTspiceモデルを使用した応用回路の動作を,シミュレーションする回路です.
S1を,0.5sから0.8sの間ONさせて,負荷短絡状態を模擬している.
IN端子とM1のドレイン間の抵抗(RSNS)により,負荷電流を検出します.LT4356は,SNS端子でRSNSの電圧降下を検出し,その電圧降下が50mV以上になると,負荷電流がそれ以上増加しないよう,GATE端子の電圧をコントロールします.制限される電流値(Ilim)は式2で計算することができ,図5の定数の場合は5Aになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
同時に,TMR端子に接続されたタイマ・コンデンサ(CTMR)の充電を開始します.負荷電流が大きい状態が継続し,TMR端子の電圧が1.35Vを越えると,GATEピンを0Vとして,M1をOFFさせます.これは,M1の破損を防ぐためです.図5のS1が負荷短絡状態を模擬するものです.オン抵抗は1Ωとなっており,0.5sから0.8sの間,ONするように設定しています.
図6が図5のシミュレーション結果です.上段がIN端子とOUT端子の電圧です.図4と同様,IN端子に80Vのサージ電圧が加わっても,OUT端子の電圧は26Vに制限されています.中段がM1のドレイン電流で,下段がTMR端子とS1のコントロール電圧です.
サージ保護機能と電流制限・遮断機能が正常に動作している.
0.5sでS1のコントロール電圧がハイレベルになり,S1がONします.すると,M1のドレイン電流が急激に大きくなりますが,5Aで制限されています.S1がONすると同時に,TMR端子の電圧が上昇をはじめ,1.35Vに達するとOUT端子の電圧は0Vに低下し,M1のドレイン電流も0Aになっています.このように,サージ保護機能と電流制限・遮断機能が正常に動作していることが確認できます.
以上,サージ保護のLT4356について解説しました.LT4356の詳しい使用方法に関しては,データシートを参照してください.
◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:LT4356データシート(P9) BLOCK DIAGRAM
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_037.zip
●データ・ファイル内容
LT4356_Surge.asc:図3の回路
LT4356_Surge.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT4356-1.asc:図5の回路
LT4356-1.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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