車載機器に必須のバッテリ逆接続保護回路




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■問題
【 LTC4372 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1(a)図2(a)は,共にバッテリの逆接続による電子機器の破壊を防ぐ保護回路です.
 図1(a)は,ショットキー・ダイオード(D1)を使用した保護回路です.図1(b)は,D1のアノード・カソード電圧(横軸)とダイオード電流(縦軸)のグラフです.
 図2(a)は,理想ダイオード・コントローラ(LTC4372)とNchMOSトランジスタ(M1)を使用した保護回路です.図2(b)は,M1のドレイン・ソース電圧(横軸)とドレイン電流(縦軸)のグラフです.
 図1図2の保護回路において,電子機器に流れる電流を20Aとした場合,D1とM1の消費電力は(A)~(D)のどの組み合わせになるでしょうか.



図1 ショットキー・ダイオードを使用した保護回路と素子特性



図2 LTC4372とNchMOSトランジスタを使用した保護回路と素子特性
M1のゲート・ソース電圧(VGS)は,10Vとなっているものとする.

(A) D1=1W,M1=5W
(B) D1=1W,M1=10W
(C) D1=5W,M1=1W
(D) D1=10W,M1=1W

■ヒント

 図1(a)のD1の消費電力は,D1に流れる電流とアノード・カソード電圧を掛けたものです.
 図2(a)のLTC4372は,内蔵されている昇圧回路で,外付けNchMOSトランジスタ(M1)のゲートを駆動します.正しい電圧が加わったときはM1をONさせ,逆方向の電圧が印加されたときはM1がOFFするように,M1のゲート電圧をコントロールします.M1がONしているときの,M1の消費電力はドレイン・ソース電圧とドレイン電流を掛けたものです.
 そのため,図1(b)図2(b)のグラフから値を読み取ることで,簡単に消費電力を計算することができます.

■解答


(D) D1=10W,M1=1W

 図1(b)のグラフから,ショットキー・ダイオード(D1)に20Aの電流が流れた場合,アノード・カソード間電圧は約0.5Vになります.そのため,D1の消費電力は「20A*0.5V=10W」となります.
 また,図2(b)のVGS=10グラフを見ると,NchMOSトランジスタ(M1)に20Aの電流が流れたときの,ドレイン・ソース間電圧は約50mVになっています.そのため,M1の消費電力は「20A*50mV=1W」となります.

■解説

●車載機器で必須の逆接続保護機能
 自動車に搭載する車載機器では,逆極性の電圧が印加されても破壊しないよう,逆接続保護回路が必須となります.自動車の点検や修理のときに取り外したバッテリを,極性を間違えて取り付けたり,車載機器を取り付けるときに,電源ケーブルの極性を間違えて接続してしまう可能性があるためです.

●逆接続保護回路の構成方法
 接続保護回路として最も簡単なのは,図1(a)のように電源ラインにダイオードを挿入する方法です.機能的には整流用ダイオードでもよいのですが,順方向電圧の小さなショットキー・ダイオードを使用したほうが,電力ロスを小さくすることができます.ダイオードの消費電力は,ダイオードに発生する電圧と流れる電流の積で決まるためです.ただし,ショットキー・ダイオードを使用した場合でも,機器の電流が大きい場合は,ショットキー・ダイオードの消費電力が無視できない大きさになります.

 図1(a)の回路の場合,ショットキー・ダイオード(D1)に20Aの電流が流れたときの,アノード・カソード間電圧(VAK)は約0.5Vになります.そのため,D1の消費電力(PD1)は式1のように10Wとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 このように大きな電力を消費するため,ショットキー・ダイオードにはしっかりとした放熱対策が必要となり,基板面積も大きくなってしまいます.そのような場合は,図2(a)のように,LTC4372のような理想ダイオード・コントローラと,NcMOSトランジスタを使用することで,保護回路の消費電力を大幅に低減することができます.
 LTC4372には,昇圧回路が内蔵されており,正しい向きの電圧が加えられたときは,外付けNchMOSトランジスタのゲートに,ONさせるために必要十分な電圧を印加します.オン抵抗の小さなNchMOSトランジスタを使用することで,電圧ドロップを小さくすることができます.
 図2(a)の回路の場合,NchMOSトランジスタ(M1)に20Aの電流が流れたときの,ドレイン・ソース間電圧は約50mVです.そのため,M1の消費電力(PM1)は,式2のように1Wとショットキー・ダイオードの1/10になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 また,理想ダイオード・コントローラに逆方向の電圧が加わると,外付けNchMOSトランジスタのゲート・ソース間電圧を0Vにして,OFFさせます.そのため,接続した電子機器には,逆方向の電圧が印加されることはありません.

●逆接続保護回路の消費電力のシミュレーション
 図3は,ショットキー・ダイオードとNchMOSトランジスタの消費電力の違いをシミュレーションするための回路です.使用している素子は,図1(a)および図2(a)の回路と同じものです.ショットキー・ダイオード(D1)は,ロームのRBR40NS30Aで,NchMOSトランジスタ(M1)はインフィニオン・テクノロジーズのBSC026N08NS5です.M1のゲート・ソース電圧は10Vに設定しています.そして,D1とM1に同じ電流を流し,それぞれの消費電力を比較します.


図3 ショットキー・ダイオードとNchMOSトランジスタの消費電力をシミュレーションする回路
D1と,M1に同じ電流を流し,それぞれの消費電力を比較する.

 図4図3のシミュレーション結果です.それぞれの素子の電圧と素子に流れる電流を掛けたものをプロットしています.D1の消費電力に対し,M1の消費電力は1/10程度になっていることが分かります.


