低消費電力LEDドライバの作り方
図1は,低消費電流の入出力レール・ツー・レールOPアンプ(LTC6258)を使った低消費電力LEDドライバです.この回路は,V1の電圧でID1のLEDに流れる電流をコントロールできます.
図1は,低消費電力LEDドライバなので,V1が0VのときD1のLED電流が,0Aになるのが理想です.しかし,OPアンプには入力オフセット電圧(VOS)があり,その影響でLED電流が流れます.そこで,図1ではR5とR7を使って,V1が0Vの場合,LED電流を低くする対策を取っています.
図1において,「V1=0V,VOS=400μV」の場合,ID1のLED電流は(a)~(d)のどれでしょうか.
LTC6258のデータシート(P18)より引用(1).
(a) 0μA (b) 10μA (c) 20μA (d) 40μA
図1のOPアンプは,入出力レール・ツー・レールの特性なので,図1ではOPアンプの反転端子と非反転端子は,GND(0V)に近い電圧でも動作をします.V1が0Vのときの反転端子と非反転端子の電圧を使って回路動作を考えると分かります.
OPアンプの非反転端子の電圧をVin+,反転端子の電圧をVin-とします.V1が0Vのとき,R2とR3の分圧も0Vなので,非反転端子の電圧は,入力オフセット電圧の影響で「Vin+=400μV」になります.
一方,V1が0Vのとき,OPアンプの反転端子の電圧は回路の電源電圧「V2=5V」を「R5=2MΩ」と「R1+R7=238Ω」の抵抗で分圧した電圧なので「Vin-=595μV」になります.V1が0Vのときは「Vin+<Vin-」の状態なので,OPアンプの出力はGNDになり,M1のNチャネルMOSFETのゲート電圧は低くなってOFFになります.この動作よりLED電流は流れず,解答の(a)になります.
●低消費電力LEDドライバに求められる特性
図1の低消費電力LEDドライバは,V1の電圧が0Vのとき,LED電流も0Aになり,LEDドライバの消費電流は,OPアンプの消費電流のみになります.この場合,低消費電流のOPアンプを使うと,回路全体は低消費電力になります.LTC6258のデータシートより,消費電流は標準で20μA,最大で23μAの実力なので,V1が0Vのとき回路全体の消費電力は低くなります.しかし,OPアンプには入力オフセット電圧があり,V1が0Vのとき,入力電圧によりLED電流が流れて低消費電力LEDドライバにならないことがあります.LTC6258はデータシートより,入力オフセット電圧は,最大で400μVの性能になります.この入力オフセット電圧があるときでもLED電流を0Aにする回路について解説します.
●OPアンプを理想としたときの回路
最初に,OPアンプを理想と考え,図2の入力オフセット電圧が無いときのLEDドライバの基本回路を解説します.図1と図2の違いは,図1の入力オフセット電圧(VOS)とR5とR7が図2にはありません.
図2の回路動作について検討します.V1の電圧をR2とR3で分圧した電圧は,OPアンプの非反転端子(in+)の電圧になります.図2のOPアンプは,負帰還回路になっており,非反転端子と反転端子がバーチャル・ショートです.反転端子は,R1の抵抗に繋がるので,R1にかかる電圧(VR1)が非反転端子の電圧と同じになります.このVR1とR1で決まる電流が,M1のNチャネルMOSFETを通ってID1のLED電流になります.この動作より,LED電流(ID1)は式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
図3は,図2のシミュレーション結果になります.シミュレーションはDC解析を用い,V1の電圧は0V~80mV間を0.1mVステップでスイープしています.
上段はin+とVR1の電圧,中段はNチャネルMOSFETのゲート電圧,下段はLED電流.
V1が0VのときLED電流は0Aになる.
図3の上段は,in+とVR1の電圧で,OPアンプのバーチャル・ショートにより同じ電圧になり,V1が0VのときはVR1も0Vになります.図3の中段は,NチャネルMOSFETのゲート電圧です.V1が0V以上でゲート電圧が加わり,M1のNチャネルMOSFETはONになります.図3の下段は,LED電流になります.V1が0VのときLED電流は0A,その後V1が高くなると式1の関係でLED電流が流れます.
