過電流と見なすモニタ電流の閾値
図1は,ハイサイド電流検出アンプ(LT6108-1)を使用し,トラブルや故障等でバッテリから過電流が流れた場合に,OUTCから過電流状態を知らせるデジタル信号を出力する回路です.
図1で「RSENSE=0.1Ω,RIN=100Ω,バッテリ電流=250mA」の場合,過電流と見なすモニタ電流(IOUTA)の閾値(しきいち)は,(a)~(d)のどれでしょうか.
バッテリ電流が250mAのとき,過電流と見なすのは,IOUTAのモニタ電流は(a)~(d)のどれでしょうか.
(a) 10μA (b) 25μA (c) 100μA (d) 250μA
図1で,バッテリから流れ出す電流は,RSENSEの0.1Ωの電圧降下で検出し,その電圧降下に比例したモニタ電流を使い過電流かどうかを判断します.
バッテリの電流をRSENSEで検出したVSENSEのプラス側の電圧は,RINを介してOPアンプの反転端子に繋がります.そして,VSENSEのマイナス側の電圧は,OPアンプの非反転端子に繋がります.OPアンプの負帰還の効果により,反転端子と非反転端子はバーチャル・ショートです.この条件よりモニタ電流(IOUTA)が分かります.
バッテリから250mAの電流がRSENSEに流れたときの電圧降下(VSENSE)は,25mVになります.OPアンプは,負帰還の効果により,反転端子と非反転端子がバーチャル・ショートとなります.なので,VSENSEの25mVは,RINの両端の電圧になります.RINの電圧が25mVより,流れる電流(IRIN)は「IRIN=25mV/100Ω=250μA」です.250μAの電流はLT6108-1内部のPチャネル・MOSFETを通ってIOUTAの電流になるので,(d)の250μAが正解になります.
●ハイサイド電流検出アンプの使用法
トラブルによりバッテリに繋がる回路が過電流を流す状態になると,バッテリは危険な状態になることがあります.このような事態を回避するため,バッテリと回路の間にフューズやリレー,または電界効果トランジスタを入れて,過電流のとき,接続を切り離して保護をします.ハイサイド電流検出アンプは,バッテリの正側から流れる電流(ハイサイドの電流)をRSENSEで検出し,低い電流に変換したモニタ電流(図1のIOUTA)を使ってバッテリの電流を監視します.
●ハイサイド電流検出アンプの仕組み
図1の監視しているモニタ電流(IOUTA)は,OUTA端子から外付け抵抗のR2からR1へ流れ,R1で電圧降下が発生します.この電圧降下はLT6108-1内部のラッチング・コンパレータの基準電圧400mVと比較されて,OUTCから正常“High”または過電流“Low”のデジタル信号になります.具体的には,「R1=1.6kΩ」に設定すると,INC端子の電圧(VINC)は「VINC=250μA×1.6kΩ=400mV」が過電流と見なす閾値になります.図1の回路定数のときは,バッテリから流れる電流が250mA以上になると,モニタ電流は250μA以上になり,INC端子の電圧は400mV以上なので,OUTCからは過電流状態を表すデジタル信号の“Low”になります.このデジタル信号で過電流のときは配線を切り離してバッテリを保護します.
●ハイサイド電流検出アンプの動作
図2は,図1のハイサイド電流検出アンプのみを抜き出した回路です.ここでは図2を使って,バッテリから流れる電流をRSENSEで検出し,IOUTAのモニタ電流になる関係を机上計算して,解答との確認をします.
RSENSEにバッテリ電流のISENSEが流れると,電圧降下VSENSEは式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
OPアンプの負帰還の効果により,反転端子と非反転端子はバーチャル・ショートなので,RINの両端の電圧はVSENSEの電圧と等しくなります.これにより,RINの電流(IRIN)は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
IRINの電流は,LT6108-1内部のPチャネルMOSFETのソースからドレインを通り,IOUTAの電流になります.したがってIOUTAは,式1と式2より式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
「RSENSE=0.1Ω」,「RIN=100Ω」,「ISENSE=250mA」とすると,式3より「IOUTA=250μA」になるのが分かります.
●ハイサイド電流検出アンプの確認
図3は,図1をシミュレーションする回路になります.図3の回路は,LT6108-1のデータシートで標準的な接続例として記載されています.図3のシミュレーションでは,バッテリから流れる電流をILOADの電流源で表しています.このILOADをDC解析で0~400mA間を1mAステップでスイープします.
モニタ電流(IOUTA)はR2の電流でプロットし,更にLT6108-1の内部にあるコンパレータの入力電圧になるINC端子の電圧降下もプロットします.
OutAから流れるモニタ電流と,モニタ電流を電圧に変換したINCの電圧を調べる.
図4は,図3のシミュレーション結果になります.図4の上段はモニタ電流(IOUTA)をR2の電流でプロット,図4の下段は,INC端子の電圧のプロットになります.
過電流が250mAのとき,R2の電流(IOUTAの電流)は250μAになる.
ILOADが250mAのとき,モニタ電流(R2の電流)は250μAになり,解答の(d)の電流になります.その後モニタ電流は,R1の1.6kΩで400mVの電圧降下を発生し,LT6108-1内部のラッチング・コンパレータの入力電圧になります.
●過電流によるバッテリ保護回路
図5は,ハイサイド電流検出アンプ(LT6108-1)を使い,過電流を検出するとQ1のMOS FETがOFFしてバッテリからの電流を遮断する具体的な回路例になります.この回路はLTspiceのJigsフォルダにあるLT6108-1を使った回路からの引用になります.シミュレーションは,tran解析を使い,ILOADの電流が20μsまでは0A,20μsから40μsになると0Aから500mAに線形に増加します.この状態でのバッテリ保護の様子を確認します.図5のRSENSE,RIN,R1は図3と同じ抵抗値なので,過電流と見なす閾値は250mAの設定です.
LTspiceのJigsフォルダにある「6108-1.asc」からの引用.
図6は,図5のシミュレーション結果になります.図6の上段はRSENSEの電流で,20μsまでは0A,20μsから40μsにかけてILOADの電流が流れ,30μsで過電流と見なす250mAに達します.図6の中段はINC端子の電圧のプロットになります.この電圧はモニタ電流(IOUTA)とR1による電圧降下なので,30μsでモニタ電流の250μAとR1の1.6kΩにより400mVになります.30μs後は過電流状態とみなし,図6の下段のOUTCは“Low”になります.OUTCが“Low”になるとQ1のゲート電圧は高くなってOFFになります.
上段はRSENSEに流れるバッテリからの電流.
中段はIOUTAのモニタ電流とR1による電圧降下.
下段は過電流250mAになると,Q1でバッテリ電流を遮断する様子.
LT6108-1は過電流を検出すると,ラッチング・コンパレータで状態を保持します.Q1がOFFになるとバッテリとILOADは切り離されて,バッテリから流れる電流を遮断して保護するのが分かります.
以上,解説したように,ハイサイド電流検出アンプを使って,過電流時に配線を切り離してバッテリを保護できます.過電流と見なす閾値はRINの抵抗値で調整ができます.
◆参考・引用*文献
(1)アナログデバイセズ:LT6108の製品詳細ページ
(2)アナログデバイセズ:LT6108-1/LT6108-2のデータシート
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_030.zip
●データ・ファイル内容
LT6108-1 Typical Connection.asc:図3の回路
LT6108-1 Typical Connection.plt:図3のプロットを指定するファイル
Overcurrent Battery Fault Protection.asc:図5の回路
Overcurrent Battery Fault Protection.plt:図5のプロットを指定するファイル
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