図4 ショットキー・ダイオードとNchMOSトランジスタの消費電力
D1の消費電力に対し,M1の消費電力は1/10程度になっている.

●LTC4372を使用した逆接続保護回路の負荷電流特性
 図5は,理想ダイオード・コントローラ(LTC4372)を使用した,逆接続保護回路の負荷電流特性をシミュレーションするための回路です.外付けNchMOSトランジスタ(M1)のソース端子はバッテリ側に接続し,ドレインを出力側に接続します.このように接続することで,M1のボディ・ダイオードは,アノードがバッテリ側となり,逆方向電圧が印加されても,ボディ・ダイオードが導通することはありません.


図5 LTC4372を使用した逆接続保護回路の,負荷電流特性をシミュレーションするための回路
M1のソース端子はバッテリ側に接続し,ドレインを出力側に接続している.

 M1をONさせると,負荷電流はソースからドレインに向かって流れることになります.LTC4372は,M1のソース端子とドレイン端子の差電圧をモニタし,M1の電圧降下が30mV未満となるよう,ゲート電圧を制御します.図5の回路で,負荷電流(IL)を0Aから20Aまで,10秒間で変化させたシミュレーションを行います.
 図6図5のシミュレーション結果です.上段が負荷電流で,中段が出力電圧とM1のゲート電圧です.M1のゲート電圧は,負荷電流の増加とともに大きくなり,24V弱でほぼ一定となっています.


図6 LTC4372を使用した逆接続保護回路の負荷電流特性のシミュレーション結果
電圧降下は負荷電流20Aでも50mV以下となっている.

 下段がM1のソース端子電圧とドレイン端子電圧の差電圧です.M1の電圧降下を表しており,負荷電流20Aでも50mV以下となっています.

●LTC4372を使用した逆接続保護回路の逆電圧印加特性
 図7は,LTC4372を使用した逆接続保護回路に逆電圧を印加したときの特性をシミュレーションするための回路です.負荷は1.2Ωの抵抗とし,バッテリ(VB)の電圧を12Vから-12Vに変化させ,出力電圧を観察します.


図7 LTC4372を使用した逆接続保護回路の逆電圧印加特性をシミュレーションする回路
バッテリの電圧を12Vから-12Vに変化させ,出力電圧を観察する.

 図8図7のシミュレーション結果です.バッテリ電圧が逆転する部分の,時間軸を拡大したグラフを重ね書きしています.


図8 LTC4372を使用した逆接続保護回路の逆電圧印加特性のシミュレーション結果
バッテリ電圧が逆転した瞬間にM1をOFFさせている.

 上段がバッテリ電圧です.シミュレーション開始1秒後から電圧が低下し,0.5ms経過後に0Vとなり,さらに0.5ms経過後に-12Vになっています.そして,0.5秒後にふたたび12Vとなっています.
 中段が出力電圧です.バッテリ電圧が逆転した瞬間に,100μs程度の間負電圧となっていますが,その大きさは-1.5Vと小さな値です.
 下段がM1のゲート・ソース間電圧です.バッテリ電圧逆転後,80μsで0Vとなり,すばやくM1をOFFさせていることが分かります.

 以上,理想ダイオード・コントローラを使用した逆接続保護回路について解説しました.理想ダイオード・コントローラを使用すると,複数の電源を並列接続するような応用回路も構築できます. 理想ダイオード・コントローラの使用方法の詳細は,LTC4372のデータシートを参照してください.

◆参考・引用*文献
アナログ・デバイセズ:LTC4372データシート
アナログ・デバイセズ:動画「LTC4372 4373 理想ダイオードコントローラでECUの逆流保護回路を高効率化 車載ECUなどに最適
ローム:RBR40NS30Aデータシート
インフィニオン・テクノロジーズ:BSC026N08NS5データシート


■LTspice24 Tips

 2023年11月にLTspiceがバージョンアップして「LTspiceXVII」から「LTspice24」になりました.ここでは,LTspice24の新情報を『不定期連載コラム』としてダイジェストに解説します.第3回目は,『覚えやすくなったキーボード・ショートカット』です.

●新旧キーボード・ショートカットの比較
 LTspice24では,デフォルトのキーボード・ショートカットが変更されています.また,キーボード・ショートカットの内容をファイルに保存したり,ファイルから読み出したりすることもできるようになりました.
 表Aは,回路図作成時に使用する,主な,新旧キーボード・ショートカットの一覧です.LTspice24のキーボード・ショートカットは,動作を表す英単語の頭文字を使ったものが多く,覚えやすいものになっています.

表A LTspiceXVIIとLTspice24のデフォルト・キーボード・ショートカット

●キーボード・ショートカットの変更
 かなり使いやすくなったキーボード・ショートカットですが,自分が使いやすいように変更することもできます.図Aのように,[Help][Keyboard Shortcut Cheat Sheet]を選択すると,キーボード・ショートカットの一覧が表示されます.


図A キーボード・ショートカットの一覧を表示する

 表示されたキーボード・ショートカットの一覧ウィンドウの,一番下にある[Edit Keyboad Shortcut]をクリックすると,図Bのような編集画面になります.変更したいキーボード・ショートカットをクリックし,新しく登録したいキーを押すことで,キーボード・ショートカットを変更することができます.また,編集画面の下のボタンで,キーボード・ショートカットをファイルに保存したり,保存したファイルを読み込むことができます.


図B キーボード・ショートカットの編集画面


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_023.zip

●データ・ファイル内容
sd_mos_VI.asc:図1,図2のグラフを作成するための回路
sd_mos_PW.asc:図3の回路
sd_mos_PW.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC4372_IL.asc:図5の回路
LTC4372_IL.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LTC4372_RV.asc:図7の回路
LTC4372_RV.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

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