●OPアンプに入力オフセット電圧があるときの回路
次に,OPアンプに入力オフセット電圧があるときのLEDドライバの動作について,図4を使って検討します.図4にはOPアンプの入力オフセット電圧(VOS)を電圧源の記号で加えています.入力オフセット電圧は,LT6258のデータシートより,最大値の400μVとしています.
LTC6258のデータシートにある最大の入力オフセット電圧をVOSの電圧源で与えている.
図5は,図4のシミュレーション結果になります.シミュレーションの条件は図2と同じです.図5の上段は,in+とVR1の電圧で,入力オフセット電圧の影響により,V1が0Vのとき,in+の電圧は400μVになります.その電圧がバーチャル・ショートによりVR1の電圧になり,370μVになります.図5の中段は,NチャネルMOSFETのゲート電圧です.V1が0Vのときゲート電圧は1.6Vになり,M1のNチャネルMOSFETはONしています.図5の下段は,LED電流になります.図5の上段のVR1の電圧は,370μV,R1は1Ωなので,オームの法則よりR1には370μAが流れ,M1のNチャネルMOSFETを通ってLED電流になります.このように図4の入力オフセット電圧があるLEDドライバは,V1が0VでもLED電流が流れ,低消費電力にならないことが分かります.
上段がin+とVR1の電圧,中段がNチャネルMOSFETのゲート電圧,下段がLED電流.
入力オフセット電圧の影響で,V1が0VのときLED電流は370μAになる.
●オフセット電圧によるLED電流を補償した回路
図6は,図1をシミュレーションする回路です.図6はR5とR7を加えて,入力オフセット電圧によるLED電流を補償します.V1が0Vのとき,R2とR3の分圧も0Vなので,非反転端子の電圧は入力オフセット電圧の影響で「Vin+=400μV」になります.一方,V1が0Vのとき,OPアンプの反転端子の電圧は,回路の電源電圧とR5とR1+R7の抵抗で分圧した電圧になるので,式2の「Vin-=595μV」なります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
V1が0Vのときは「Vin+<Vin-」の状態になり,バーチャル・ショートは成り立ちません.このため,OPアンプ出力とゲート電圧はGNDになり,NチャネルMOSFETはオフになります.このようにR5とR7を加えると,V1が0Vのとき,入力オフセット電圧が400μVあってもLED電流は0Aになり,解答の(a)が正解であることが分かります.
R5とR7を追加し,V1が0VのときLED電流を0μAにする.
●オフセット電圧によるLED電流を補償した回路の確認
図7は,図6のシミュレーション結果になります.シミュレーションの条件は図2と同じです.図7の上段は,in+とin-とVR1の電圧で,V1がおおよそ10mV以下で「Vin+<Vin-」の状態になります.「Vin+<Vin-」の範囲では,図7の中段のゲート電圧は低くなり,M1のNチャネルMOSFETはOFFになります.M1がOFFなので図7の下段のようにLED電流は0Aになります.
上段はin+,in-とVR1の電圧,中段はNチャネルMOSFETのゲート電圧,下段はLED電流.
V1がおおよそ10mV以下のとき,「Vin+<Vin-」になりM1のNチャネルMOSFETはOFFになる.
OFFになるとLED電流は0Aになる.
以上,解説したように,図2のLEDドライバ(理想OPアンプ)に,図4のように実回路のOPアンプの入力オフセット電圧を考慮し,抵抗(R5,R7)を2個加えると,入力オフセット電圧によるLED電流を補償することができます.簡単な補償回路で低電力LEDドライバを作ることができます.
◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:LTC6258のデータシート
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_034.zip
●データ・ファイル内容
LED Driver No Vos.asc:図2の回路
LED Driver No Vos.plt:図2のプロットを指定するファイル
LED Driver.asc:図4の回路
LED Driver.plt:図4のプロットを指定するファイル
LED Driver Vos compensation.asc:図6の回路
LED Driver Vos compensation.plt:図6のプロットを指定するファイル
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